米追加金融緩和 80円突破への警戒を怠るな

毎日新聞 2010年11月07日

論調観測 FRBの量的緩和 日本のなすべきことは

米国の中央銀行、連邦準備制度理事会(FRB)が歴史的実験に着手した。今後8カ月間で総額6000億ドルもの国債を購入するという大規模な量的緩和だ。金融危機のような緊急事態ではない中での異例かつ極端な政策で、決定前から是非をめぐる活発な論争が起きていた。

ほぼ予想通りの決定内容だったわけだが、各紙はどう論じただろうか。

毎日は「利少なく害多き決定だ」と題する社説で、政策の効果に疑問を投げかけ、ドル下落や資産バブルの形成など、懸念される弊害を挙げて批判した。

米国では、ウォールストリート・ジャーナル紙が、「経済的利益がほとんど期待できないのに多大なリスクを取る戦略」と批評。毎日同様、バブルや国外経済の混乱を招く危険性に言及したほか、「インフレを追求する中央銀行は通常、インフレを達成するが、望んだ以上のインフレとなることもある」と量的緩和をタイミングよく収束させる難しさを指摘した。

読売の社説は量的緩和の効果を「未知数」とする一方で、ドル安(円高)という副作用に力点を置き、「80円突破への警戒を怠るな」との見出しを掲げた。「相場の動きによっては、再度の為替介入を実施し、円高阻止に動く必要があろう」と日本政府や日銀に対抗措置の準備を促している。

日経は「(FRBが)本気になってデフレ対策に乗り出した」と指摘したが、決定そのものの是非については明確な論評をしていない。読売同様、注文は日本国内に向け、「日本も柔軟で機動的な対応が欠かせない」「日銀は次の一手の用意も怠るべきではない」と追加政策を求めている。同紙がこれまで訴えてきた円売り介入については、今回、直接言及しなかった。

では日経が日銀に促した「次の一手」とは何なのだろう。日銀の金融政策決定会合を受けた翌日の社説で「金融を緩め、積極的に『中長期的な物価安定』を目指せ」とあった。資産買い取りが5兆円で足りなければもっと買え、と量的緩和の拡大を求めている。

だが「円高・デフレ対策」と国内で正当化してみても、外からは金融緩和競争や自国優先主義と映るのではないだろうか。

日本の対応について毎日は、「問題をはらんだ他国の政策をまねよ、というのは愚かな発想」と指摘した。そしてFRBが量的緩和を一段と拡大させることのないよう、諸外国と協力し働きかけていくべきだと訴えている。【論説委員・福本容子】

読売新聞 2010年11月05日

米追加金融緩和 80円突破への警戒を怠るな

米連邦準備制度理事会(FRB)が、事前予想通り、大胆な追加金融緩和に踏み切った。

低迷する米景気をテコ入れするのが狙いだが、市場に大量のドル資金が供給されることで、今後、円高・ドル安が加速しかねない。

政府・日銀は円急騰への警戒を緩めず、相場の動きによっては、再度の為替介入を実施し、円高阻止に動く必要があろう。

FRBの追加策は、来年6月末までの8か月間にわたり、6000億ドル(約48兆円)の米長期国債を買い入れる内容だ。

2年前の金融危機後に量的緩和を実施し、昨秋に国債購入をいったん終了したが、大規模な購入再開に追い込まれたとも言える。

米国の失業率は9%台後半に高止まりし、7~9月期の経済成長率は2%と低調だ。消費者物価上昇率は1%を切り、日本型のデフレに陥ることが懸念される。

FRBは声明で、「雇用と景気の回復ペースは遅く、物価水準も低い」と指摘し、景気下支えと物価安定を目指す考えを示した。

FRBは事実上のゼロ金利政策の維持も決めたが、金利引き下げの余地はない。今回、必要に応じ、国債の購入規模を増やす可能性を示唆した点にも注目したい。

ただ、量的緩和策の効果は未知数だ。FRBは今後、一層難しい(かじ)取りを迫られよう。

米国が超低金利を継続し、巨額資金を供給し続ける副作用には注意しなければなるまい。

まず心配されるのが為替相場への影響だ。ドルは円やユーロなどに対し下落しており、ドルの先安観がくすぶっている。

4日の円相場は1ドル=81円前後と小動きだったが、米国経済の先行きは不透明だ。15年半前につけた円の史上最高値の79円台をうかがう展開もあり得よう。

米当局が、輸出増での景気下支えを狙い、ドル安を事実上容認しているとみられることも、根強いドル売り圧力の背景にある。

日銀は予定を繰り上げ、4日から金融政策決定会合を開いている。過度な為替変動に対しては、政府と連携し、迅速に対応することが必要だ。

米金融緩和策は、ドル安をきっかけに、世界の「通貨安競争」を引き起こしたとされる。あふれた過剰マネーが新興国に流れ込み、資産バブルも招いている。

米国経済の再生は、世界の景気回復のカギを握る。米金融政策の動向から当面、目が離せない状況が続きそうだ。

毎日新聞 2010年11月05日

米の量的緩和 利少なく害多き決定だ

米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)が、第2弾の大規模な量的緩和に踏み切る。今後8カ月間で、米国債を追加購入し総額6000億ドル(約48兆円)もの資金を市場に排出する。長期金利を押し下げて景気を浮揚させる狙いがあるが、弊害が効果をはるかに上回りそうで、心配だ。

FRBはリーマン・ショック後の金融危機を受けて量的緩和の第1弾を実施した。今年3月にかけて総額約1・7兆ドルの国債や住宅ローン担保証券などを買い取った。民間に資金の出し手がいなくなる極端な金融不安の中、市場の緊張を和らげる一定の効果はあった。だが、高失業率や物価の下落傾向が示すように、実体経済を刺激する力は乏しかった。

それにもかかわらず、今第2弾を実施しようというFRBの方針は理解に苦しむ。米経済は資金不足に陥っているわけではない。そこに大量の資金を追加供給しても、長期金利が若干下がる程度で、企業の設備投資や個人の住宅投資にはほとんど回らず、資金の多くは高い運用利回りを求めて国外に流出するだけだ。

流出した資金は米国外でインフレや資産バブルを招き、ドルの下落、円や新興国通貨の上昇などをもたらし、世界経済を不安定にする。「通貨戦争」と呼ばれる最近の現象はその走りに過ぎない。

極端な政策を取ると、それを変更するときの反動も大きい。米景気がひとたび回復力を取り戻せば、国外に流出していた資金が米国内に逆流を始め、新興国経済などを混乱させかねない。米国では長期金利が反騰し国債価格は急落、FRBが抱える資産価値が大きく目減りして、ドルの信用力を低下させよう。ドル不安こそ、世界経済が最も懸念しなければいけない事態ではないか。

FRBは追加緩和が世界の資金の流れに与える影響や資産価格の動向に細心の注意を払う必要がある。平時の金融政策に戻す「出口戦略」も十分、念頭に置き行動してほしい。

米国経済も日本経済も、需要と供給がバランスを取り戻すまでにはなお時間がかかろう。成長率引き上げに妙案などなく、構造改革や財政再建など地道な努力を続けるしかない。それを怠り、中央銀行の金融緩和に過度の役目を負わせることは、抜本的な改革を遅らせるばかりか、将来の混乱の芽を育てることになる。

多くの問題をはらんだ他国の政策を日本もまねよ、というのは愚かな発想だ。FRBは量的緩和の規模拡大をにおわせているが、世界経済の不安定要因となりかねないそうした道をFRBが歩まぬよう、日本はむしろ他国と協力して働きかけていくべきである。

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