スー・チーさん 対話こそが民主化の一歩

朝日新聞 2010年11月18日

スー・チーさん 対話こそが民主化の一歩

ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんは、民主化勢力に団結を、軍事政権には対話を呼びかけた。

13日に自宅軟禁から解放され、7年半ぶりの演説である。それ以前を含めると、不当に自由を奪われていた時間は計15年に及ぶ。

軍政は今後、彼女の政治活動や言論の自由を保障しなければならない。

解放翌日の演説には数万人の群衆が歓喜の声を上げたという。スー・チーさんは、民主化と自由を求める人々の希望の星であり続けている。

軍政は軟禁解除の期限を、20年ぶりの総選挙を終えた直後に設定した。国民の間に根強い彼女の人気をどれだけ恐れていたか、の証しでもある。

自由でも公正でもなかった総選挙で軍の翼賛政党は8割近い議席を得たという。そのほかに軍が議席の4分の1を指名するので、新国会は軍政系の議員が絶対多数を握る。

前回の選挙で圧勝した国民民主連盟(NLD)は今回の選挙に参加することを拒み、解党となった。そのリーダーであるスー・チーさんはボイコットを呼びかけ、NLDの一部メンバーの結成した新党がわずかな議席しかとれない結果にもつながった。

選挙への不参加について「不公平な制度であっても、議席を得て国会で主張するべきだった」との批判が一部にある。この間、NLD幹部らは高齢化し、組織も分裂、弱体化した。

前回選挙の結果を一方的に覆され、自由を奪われ続けた経緯を振り返れば、今回の選挙を認めるわけにいかない彼女の思いは理解できる。

今後は、スー・チーさんが「第一声」で語ったように、軍政に分断された民主化勢力の立て直しと亀裂の修復に力を注がなければならない。

野党側は今回の選挙で多数の不正があったと訴えている。スー・チーさんへの支援の輪が広がれば、軍政は、解党後のNLDの政治活動を「違法」として取り締まりに乗り出すとの観測もあるが、とんでもないことだ。

来年早々国会が招集される。新たな政府の始動をもって、軍政は民主化が完成したと宣言する段取りだ。

曲がりなりにも統治の形態が変わるタイミングだ。新政府の姿勢次第では国内外での和解の好機にもなる。

新大統領はまずスー・チーさんとの直接対話を始めることだ。彼女抜きでは和解も民主化もあり得ない。さらに2千人を超す政治犯もただちに解放する。そうすれば真の民主化へ一歩を踏み出す可能性がでてくる。

日本は、軍政を非難する国際世論の防波堤となってきた中国をはじめ、インドや近隣国と話し合い、新政府が真の民主化へ向けてかじを切るよう、粘り強く働きかける道を探るべきだ。

産経新聞 2010年11月20日

スー・チー氏 軍政に真の民主化を迫れ

ミャンマーの軍事政権が民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんの自宅軟禁措置を7年半ぶりに解除し、スー・チーさんは国民和解のためには「軍政との対話もいとわない」と言明した。だが、現状は民主化には程遠い。

先に行われた20年ぶりの総選挙は軍政翼賛政党の連邦団結発展党(USDP)が圧勝、上下院で8割の議席を占める見通しだ。スー・チーさんの解放には批判をかわそうとする軍政の思惑が透けて見える。真の民主化実現にはスー・チーさんへの国際社会の後押しが不可欠だ。

総選挙はうたい文句の「民政移管」とは裏腹の実態だった。

軍政は新憲法で上下院の議席の4分の1をあらかじめ軍人枠とした。さらに選挙関連法を制定し、スー・チーさんの活動基盤である国民民主連盟(NLD)を解党に追い込む一方、退役軍人を翼賛政党から大量立候補させた。NLDとたもとを分かった民主政党は少数の議席しか得られなかった。

国際選挙監視団や外国メディアを締め出して実施され、軍政による投票の強要や開票操作などの不正も浮上している。前原誠司外相が「公平・公正とは言い難い」としつつも「一歩踏み出した」と評価したのは妥当とは言えまい。

ミャンマー沖の石油天然ガス権益を獲得している中国が「民政移管への重要な一歩。歓迎し、肯定する」と支持したのは総選挙の実態を覆い隠す動きだ。同様にガス田開発に投資するインドや港湾・工業団地建設などを受注したタイも軍政批判を控えている。

中国の後ろ盾で米欧による対ミャンマー経済制裁の効果が薄れつつある状況下、人権状況の改善や民主化を促す決め手は独裁的軍政への国際圧力の高まりである。中国などがとっている軍政への協調政策を牽制(けんせい)するためにも、軍政と北朝鮮との核・ミサイル開発での協力をめぐる疑惑は国連安保理などでもっと追及すべき問題だ。

人道面に限定して支援を続けている日本はミャンマーのサイクロン被害に対する50万ドルの緊急無償援助を決めた。これを梃(てこ)にスー・チーさんが提訴したNLDの政党登録復活が実現するよう軍政に圧力をかけるのは日本の役割だ。

国際社会は今、22年間で計15年以上も拘束・軟禁されたスー・チーさんが再び自由を奪われないよう、監視を強める必要がある。

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