ドイツで行われた総選挙の結果、4年間続いた2大政党による大連立政権が解消され、11年ぶりに中道右派政権が生まれる見通しとなった。
勝利したのはメルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟で、大連立の相手だった社会民主党は戦後最低の得票率となり、惨敗した。
勝敗を分けた要因の一つは、両党のリーダーの実力と人気の違いだ。
旧東独の物理学者だったメルケル氏は、ドイツ統一後の90年代に政界入りし、頭角を現した。大連立政権では、首相としてサミット外交や地球温暖化問題で指導力を発揮した。
一方、社会民主党は内紛が相次ぎ、昨年、首相候補に指名されたばかりのシュタインマイヤー外相は有権者に存在感を示せなかった。
大連立の4年間が社民党に逆風を呼んだのは間違いない。両党で議席の7割を押さえ、その基盤に乗って社会保障の負担増や付加価値税の税率アップなど不人気な政策を次々と導入した。
こうした現状に対する有権者の反発は、社民党により厳しく向けられた。格差是正、所得再配分に積極的と見られてきた政党だけに、失望が大きかったのだろう。
昨年来の経済危機で有権者たちの暮らしが厳しくなり、不満が加速した面もある。社民党は最低賃金の拡充策などを選挙戦で打ち出し、軌道修正を図ったが、手遅れだった。
第1党の座を確保したとはいえ、現状批判は同盟にも向けられ、得票率は前回よりわずかに減少した。
その結果、勢力を伸ばしたのが中小政党だ。同盟への批判票は、経済界の支持を受ける保守、自由民主党の議席数を押し上げ、労働者や低所得層の不満票は左派党や90年連合・緑の党に流れたようだ。
大連立政権下では、政策論議も低調になってしまった。選挙戦終盤になってアフガニスタンへの部隊派遣問題が争点に浮上した。ドイツ軍が要請した空爆で現地の住民が多数犠牲になったためだが、2大政党がともに派遣支持では論戦が深まりようもなかった。
メルケル首相は今後、連立に向けて自民党との政策協議に入る。両党とも減税やこれまでの脱原発政策の転換を掲げ、基本的な方向は重なっている。減税幅や、既存原発をどれくらいの期間延命させるかが焦点になりそうだ。
大連立は不人気でも必要な政策の実現には効力を発揮する一方で、それぞれの政党の独自性が見えにくくなったり、批判勢力が弱まって政策論争がしぼんだりする副作用もある。
ドイツの経験はそのことを浮き彫りにした。日本でも一昨年、自民党と民主党との間で大連立話が持ち上がったことがある。大変な劇薬でもあることを改めて知る。
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