参院1票の格差 早急な是正を迫る高裁判決

朝日新聞 2010年11月19日

一票の格差 参院各派はもう逃げるな

最大5倍の「一票の格差」が生じた7月の参院選について、東京高裁が違憲の判断を下した。

国会による格差是正は「事実上停滞している」「はなはだ心もとない」。判決は参院の「やる気」に強い不信の目を向ける。同高裁は別の判決で合憲としたが、是正を促した点は同じだ。

参院は厳しい叱正(しっせい)を受け止め、抜本改革を早急に断行すべきである。

最高裁は1992年に6.59倍を違憲状態とする一方、5倍前後は合憲としてきた。だが許容される格差は、時とともに変わってしかるべきである。

有権者はいまや、自分たちの手で政権を選択した経験を持つ。一票の価値を感じとったに違いない。

参院の力も目の当たりにしてきた。衆参のねじれに耐えきれず、首相が次々に退陣した。格差5倍の参院が、首相をすげ替えたのである。

違憲判決は「国民の意見を等しく反映すべき必要性が増大している」と指摘した。まさにその通りである。

憲法は、衆参両院議員を「全国民の代表」と位置づけている。法律制定では、与党が衆院の3分の2を持たない限り両院は対等だ。強い権限を行使する以上、民意を的確に反映する仕組みとするのが本来の姿だろう。

今度の見直しは、かつての「4増4減」のような弥縫策(びほうさく)では済まない。

今は都道府県ごとに選挙区を設け、3年ごとに半数を改選できるよう偶数の定数を割り当てている。この仕組みでは人口が少ない県にも2を割り当てるため、参院の総定数を増やさない限り、格差の大幅縮小は不可能だ。現実には定数削減が政治課題となっており、仕組みから見直すほかにない。

参院は今後、各会派代表者による検討会で改革の具体案を練る。その際に大切なのは一票の格差にとどまらず、政治が機能不全から抜け出す道をめざすことだ。

現在は衆参とも選挙区と比例区からなり、制度が似通っている。これでは二つの院を置く意味が薄れる。

たとえば衆院が小選挙区を基本とするなら、参院は比例区のみにするのも一案だ。これなら衆院が2大政党中心となっても、少数政党は参院で勢力を保てる。参院は2大政党の激突とは異なる構図となり、与党が過半数を得られなくとも様々な相手と連携しうる。

ただ現行の比例区は政党に属さなければ立候補できず、議員は執行部に逆らいにくい。県より広い大選挙区とすれば無所属でも当選でき、参院会派や議員個人が自らの判断で動きやすくなる。これも選択肢の一つだろう。

選挙制度を変える際は周知期間も必要だ。次の参院選に間に合わせるための持ち時間は限られている。難しい問題から逃げず、向き合えるか。各会派の覚悟が試される。

毎日新聞 2010年11月18日

「1票の格差」違憲 参院は年内に是正策を

民主党が敗れた7月の参院選の1票の格差は、最大5・00倍あった。

「法の下の平等を定めた憲法に違反する」として、東京都内の有権者が訴えた裁判で、東京高裁が参院選として初めて違憲と判断した。

判決は「国会議員は全国民を代表するものとして選挙されるのだから、地域代表的側面が投票価値の平等を著しく侵害することは憲法上許容されない」との考え方を示した。

その上で、最大格差が5倍前後の著しい不平等の状態が十数年にわたり継続し、具体的に是正される見通しが立っていないなどとして、国会の対応を厳しく批判した。

一方で、公の利益を考慮し、選挙の無効は認めなかった。

参院選挙区の1票の格差について、近年では3年ごとの選挙の度に最高裁大法廷が憲法判断している。最大6・59倍の格差があった92年の選挙で96年に「違憲状態」とした以外は、いずれも合憲判断だ。

しかし、同年以降5回の判決では、15人の裁判官中5~6人が違憲としているのも事実である。

また、07年の参院選について、最高裁は昨年、合憲としつつ「定数振り替えだけでは格差の大幅な縮小は困難で、選挙制度の仕組み自体の見直しが必要。国会の速やかな検討が望まれる」と踏み込んで指摘した。

7月の参院選について17日に合憲判断を示した東京高裁の別の判決も「緊急の課題として国会で検討すべきだ」と注文した。

国会は、待ったなしの重い課題を司法から突きつけられたものと受け止めるべきである。

民主党は先の参院選で、参院定数40程度の削減を公約した。早くも各党の思惑が入り乱れているが、もはやそれを口実に「1票の格差」の解決が遅れることは、許されない。

参院の西岡武夫議長は、格差を是正するために今年、新たな協議機関で議論をスタートさせた。来月中に具体案をまとめることを目指している。議論を加速させねばなるまい。

違憲判断した東京高裁判決は、抜本改革の具体策も指摘した。「選挙区の議員1人あたりの人口が非常に少ない都道府県は、隣接する都道府県と合わせた選挙区の見直しがされるべきだ」というのだ。都道府県を超えた合区の提案だ。衆院比例代表でブロック制が採用されていることからも可能だとした。

一つの考え方ではある。自らの議席に直接利害が絡む問題ではあるが、果敢にメスを入れる覚悟がなければ前に進まない。まずは、参院がその姿勢を見せることだ。もし、年末までに具体的な案が参院でまとまらなければ、第三者に協議を委ねるべきだと改めて指摘したい。

読売新聞 2010年11月18日

参院1票の格差 早急な是正を迫る高裁判決

遅々として是正されない「1票の格差」について、裁判所が改めて警鐘を鳴らした。

7月の参院選における選挙区選の定数配分は、法の下の平等などを定めた憲法に違反するかどうか。それが争われた5件の訴訟の判決が東京高裁で言い渡された。

結論は、1件が「違憲」、4件が「合憲」と、審理した裁判官によって判断が分かれた。

参院の定数訴訟で違憲判断が示されたのは、1993年の大阪高裁判決以来である。

合憲と判断しながらも、早期の格差是正を促す判決もあった。1票の格差が、違憲のレベルに迫っているという認識からだろう。

選挙区選の定数を増減する従来の弥縫(びほう)策を続けることは、もはや許されない。参院は早急に抜本策を講じる必要がある。

先の参院選で、1票の最大格差は、神奈川県と鳥取県選挙区の間の5・00倍だった。こうした状況を受け、東京、神奈川、千葉の有権者がそれぞれ都県選管を相手取り、選挙の無効を訴えていた。

違憲判決は、選挙無効の訴えは退けたものの、最大格差が5倍前後で推移している現状について、「投票価値の著しい不平等状態」と批判した。「選挙人を居住場所によって差別することは是認できない」と結論付けた。

一部の合憲判決は「現行の制度を維持する限り、格差の大幅縮小は困難」として、選挙制度そのものを見直すべきだと指摘した。いずれももっともな判断である。

この際、参院だけでなく衆院も合わせ、それぞれにどんな役割と権能を持たせるか、二院制のあり方から議論すべきではないか。

衆参両院が、共に選挙区選と比例選の2本立てで、似通った制度であることへの批判も強い。この点の検討も欠かせまい。

参院はすでに、格差是正を図るための選挙制度の見直しで各党・会派が合意している。

与野党対立の(あお)りを受けて、具体的な議論は始まっていないが、今回の判決を踏まえ、作業を急ぐ必要がある。

衆院は、格差是正も選挙制度もまったく議論が手つかずだ。

しかし、格差が2倍を超えていた昨年の衆院選に対しても、各高裁で「違憲」「違憲状態」判決が相次いでいる。衆院は怠慢のそしりを免れない。

参院と同様、衆院も格差是正の議論に着手すべきだ。それが、衆参一体で議論に取り組む環境の整備につながろう。

産経新聞 2010年11月21日

参院「一票の格差」 憲法含めて抜本改革せよ

参院はこの機会を逃さず、選挙制度を含めた抜本改革に踏み込むしかあるまい。

法の下の平等にかかわる一票の格差が最大5倍に達した7月の参院選について、東京高裁が違憲判断を含めて、早急に格差是正を求める判決を下したためだ。

西岡武夫参院議長は平成25年の参院選から新制度を実施するよう「年内に方向性を示す」と、抜本改革に意欲的だ。各党・各会派も協力し、作業を急ぐ必要がある。改革に合わせて、二院制のあり方など憲法にかかわる問題点の議論も行うべきだ。参院の役割を自ら打ち出してほしい。

17日に出された5件の定数訴訟の判決は「合憲」が4件、「違憲」が1件と判断が分かれたものの、早急な是正策が求められていることに変わりはない。

参院の現行制度は、都道府県単位の選挙区と比例代表の2本立てだが、昨年9月の最高裁判決(合憲)は「定数振り替えだけでは大幅な格差縮小は困難」と指摘している。かつての「4増4減」のように選挙区の定数をいじるだけではなく、選挙制度そのものを見直さなければ根本的な問題解決につながらないのは明らかだ。

衆院も小選挙区・比例代表並立制の2本立てだ。「衆参の選挙制度が似通ったものでよいのか」という批判も少なくない。

衆院が比例代表の定数削減をさらに進め、選挙区中心の制度になっていくことを前提とすれば、参院では都道府県をまたぐブロックごとの選挙区の導入や、比例代表一本の制度なども検討してみるべきだろう。

こうした見直しには、選挙区選出議員らを中心に激しい抵抗が予想される。だが、「現職」を理由に既得権益にしがみつくことは許されない。参院議員は衆院より長い6年の任期を与えられ、解散による失職もない。「特権」を与えられながら「衆院より慎重な議論」や「広い視野」に立った議論が行われているだろうか。

任期6年や3年ごとの半数改選などは憲法で定められているが、時代にふさわしいものなのか。二院制が真に必要かなども突っ込んで議論してほしい。設置から3年以上たっても始動していない憲法審査会の格好のテーマだ。

多くの政党が掲げながら放置している衆院の定数削減や格差是正の議論も待ったなしである。

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