人勧どおり実施 これが「有言実行」とは

毎日新聞 2010年11月03日

人勧どおり実施 これが「有言実行」とは

かけ声倒れではないか。2010年度の国家公務員の給与について政府は人事院の勧告通り、年間平均給与の引き下げ率を1・5%とすることを決めた。

菅直人首相がさきの民主党代表選の公約で、勧告を上回る人件費削減を目指すと打ち出した直後の完全実施である。来年度以降の給与改革の展望も必ずしも開けておらず、国家公務員総人件費の2割削減という党の約束がこのままではお蔵入りしかねない。これでは首相が掲げる「有言実行内閣」の看板が泣く。

人事院は8月、平均給与の1・5%減を勧告した。この引き下げでは給与削減額は790億円にとどまり「総人件費2割減」の1兆1000億円には遠い。このため政府は勧告を上回る削減を検討したが、公務員労組が反発することへの警戒などから与党内には慎重論が強かった。

結局、勧告通りの実施で決着した。人勧が公務員の労働基本権制約の代替措置で、勧告を上回る減額は訴訟問題に発展することなどを懸念したためだという。だが、そんなことは最初からわかっていたはずだ。今年度の改革が無理と知りつつ、あえて代表選では実施時期をぼやかし公約に掲げたとでもいうのか。

確かに、労働基本権を制約しつつ勧告を超えられるかは難しい問題だ。そもそも民主党は衆院選マニフェストで「公務員の労働基本権の回復」を打ち出していたはずだが政権交代以来、取り組みは遅々としている。自らの怠慢で改革ができないというのでは、自縄自縛である。

人事院の給与算定にも議論の余地がある。民間と比較し基準を決めるが、国税庁によると民間で働く会社員やパート従業員が昨年受け取った給与の平均は約406万円で前年より23万7000円、5・5%も減っており、あまりに乖離(かいり)がある。従業員50人未満の企業も比較対象に含めるなどの応急措置を検討すべきだ。

とはいえ、労働基本権の問題を解決しない限り、場つなぎ的改革をしても限界がある。政府は次期通常国会に関連法案を提出する予定というが、基本権問題決着のスケジュールをより明確にすべきだ。それと並行して、人勧制度そのものの見直し論議を進めることが肝心だ。

民主党が仮に総人件費2割削減を実現するのであれば、国の地方出先機関廃止なども強力に進める必要がある。だが今回の対応を見る限り、何ともこころもとない。

政府は完全実施方針にもとづき給与法改正案を閣議決定した。「ねじれ国会」下で法案が成立しなければ09年度の水準が維持され、1・5%削減すら見送られる。国民が納得いく答えを国会は示してほしい。

読売新聞 2010年11月06日

公務員給与 「2割減」公約どう果たすのか

政府・与党に本気で公約実現に取り組む意思があるのなら、人件費削減の制度案と工程を早急に示すべきである。

政府は2010年度国家公務員一般職給与について、人事院勧告通り実施することを閣議決定した。平均年間給与は1・5%削減され、国の負担も790億円程度減少する。

人事院勧告は、国家公務員が労働基本権を制約されている代償措置として、民間に準拠して出されている。完全実施するのが原則で、政府の決定は当然だろう。

勧告内容より、更に削減できないかどうか、8月の勧告以来、政府・与党は検討を重ねてきた。

民主党は政権公約で「国家公務員の総人件費2割削減」、つまり総額で1・1兆円もの削減を掲げ、菅首相も先の党代表選で「人事院勧告を超えた削減を目指す」と表明していたからだ。

だが、勧告以上の削減となれば、憲法違反だとして訴訟を起こされかねない。自治労など労働組合側の反発も予想される。結局、勧告通りで落着するしかなかった。

政府は、閣議決定の際、国家公務員に争議権など労働基本権を付与する「自律的労使関係制度」を設けるための法案を来年の通常国会に出し、労使交渉による給与改定を実現することも言明した。

人事院勧告通りの給与引き下げだけでは、野党だけでなく、与党からも「公約違反」と批判されかねないと懸念したためだろう。

しかし、制度設計への具体的な議論は進んでいない。仮に、民間と同様の労使交渉に移行したとしても、労組の支持を受けている民主党政権が人件費削減を実現できるのかは、はなはだ疑問だ。

政府はまた、労働基本権の付与を実現するまでの間も、「人件費を削減するための措置を検討し、必要な法案を順次提出する」としている。だが、これでは具体性に欠け、いつまでに、どう公務員人件費を下げるのかわからない。

そもそも公約自体に無理があったと言わざるをえない。与党内にはなぜ2割減なのか根拠を問う声さえある。無責任な公約のほころびがここにきて現れた格好だ。

ただ、国家財政は厳しく、人件費の抑制は避けられない。

天下りあっせんの禁止による人事滞留で人件費は逆に増えることも予想される。定員や退職手当の見直し、行政機構のスリム化など検討すべき項目は少なくない。

政府・与党は課題を先送りすることなく、制度改革を着実に前進させなければならない。

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