武器輸出三原則 理念守る歯止めが必要

朝日新聞 2010年11月21日

武器輸出三原則 説得力足りない見直し論

年内に決められる「防衛計画の大綱」に向けて、政府と民主党がそれぞれ武器輸出政策の基本方針「武器輸出三原則」の見直し作業を急いでいる。

民主党の外交・安全保障調査会は、三原則を緩め、他国と武器の共同開発・生産もできるようにすることを考えているようだ。

菅政権が現段階で原則を変える結論を出すというのなら、賛成しがたい。

三原則は日本の平和外交や軍縮政策を支えるソフトパワーとして役立ってきた。その歴史的な重みを考えれば、より慎重に議論を尽くす必要がある。

三原則は国際紛争を助長する武器の供給国とならないよう、冷戦さなかの1967年にできた。76年には禁輸対象を広げて事実上の全面禁輸とした。

いまこれを見直そうという動きが起こることには、確かに理由がある。

近年、IT技術の進歩や開発コストの急増により、軍事技術をとりまく環境は一変した。巨額の開発費が要る戦闘機などは、米国といえども単独開発は難しく、多数の国々が参加する共同開発・生産が主流になりつつある。

その一方で、軍用品と民生品の境界があいまいになり、武器とみなされない日本の半導体やソフトウエアなどの製品や技術が、他国の武器に堂々と組み込まれる現実も日常化している。

見直し論が浮上する背景としてとりわけ大きいのは、武器の調達コストを何とか引き下げたいという動機だ。

三原則の下で装備品の価格が高騰し、それでなくとも減っている防衛費を圧迫する。防衛産業の受注が減り、生産・技術基盤の存続も危ぶまれる。

しかし、これで十分な説得力があるとは認めがたい。疑問は数多い。

最先端の軍事技術では米国が他国を圧倒しているのに、米国以外の国々にも広げた共同開発にどれだけ利点があるのか。開発した武器が、紛争当事国の手に渡るのを有効に防げるのか。

政府は従来、禁輸解除が必要と判断したものについては、一つずつ「例外化」という形で慎重に吟味し、閣議決定で適用除外としてきた。なぜ個別に判断するやり方ではいけないのか。

三原則見直しでどれだけ調達コストが削減できるのか、それを具体的な数字やデータで比較衡量したのか、国民は何も知らされていない。情報なしに納得せよと言われても無理な話だ。

コストが問題なら、冷戦思考が抜けない自衛隊の重厚長大な装備体系や、政府が手厚く保護する防衛産業のあり方に大ナタをふるうべきだ。

何より武器輸出政策の原則を変えれば、それはいや応なく国際社会への強いメッセージとなる。日本は世界の中でどんな国家であろうとするのか。平和国家であり続けるのか、それとも?

性急な見直し論議の前に、菅政権が答えを出すべき問いはそこにある。

毎日新聞 2010年11月19日

武器輸出三原則 理念守る歯止めが必要

政府が年内に策定する新たな「防衛計画の大綱」に向けて、政府内や民主党内で武器輸出三原則の見直し論議が進んでいる。

三原則は、佐藤内閣が1967年、(1)共産圏諸国(2)国連決議で禁止された国(3)国際紛争の当事国やおそれのある国--への武器輸出を認めないと表明したことに由来する。76年には三木内閣が三原則対象地域以外の国にも武器輸出を「慎む」とした政府統一見解を表明し、事実上の全面禁輸となった。武器技術なども三原則に準じるとされた。

その後、83年に対米武器技術供与が例外とされ、2004年には米国とのミサイル防衛(MD)関連の共同開発・共同生産、他国とのテロ・海賊対策についても個別に検討するとし、現在に至る。

今回の見直し論議の背景には、次期主力戦闘機(FX)導入などを念頭に、国際的な共同開発・共同生産に道を開きたいという意図がある。日本単独の開発・生産では高価につくほか、防衛産業の生産・技術基盤が立ち遅れるとの危機感である。

近年、武器・技術の共同開発・生産が国際的な流れとなっているのは間違いない。日本にとっても安全保障・防衛の充実、国内の生産基盤整備の観点から、これに参加するのは有益であろう。が、同時に、三原則によって軍備管理・軍縮で日本が一定の発言力を持てるようになり、「非核三原則」などと並んで「平和国家の基本理念」の一つとなってきたことも事実である。

菅直人首相は武器三原則の基本理念を堅持すると明言している。見直しにあたっては、日本の武器・技術輸出が国際紛争の助長に結びつくようなことにはしないという原則を守る新たな歯止めが必要となる。

政府や民主党内の議論では、佐藤内閣当時の基準に緩和したうえで、新たな原則を策定する考えが主流のようだ。その際、大きな論点になるのが、共同開発・生産の対象国をどの範囲に定めるのか、そして、日本の武器・技術が相手国から第三国に移転される可能性をどう制限するのかということだろう。

さらに、殺傷能力の高い武器や製造設備を日本が輸出することになれば、国際社会の理解は得られない。輸出を可能とする武器の能力の基準や、輸出相手国の武器・技術の使用目的などを、新たな原則にどう盛り込むかも重要な検討課題となる。

あいまいな基準では、首相が堅持を約束する「三原則の理念」が空洞化する懸念が残る。平和国家の理念の後退になってはならない。見直しでは、政府・与党内の慎重な議論を踏まえ、実効性のある歯止めの策定を求めたい。

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