「仕分け」に区切り 結果の総括を忘れずに

朝日新聞 2010年11月20日

事業仕分け もう少し続けてみたら

民主党政権が始めた事業仕分けに一区切りがついた。

財源の捻出(ねんしゅつ)効果が乏しかったこともあり、政権内からも「不要論」がでているが、全面公開の場で税金の使い道をチェックする仕分けの意義は色あせていない。限界はわきまえつつ、来年以降も続けてほしい。

昨秋の第1弾で削減できた予算の無駄は7千億円。特別会計を対象にした第3弾も6千億円程度にとどまった。一方、子ども手当の満額支給など、民主党のマニフェスト実現に必要な財源は16.8兆円。力不足は歴然だ。

さらに、仕分けの限界と矛盾を露呈させたのが、このほど終わった「再仕分け」だ。

過去の仕分けで廃止や見直しと判定されながら、看板を掛け替えて、来年度予算の概算要求に盛り込まれた、いわゆる「ゾンビ事業」が対象である。再仕分けが必要になること自体、仕分けの有効性に疑いを抱かせる。

そもそも、大臣以下、各省の政務三役がしっかりしていれば、こんな予算要求はありえないはずだ。民主党政権が金科玉条とする政治主導は、かけ声倒れと言われても仕方あるまい。

菅政権の新成長戦略の看板である「総合特区」の予算計上見送りや、取得者300万人を目標に掲げるジョブカード関連事業の廃止など、アクセルとブレーキを同時に踏むような、支離滅裂な印象を与える判定もあった。

どういう分野に予算を重点配分するのか、政権としての確固たる戦略が共有されていないのではないか。

仕分けは本来、限られた予算が効率的に使われているかどうかを事後チェックする手段だ。内閣としての大胆な政策の優先順位づけを欠いたままでは、それこそ大胆な予算の組み替えなど望むべくもない。

財務省の査定、総務省の行政評価、会計検査院の検査など、予算をチェックする仕組みはいろいろある。しかし、全面公開と、民間の仕分け人という外部の視点は、仕分けにしかない。

ゾンビ事業も政務三役の族議員化も嘆かわしい話だが、全面公開の仕分けだからこそ、私たちはその問題点をはっきりと知ることができた。非効率な予算でも温存を図る官僚の手練手管に対抗するには、「国民の目」が最も有力な武器になるだろう。

もちろん、国会の予算や決算、行政監視に関する委員会も公開である。国会議員は納税者の代表として、仕分け人に負けないチェック機能を果たさなければいけない。

仕分けは数少ない民主党政権の人気政策として、過剰に演出されてきた側面を否定できない。行政の無駄の削減は本来、終わりなき地道な取り組みである。公開の意義という原点を踏まえて、今後も賢く活用してほしい。

毎日新聞 2010年11月18日

「仕分け」に区切り 結果の総括を忘れずに

政府の行政刷新会議による事業仕分け第3弾の後半戦が行われている。これまで廃止や見直し判定を受けながら従わずにいる事業の「再仕分け」がテーマで、昨年11月からの一連の作業は区切りを迎える。

国民の目にふれにくかった税金のムダ遣いを仕分け人が衆人環視の下で点検したことを改めて評価したい。一方で、仕分けがムダ削減に実際どこまで貢献したか、議論もある。これまでの作業に伴う財源の捻出(ねんしゅつ)額と制度見直しなど「成果」を刷新会議は国民に説明すべきである。

今回の仕分けは廃止などの判定を受けながら看板掛け替えなどで各省が過去の判定の骨抜きを画策するいわゆる「ゾンビ事業」が対象だ。正当な理由もなく判定の無視を決め込む官庁の対応にはあきれる。だが、法的な拘束力が無いとはいえ内閣全体で仕分け結果をきちんとフォローしていれば、対象が112事業に達することもなかったはずだ。

ともあれ10年度予算、独立行政法人、公益法人、特別会計と続いた仕分けも一段落の印象だ。民主党は衆院選マニフェスト(政権公約)でムダ見直しなどで7兆~17兆円の財源を捻出するとしていたが、仕分け頼みの限界は明白だ。税制のあり方など財政健全化の議論を急ぐことを与野党に改めて求めたい。

その一方で、かつて菅直人首相が「逆立ちしても鼻血も出ない」と語ったほど行政のムダに切り込めたか、疑問もある。仕分けを端緒に類似事業のムダにも「横ぐし」を刺して切りこむ狙いが不発に終わったのはその典型だ。民主党政権が次第に官僚と協調路線に転じるにつれ、増税にレールを敷く地ならし的な狙いがつきまとうようになった。

蓮舫行政刷新担当相は、今回で現行の仕分けを発展的に解消させる考えを示唆している。本来、各省がこうした作業にそれぞれ取り組むことが望ましいのは確かだが、これまでの活動を演出目当ての「劇場」で終わらせてはならない。仕分けを通じてどれだけの財源を発掘し、制度改革を軌道に乗せたか、つまり「成果」を来年度予算編成にあたりわかりやすく説明する必要がある。

行政のムダに本当にメスを入れるには衆参両院の決算部門の委員会の機能強化はもちろん、会計検査院、総務省行政評価局との連携など効果的な枠組みを新たに構築しなければならない。

現行の事業仕分けにしても、中央官庁が地方行政を縛る各種基準の撤廃や国の地方出先機関の見直しなど、応用可能な分野はまだ多いのではないか。一時は社会現象にまでなった政権交代を象徴する改革手法だけに、今後も生かせるよう政府はチエを絞ってほしい。

読売新聞 2010年11月20日

事業仕分け 功罪を検証し手法を見直せ

民主党が看板に掲げる「政治主導」の矛盾がまたも露呈した。

行政刷新会議が、4日間の事業仕分け第3弾の後半日程を終えた。過去に仕分けの対象となった約110事業を「再仕分け」したもので、45事業を廃止または予算計上見送りなどと判定した。

目立ったのは、仕分け人と各府省の副大臣らとの対立だ。

各府省は、過去に廃止とされた事業の看板を掛け替え、新たに予算要求するなど、様々な抵抗を試みた。官僚だけでなく、政務三役も予算確保の側に回った。

仕分けの結果、例えば、特定地域で規制緩和を進める内閣府の総合特区制度の推進調整費820億円は、政府の新成長戦略の目玉事業という位置づけなのに、予算計上見送りと判定された。

各府省側は、仕分け作業について「法的根拠がなく、閣議決定や政務三役の判断が優先されるべきだ」と主張する。これに対し、仕分け人は、あくまで費用対効果や無駄の削減を追求する。

これでは、アクセルとブレーキを同時に踏むようなものではないか。各府省と仕分け人の間に共通認識や明確なルールがなく、司令塔もないまま、こうした作業を行えば、混乱するのは当然だ。

仕分けの判定結果をどう扱うのか。閣議決定した案件との整合性をどう取るのか。そうしたルールを事前に、菅首相らが中心となって定めておくべきだった。

もはや事業仕分けにも、“仕分け”が必要だ。過去の効果と問題点を冷静に検証し、今後の作業のあり方を決めねばなるまい。

各府省に公開の場で納得できる説明を求める。なれ合いを排し、第三者の視点で無駄を徹底して省く。その狙いは理解できる。

しかし、本来、多角的な検討が必要な政策の存廃を、わずか1時間程度で判断する現在の手法に無理があるのも明白だ。

この際、大衆迎合的な政治パフォーマンスを排し、より大所高所から政治家が事業の是非を判断する仕組みに見直すことを真剣に検討すべきだろう。

一方、仕分け作業による無駄の削減と財源の捻出(ねんしゅつ)に限界があることも改めて浮き彫りになった。

過去1年間の仕分けによる予算削減は最大1・5兆円で、見つかった国庫返納可能な埋蔵金は3兆円だ。民主党が政権公約で示した16・8兆円とは乖離(かいり)がある。

民主党は、政権公約の誤りを率直に認め、大胆な見直しに取り組まなければならない。

産経新聞 2010年11月19日

事業再仕分け 監視強めて不断の改革を

政府の行政刷新会議による第3弾の事業仕分けが終了した。過去の仕分け結果が反映されていない事業などを対象に「再仕分け」した今回の作業では、菅直人政権が進める事業でも廃止などの見直し判定が相次いだ。

国民の目に届きにくい各省庁や独立行政法人の無駄づかいが、部分的とはいえ、あぶり出されたのは事業仕分けによるものであり、一定の成果として評価できる。だが問題は、これを一過性のものとせず、仕分けの実効性を確保することだ。今後、そうした仕組みづくりについても、政府の取り組み姿勢を注視したい。

今回の再仕分けでは、政務三役が予算要求を認めた成長戦略を含む政府の計画を政府自身が否定するというケースも目についた。予算要求した長妻昭前厚生労働相が今度は仕分け人として予算縮減にあたるなどの矛盾もみられた。

最終日の18日には、昨年の仕分けで削減が求められた宇宙開発予算について、来年度は今年度並みの要求が認められた。背景には小惑星探査機「はやぶさ」の成果があったとみられ、仕分け姿勢の一貫性が問われる場面もあった。

とはいえ、財務省と各省庁が個別に進めてきた予算をめぐる査定を民間の専門家を含めて議論し、透明性を確保したことは大きな意味がある。仕分け対象となった各省庁や独立行政法人などに事業の必要性について客観的な説明を求めることは、今後の無駄づかい防止にもつながるからだ。

昨年11月に始まった事業仕分けは、各省庁や独立行政法人が進める事業について公開の場で効率性などを議論し、廃止や予算縮小を判断してきた。そもそも、民主党が事業仕分けを始めた動機は、昨年夏の衆院選マニフェストに盛り込んだ子ども手当などの財源の捻出(ねんしゅつ)が目的だった。しかし、昨年の仕分け第1弾で確保できた恒久的な財源は7千億円程度にとどまり、次第に政権交代の象徴としての政治的なパフォーマンスへと変質した点は否めない。

行政の無駄を排除して予算を効率活用するには第三者によるチェックが欠かせない。現行の事業仕分けはこれで一段落する見通しだが、継続する場合は予算編成に仕分け結果を反映させる仕組みづくりが必要だ。仕分けを通じて専門家による監視を強化し、不断の改革につなげねばならない。

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