与野党のもみ合いの末に、柳田稔法相が辞任に追い込まれた。
危急の課題が山積しているのに、政治は何をやっているのか。暗然とした思いを禁じ得ない。
国会答弁は「二つ覚えておけばいい」という柳田氏の軽口は、国民への重い説明責任を負う閣僚としてあまりに自覚を欠く。国民の信頼回復のための検察改革の担い手には、およそふさわしくない。この結末は当然だろう。
しかし、菅直人政権と民主党執行部は土壇場まで柳田氏続投で事態を乗り切ろうとした。参院での問責決議案可決をちらつかせる野党の圧力に屈すれば、仙谷由人官房長官や馬淵澄夫国土交通相ら他の閣僚にも「ドミノ辞任」の危険が迫ることを恐れたためだ。
問責決議案が可決された場合でも、柳田氏を当面続投させることで野党の「問責カード」の力をそぐことも考えていたというから、驚くしかない。
野党の出方ばかりを気にかけ、厳しい国民世論は眼中になかったというなら、政権を担う緊張感がなさすぎる。
確かに自民党政権下で、問責決議を黙殺した福田康夫首相の例はあるが、政権運営に行き詰まり、3カ月後に首相の座を放り出した。
両院のうちの一方とはいえ、国民の代表である国会の意思を無視し続けるのは、生易しいことではないと知るべきである。
柳田氏の続投表明の翌朝に辞任を求めるというちぐはぐな対応にも驚く。首相官邸の指導力と危機管理能力の欠落があらわになるのは何度目か。
補正予算案の成立にめどがついたとはいえ、10月1日に始まった今国会で成立した政府提出法案はこれまでわずか2本にすぎない。論戦は相変わらず、政治とカネや閣僚の不用意な発言をめぐる応酬が中心で、肝心の政策論争は置き去りにされたままだ。
法相辞任を、国会を本来の議論する場に戻す契機にしなければいけない。
その責任は一義的に政権与党にある。目に余る緩みと稚拙さを、政権運営から一掃しなければならない。
野党もまた重い責任を共有している。問責決議案のやみくもな連発といった国会戦術に血道を上げるなら、国民の期待に沿うことはできない。
ねじれ国会は、与野党が徹底した議論を通じて一致点を見いだしていく「熟議の政治」を求めている。来年度予算案が審議される年明けの通常国会に向け、この臨時国会が、その試金石になるはずだった。
不毛な対立をそのままにして今国会が閉じられるなら、通常国会もまた、惨状を呈することを免れない。
小沢一郎・元民主党幹事長の国会招致問題にけりをつけることを含め、菅首相は態勢立て直しの責任を改めてかみ締めるべきである。
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