尖閣衝突ビデオ やはり一般への公開が必要だ

読売新聞 2010年11月02日

尖閣衝突ビデオ やはり一般への公開が必要だ

いかに中国人船長の行為が悪質で、逮捕に踏み切った日本政府の判断が適切だったか。ビデオ映像は、その明確な裏付けになるのではないか。

尖閣諸島沖の漁船衝突事件の状況を海上保安庁が記録したビデオ映像が、衆参両院の予算委員会理事らに秘密会形式で公開された。

出席者によると、約7分間の映像には、中国人船長の操舵(そうだ)する漁船が左旋回した後、海保の巡視船「よなくに」の船尾に衝突した場面と、巡視船「みずき」と並走しながら右舷に衝突する場面が克明に記録されていた。

中井洽衆院予算委員長は「中国漁船がぶつかってきた状況が確認できた」と語った。他の出席者も「意図的な衝突だったことが手に取るようにわかる」「公務執行妨害は明らか」と口をそろえる。

しかし、予算委理事だけへの限定公開では、一般国民は伝聞の形でしか知る(すべ)がない。やはり、ビデオ映像の一般公開は必要だ。

政府・民主党は、捜査資料であることを理由に一般公開に難色を示している。だが、船長の釈放で捜査は事実上、終結している。衝突事件で悪化した日中関係がさらに険悪化することへの懸念が、公開に否定的な真の理由だろう。

その中国では、今回の衝突事件について、メディアは「巡視船が漁船に追突した」と事実を曲げて報道している。

中国当局が国内の反発を恐れて正式な日中首脳会談を拒否するほど、「反日」世論がエスカレートしたのは、肝心な事実関係がきちんと伝わっていないことも影響していよう。

映像を公開すれば、国際社会に日本の正当性をアピールできる。それは中国に、このままでは国際的に孤立しかねない、との危機感を抱かせ、反日世論の沈静化を促す“圧力”になろう。

政府・民主党は、映像の一般公開をためらうべきではない。

今回、国会に提出された映像は2度の衝突シーンとその前後を無編集で取り出したものである。

政府・民主党は、海保が撮影した全映像を提出しなかった理由として、停船や身柄の確保など海保の捜査手法を秘匿する必要があることを強調している。この点は一理あるだろう。

ただ、中国が事実を直視せず、「日本側が都合の良い場面だけを抜き出した」「捏造(ねつぞう)された映像だ」と中傷する可能性も否定できない。その時は、すべての映像の公表も選択肢の一つではないか。

産経新聞 2010年11月04日

尖閣ビデオ 国の信頼かかる全面公開

沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の様子を海上保安庁が撮影したビデオ映像の公開が、国会内での極めて限定的なものにとどまった。衆参両院の予算委員会理事らを対象に、約2時間とされる映像全編のうちわずか計6分50秒しかない。

秘密会形式での限定公開は中国政府に遠慮したためだろう。だが、中国外務省は限定公開の映像についてすら「日本側の行為の違法性を覆い隠すことはできない」と非難した。

ビデオの映像は日本の行動が正当であることを示すだけでなく、国際社会における信頼と名誉もかかっている。しかも政府は、事件を「中国漁船による悪質な公務執行妨害」と主張してきた。全面的かつ一般にも公開することが、日本の国益につながる。

ビデオを視聴した複数の国会議員は「もっと早く公開していれば国際世論も日本に好意的になったろう」などと述べている。今からでも遅くはない。日本の主張の正当性を裏付けるために、菅直人首相は決断すべきだ。

映像は国会の議決を受け、法務・検察当局が「公益性」を考慮して提出した。那覇地検は衆院議長に、視聴者の範囲を含めて「慎重な扱い」を要望した。

このため、船長逮捕の瞬間など公務執行上「秘匿性の高い部分」は公開されていない。だが正式な手続きを経て提出された以上、取り扱いについては国会が主体的に判断すべきだろう。

今月中旬、横浜市でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開催される。菅首相が議長を務め、21カ国・地域の首脳が集う。尖閣諸島沖事件に関する日本の主張を国際世論に問う積極的な外交が求められる。

限定公開の直前に実施された産経新聞社とFNNの合同世論調査によると、78・4%が「全面公開」を求めていた。しかし現在のところ、報道機関も国会議員の証言という伝聞でしか衝突事件の実像に迫れない。民主主義国家として異常な状況である。

全編を一般公開した場合、中国がAPECへの首脳の出席を拒否することを菅政権は恐れているふしがある。しかし、ビデオ映像の公開をこれきりにしてしまえば、日本は自由な民主主義国家の評判を失墜させる。「弱腰外交」との国際的烙印(らくいん)も決定的になってしまうだろう。

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