新防衛大綱へ 理念貫き政治の力を示せ

朝日新聞 2010年11月19日

新防衛大綱へ 理念貫き政治の力を示せ

日本の安全保障の指針となる「防衛計画の大綱」の見直し作業がこれから本格化し、年内に決定される。

今の防衛大綱は2004年にできた。今回の見直しは政権交代後初めての作業となる。防衛省が「庁」から昇格後、初めてでもある。

歴史的意味合いの大きい作業に取り組む菅直人首相と民主党政権の責任は重い。心して臨んでもらいたい。

日本の防衛政策は難しい局面にある。まず国際情勢が変わった。

新興国の台頭で多極化が進み、長引く対テロ戦争や経済危機で米国の一国優位が揺らいでいる。日本周辺でも、中国が海洋活動を活発化させ、北朝鮮もミサイル発射や核実験を繰り返す。不安定要因が増している。

一方、財政は厳しくなるばかりであり、防衛費もこれまで以上に厳しい査定を免れ得ない。

新たな大綱は、多くの条件や制約をにらんで策定されなければならない。政権の力量が問われるゆえんである。

これまで重ねられてきた議論を見ると、大きな政策転換をもくろむ声が高まっているように見える。

首相の諮問機関は今年8月に発表した報告書で、専守防衛の理念を支えてきた「基盤的防衛力構想」を否定し、脅威対応型への転換を主張した。

部隊や装備の大きさよりも、即応力や機動力に重点を置く「動的抑止」という新しい考え方を打ち出し、武器輸出三原則の緩和や沖縄周辺の離島防衛強化なども提言した。

民主党の外交・安全保障調査会も、武器禁輸の見直しや、戦闘機などの他国との共同開発解禁を検討している。九州・沖縄地域の陸上自衛隊や潜水艦戦力の増強なども盛り込んだ提言を、近く政権側に示すという。

これらの提案は、戦後日本の歩みから逸脱しかねない危うさをはらんでいる。脅威に直接対抗せず、国際紛争を助長もしないという理念や政策と、折り合いはつきにくいだろう。

環境変化に応じ防衛政策を見直すのはいいが、近隣諸国がどう受け止めるか、無用の摩擦を生み外交の妨げにならないか。とりわけ平和国家としてのブランド力を失うことにならないか。功罪両面を総合的に慎重に吟味することが欠かせない。

政策に大胆に優先順位をつけることも必須である。あれもこれもと欲張ることはもはや許されない。英国やドイツは国防予算の大幅カットや、兵員や装備の削減に踏み切ろうとしている。日本も人員縮小や給与体系などの見直しに踏み込んではどうか。

大綱見直し作業を通じ、「文民統制」を目に見える形で国民に示す。それこそ、政治主導を掲げる民主党政権にふさわしい成果である。菅首相は自ら先頭に立って指揮を執るべきだ。

読売新聞 2010年11月21日

防衛大綱改定 陸自の定員削減が不可欠だ

日本の防衛体制を強化するには、陸上自衛隊よりも、海上、航空両自衛隊に予算を重点配分する決断が求められる。

政府の「防衛計画の大綱」改定作業が大詰めを迎えている。焦点の一つが、現大綱で15万5000人とされている陸自定員をどう見直すかという問題だ。

陸自は当初、南西諸島の防衛体制強化などを理由に、1万人以上の増員を要求していた。その後、増員要求を数千人に下げたが、定員を減らして14万1000人の実員に近づけるよう求める財務省との開きは依然、大きい。

尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件や中国海空軍の活動範囲の拡大を踏まえれば、与那国島への陸自部隊の配備や、那覇を拠点とする陸自第15旅団の増強は妥当だ。

だが、その増員分は、純増ではなく、冷戦時代の名残である北海道の2個師団・2個旅団体制などの縮小で捻出(ねんしゅつ)すべきである。陸自の要求は筋が通らない。

むしろ自衛隊全体のバランスを考えれば、陸自の定員や戦車・火砲を一層削減し、その分を海自と空自の装備や定員の増強に充てる必要がある。

南西諸島の陸自を増やしても、制海・空権を確保できなければ、抑止力は強化されない。

北朝鮮の核・ミサイルの脅威や中国の急速な軍備増強という状況の下、8年間続いた防衛費の削減には終止符を打つべきだ。一方で、国家財政は厳しく、防衛費の大幅な伸びは非現実的だ。

一層の「選択と集中」を進めることが不可欠である。

ところが、陸海空3自衛隊の予算配分は長年、ほぼ固定されている。今は、3自衛隊の部隊を統合運用する時代になったのに、組織を守ろうとする各自衛隊の縦割り意識が依然強く、冷戦後の防衛力の見直しが不十分なままだ。

陸上自衛官は、他国に比べて、幹部や中堅が多く、若手が少ないという、いびつな階級構成になっている。平均年齢も高い。

現状では、来年度以降、退職手当の増加などで数百億円単位で人件費が膨張し、装備費や訓練費を圧迫しかねない。給与・定年制の見直しや再就職支援の強化など人件費抑制策の検討が急務だ。

定員削減には、政治の役割が重要となる。157の陸自駐屯地の統廃合には、特に過疎化が進む地元の反対が強いが、安全保障と過疎対策は区別すべきだ。

北沢防衛相らが自ら優先順位を判断し、地元の理解を得る努力をしなければならない。

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