イトカワ微粒子 天からの贈り物だ

朝日新聞 2010年11月18日

イトカワの砂 あっぱれを、次の宇宙へ

日本の小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰った微粒子が、小惑星イトカワのものであることが確認された。

月より遠い天体に着陸し、採取した物質を人類が手にするのは初めてのことだ。宇宙探査の歴史に残る快挙といっていい。

イトカワまでの距離は、地球から太陽までの距離の2倍に当たる約3億キロもあった。はるか遠来の使者は何を語ってくれるだろうか。

小惑星は46億年前に太陽系が誕生したときの名残をとどめているとされ、太陽系の化石ともいわれる天体だ。

微粒子はこれから、日本国内だけでなく世界中の研究者に分配されてくわしく分析される。イトカワの生い立ちはもちろん、それを通して太陽系の起源に迫る成果を期待したい。

今回、はやぶさのカプセルから見つかったのは細かな砂のようなもので、0.01ミリ以下の極微粒子約1500個に加え、やや大きいものもあった。

弾丸を発射してイトカワの表面の物質を飛ばす装置は働かなかったが、着陸の衝撃で舞い上がった砂粒がカプセルにうまく入ってくれたようだ。

目には見えない物質を分析チームの研究者がていねいに集めて分析した。鉱物の組成は地球の物質と異なって隕石(いんせき)に似ており、イトカワの観測から予想された成分とも一致することを確かめた。量はごくわずかだが、最新の装置を使えば、ほぼ予定通りの分析ができそうという。

道のり60億キロに及ぶ旅の途中で交信が途切れ、エンジンも故障した。南天を赤く燃やした、この6月のはやぶさの奇跡的な帰還は記憶に新しい。

プロジェクトを率いた宇宙航空研究開発機構の川口淳一郎教授が「帰ってきただけでも夢のようだったのに、さらにその上」というように、ちっぽけな「はやぶさ君」は今度もまた、うれしい方へ予想を裏切ってくれた。「あっぱれ」というしかない。

はやぶさの構想は四半世紀前、若い研究者の挑戦から始まった。計画の着手からも15年かかった。川口さんはさらに「宇宙科学研究所として40年以上に及ぶ積み重ねがあってこそです」という。加えて、野心的な目標と、高い技術力、研究者たちの献身的な努力が「オンリーワン」の成果を生んだ。

野心的な計画は、若者たちにとって多くを学ぶ場にもなったことだろう。だが、アジア諸国が研究に力を入れる今、日本の科学は陰りも言われる。

私たちはなぜ、自然科学の探求を続けるのか。すぐに実利に結びつくわけではないが、知を求める不断の情熱が人類を進歩させてきたことは疑いない。時代に応じた予算のバランスをとりつつ、若者が研究に打ち込み、存分に独創性を発揮できるような研究環境を整えていく必要がある。

毎日新聞 2010年11月17日

イトカワ微粒子 天からの贈り物だ

容器を開けた時には空っぽにしか見えなかったという。「どうなることかと思った」とチームのメンバーは明かすが、工夫を重ね、目に見えない1500個の微粒子を分析し、小惑星「イトカワ」の物質であることを突き止めた。

探査機「はやぶさ」が地球に帰還しただけでも快挙だった。5年前のイトカワでのサンプル採取自体は予定通りにいかず、空っぽでもおかしくなかった。それだけに今回の成果は、多くの人の努力に対する「天からの贈り物」のように思える。

地球外天体のサンプル持ち帰りは月とほうき星に次ぐもの。「夢を超える成果で、点数は付けたくない」。チームを率いてきた川口淳一郎さんがそう語る気持ちはよくわかる。

イトカワの物質と判断した決め手は微粒子の組成だった。電子顕微鏡で調べると微粒子はかんらん石や輝石(きせき)などで、組成が隕石(いんせき)の特徴と一致した。隕石は小惑星のカケラと考えられ、地球上の物質とは組成が異なる。はやぶさが観測したイトカワのデータとも一致した。

小惑星は太陽系初期の姿をとどめているといわれる。今後の分析で、粒子ができた年代や当時の環境など、太陽系誕生の謎を知る手がかりも得られそうだ。「はやぶさ君」の活躍に比べると地味な分野だが、宇宙の歴史に迫る醍醐味(だいごみ)を感じる。

サンプル収納容器には部屋が二つあり、今はまだ1部屋しか分析していない。残る1部屋の方がイトカワ着陸時の条件がよく、こちらの分析にも期待したい。

はやぶさは構想から四半世紀、プロジェクトが始まってから15年になる。もし、短期的な成果が求められていたら、この成功は得られなかった。科学技術への投資には長期的視点が必要であることを、改めて確認しておきたい。

プロジェクトが安全圏をねらわず、高い技術にチャレンジした経験も今後に生かしたい。減点方式ではなく、イトカワとのランデブーで200点、カプセル回収で400点など、加点方式で臨んだ姿勢にも学ぶ点がある。

はやぶさの後継機「はやぶさ2」は、イトカワとは異なるタイプの小惑星からのサンプル持ち帰りを計画する。ねらいは生命のもとになる有機物だ。二番せんじにならないよう、ぜひ、野心的な探査に挑戦してほしい。

目立つ成果が上がると注目が集まるのは当然だが、勢いにひきずられるだけでは困る。政府はどういう科学や技術に、どんなタイムスケールで投資していくのか。仕分けや政策コンテストが進む中、国民の支持を得るには場当たり的でない政策が欠かせない。

産経新聞 2010年11月18日

イトカワ微粒子 世界へ「はやぶさ」効果を

微粒子は、やはり小惑星「イトカワ」の表面物質だった。約60億キロの宇宙の旅をへて小型探査機「はやぶさ」が地球に届けた回収容器内の物質の素性が判明した。

約1500個の微粒子は直径100分の1ミリ以下のサイズだったが、電子顕微鏡による観察で、カンラン石や輝石などであると分かった。

これらの石は、地球にも存在する。だが、含まれていた鉄とマグネシウムの比率が地球のものと異なった。どの粒子にもその特徴がみられたことが、イトカワの岩石由来とする決め手となった。

計画を遂行した宇宙航空研究開発機構の川口淳一郎教授は「7年間の飛行が完結した」と語った。プロジェクトにかかわったすべての研究者と技術者の努力と粘り強さをたたえたい。

はやぶさの飛行は、終始はらはらどきどきの連続だった。一時は宇宙の迷子になりかけたこともある。満身創痍(そうい)になりながらも、故障したイオンエンジンの生き残った機能を組み合わせるという離れ業を演じ、小さなはやぶさは今年6月、地球に戻ってきた。

その健気(けなげ)さは、感動を呼んだ。科学や宇宙に関心を持っていなかった人をも、世代を超えて感激させた。普通なら専門家しか味わえない「発見の興奮」を子供たちまでが共有した。

3億キロのかなたから、はやぶさが送信してきたイトカワの奇妙な姿は、世界中をびっくりさせた。それだけでなく微量ながらも太陽系の起源の解明につながる小惑星の粒子までももたらしたのだ。

小惑星からのサンプルリターン(試料回収)は、米露でさえ成し得ていない快挙である。この成功は、人類の知の前進に大きな足跡を残すことになった。

宇宙の科学探査は、日本の得意とするところだ。だが、実利に結びつきにくいという理由から今の政府によって縮減されかねない状況にあった。それが、はやぶさの大奮闘で危機を脱しつつある。

科学は、経済成長の原動力となる以外にも真理の発見という人類の財産を築くのだ。はやぶさは、日本の科学研究の退行を押しとどめる役目も果たしてくれた。

はやぶさ効果は、これから世界に広がっていく。微粒子は世界の研究室に配布され、多様な研究がスタートする。どんな発見がもたらされるか、大いに楽しみだ。

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