絶えぬムダ遣い ワインも泣いている

毎日新聞 2010年11月08日

絶えぬムダ遣い ワインも泣いている

重い数字である。会計検査院が09年度の決算検査報告書を公表した。経理が不適切だったり、ムダ遣いと指摘した件数は986件、1兆7904億円に達し件数、金額とも過去最高だった。

前年の2364億円に比べ金額が飛躍的に増えたのは検査院が今回、資産や剰余金のストック検査に力点を置いたためだ。行政刷新会議の「事業仕分け」に刺激されたとみられ、従来以上に踏み込んだ領域で行政のムダに切り込むのは当然だ。仕分けとの相乗効果を期待したい。

国や地方の財政が深刻で、税金の使い道への国民の視線は年々、厳しさを増すばかりだ。ところが、そんなことはどこ吹く風、とばかりのずさんな公金支出がなお、まかり通っている。

たとえば、先月公表された外務省の在外公館の会計経理に関する検査では、海外の日本大使館によるずさんなワインの保管実態が指摘された。パリにある経済協力開発機構(OECD)の日本政府代表部は年間消費量の約30倍の7896本ものワインをため込んでいた。四つの公館では保管に失敗し、2年間で1044本のワインを廃棄した。いったいどんな保管をしていたのか。

外務省は外交機密費が批判を浴びた際、機密費による高級ワインの購入をとりやめたいきさつがある。検査対象とした51公館では2万~3万円以上の高級ワインも4000本以上、保管していた。「ワインの威力」で外交の人脈不足を補おうとでも考えているのだろうか。外務省が保管量の見直しに乗り出したのも当然である。

一方で今回、指摘した金額がふくらんだのは、従来以上に保有資産や特別会計などにも切り込んだ結果だ。鉄道建設・運輸施設整備支援機構の剰余金に関しては2500億円程度の積み立てで十分と試算し、残る1兆2000億円分の国庫返納を求めた。また、一般会計から特別会計への過剰な繰り入れも点検し、1600億円分を超す改善を促した。

これらの多くは昨年からの事業仕分けでも取り上げられた。帳簿に基づき実際に経理や支出が適正に行われたかをチェックする検査院の業務と「仕分け」は性格が違う。だが、ムダに切り込むには、投網の範囲を広げる必要がある。あらゆる角度から公金の支出を洗い出す意識がむしろ、これまで足りなかったのではないか。

今回、検査院が取り上げた事例は氷山の一角とみるべきだ。事業仕分けが来年以降、どう継続されるかは流動的だけに、検査院の役割は重い。独立性を確保しつつ、機能や態勢を強化していく方策を与野党は急いで議論してほしい。

読売新聞 2010年11月10日

会計検査院報告 無駄の発掘だけでは足りない

危機的な財政状況の中で、活用されないまま眠る「埋蔵金」の存在が改めて浮かび上がった。

会計検査院は、昨年度の決算検査報告書の中で986件、計1兆7904億円の無駄遣いを指摘した。

このうち1兆2000億円は、独立行政法人の鉄道建設・運輸施設整備支援機構が抱える剰余金だった。塩漬けになっている資金を国庫へ返すよう、所管する国土交通省に求めたのは当然だ。

こうした埋蔵金について、検査院はこれまでも指摘はしてきたが、国庫への返納までは求めなかった。政府が事業仕分けで埋蔵金に切り込んだこともあって、踏み込んだ対応をしたのだろう。一過性に終わらせてはならない。

また、厚生労働省や農林水産省などの七つの特別会計では、一般会計からの不必要な繰入金が総額1623億円にのぼっている。

各省は検査院の指摘を重く受けとめ、貴重な税金の“乱用”を食い止めなければならない。

検査院には、無駄の掘り起こしだけでなく、有効な活用法まで示してもらいたい。

その意味で、今回、休眠施設をよみがえらせる具体策を示したのは一歩前進だ。

廃校や休校になっている公立小中学校の校舎を、老人福祉施設や保育施設としてもっと利用するよう提案した。不要な校舎を抱える文部科学省と、福祉行政を担う厚労省に連携を求めている。

縦割り行政の弊害がこんなところにも及んではいなかったか。

役所の側も実行に移してみてはどうか。うまくいくようなら、同様の取り組みを広げればよい。

相変わらず検査院に抵抗する動きもあった。

今回、災害時に使われる政府専用の無線通信設備について調べようとしたところ、内閣府は、耐震性を確認する計算を怠ったまま工事が行われていたことを把握していながら、「適切に設置した」などと虚偽の説明をしていた。

自らの責任が追及されることを恐れたためだろう。

さらに検査の直前には、それを取り繕うため、業者に命じて慌てて補強工事をさせる隠蔽(いんぺい)工作までしていた。明らかな検査妨害であり、許されない行為だ。

会計検査院法では、悪質な妨害行為があった場合、省庁に対し、担当者の懲戒処分を要求できると定めている。

検査院は「役所同士、身内に甘い」などと言われないよう、厳正な姿勢で対処すべきである。

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