柳田法相発言 菅政権の緊張感欠如の表れだ

朝日新聞 2010年11月23日

柳田法相辞任 まともな国会にまず戻せ

与野党のもみ合いの末に、柳田稔法相が辞任に追い込まれた。

危急の課題が山積しているのに、政治は何をやっているのか。暗然とした思いを禁じ得ない。

国会答弁は「二つ覚えておけばいい」という柳田氏の軽口は、国民への重い説明責任を負う閣僚としてあまりに自覚を欠く。国民の信頼回復のための検察改革の担い手には、およそふさわしくない。この結末は当然だろう。

しかし、菅直人政権と民主党執行部は土壇場まで柳田氏続投で事態を乗り切ろうとした。参院での問責決議案可決をちらつかせる野党の圧力に屈すれば、仙谷由人官房長官や馬淵澄夫国土交通相ら他の閣僚にも「ドミノ辞任」の危険が迫ることを恐れたためだ。

問責決議案が可決された場合でも、柳田氏を当面続投させることで野党の「問責カード」の力をそぐことも考えていたというから、驚くしかない。

野党の出方ばかりを気にかけ、厳しい国民世論は眼中になかったというなら、政権を担う緊張感がなさすぎる。

確かに自民党政権下で、問責決議を黙殺した福田康夫首相の例はあるが、政権運営に行き詰まり、3カ月後に首相の座を放り出した。

両院のうちの一方とはいえ、国民の代表である国会の意思を無視し続けるのは、生易しいことではないと知るべきである。

柳田氏の続投表明の翌朝に辞任を求めるというちぐはぐな対応にも驚く。首相官邸の指導力と危機管理能力の欠落があらわになるのは何度目か。

補正予算案の成立にめどがついたとはいえ、10月1日に始まった今国会で成立した政府提出法案はこれまでわずか2本にすぎない。論戦は相変わらず、政治とカネや閣僚の不用意な発言をめぐる応酬が中心で、肝心の政策論争は置き去りにされたままだ。

法相辞任を、国会を本来の議論する場に戻す契機にしなければいけない。

その責任は一義的に政権与党にある。目に余る緩みと稚拙さを、政権運営から一掃しなければならない。

野党もまた重い責任を共有している。問責決議案のやみくもな連発といった国会戦術に血道を上げるなら、国民の期待に沿うことはできない。

ねじれ国会は、与野党が徹底した議論を通じて一致点を見いだしていく「熟議の政治」を求めている。来年度予算案が審議される年明けの通常国会に向け、この臨時国会が、その試金石になるはずだった。

不毛な対立をそのままにして今国会が閉じられるなら、通常国会もまた、惨状を呈することを免れない。

小沢一郎・元民主党幹事長の国会招致問題にけりをつけることを含め、菅首相は態勢立て直しの責任を改めてかみ締めるべきである。

毎日新聞 2010年11月23日

柳田法相辞任 政権自壊の瀬戸際だ

政権を壊しかねない打撃である。国会軽視と受け取られる発言が野党から追及されていた柳田稔法相が22日、辞任した。

閣僚としての資質を疑問視される言動だけに、辞任は当然だ。にもかかわらず、更迭にいたずらに日数を要した菅直人首相の判断は遅きに失した。毎日新聞の世論調査で内閣支持率が26%に急落したのも、首相の指導力が感じられず、国民に失望を広げている表れに他ならない。

いったい菅内閣の危機管理は本当に、機能しているのか。ここ数日の柳田氏問題への官邸の対応は、そんな不安を増幅させた。

柳田氏については自民党が参院で問責決議案の提出を決め、可決が確実だった。ところが首相は当初続投を擁護し、岡田克也・民主党幹事長は問責決議の可決後、柳田氏が続投して国会が混乱した場合の会期延長にまで言及した。

柳田氏が辞任すれば、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件への対応や映像流出問題をめぐる仙谷由人官房長官や馬淵澄夫国土交通相の責任問題に波及しかねない。こう、政府・与党は懸念したのだろう。

だが、失言が批判を浴びた柳田氏の問責決議を無視すれば、野党との対立は一気に激化したはずだ。来年の通常国会も見据え、野党と政策協調を迫られる中でなぜ、収拾を即断しなかったのか。辞任前日に柳田氏が記者会見で続投を表明したことも、結果的に恥の上塗りでしかない。

閣僚の失言と同様、世論の風当たりが厳しいのが漁船衝突ビデオ問題だ。映像流出を経て、世論調査では9割が一般公開を求めた。さきの船長釈放をめぐる経緯と同様、国民に説明し理解を求めようとする意識が乏しいことへの批判ではないか。

一連の事態から共通して浮かぶのは、首相自らが責任を負い解決を主導する迫力の不足である。小沢一郎元代表の国会招致問題でも、9割が首相は指導力を発揮していないと答えた。大きな方向性を政権が示せないまま、政府・与党が緊張感を失い政権が漂っているのが現状だろう。

野党は勢いづき、自民党は仙谷、馬淵両氏らの参院での問責決議案提出も検討している。ビデオ映像流出の管理責任などは確かに今後、厳しく総括すべきだ。だが、いたずらに倒閣や国会日程の攻防目当てに問責決議案を多用するようでは、困る。これ以上政策不在の混乱が加速しても、国民の政党不信を強めるばかりだ。

何よりも、首相が政権の目標を明確にし、来年度予算編成にのぞむ指針を国民に示すことが大切だ。「介護を雇用に結びつけたい」と繰り返すだけでは物足りない。民主党政権の存在意義が問われつつあるのだ。

読売新聞 2010年11月23日

柳田法相更迭 政権の態勢を早急に立て直せ

「国会軽視」と受け取られる軽率な発言の責任を取り、柳田稔法相が辞任した。菅首相が円滑な国会審議を優先したもので、事実上の更迭だ。当然の判断と言える。

野党は22日中に参院に法相問責決議案を提出する構えを見せていた。決議案が可決されても、法的拘束力はないが、補正予算案審議が大幅に遅れる恐れがあった。

景気回復の道筋が不透明な中、補正予算案の早期成立・執行は最優先課題だ。菅首相は、法相更迭を機に、政策が遂行できる態勢を早急に立て直さねばならない。

柳田法相は14日の地元会合で、「個別事案は答えを差し控える」など2通りの答弁で国会審議は切り抜けられると発言した。22日の辞任会見では、「ジョーク交じりの発言」と釈明したが、閣僚としての資質が疑われる。

柳田法相の人選には、菅首相の任命責任も問われよう。

柳田氏は20年間の国会議員活動で、法務関係を担当した経験がない。参院民主党の推薦で法相に起用された際、本人が「何で俺が」と漏らしたほどだ。

年功序列と派閥力学による閣僚人事は自民党政権でも横行していた。だが、民主党が「政治主導」を掲げるなら、本人の能力と適性をもっと考慮すべきだった。

菅政権は、支持率が急落する中で衆参ねじれ国会に直面しているとの危機感が乏しい。「熟議の国会」と言うばかりで、法案審議が進まない責任を野党に押しつけ、自らは積極的に動かない。これでは現在の苦境を打開できまい。

首相は予算委で、今後の政権運営について「石にかじりついても頑張りたい」と語った。本来重視すべきは政策遂行なのに、政権維持が自己目的化していないか。

外交面でも、中国やロシアとの首脳会談の中身でなく、会談の開催自体を目的にしているようでは日本の国益は守れない。

首相は、何事も先送りを図る、()(しゅく)した政権の姿勢が支持率低下の要因であることを自覚し、指導力を発揮すべきだ。

臨時国会中に民主党の小沢一郎元代表の国会招致を実現し、尖閣諸島沖の漁船衝突ビデオも公開する必要がある。各閣僚も、もっと緊張感を保ち、自らの発言に責任を持つことが大切だ。

柳田法相の後任も早く決める必要がある。特捜検事の証拠改ざんや隠蔽(いんぺい)事件で、検察改革は待ったなしの課題だ。仙谷官房長官が法相兼務では、政策課題にきちんと取り組めるはずがない。

産経新聞 2010年11月23日

柳田法相辞任 問われている内閣の存立

「答弁は2つ覚えておけばいい」などと語っていた柳田稔法相が辞任した。法務・検察行政への責任者意識も希薄で、辞任は当然だ。

菅直人改造内閣では初の閣僚辞任だけに、菅政権への打撃は大きい。菅首相にとって正念場を迎えつつある。

今回の辞任で浮き彫りになったのは、菅内閣の危機意識の欠如であり、統治能力への疑問である。

法相の後任は仙谷由人官房長官が兼務した。その仙谷氏自身は尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件への対応に加え、自衛隊を「暴力装置」と呼んだことで責任を追及され、問責決議案の対象になっている。その場しのぎといえる人事は危機感があるのだろうか。

首相の指導力もよく見えない。首相は法相の発言問題が深刻化した後も「柳田氏には頑張ってもらいたい」「閣僚としてよくやっている方だ」と語るなど、辞任は必要ないとの姿勢を示した。辞任後の22日の参院予算委員会でも「柳田氏が自ら辞任を申し出た」と説明した。閣僚として不適切な人物を自らの意思で罷免しなかったわけだ。任命責任を追及されることを躊躇(ちゅうちょ)しての発言なら、最高指導者としての資質を疑う。

首相の指導力には国民から疑問符がつけられている。産経新聞社とFNNの合同世論調査で、内閣支持率は21・8%で、10月末の調査から15ポイント近く下落し、不支持率は59・8%だった。首相の指導力への評価は7・8%で「評価しない」が84・6%に上った。

また、菅政権の外交・安全保障政策で82・2%、領土問題への対応では84・5%が「評価しない」と答えている。衝突事件のビデオ映像を早期に全面公開することが国益につながったと見る人が8割近くいる。民主党政権では主権を守れないとの懸念が広がっていることが如実に示されている。

景気対策への評価もわずか8・6%にとどまるなど内政課題の評価も厳しい。多くの分野で統治能力のなさを覆い隠せなくなっていることを、国民に見抜かれているといえる。

自民党は仙谷氏と馬淵澄夫国土交通相への問責決議案を提出する構えだが、党内には慎重論もある。他の野党もまとめ上げて問責可決に持ち込めるかどうか、野党第一党としての力量が問われる場面といえる。

朝日新聞 2010年11月20日

柳田法相発言 身の処し方を考えよ

つい口がすべり、冗談がすぎた。そんな経験は誰にでもあろう。しかし、柳田稔法相の発言は見過ごせない深刻な問題をはらんでいる。

柳田氏は先日、法相の国会答弁について「個別の事案についてはお答えを差し控えます」「法と証拠に基づいて適切にやっている」という二つの言葉を覚えておけばいい、と語った。

問題点の一つは、国民に対する説明責任である。

折しも尖閣諸島沖の事件が問題となっている。菅政権は自らの政治判断を検察のせいにして責任逃れを図っている、といった疑念を抱かれている。

そんな状況のなかで、責任者である法相がこう言えば、「やはり『個別の事案』を盾にして真実を覆い隠しているのだな」と思われても仕方がない。

もう一つは、閣僚としての資質だ。

柳田氏は自ら認めたように、法務の分野に携わったことがない。突然閣僚に任ぜられ、まともな答弁ができないから二つの言葉に頼った。発言はそう告白しているようなものだろう。

かつて自民党政権下で、「重要な問題なので」官僚に答えさせる、と答弁した閣僚がいた。政治は官僚に依存し、多くの閣僚はお飾りにすぎないという実態を象徴する光景だった。

法相発言は、政治主導を掲げる民主党政権も、その悪弊から抜け出せていないことをあらわに示した。

いま国会で論ずべきは、こうした政治の惨状をどう改めるか、与野党が互いに真摯(しんし)に反省しながら改善策を探ることではないか。

内外から難題が次々と襲いかかり、政治は息をつく暇もない時代である。そこで閣僚に求められる資質とはなにか。どう適材を発掘し、養成するか。個人の責任を追及し、問責決議をすればそれで済む話ではない。

まして政府を追いつめるため、だれかれなく問責決議案を連発し、辞職に応じなければ審議を拒否するといった旧態依然の「国会戦術」が許される時代ではない。それに政権が振り回され、右往左往していては、政治の混迷はますます深まる。

そのうえで、菅政権に求めたい。

菅直人首相以下には、政権交代に託された国民の期待に応える責務がある。その前提は政治主導に魂を入れ、国会で「熟議」を重ねる能力を持つ政治家を起用し、政策を遂行する態勢を整えることだ。

柳田氏は、それに適任か自らを顧み、身の処し方を考えるべきだ。氏は続投の理由に検察改革に取り組むことを挙げたが、それを委ねられるかが問われている。

菅首相は、柳田氏に限らず政権の布陣を総点検すべきである。そして、責務を果たし得ないと判断するならば、交代をためらうべきではない。

読売新聞 2010年11月19日

柳田法相発言 菅政権の緊張感欠如の表れだ

国会を軽視したと受け取られてもやむを得ない発言だ。

柳田法相が地元の会合で口を滑らせた。

国会での答弁について「二つ覚えておけばよい」と指摘し、「個別事案については答えを差し控える」「法と証拠に基づき適切にやっている」と言えば、切り抜けられると述べた。

まったく軽率である。

法相は、自身の発言が表面化すると、ただちに「思慮が足りなかったと心から反省している」と謝罪した。菅首相と仙谷官房長官も法相に厳重注意をした。

検察の捜査中の情報をつまびらかにできないのは確かだ。しかし法相の発言は、野党の追及に正面から向き合わず、二つの定型化した答弁を繰り返せばよい、という趣旨だ。野党が態度を硬化させるのは当然だろう。

野党側に菅政権批判の格好の材料を与えた形だ。このままでは、参院で法相の問責決議案が可決される可能性が高い。与党にも、法相の辞任は避けられないとの声が出ている。

菅首相は「歴代法相に比べればがんばっている」と述べ、法相を擁護したが、この発言自体に自民党は強く反発している。

首相は、どうやってこの事態を乗り切るつもりなのか。

自民党政権下で閣僚が問題発言をした際は、民主党が厳しく辞任を迫ってきた。攻守所を変えたとたん、身内には甘い対応というのでは国民の理解は得られまい。

円高・デフレ対策を盛り込んだ補正予算案は、衆院通過後30日たてば自然成立するとはいえ、当面の景気を考えれば早期成立が望ましい。それには、参院で多数を握る野党の協力が不可欠だ。

そのさなかの法相の不用意な発言である。政府・民主党は、自らを取り巻く厳しい現状に対する認識が甘いとしか思えない。

国会では、他の閣僚の答弁でも野党から追及されて撤回する場面が目立つ。18日の審議でも、仙谷官房長官が自衛隊について、かつて左翼運動でよく用いられた「暴力装置」と表現し、撤回、謝罪を余儀なくされた。

17日の審議では、民主党の前田武志参院予算委員長が、仙谷官房長官を「仙谷総理大臣」と呼び、野党側の失笑を買った。

菅首相と比べ、仙谷長官の存在感が大きいことを皮肉ったというわけではあるまい。これもまた、緊張感の欠如の表れである。

政府・民主党はもっと身を引き締めるべきだ。

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