米中間選挙 オバマ改革の継続を

朝日新聞 2010年11月04日

米中間選挙 世界への責任を忘れずに

リベラルな大統領誕生に米国が熱狂した2年前が、遠い過去に思える。オバマ大統領は米議会の中間選挙で、国民の厳しい審判を受けた。

大統領の率いる民主党が下院で過半数を割り、野党共和党に主導権を奪われた。上院はかろうじて多数を保ったものの、大幅に議席を減らした。中間選挙は、そのまま2年後の大統領選挙を占うものではない。だが、オバマ氏は再選に向け、戦略の全般的な練り直しを迫られることになった。

選挙前の世論調査で、約6割が経済・失業問題を最大の関心事と答えた。大恐慌以来の経済危機は最悪の事態を回避したが、巨額の財政出動にもかかわらず景気回復が軌道に乗らない。失業率は9%台だ。渦巻く国民の不満が民主党離れを増幅した。

大統領が政権の命運をかけて実現した医療保険改革も、その恩恵が十分感じられる前に、「大きな政府」のシンボルとして攻撃の的となった。

共和党を押し上げたのは草の根保守のティーパーティー(茶会)である。独立革命期の米国で、英議会が制定した茶税法に反対して、東インド会社の船に忍び込み、積み荷を海中に投じたボストン茶会事件にちなんで始まった市民運動だ。様々な主張をもつ保守勢力を、政府支出への反対という一点に絞って団結させ、「反オバマ」のうねりを引き起こした。

ホワイトハウスは今後、民主、共和でねじれた議会を相手に、政治的駆け引きを強いられる。すでに財政赤字が膨らんでおり、減税などの景気刺激策にも限りがある。医療保険改革も共和党次第で後戻りしかねない。

内政に手詰まると、外交にも影響が及ぶだろう。アフガニスタン戦争にどう終止符を打つか。「京都議定書」以後の地球温暖化防止交渉をどう打開するか。北朝鮮やイランの核問題でどのように国際協調を強め、「核のない世界」へと歩を進めるか。中国が台頭する東アジアで、基地問題でつまずいている日本との関係をどう組み立て直すか。米国の指導力なしに前に進めない課題が国際社会にたくさんある。

内政、外交ともに、茶会ブームに乗って共和党が議席を増やした議会の動向が、鍵を握る。茶会には医療保険への政府介入を撤廃する「完全自由化」などの極論もあり、共和党本流とは異なる点も多い。また、茶会の後押しを受けた議員たちが、どれだけ国際問題に目を向けるか疑問である。

世界は多極化しているが、今も米国が一番大きな極であり、米国にはそれにふさわしい責任がある。

議会も大統領も、これ以上の内向き志向に陥ってはならない。グローバル化時代にふさわしい国際感覚を持って議論を重ね、米国の持つ問題解決能力を十分に発揮する政治を望みたい。

毎日新聞 2010年11月04日

米中間選挙 オバマ改革の継続を

大きな揺り返しである。米国のオバマ政権を支える民主党が中間選挙で大敗した。下院(定数435)では60議席以上減らす歴史的な敗北で少数派に転落。上院(定数100)ではかろうじて過半数を維持したが、改選前議席から大きく後退した。知事選でも共和党が躍進しており、オバマ大統領の再選に黄信号がともった感がある。

前回08年の選挙で民主党は「オバマ旋風」に乗って議席を伸ばし、上下両院で多数を占めたが、今回はオバマ大統領が民主党の足を引っ張る展開になった。2年前、オバマ氏の「チェンジ(改革)」に期待して民主党候補に投票した人々が、今回は裏切られた気持ちで共和党候補に票を投じたということだろう。

米国民の失望、落胆、幻滅をオバマ大統領は謙虚に受け止めるべきである。「核兵器のない世界」構想を打ち上げたオバマ氏がノーベル平和賞を受ける陰で、国民は生活苦にあえぎ、就職できぬ若者は将来への希望を失った。選挙結果を見る限り、国民はオバマ氏の2年の仕事に「不信任」を突きつけた格好だ。

だが、オバマ政権の実績も小さくはない。国際的には米露の新核軍縮条約に調印し、駐日大使を広島の平和式典に出席させた。共和党のブッシュ前政権が始めたイラクとアフガニスタンでの軍事行動を終わらせる道筋も一応つけた。01年の同時多発テロ以降、世界に漂っていた重苦しさを取り払った功績は大きい。

内政面でも、史上最大規模の景気刺激策、医療保険制度改革法、金融改革法の成立などは大きな改革である。リーマン・ショックもブッシュ政権末期に起き、オバマ政権は経済面でも共和党政権の「負の遺産」の処理に追われた。それを思えば、いわゆるオバマノミクスは、もっと評価されてもよさそうに思える。

「反オバマ」の陣頭に立つ急進的な保守運動「ティーパーティー(茶会)」は、一連の改革を「社会主義的」「米国の伝統に反する」などと批判して支持を広げたが、こうした主張が今後も支持を集めるかどうかは微妙だ。改革の意義は長い目で見る必要もあろう。オバマ氏は粛々と改革を続け、核軍縮も引き続き推進してほしい。

上下両院の「ねじれ」は米国ではさほど珍しくないが、大統領と議会の摩擦は強まるだろう。しかし、米国が取り組むべき問題は世界に山積している。くれぐれも党派対立で機能不全に陥らぬよう望みたい。日本も中国、ロシアとの領土的摩擦を含めて厳しい状況にある。「同盟重視」の共和党の伸長で対日要求が強まる可能性もあろうが、新しい米議会と協調しながら良好な日米関係を築いていきたい。

読売新聞 2010年11月04日

米中間選挙 困難増すオバマ氏の議会対策

任期半ばを迎えた米国のオバマ政権に厳しい審判が下った。

中間選挙で与党・民主党は連邦議会下院で60議席以上を失い、少数派に転落する歴史的大敗を喫した。

共和党は、16年前に民主党から52議席をもぎとったときを上回る圧勝で、4年ぶりに下院で過半数の議席を奪還した。上院でも議席拮抗(きっこう)の勢いを見せた。

民主党が上下両院で過半数を占める現在の会期中ですら、オバマ政権は、共和党の非協力的な姿勢で、議会対策には苦労してきた。野党に議会の主導権を握られる来年1月からの次期会期では、その困難は一層増すことになる。

それが、オバマ大統領の政策遂行能力にどう影響するのか。日本を含め国際社会は、オバマ政権の外交・安全保障政策や通商政策を注視しないわけにはいかない。

民主党をこれほど大きく退潮させた要因は、経済政策に対する有権者の不満と反発だろう。

雇用情勢は悪化し、失業率は9%台後半で高止まりしている。景気回復が期待ほどに進まないため税収が伸びず、財政赤字は2年続けて1兆ドルの大台を超えた。

「オバマ政権の景気回復策は、財政赤字と失業者を増やしただけだ」と批判する共和党に、有権者が共感した結果といえる。

リーマン・ショック後の未曽有の金融危機の中で登場したオバマ大統領は、巨額の財政支出によって、金融システムの崩壊をくい止め、破綻(はたん)した米自動車最大手ゼネラル・モーターズ(GM)などを救済した。

しかし、新規雇用の創出や景気浮揚にはつながらないでいる。

逆に、その「大きな政府」路線が、財政規律を重視し、政府の介入を嫌う保守派の怒りを呼び起こした。「ティー・パーティー」(茶会)と呼ばれる草の根運動が各地に広がり、中間選挙で共和党を押し上げる原動力となった。

米議会では今後、財政緊縮派が勢いを増す。オバマ政権は追加の景気刺激策を実行する際に、強い抵抗にさらされよう。米国の景気対策に手詰まり感が強まれば、世界経済にも影響が及ぶ。

共和党は、医療保険改革法について撤廃あるいは大幅修正を主張している。排出量取引を盛り込む地球温暖化対策法案にも反対だ。核実験全面禁止条約(CTBT)は無論、米露の核軍縮条約の批准にも難色を示す可能性がある。

オバマ大統領は、政策遂行のため、議会を説得する強い指導力を発揮しなければならない。

産経新聞 2010年11月04日

米中間選挙 敗北越え日米同盟強化を

雇用・景気対策などオバマ米政権の中間評価が問われた中間選挙は、野党共和党が大差をつけて4年ぶりに下院多数派を奪回するなど、民主党とオバマ大統領には手痛い歴史的敗北となった。

オバマ氏は2年後の再選に向けて高失業率や未曾有の財政赤字の重圧に加え、「小さな政府」を掲げる草の根保守運動「ティーパーティー」や議会の逆風に包囲される構図が固まったといえる。

その中で世界が目をこらすのは内政にとらわれて外交がおろそかにならないかとの懸念だ。とりわけアジアは、中国やロシアの威圧的な外交が目立ち、日米同盟が試練の局面を迎えている。来週、訪日を含むアジア歴訪に臨むオバマ氏には、日米の緊密な連携を軸に同盟の強化や地域の安定に向けた指導力を発揮してもらいたい。

最大の争点は一向に回復しない雇用情勢と、長びく景気低迷だった。州によっては失業率が10%を超え、2年前の大統領選でオバマ氏を支えた若年層では2割近い数字もある。

オバマ氏は雇用・景気対策よりも健康保険改革を先行させて中間層を失望させ、「不況の原因を作ったのは共和党だ」と前政権に責任を転嫁する姿勢も保守層の反発や無党派層の離反を招いたという。当面は内政課題の対処に追われるのは避けられまい。

だが、アジア・太平洋情勢はまったなしだ。オバマ政権はそれを忘れてはならない。外交・安保は今回、大きな争点にならなかったものの、力ずくの海洋進出を続ける中国の行動は人民元、レアアース(希土類)問題などでも国際社会の懸念を高めている。

ソウルの20カ国・地域(G20)首脳会議や横浜のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議などでは、強固な日米同盟関係を軸として臨む態勢づくりが求められる。その点で、共和党には同盟重視や毅然(きぜん)とした対中政策を求める意見が根強い。オバマ氏が議会の協力を確保する努力をすれば、超党派で外交を支える追い風に変えることも不可能ではない。

一方、同盟の結束強化に向け、日本はもっと努力すべきだ。菅直人政権は尖閣諸島や北方領土で中露の外交攻勢の挟み撃ちに陥っている情勢だ。同盟関係をいかに立て直すか。オバマ氏訪日前に外交・安保政策を反省し、再構築することが急務である。

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