ドイツ総選挙 注視したい保守への流れ

朝日新聞 2009年09月30日

ドイツ総選挙 大連立が残した重い教訓

ドイツで行われた総選挙の結果、4年間続いた2大政党による大連立政権が解消され、11年ぶりに中道右派政権が生まれる見通しとなった。

勝利したのはメルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟で、大連立の相手だった社会民主党は戦後最低の得票率となり、惨敗した。

勝敗を分けた要因の一つは、両党のリーダーの実力と人気の違いだ。

旧東独の物理学者だったメルケル氏は、ドイツ統一後の90年代に政界入りし、頭角を現した。大連立政権では、首相としてサミット外交や地球温暖化問題で指導力を発揮した。

一方、社会民主党は内紛が相次ぎ、昨年、首相候補に指名されたばかりのシュタインマイヤー外相は有権者に存在感を示せなかった。

大連立の4年間が社民党に逆風を呼んだのは間違いない。両党で議席の7割を押さえ、その基盤に乗って社会保障の負担増や付加価値税の税率アップなど不人気な政策を次々と導入した。

こうした現状に対する有権者の反発は、社民党により厳しく向けられた。格差是正、所得再配分に積極的と見られてきた政党だけに、失望が大きかったのだろう。

昨年来の経済危機で有権者たちの暮らしが厳しくなり、不満が加速した面もある。社民党は最低賃金の拡充策などを選挙戦で打ち出し、軌道修正を図ったが、手遅れだった。

第1党の座を確保したとはいえ、現状批判は同盟にも向けられ、得票率は前回よりわずかに減少した。

その結果、勢力を伸ばしたのが中小政党だ。同盟への批判票は、経済界の支持を受ける保守、自由民主党の議席数を押し上げ、労働者や低所得層の不満票は左派党や90年連合・緑の党に流れたようだ。

大連立政権下では、政策論議も低調になってしまった。選挙戦終盤になってアフガニスタンへの部隊派遣問題が争点に浮上した。ドイツ軍が要請した空爆で現地の住民が多数犠牲になったためだが、2大政党がともに派遣支持では論戦が深まりようもなかった。

メルケル首相は今後、連立に向けて自民党との政策協議に入る。両党とも減税やこれまでの脱原発政策の転換を掲げ、基本的な方向は重なっている。減税幅や、既存原発をどれくらいの期間延命させるかが焦点になりそうだ。

大連立は不人気でも必要な政策の実現には効力を発揮する一方で、それぞれの政党の独自性が見えにくくなったり、批判勢力が弱まって政策論争がしぼんだりする副作用もある。

ドイツの経験はそのことを浮き彫りにした。日本でも一昨年、自民党と民主党との間で大連立話が持ち上がったことがある。大変な劇薬でもあることを改めて知る。

毎日新聞 2009年10月02日

ドイツ新体制 核への対応も問われる

核をめぐる判断に、とりわけ注目したい。ドイツの総選挙はメルケル首相の保守与党、キリスト教民主・社会同盟が第1党の座を守った。しかし、これまで大連立を組んでいた左派の社会民主党が大敗したため、右派の自由民主党との連立による中道右派政権が樹立される見通しだ。

そこで、従来の「脱原発」路線の転換が予想される中、核兵器をめぐる問題も持ち上がった。外相就任が有力なウェスターウェレ自民党党首が、ドイツに配備されている米軍の戦術核兵器(推定10~20基)について「核爆弾は冷戦の遺物」として撤去を求めたのだ。

ドイツはしばしば、米国主導の北大西洋条約機構(NATO)の核政策に注文をつけてきた。社民党のシュタインマイヤー外相も国内の核兵器撤去を求めたし、98年にはフィッシャー外相(当時)が、「冷戦時代のような核の脅威は終わった」として核兵器の先制不使用をNATOに提言したこともある。

ドイツだけではない。NATOが本部を置くベルギーの議会も先月中旬、米軍の戦術核の国外撤去を求める書簡を米議会に送ったという。他方、米軍が関与した昨年の調査によれば、欧州の大半の核兵器貯蔵施設は安全基準に問題があったとされる。聞き捨てならない話である。

米ソの冷戦はとうに終わったのに、なお欧州で核兵器の「場所貸し」を続ける必要があるのか、貯蔵核兵器は本当に安全なのか、といった不満や不安を一般市民が感じても無理はあるまい。欧州で「核兵器のない世界」演説をしたオバマ米大統領の判断が注目される局面だ。

原発について、ドイツは「脱原発法」によって総発電量を定め、来年は現有17基の原発のうち最大3基の原発を停止させる予定だった。具体的な連立合意はまだ先とはいえ、原発の稼働を段階的に止める「脱原発」の先送りは確実だ。

だが、ドイツの総選挙を通して原発の有用性と存続の流れを一般化するのは早計だろう。近年、米欧では地球温暖化対策を追い風とした原発再評価、いわゆる「原子力ルネサンス」も見られるが、安全性への疑問が解消されたわけではない。日本は日本の事情と理念に立った注意深い議論をすべきである。

4年で終わった大連立の是非にしろ「保守回帰」にしろ、そのまま日本の政治に引き寄せて語ることはできない。だが、犠牲者が相次ぐアフガニスタンへの派兵などが大きな争点にならなかったのは、善しあしはともかく大連立ゆえだろう。今後は与野党の議論がより活発化するはずだ。メルケル首相の手腕が問われるのは、むしろこれからと考えたい。

読売新聞 2009年09月29日

ドイツ総選挙 保守中道政権で原発存続へ

ドイツ連邦議会選挙は2大政党時代が終わりつつあること、そして「原発回帰」が欧州の新たな潮流になり始めたことを予感させる。

総選挙では、保守のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が第1党の座を守り、大連立の相手だった左派の社会民主党(SPD)が歴史的大敗を喫した。この結果、同盟と第3党の中道政党、自由民主党(FDP)による連立政権樹立が確実となった。

ドイツ統一を成し遂げたコール政権以来、11年ぶりの保守中道政権の誕生である。

選挙戦では、雇用対策、減税による景気浮揚、旧東独地域再建などが争点になった。この中で、保守中道と左派の主張がはっきり分かれたのが、原発政策だった。

新政権を担う同盟と自民党は、これまでの原発廃棄政策を見直すと表明してきた。

ドイツは、社民党と緑の党が政権の座にあった2002年、稼働期間が32年に達した原発を順次廃棄する「脱原発」政策を始動させた。これを転換し、稼働期間を延長するというのだ。

背景には、欧州連合(EU)が旗を振る地球温暖化対策を実行する上で、当面、原発に頼らざるを得ないという事情がある。風力など再生可能エネルギーによる肩代わりは、費用対効果の面などで難しいからだ。

欧州では最近、スウェーデンが原発の新規建設方針を打ち出すなど、脱原発政策の転換が始まっている。環境先進国といわれたドイツが加われば、「原発の復権」は大きなうねりになろう。

戦後のドイツは、同盟、社民党の2大政党のどちらかが、自民党など小政党との連立で政権を樹立してきた。だが、30年前に合わせて90%を超えていた2大政党の得票率は、年々低下してきており、今回の選挙では、わずか57%に減少した。

社民党の大敗は、福祉重視型の社会を築いてきた欧州社民主義の行き詰まりを示した。「競争」が不可避な経済のグローバル化の中では、社会的弱者を守るにも、経済の持続的成長を確保する必要があるからだ。

ブレア英首相、シュレーダー独首相はかつて、社民主義の自己改革を試みたが、起死回生にはつながらなかった。

来年前半に予定される英総選挙では、労働党から保守党への政権交代が予想されている。仏、伊、独に続き、英も保守政権になれば、原発回帰にも拍車がかかろう。

産経新聞 2009年09月29日

ドイツ総選挙 注視したい保守への流れ

ドイツ総選挙の結果、4年間続いた大連立政権に終止符が打たれ11年ぶりに中道右派(保守)連立政権が樹立される。

メルケル首相率いる保守政党のキリスト教民主・社会同盟は、躍進した野党の自由民主党と合わせた議席数で過半数を制した。メルケル首相は続投し、大連立の一翼を担った中道左派の社会民主党は下野する。

ドイツの有権者が、一見安定感がある左右の大連立よりも、自由主義を前面に打ち出す中道右派の連立政権を選択した意義に注目したい。日本の各政党、とりわけ下野した自民党には学ぶ点が多いのではないか。

米誌フォーブスの「世界で最も影響力がある女性」に4年連続で選ばれたメルケル首相の人気が、今回の中道右派連立政権を生んだ原動力だろう。メルケル首相には首相就任当初、経験不足を懸念する声もあったが、実際には労組を支持基盤としてきた社民党と政策面で妥協するしたたかな政権運営を続けた。

財政再建のために付加価値税増税を説き、年金給付開始年齢の引き上げも断行した。一方、昨年秋以来の金融危機では10兆円超の景気刺激策を打ち出す苦渋の決断も下した。

社民党との政策すり合わせが必要だった大連立政権と違い、自由主義経済の理念で合致する同盟・自民党の連立政権では、メルケル首相は本来の路線に戻ることができる。一層の規制緩和や高額所得者を含めた減税の実施である。そこに期待が集まった。

もう一つの例は「脱原発」政策の転換だ。社民党を軸とする左派連立政権が2002年に法制化した政策は、22年までに17基の原発すべてを停止するとの内容で、大連立政権でも維持された。

しかし、脱原発には莫大(ばくだい)なコストがかかる。地球温暖化対策で原発が見直されているとき、メルケル首相は「再生可能エネルギーが普及するまでは原発の運転を延長する」と公約した。現実を直視する、こうした姿勢が評価されたのではないか。

同盟と自民党との前回の連立政権(1982~98年)下では、東西ドイツの統一という難事業が成った。久々にドイツに復活した保守の連立政権が金融危機の処理や地球温暖化対策など、喫緊の課題にどう立ち向かうか。女性宰相の手腕を日本も注視したい。

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