日本の安全保障の指針となる「防衛計画の大綱」の見直し作業がこれから本格化し、年内に決定される。
今の防衛大綱は2004年にできた。今回の見直しは政権交代後初めての作業となる。防衛省が「庁」から昇格後、初めてでもある。
歴史的意味合いの大きい作業に取り組む菅直人首相と民主党政権の責任は重い。心して臨んでもらいたい。
日本の防衛政策は難しい局面にある。まず国際情勢が変わった。
新興国の台頭で多極化が進み、長引く対テロ戦争や経済危機で米国の一国優位が揺らいでいる。日本周辺でも、中国が海洋活動を活発化させ、北朝鮮もミサイル発射や核実験を繰り返す。不安定要因が増している。
一方、財政は厳しくなるばかりであり、防衛費もこれまで以上に厳しい査定を免れ得ない。
新たな大綱は、多くの条件や制約をにらんで策定されなければならない。政権の力量が問われるゆえんである。
これまで重ねられてきた議論を見ると、大きな政策転換をもくろむ声が高まっているように見える。
首相の諮問機関は今年8月に発表した報告書で、専守防衛の理念を支えてきた「基盤的防衛力構想」を否定し、脅威対応型への転換を主張した。
部隊や装備の大きさよりも、即応力や機動力に重点を置く「動的抑止」という新しい考え方を打ち出し、武器輸出三原則の緩和や沖縄周辺の離島防衛強化なども提言した。
民主党の外交・安全保障調査会も、武器禁輸の見直しや、戦闘機などの他国との共同開発解禁を検討している。九州・沖縄地域の陸上自衛隊や潜水艦戦力の増強なども盛り込んだ提言を、近く政権側に示すという。
これらの提案は、戦後日本の歩みから逸脱しかねない危うさをはらんでいる。脅威に直接対抗せず、国際紛争を助長もしないという理念や政策と、折り合いはつきにくいだろう。
環境変化に応じ防衛政策を見直すのはいいが、近隣諸国がどう受け止めるか、無用の摩擦を生み外交の妨げにならないか。とりわけ平和国家としてのブランド力を失うことにならないか。功罪両面を総合的に慎重に吟味することが欠かせない。
政策に大胆に優先順位をつけることも必須である。あれもこれもと欲張ることはもはや許されない。英国やドイツは国防予算の大幅カットや、兵員や装備の削減に踏み切ろうとしている。日本も人員縮小や給与体系などの見直しに踏み込んではどうか。
大綱見直し作業を通じ、「文民統制」を目に見える形で国民に示す。それこそ、政治主導を掲げる民主党政権にふさわしい成果である。菅首相は自ら先頭に立って指揮を執るべきだ。
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