警察情報流出 国際テロ捜査の根幹が揺らぐ

朝日新聞 2010年11月17日

海保映像問題 まだ流出の真相が見えぬ

尖閣沖の中国漁船ビデオが流出した事件で、捜査当局は海上保安官を逮捕せずに調べを続ける方針を決めた。

自ら出頭したのに供述にあいまいな部分があり、映像を持ち出したとされる記録媒体も見つかっていない。当局内部でも意見は割れたが、様々な事情を総合判断した結果だという。

忘れがちだが、捜査の基本は在宅調べで、逮捕は証拠隠滅や逃亡の恐れがある場合の手段だ。これに照らせば身柄拘束にこだわる必要はない。肝心なのは流出に至る真相の究明である。

これまでの捜査で驚かされたのは海上保安庁の情報管理のお粗末さだ。

映像はどう保管され、ネットとどうつながり、どこまでの職員がアクセスすることができたのか。初めは厳重に管理しているという説明だった。その後、二転三転した。映像は刑罰を科してでも守る秘密だったのか否かの判断にも影響する重要な問題だ。

海保は海上の警察組織だ。逮捕や武器使用の権限を与えられている。その機関がこの有り様では不安を覚える。

ほかの重要資料の保管はどうなっているのか。データを扱う体制と意識の見直しはもちろん、管理業務にかかわる者の責任も厳しく問われよう。

海保への疑問が増す一方で、保安官の行為を支持する声が一部に広がっている。安倍晋三元首相がメールマガジンで、「勇気をふるって告発した保安官」を励ましたのはその一例だ。

だがこれはおかしい。政府の方針が自分の考えと違うからといって、現場の公務員が勝手に情報を外に流し始めたら、国の運営はどうなるか。

保安官の行いは、法律で保護される内部告発の要件を満たしてもいない。称賛したり英雄視したりするのは間違いだし、危険なこと甚だしい。保安官は「一人ひとりが考え判断し、行動してほしかった」との声明を出したが、いったい何を意図したものか。

朝日新聞は国民の知る権利の大切さを唱えてきた。だが外交、防衛、治安情報をはじめ、すべてを同時進行で公にすることがその中身ではない。

情報の公開とそれに基づく討議は民主主義に欠かせぬという認識を互いに持ち、ケースごとに全体の利益を見すえて公開の当否や時期を判断する。この積み重ねこそが社会を鍛える。

今回の混迷のもとには、漁船事件に対処する方針がぶれたあげく、検察庁に責任を押しつけ、自らの姿勢を国民に丁寧に説明してこなかった政権に対する不信がある。そして、大国化する中国への感情やナショナリズム、党利党略がないまぜになり、感情論や思惑含みの発言が飛び交っている。

まだ真相が見えない。捜査を尽くし事実を解明する。それが、ネット時代の情報の公開や保全のあり方について冷静な議論を進めることにつながる。

毎日新聞 2010年11月14日

論調観測 尖閣ビデオ流出 海保職員が投げた波紋

沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突を巡るビデオ映像の流出問題が世上をにぎわせている。

捜査当局が捜査に乗り出した直後、神戸海上保安部の海上保安官が流出させたことを告白した。「国民の知る権利に応えた」と拍手喝采(かっさい)する声から、「外交にもかかわるビデオを1人の公務員の判断で流出させたのは問題で処罰すべきだ」まで世間の受け止め方はさまざまだ。

国が秘密にすべき情報とは何か。その管理はどうあるべきで、国民の知る権利との折り合いをどうつけるのか。流出問題が投じた一石は、重い課題として今後も論議を呼びそうだ。

告白を受けて11日の各紙が取り上げた。

保安官の行動だとすれば、どのように評価するのかが、まず論点になった。毎日は「政府の一員である海保職員が政府の意思に抗する形でユーチューブに投稿したとすれば、妥当性を欠き許されるものではない」と論じ、捜査当局による流出の背景解明の必要性を説いた。

朝日は「政府の高度な判断を、一職員が独自の考えで無意味なものにしてしまっては、行政は立ちゆかない」、東京も「一公務員の職務と裁量を大きく逸脱した行為で、許されるものではない」と批判した。

一方、産経は「国民の『知る権利』に応えたという重要な側面も見落とせない」と一定の評価をした。読売は「法に触れる行為があれば、捜査当局は厳正に捜査すべきである」と主張しながらも「映像が見られてよかった」などの声が海保に寄せられていることにも触れた。

日経は「ビデオ映像が刑事罰をもって守るのに値する秘密なのか大いに疑問だ」と踏み込んだ。産経、読売、日経3紙は、ビデオ非公開の政府判断を改めて強く批判し、国民へのビデオ公開を求めた論調は共通する。

そのビデオの公開だが、ネット流出を受け、毎日は「時期を見て公開すべきだ」(9日)と主張した。東京も「ビデオを秘密とする根拠は、著しく低下している」(10日)とした。一方、朝日は「外交上の得失を冷徹に吟味し、慎重に判断すべきだ」(6日)との主張以後、新たな言及はない。

ちなみに、ビデオ流出を受け、仙谷由人官房長官は、秘密保全のための法制検討の必要性を打ち出した。毎日は「罰則強化だけに傾斜するのは問題がある」と指摘した。この点は各紙が「筋違い」「お門違い」「短絡的」などと、批判のトーンで足並みをそろえたことを強調したい。【論説委員・伊藤正志】

読売新聞 2010年11月18日

ビデオ流出問題 閣僚も政治責任を免れない

尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件のビデオ映像流出は、誰に責任があるのか。

ネット上に映像を投稿した神戸海上保安部の海上保安官はもちろんだが、保安庁幹部や閣僚もその責めを負うのは当然である。

国家公務員法の守秘義務違反の疑いで事情聴取を受けていた保安官は、任意での捜査が続けられることになった。

保安官は「真実を多くの人に知ってほしかった」と動機を供述している。政治的な意図や私利私欲は否定した。

中国漁船衝突の映像は、国民の間で関心が高かった。流出により結果的に多くの国民が映像を見ることができたため、保安官の行動を支持する声も根強くある。

しかし、動機はどうあれ、政府の方針に反して勝手に映像を流出させた行為は、公務員として許されず、国家の秩序を揺るがしかねない危険なものだ。

保安官の刑事責任の有無は、今後、検察が判断するが、併せて行政上の処分も厳正に行われなければならない。

流出経路の捜査で浮かび上がったのが、海保のあまりにもずさんな情報管理である。

問題の映像は一時、広島県の海上保安大学校のパソコンに保管され、海上保安官なら誰でもアクセス可能だった。このことが映像の「秘密性」を低くさせ、保安官の逮捕見送りの一因になった。

映像は衝突事件の証拠となるものであり、海上警備を担う組織として認識が甘すぎたと言える。海上保安庁長官の責任は重い。

海保長官の責任問題に関連して、仙谷官房長官は「政治職と執行職では、責任のレベルが違う」と発言している。

馬淵国土交通相に監督責任が及ばぬよう予防線を張ったのであろうが、これは「政治職」の責任逃れではないか。

そもそも、衝突事件発生直後に映像を公開していれば、その後の中国との軋轢(あつれき)は防げた可能性があった。今回の映像流出も起きなかっただろう。

「執行職」の海保は当初、映像を公開する方針だったが、それを止めたのは「政治職」の仙谷官房長官らである。

中国側への過度の配慮による判断ミスを「執行職」に押しつけるようでは、民主党が掲げる「政治主導」が泣くというものだ。

政府はすみやかに映像を国民に公開し、これまでの判断の経緯を丁寧に説明する必要がある。

産経新聞 2010年11月17日

補正衆院通過 「八方塞がり」打破に動け

総額5兆円規模の経済対策を盛り込んだ補正予算案は衆院を通過したが、菅直人政権の行き詰まりは目を覆うばかりである。内政外交の懸案に対し、菅首相が先送りの手法をとっていることが「八方塞(ふさ)がり」を招いているといえる。

自民党は15日、仙谷由人官房長官と馬淵澄夫国土交通相に対する不信任案を提出した。尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件やビデオ流出問題への政府対応が問題であり、責任は重大だと指摘した。公明、共産、みんな、たちあがれ日本が同調した。

与党が否決したものの、このことが持つ意味は重い。野党が多数の参院で同様の問責決議案が出されれば、可決の可能性があるからだ。内閣の要である仙谷氏への問責が可決されれば国会は空転し、政権は危うくなりかねない。

各種世論調査で内閣支持率が危険水域といわれる3割を切ってきた。首相はアジア太平洋経済協力会議(APEC)終了後、「私が議長を務めた首脳会議が成功裏に終了した」と述べたが、どれだけの国民がうなずいただろうか。

この2カ月余り、領海侵犯した中国人船長を釈放し、海上保安庁の巡視船に体当たりした中国漁船のビデオの公開を拒み続けた。日中首脳会談を行うことを最優先した判断だろうが、尖閣諸島に関する日本の主権が危うい状況であることは何も変わっていない。

米軍普天間飛行場移設についても、首相は月末の沖縄県知事選後に沖縄を訪問する意向を示しているが、日米合意に基づく辺野古移設案を実現する努力はほとんどみせていない。

オバマ米大統領とは、来春の首相訪米時に日米安保体制強化のために共同声明を発表することを約束したが、問題を先送りしているだけでは展望は開けない。

加えて、政治とカネの問題をめぐる小沢一郎元代表の国会招致にも応じようとしない。補正予算や財政再建、消費税増税をめぐる野党との政策協議が進展しないのも無理はない。補正への賛成を唱えていた公明党は反対に回った。

内外ともに危機を抱える日本のかじ取りを民主党が担えない状況は、もはやこれ以上放置できない段階に入ったといえる。

首相がこの行き詰まりをどう打開するか。問題を放置する限り、現政権継続の是非を国民に問い直すことが必要だろう。

朝日新聞 2010年11月11日

海保ビデオ 独断公開が投じた課題

尖閣沖の中国漁船の映像は自分が流出させた、と神戸海上保安部の保安官が上司に申し出た。捜査当局は国家公務員法違反の疑いで調べている。

ビデオの取り扱いをめぐっては、非公開を決めた政府を批判する声と、理解を示す声との双方がある。だからといって、現時点での外交関係を踏まえた政府の高度な判断を、一職員が独自の考えで無意味なものにしてしまっては、行政は立ちゆかない。

まだ供述の断片しか伝えられず、詳しい経緯や動機、背後関係などもはっきりしない。問題の映像が刑事罰を科してまで守るべき秘密であるかどうかに関しても、様々な意見がある。捜査の行方を冷静に見守る必要がある。

政府が保有する秘密と、主権者としてその情報の本来の所有者である国民との関係をどう考えるか。かねて議論されてきた問題だが、インターネットが広まり、だれもが利用できる時代を迎え、局面は大きく変わった。

これまでは社会に情報を発信する力は少数のマスメディアにほぼ限定されていた。メディアが表現の自由や報道の自由を主張できるのは、国民の「知る権利」に奉仕して民主主義社会を発展させるためとされ、その裏返しとしてメディアも相応の責務を負った。

情報の真偽に迫り、報道に値する内容と性格を備えたものかどうかを見極める。世の中に認められる取材手法をとり、情報源を守る。時の政権からの批判は言うまでもなく、刑事上、民事上の責任も引き受ける――。

だが、ネットの発達によりマスメディアが発信を独占する状況は崩れた。

情報が広く流通し、それに基づいて国民が討論して決める機会が増える。そんな積極的な側面がある一方で、一人の行動によって社会の安全や国民の生命・財産が危機に陥りかねない。難しい時代に私たちは生きている。

この状況を国民一人ひとりが自分の問題として認識し、政府が持つ膨大な情報をどこまで公開し、どこを秘匿するか、発信する側はどんな責任を負うのか、絶えざる議論が必要になる。

秘密とすべきものか、明快な一線を引くのは難しい。情報の内容を精査して、国民が得る利益と損失を測り、そのつど判断するしかない。秘匿に傾く政治権力や官僚機構と、公開を求める国民との間に緊張をはらむ攻防がこれまで以上に生じることになるだろう。

そのせめぎ合いの中でも、情報をできる限り公にして議論に付すことが民主主義を強めていくという、基本的な方向を社会で共有したい。

事態を受けて政府は、情報管理のありようを検討する委員会を設けることを決めた。検討を否定するものではないが、築いてきた表現の自由が脅かされることのないよう、政府の動きにしっかり目を光らせる必要がある。

毎日新聞 2010年11月11日

海保職員聴取 流出の背景解明が必要

海上保安庁内部からの流出だった可能性が高まった。沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突を巡るビデオ映像の流出事件だ。

「自分が流出させた」と述べた神戸海上保安部所属の海上保安官の取り調べを警視庁が始めた。職員は、同行前に会った読売テレビ記者に「この映像は、国民の誰もが見る権利がある」などと語ったとされる。

だが、理由はどうあれ、政府の一員である海保職員が政府の意思に抗する形でユーチューブに投稿したとすれば、妥当性を欠き許されるものではない。警視庁は11日も調べる。職員の行為について背景を含め真相解明を図るためには当然である。

流出が事実ならば、職員はどのように映像を入手したのだろうか。

流出した計約44分の映像は、石垣海上保安部の警備救難課の課員共用パソコンで編集されたものだという。捜査担当以外の職員も閲覧が可能だったとの話も出ている。情報管理のずさんさに驚く。

菅直人首相は衆院予算委員会で「政府として、管理不行き届きだった」と謝罪した。海上保安庁長官を含め、厳しく監督責任を問うべきだ。

一方で、ビデオ映像が国家公務員法が規定する「秘密」に当たるのか疑問視する見方があるのは事実だ。

最高裁の判例は、守秘義務違反が問われる「秘密」について「実質的に秘密として保護するに値するもの」とする。だが、短縮版とはいえ既に映像は一部の国会議員に開示されているからである。

また、情報公開請求されれば、開示せざるを得ない情報との指摘も出ている。そうだとしても、恣意(しい)的な判断による勝手な「公開」を正当化する根拠にはならない。

裁判で責任を追及するほどの悪質性があるか否かは、外交に与えた影響などビデオ流出による実害も考慮し、取り調べを尽くした後に判断すればいい。その上で、秘密性があるか否かの解釈も踏まえ、起訴するかどうか決めるべきだ。

本来、政府が公開すべきものを職員が公開したと、その行為を正当化する向きの主張が一部にあるが疑問だ。国家運営に直接かかわらない公務員が「匿名」で政府方針に異議をとなえることは、国益を損なう恐れがある。

政府は当初、刑事訴訟法上の証拠物に当たることを表向きの理由として、ビデオの非公開を決めた。しかし、外交上の配慮も含めて、どういう政治的な判断が非公開の決定の背景にあったのか今も国民に十分、説明されていない。

そのことが、いびつな形でのビデオ流出につながった可能性も否定できない。政府の一連の対応が改めて問われるのは言うまでもない。

読売新聞 2010年11月11日

海保職員聴取 流出の動機と経路解明を急げ

やはり身内の犯行だったのか。

海上保安庁が尖閣諸島沖で撮影した、中国漁船衝突事件の映像ビデオについて、神戸海上保安部の職員が上司に対し「自分がインターネット上に投稿した」と流出を告白した。

警視庁が、国家公務員法の守秘義務違反の疑いで、この職員を慎重に取り調べている。

投稿した動機は何だったのか。石垣海保が保管しているビデオを、遠い神戸にいた海保職員がどうやって入手したのか。他に関与した人間はいなかったのか。法に触れる行為があれば、捜査当局は厳正に捜査すべきである。

漁船衝突事件は、日中間の外交問題が絡み、当初から国民の注目度は高かった。レアアース輸出規制や日本企業の社員拘束など、次々と圧力をかける中国に対し、政府の対応は後手に回った。

ビデオの公開をめぐっても、政府・民主党の判断は終始、後ろ向きだった。

那覇地検が中国人船長を処分保留で釈放し、捜査は事実上終結した。刑事訴訟法上の非公開理由は失われたにもかかわらず、一般公開をなおためらっている。

中国を刺激したくないというのであれば、無用の配慮ではないか。本来公開すべき情報を公開しなかったことが、今回、ビデオの流出という新たな過ちにつながったことは否定できないだろう。

海上保安庁には、「犯人捜しは望まない」といった意見とともに「映像が見られてよかった」などの声も寄せられているという。

政府は国民へのビデオの全面公開を改めて検討すべきだ。

大事なのは、今度こそ政府が対応を誤らないことだ。

菅首相は機密保全対策を検討する委員会の設置を指示した。情報管理を見直すこと自体はいい。

石垣海保の捜査資料映像のずさんな管理だけではない。警視庁の国際テロ捜査資料の流出問題も起きたばかりだ。

捜査機関の情報管理に緩みが出ているのは問題だ。電子データの管理態勢などを総点検し、再発防止策を探る必要がある。

ただ、仙谷官房長官が言及している国家公務員法の守秘義務違反の罰則強化は短絡的だ。

公務員を過度に()(しゅく)させ、行政の抱える問題を内部告発する動きまで封じることになれば、国民の「知る権利」が脅かされる。

まず、今回のビデオ流出事件の全容を国民の前に明らかにすることが急務である。

産経新聞 2010年11月16日

海上保安官 逮捕回避は妥当な判断だ

沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突をめぐる映像流出事件で、警視庁など捜査当局は、国家公務員法(守秘義務)違反の疑いで事情聴取を続けてきた神戸海上保安部の海上保安官の逮捕を見送ることにした。

今後は任意捜査を継続し、書類送検や在宅起訴の可能性があるが、国民が知るべき重要な問題にかかわる情報公開の意味合いを考えれば、妥当な判断だったといえよう。

任意聴取を始めて6日間を要したのは、流出した映像が守秘義務違反の「秘密」にあたるか、慎重に検討した結論とされる。秘密保持といっても、それほど微妙なレベルだったということだ。

組織の保秘通達を破って保安官が映像を流出させた行為は、国家公務員として明らかに逸脱している。行政罰も含めて厳しく問われるべきものだ。だが、その悪質性の度合いを考慮した場合、どう検討しても逮捕すべき事案には相当しなかったのだろう。

中国漁船が海保の巡視船に体当たりを繰り返した映像は、命がけで領海警備にあたる海保職員の教材として広く共有されるべきものだった。

しかも、馬淵澄夫国土交通相が海保に対して映像の徹底管理を求めたのは衝突事件から1カ月以上を経た10月18日で、保安官が映像を入手したのはこれ以前だったとされる。

映像を「秘密」とした根拠は、初公判前の証拠の公開を禁じた刑事訴訟法にある。だが、公務執行妨害容疑で逮捕された中国漁船船長はすでに処分保留で釈放され、公判が行われる可能性はない。実質的には、映像に証拠としての価値はなくなっている。

海保の巡視船に漁船で体当たりした中国人船長は罪に問われないまま、Vサインを掲げて凱旋(がいせん)将軍のごとく帰国した。一連の事件として見れば、保安官逮捕なら国民の目にどう映ったろうか。法の下の平等で、著しくバランスを欠いてみえたのではないか。

映像流出事件は、政府がもっと早く正式に公開していれば起こらなかった。いまもなお捜査中の証拠として非公開が続いているのは異常である。捜査当局には、迅速な事件処理が求められる。

中国漁船に非があることが明らかな映像を非公開とすることは国益を損ねている。こちらの罪の方が、ずっと重い。

朝日新聞 2010年11月06日

尖閣ビデオ流出 冷徹、慎重に対処せよ

政府の情報管理は、たががはずれているのではないか。尖閣諸島近海で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した場面を映したビデオ映像がインターネットの動画投稿サイトに流出した。

映像は海保が撮影したものとみられる。現在、映像を保管しているのは石垣海上保安部と那覇地検だという。意図的かどうかは別に、出どころが捜査当局であることは間違いあるまい。

流出したビデオを単なる捜査資料と考えるのは誤りだ。その取り扱いは、日中外交や内政の行方を左右しかねない高度に政治的な案件である。

それが政府の意に反し、誰でも容易に視聴できる形でネットに流れたことには、驚くほかない。

ビデオは先日、短く編集されたものが国会に提出され、一部の与野党議員にのみ公開されたが、未編集の部分を含めて一般公開を求める強い意見が、野党や国民の間にはある。

仮に非公開の方針に批判的な捜査機関の何者かが流出させたのだとしたら、政府や国会の意思に反する行為であり、許されない。

もとより政府が持つ情報は国民共有の財産であり、できる限り公開されるべきものである。政府が隠しておきたい情報もネットを通じて世界中に暴露されることが相次ぐ時代でもある。

ただ、外交や防衛、事件捜査など特定分野では、当面秘匿することがやむをえない情報がある。警視庁などの国際テロ関連の内部文書が流出したばかりだ。政府は漏洩(ろうえい)ルートを徹底解明し、再発防止のため情報管理の態勢を早急に立て直さなければいけない。

流出により、もはやビデオを非公開にしておく意味はないとして、全面公開を求める声が強まる気配もある。

しかし、政府の意思としてビデオを公開することは、意に反する流出とはまったく異なる意味合いを帯びる。短絡的な判断は慎まなければならない。

中国で「巡視船が漁船の進路を妨害した」と報じられていることが中国国民の反感を助長している面はあろう。とはいえ中国政府はそもそも領有権を主張する尖閣周辺で日本政府が警察権を行使すること自体を認めていない。映像を公開し、漁船が故意にぶつけてきた証拠をつきつけたとしても、中国政府が態度を変えることはあるまい。

日中関係は、菅直人首相と温家宝(ウェン・チアパオ)首相のハノイでの正式な首脳会談が中国側から直前にキャンセルされるなど、緊張をはらむ展開が続く。

来週は横浜でAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議が開かれ、胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席の来日が予定されている。日中両政府とも、国内の世論をにらみながら、両国関係をどう管理していくかが問われている。

ビデオの扱いは、外交上の得失を冷徹に吟味し、慎重に判断すべきだ。

毎日新聞 2010年11月09日

尖閣ビデオ 非公開の理由は薄れた

尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件を撮影した映像がインターネット上に流出した問題で、検察当局と警視庁が捜査に乗り出した。海上保安庁が「内部調査では限界がある」として、容疑者不詳のまま国家公務員法(守秘義務)違反と不正アクセス禁止法違反の容疑で告発したのを受けたものだ。

流出映像には中国漁船が網を引き揚げるまでの違法操業行為や2隻の海保巡視船にぶつかるシーンなどが映っている。石垣海上保安部が編集して那覇地検に提出したものと同一とされており、職員が関与した可能性もある。

職員が意図的に流出させたのだとしたら影響は深刻だ。漏えいの疑いがあり、海保自身が内部調査の限界を認めている以上、「調査」を「捜査」に切り替えたのは当然である。最高検は福岡高検を主体とした捜査チームを発足させ、警視庁は検察当局と連携するという。徹底した捜査をしてほしい。

仙谷由人官房長官は8日の衆院予算委員会で、秘密保全のための法制検討の必要性を強調した。将来の法制整備の必要性を否定はしない。だが、菅直人首相が陳謝したように、政府がまず取り組むべきは情報管理体制の再構築と、動画投稿サイトを利用した新しい手口の情報流出に対する有効な対応策を早急に考えることだ。罰則強化だけに傾斜するのは問題がある。

今回のビデオ流出に関しては、海上保安庁に「国民のほとんどが見たいと思っていた」などと歓迎する声が多く寄せられているという。政府がビデオを一般公開しない理由をきちんと説明していないからだろう。

仙谷長官は非公開とする理由として、中国人船長の処分が未定なことや日中関係への影響などを挙げている。しかし、釈放して帰国させた船長の公判は今後開ける可能性がないことを仙谷長官自身が国会で認めている。非公開の真の理由は横浜でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)を前にしての中国への配慮と思われる。

衝突時のビデオはそもそも、国家機密として「守るべき情報ではない」(渡辺喜美みんなの党代表)との指摘もある。そうではないと言うのなら、政府はその理由を説得力をもって説明すべきだ。

長時間ビデオの中には日中関係に深刻な影響を与えるとして政府が出したくない映像が含まれているのかもしれない。だが、ネット上に流出した映像は多くの国民がすでにテレビでも見た。もはや非公開を続ける理由は薄れたと言わざるを得ない。政府は国民の不信をぬぐうため時期を見てビデオを公開すべきである。

読売新聞 2010年11月09日

ビデオ流出告発 危機感をもって真相の解明を

真相解明の手段は「調査」から「捜査」に移った。相次ぐ情報流出で、国の情報管理能力が問われている。検察当局は危機感をもって捜査にあたらねばならない。

尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件を撮影したビデオ映像がインターネット上に流出した問題を巡り、海上保安庁が検察と警察に、被疑者不詳のまま、国家公務員法違反などの容疑で刑事告発した。

流出映像は石垣海上保安部が編集したものとほぼ特定された。海保と検察の双方に保管されていたが、現時点で検察側から流出した形跡はなく、海保側から流れた疑いが強いという。

誰がどんな手段で流出させたのか、何らかの政治的意図があったのか。重要なのは、真相の徹底解明である。

そのためには、海保による任意の内部調査では限界があろう。告発により検察当局に捜査を委ねたのは当然だ。

インターネット上では情報が瞬時に拡散する。パソコンへのアクセス状況を調べ、犯人を特定するには専門的な知識が必要だ。

検察当局は流出ルートを調べるため、問題のビデオ映像が投稿されたサイトを運営する検索大手の「グーグル」に対し、投稿者の情報提供を求めた。

それでも自宅のパソコンではなく、匿名性の高いネットカフェなどから投稿した場合には、投稿者の特定は極めて難しいという。

警察にはサイバー犯罪に関する捜査ノウハウの蓄積がある。検察当局は警察と連携して、迅速に解明を進めてもらいたい。

流出映像は、事件発生直後、石垣海保が内部の説明用に作成したものだという。石垣海保の共用パソコンに保存されたほか、複数の記憶媒体に複製された。

捜査担当以外の職員も比較的自由にパソコンを閲覧したり、情報をコピーしたりすることが可能な状態だった。馬淵国土交通相の指示で管理が強化される先月中旬までは、記憶媒体の金庫での保管も徹底されていなかった。

捜査機関として極めてずさんな情報管理にあきれるほかない。

警視庁の国際テロ情報流出問題が明るみに出たばかりである。すべての捜査機関は、情報管理態勢を早急に見直し、再発防止に取り組まねばならない。

今回の情報流出は、ビデオ映像の一般公開を避け続けた政府にも責任の一端がある。改めて国民に対するビデオの全面公開を検討する必要があろう。

産経新聞 2010年11月11日

海上保安官聴取 流出事件の本質見誤るな

尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突のビデオ映像流出事件で、警視庁は国家公務員法(守秘義務)違反などの疑いで、神戸海上保安部に所属する海上保安官の取り調べを始めた。

事前に接触した読売テレビは取材記者の証言として、海上保安官が「映像はもともと国民が知るべきものであり、国民全体の倫理に反するのであれば、甘んじて罰を受ける」などと語ったと報じた。事実なら、海上保安官は守秘義務違反を覚悟していたことになる。一方で皮肉にも、流出により国民の「知る権利」に応えたという重要な側面も見落とせない。

捜査当局は、流出の動機、背景についても詳しく明らかにすべきだ。事件を担当する弁護士は、海上保安官の言い分を不足なく伝えてもらいたい。刑事裁判の公判では情状面を含め、何がこの犯罪を引き起こしたのかが、明確にされなければならない。

10日の衆院予算委員会で、自民党の小泉進次郎議員は「そもそももっと早く(ビデオを)公開していれば流出事件は起こらなかった」と追及した。それがこの事件の本質である。

加えて小泉議員との質疑の中で、菅直人首相は、衝突は中国側に非があったという政府側の共通認識が「流出したビデオで客観的になった」と、効用を一部認める発言まで行った。

四方を海に囲まれた島国、日本の海上保安官は、常に過酷な職務を強いられている。流出した衝突ビデオが、その危険と緊迫性を見事に物語っていた。国民も公開を求めていた映像がなぜ「職務上知り得た秘密」に相当するのか。

刑事訴訟法は、初公判前の証拠の公開を禁じている。那覇地検が保管する衝突ビデオが非公開の対象となったのはこのためだが、中国人船長を処分保留で釈放し帰国させた今回の事件では、いつまで待っても初公判は開かれない。

事実上すでに衝突ビデオには証拠的価値はない。起訴猶予処分として映像を公開するチャンスはいくらでもあったはずだ。検察当局にも責任の一端がある。

政府には流出事件とはかかわりなく、全面的なビデオの公開が求められている。違法な形で流出した映像は外交上の切り札にはなり得ない。政府の意思として、一刻も早く全世界に衝突ビデオを公開すべきである。

朝日新聞 2010年11月05日

公安情報流出 対テロの足元が揺らいだ

横浜に各国首脳が集まるアジア太平洋経済協力会議(APEC)を前に、日本のテロ対策が根底から揺らぐ事態が起きた。

警視庁などの内部資料とみられる文書が、ファイル共有ソフトを通じてネット上に広がっている。2001年の米国同時多発テロを受けて、国際テロ捜査や情報収集のために警視庁公安部に設けられた外事3課が作成したものが中心のようだ。

捜査の協力者とされた外国人の情報や、米連邦捜査局の要請にもとづくイスラム教徒の聴取計画……。警察の対テロ態勢の手の内が暴露された。一般市民の住所や顔写真、交友関係など、多くの個人情報も漏れ出した。

名前をさらされた人たちの被害は深刻だ。要請に応じて知っていることを話したら、テロ組織とのかかわりを疑うような記述をされた人がいる。捜査に協力したことがわかれば、危害が及ぶ恐れもある。これでは、警察に話をしようという人はいなくなる。

国際的な信頼も地に落ちた。各国の機関は極秘情報を交換してテロを防ごうとしている。日本は秘密が守れないとみなされれば、そうした連携から外されてしまう。

警察は他国の機関への手前、文書が自分のところのものとは認めにくい。だがそれを言い訳に、事態の処理をうやむやに済ませるのは論外だ。信義は既に損なわれている。文書を特定し、漏れた情報が残っているサイトの管理者に可能な限り削除を求める。被害を受けた人に誠実にわび、安全確保に努める。もちろん、流出した経路を徹底して調査しなくてはならない。

データの解析から、情報は意図的に持ち出された疑いが強まっている。

外部の人物がこれだけの文書に近づけたとすれば、警察とどんな関係を保っていた人物か。内部ならば、どんな対立や不満があったのか。

警視庁公安部は、日本の情報活動の中心機関といっていい。危険とみなした人物の動きを監視し、対象団体内や周辺に情報提供者を養成してきた。問題を抱えても、組織を守る論理が先に立ち、外からは見えにくい。その手法と秘密主義には批判が根強い。

だが国際テロが頻発するなかで、外国からの不法組織を追う外事警察は、時代が求める分野だという理解は広がっているだろう。テレビドラマになったのも記憶に新しい。

現代社会の安全を守る警察活動への信頼を取り戻すためにも、今回の失態の解明は急務といえる。警察行政を管理する国家公安委員会は報告を求め、市民の代表として再発防止の指導をしなければならない。

情報の管理態勢を見直すのは言うまでもない。取り扱いが微妙なものは電子化を避けることも必要だろう。

毎日新聞 2010年11月06日

尖閣ビデオ流出 統治能力の欠如を憂う

尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件の模様を海上保安庁が撮影したビデオ映像の一部がインターネット上に流出した。同庁と検察当局が捜査資料として保管していた証拠の一部である。その漏えいを許したことは政府の危機管理のずさんさと情報管理能力の欠如を露呈するものである。

捜査権限を持つ政府機関の重要情報の漏えいはつい先日も明らかになったばかりだ。テロ捜査などに関する警察の内部資料がネット上に流出した事件だ。横浜でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を前にした度重なる失態は菅政権の統治能力すら疑わせる。早急に流出経路を解明し、責任の所在を明らかにしなければならない。

海保は巡視船が衝突される前後から漁船に立ち入り検査するまでの模様をビデオに収めており、全体で数時間分あるという。ネット上に流出したのはその一部とみられ、約44分間の映像だった。巡視船2隻に中国漁船が衝突する場面が明確に映っており、生々しい衝突音も収録されている。

政府が先日、国会に提出したビデオは約7分間に編集されたもので、視聴は予算委理事らに限定された。限定公開に対しては、全面公開を主張する自民党などから「国民に事実を知ってもらうことが大切だ」などの反対論が出た。しかし、政府は国際政治情勢への配慮などを理由に慎重な扱いを求め国会が要請を受け入れた経緯がある。

それが、政府と国会の意図に反する形で一般公開と同じ結果になってしまったことに大きな不安を感じる。この政権の危機管理はどうなっているのか。

海保によると、那覇市の第11管区海上保安本部や石垣海上保安部、那覇地検など検察当局のパソコンなどに映像が残っている可能性があり管理状況の調査を進めているという。

もし内部の職員が政権にダメージを与える目的で意図的に流出させたのだとしたら事態は深刻である。中国人船長を処分保留で釈放した事件処理と国会でのビデオ限定公開に対する不満を背景にした行為であるなら、それは国家公務員が政権の方針と国会の判断に公然と異を唱えた「倒閣運動」でもある。由々しき事態である。厳正な調査が必要だ。

中国側はビデオ流出について「日本側の行為の違法性を覆い隠すことはできない」との外務省報道官談話を発表した。ビデオ映像は中国の動画投稿サイトにも転載され、「中国の領海を日本が侵犯したことがはっきりした」などの反論が出ているという。このビデオ流出問題にどう対処するか。菅政権は新たな危機管理も問われている。

読売新聞 2010年11月06日

尖閣ビデオ流出 一般公開避けた政府の責任だ

尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件の当時の模様を撮影したビデオ映像が、インターネット上に流出した。

政府内部から持ち出された疑いが濃厚で、極めて遺憾な事態である。

だが、それ以上に残念なのは、こんな不正常な形で一般の目にさらされたことだ。政府または国会の判断で、もっと早く一般公開すべきだった。

流出したのは、計6個の動画ファイルに分割された計44分余りの映像で、インターネット動画サイトに投稿された。中国国内の動画サイトでも、転載と当局による削除が繰り返されているという。

海上保安庁と検察当局が保管するビデオ映像を、何者かが意図的に流出させた可能性が高い。先に一部国会議員に公開された映像は約7分に編集されたもので、今回の映像とは長さが異なる。

警視庁の国際テロ捜査に関する内部資料とみられる文書が、ネット上に流出したばかりだ。これでは海外から「情報管理がずさんな国」とみられ、防衛やテロなどの情報収集に支障が出かねない。

流出経路について、政府が徹底的に調査するのは当然である。再発防止に向け、重要情報の管理を厳格にしなければならない。

流出した映像をみれば、中国漁船が巡視船に故意に船体をぶつけたのは一目瞭然(りょうぜん)である。

もし、これが衝突事件直後に一般に公開されていれば、中国メディアが「海保の巡視船が漁船に追突した」などと事実を曲げて報道することはできなかったのではないか。これほど「反日」世論が高まることもなかったろう。

中国人船長の逮捕以降、刑事事件の捜査資料として公開が難しくなった事情は理解できる。だが、船長の釈放で捜査が事実上終結した今となっては、公開を控える理由にはならない。

中国を刺激したくないという無用な配慮から、一般への公開に後ろ向きだった政府・民主党は、今回の事態を招いた責任を重く受け止めるべきだ。

中国外務省は、国会での限定公開の直後に「ビデオでは日本側の違法性を覆い隠せない」との談話を発表した。

世界中に映像が流れた今、こんな強弁を続けていれば、国際的にも批判を浴びよう。

中国は速やかに国内の対日強硬論を抑え、日中関係の修復に努めてもらいたい。来週の胡錦濤国家主席の来日に合わせて、日中首脳会談を実現させるべきだ。

産経新聞 2010年11月09日

ビデオ流出捜査 優先順位をすり替えるな

沖縄県尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件で、海上保安庁の撮影したビデオ映像が流出した問題は、福岡高検が捜査に乗り出し、海上保安庁が東京地検と警視庁に告発したことで、刑事事件となった。不正は法と証拠のもとに明らかにされるのが当然である。

だが、事の本質は、中国漁船の側に非があることを明確に映し出している映像を、政府が国民の目から隠し続けたことにある。不法な形の流出ではなく、政府の意思としての全面公開が求められることに変わりはない。

仙谷由人官房長官は、国家公務員の守秘義務違反の罰則を強化する考えを示した。対処すべき優先順位のすり替えである。まず急ぐべきは映像の公開と、中国の反発を恐れて非公開を続けた弱腰外交を反省することだろう。

そもそも衝突映像は国家機密だったのか。海保は当初、ビデオ公開に前向きだったとされる。事実、平成11年に奄美諸島沖で起きた北朝鮮工作船との銃撃戦では直後にビデオが公開され、海保の行動の正当性が裏付けられる結果となった。今回も、その教訓に学ぶべきだったのである。

秘匿対象となったのは、那覇地検の捜査資料となり、刑事訴訟法によって初公判前の証拠公開が禁じられているためだ。政府もビデオ非公開の理由に「刑訴法」をあげ続けてきた。

しかし、中国人船長を処分保留のまま釈放した那覇地検には事実上、起訴猶予しか処分の道はなく、ビデオは証拠価値を失う。いつまでも処分が出ないのは、政府に映像を非公開にさせ続けるためとしか映らない。

検察当局の姿勢にも違和感がある。最高検は、検察内部から映像が流出した形跡がないとする内部調査結果を公表したうえで、福岡高検に捜査に着手するよう指示したことを明らかにした。

問題の映像を保管していたのは、那覇地検と石垣海上保安部だった。内部には調査、外部へは捜査では、身内に対する甘さが引き起こした大阪地検特捜部の証拠隠滅・犯人隠避事件の反省がないと批判されても仕方あるまい。

この期に及んで菅直人政権が、ビデオ映像を流出させた「犯人」捜しに国民の関心を向けさせようとしているなら許し難い。ただちに政府の手で、全面的にビデオを公開すべきである。

毎日新聞 2010年11月03日

テロ資料流出 世界の信頼損なう失態

アジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議が迫る。その中で、日本の治安や情報活動への国際社会の信頼を傷つける失態である。警視庁など警察のテロ捜査などに関する内部文書とみられる資料がインターネット上に流出した問題だ。

国際テロ組織「アルカイダ」との関係が推測されるイスラム教徒周辺の協力者についての情報も流出したという。名前や住所、聞き取り内容にまで及ぶ。

他にも、顔写真を含めた捜査対象者に関する情報、米連邦捜査局(FBI)が行ったテロについての研修に関する文書、大規模国際テロ事件発生の際の初動捜査の手順など、近年の作成とみられる極秘文書が多数含まれているようだ。

警視庁は、警察作成の文書かどうか早急に確認し、対策をとらねばならない。特に、捜査協力者の個人情報が漏れたとすれば致命的だ。身の危険が迫ることも予想される。迅速かつ実効性のある対応が必要だ。

情報は、ファイル共有ソフトを通じて流れたとみられる。警察の文書だとすれば、流出経緯をまず特定することだ。意図的な流出ならば厳しく刑事責任を問うべきである。そうでないにしても、警察の情報管理に大きな穴があったことは間違いない。原因の解明と抜本的な情報管理の見直しが不可欠である。

01年9月の米同時多発テロ事件以後、各国でテロ対策が強化された。それでも国際テロ事件は続く。

日本にとってもテロの脅威は人ごとではない。米国の同盟国であり、これまでもテロの標的として名指しされてきた。「アルカイダ」関係者が日本への出入国を繰り返していたことも分かっている。

それだけに、米国をはじめとする各国治安機関と極秘裏に情報交換を続けてきたはずだ。

今回の資料流出が、その信頼関係にひびをいれ、情報収集の障害になることは十分に予想される。その影響を最小限に抑えるよう、警察の組織全体で奮起してほしい。

まずは、横浜市で開かれるAPEC首脳会議の警備に万全を期すべきである。流出文書の中には、08年の北海道洞爺湖サミット開催時の情勢分析の資料などが含まれていたとされる。今回のAPECの警備に関する資料は流出していないようだが、警戒は必要である。

警察の内部情報をめぐっては、06~07年、警察官の私有パソコンから、ファイル共有ソフト「ウィニー」を通じて捜査情報が流出した。警察は命にもかかわる個人情報を扱っていることを肝に銘じてほしい。今回の調査後、結果を速やかに公表するのも当然である。

読売新聞 2010年11月03日

警察情報流出 国際テロ捜査の根幹が揺らぐ

日本の警察に対する国際的信用が失墜しかねない深刻な事態である。

警視庁公安部の国際テロ捜査に関する内部資料とみられる文書が、ファイル共有ソフト「ウィニー」を通じてインターネット上に大量流出した。捜査協力者などの個人情報も含まれているという。

今月中旬には横浜市で、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が控えている。その警備に影響が出るようなことがあってはなるまい。

警察当局は内部の資料かどうか「調査中」としているが、特定することが急務だ。捜査資料と判明すれば、流出ルートを調べる一方、サイトの管理者に文書の削除を要請するなど漏えいの拡大を食い止めねばならない。

テロ組織などの捜査では、相手組織の内部に協力者を作り、情報を収集するのが公安部の手法だ。警察の中でも、取り扱う情報の秘匿性は極めて高く、厳重な情報管理態勢が敷かれているという。

流出文書には、捜査協力者とされる外国人の名前や連絡先、さらに接触方法などが記されていた。捜査対象者の顔写真や旅券番号、米連邦捜査局(FBI)によるテロ対策の研修内容とみられるものまであった。

これらが警察の内部資料であれば、影響は計り知れない。協力者に危害が加えられる可能性もあり、今後、捜査への協力は得られなくなる恐れがある。

海外の捜査機関も、情報の漏えいを警戒し、日本に対し、国際テロ組織に関する情報を提供しなくなるだろう。

警察では過去にもウィニーを介した捜査資料の流出があり、私物パソコンの使用禁止などの措置を講じてきた。

今回、内部の人間が警察の公用パソコンから外部記憶媒体などを使って捜査情報を持ち出し、私物パソコンから誤って流出させたとすれば、過去の教訓が生かされていなかったことになる。情報管理態勢を見直さねばならない。

流出文書には流出元の私的な文書が含まれていないことから、意図的に捜査情報だけを流出させた可能性もある。そうであれば組織管理上、見過ごせない問題だ。

警察は、職員らに法に触れる行為がなかったかどうか、徹底的に調べる必要がある。

テロ対策には国際捜査協力が欠かせない。互いの情報提供は、厳重な情報管理態勢への信頼の上に成り立つことを、警察当局は肝に銘じてもらいたい。

産経新聞 2010年11月06日

尖閣ビデオ流出 政府の対中弱腰が元凶だ

危惧(きぐ)されていたことが現実化した。沖縄県尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件で、海上保安庁の撮影とみられるビデオ映像がインターネット上に流出し、政権を揺るがす深刻な事態となっている。

問題点は2つある。1つは情報管理の不備だが、より深刻なのはビデオ映像を非公開とした政府の判断である。

ビデオは、海上保安庁と那覇地検に厳重に保管されているといい、流出には内部の人物がかかわった可能性が高い。一部の公務員が、自らの判断で映像を流出させたのならば、官僚の倫理欠如を示すゆゆしき事態である。

仙谷由人官房長官は、5日の記者会見で今回のビデオ映像と警視庁の捜査情報の流出に関連、「流出とすれば、相当大きなメスを入れる改革があらゆるところで必要だ」と述べた。一見、もっともらしいが、情報漏洩(ろうえい)の「犯人捜し」と組織改革に国民の目をそらそうという意図が透けてみえる。

何より最大の問題は、菅直人政権が、国民の「知る権利」を無視して、衝突事件のビデオ映像を一部の国会議員だけに、しかも編集済みのわずか6分50秒の映像しか公開しなかった点にある。

政府は、公開しない理由について刑事訴訟法47条の「証拠物は公判前には公にできない」を主な根拠にしてきた。だが47条は「公益上の必要その他の事由があって、相当と認められる場合は、この限りでない」と規定している。

今回のビデオ映像を見れば中国漁船が意図的に海保の巡視船に体当たりしたことは明らかだ。映像の公開は、中国人船長を逮捕した海保の判断が、妥当であったことを国民や国際社会に示す意味でも明確な「公益性」がある。弁護士でもある仙谷長官が、中国をアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に参加させようと、故意に条文の解釈をねじ曲げたとしかいいようがない。

「大きなメス」を入れるべきは、真実を国民の目から覆い隠し、対中弱腰外交を繰り返してきた民主党政権自身である。

ビデオ映像は、中国漁船の違法性を証明する証拠として、本来なら政府が率先して一般公開すべきものだった。遅きに失したとはいえ、菅首相は国民に伝えるべき情報を隠蔽(いんぺい)した非を率直に認め、一刻も早くビデオ映像すべての公開に踏み切るべきだ。

産経新聞 2010年11月04日

尖閣ビデオ 国の信頼かかる全面公開

沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の様子を海上保安庁が撮影したビデオ映像の公開が、国会内での極めて限定的なものにとどまった。衆参両院の予算委員会理事らを対象に、約2時間とされる映像全編のうちわずか計6分50秒しかない。

秘密会形式での限定公開は中国政府に遠慮したためだろう。だが、中国外務省は限定公開の映像についてすら「日本側の行為の違法性を覆い隠すことはできない」と非難した。

ビデオの映像は日本の行動が正当であることを示すだけでなく、国際社会における信頼と名誉もかかっている。しかも政府は、事件を「中国漁船による悪質な公務執行妨害」と主張してきた。全面的かつ一般にも公開することが、日本の国益につながる。

ビデオを視聴した複数の国会議員は「もっと早く公開していれば国際世論も日本に好意的になったろう」などと述べている。今からでも遅くはない。日本の主張の正当性を裏付けるために、菅直人首相は決断すべきだ。

映像は国会の議決を受け、法務・検察当局が「公益性」を考慮して提出した。那覇地検は衆院議長に、視聴者の範囲を含めて「慎重な扱い」を要望した。

このため、船長逮捕の瞬間など公務執行上「秘匿性の高い部分」は公開されていない。だが正式な手続きを経て提出された以上、取り扱いについては国会が主体的に判断すべきだろう。

今月中旬、横浜市でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開催される。菅首相が議長を務め、21カ国・地域の首脳が集う。尖閣諸島沖事件に関する日本の主張を国際世論に問う積極的な外交が求められる。

限定公開の直前に実施された産経新聞社とFNNの合同世論調査によると、78・4%が「全面公開」を求めていた。しかし現在のところ、報道機関も国会議員の証言という伝聞でしか衝突事件の実像に迫れない。民主主義国家として異常な状況である。

全編を一般公開した場合、中国がAPECへの首脳の出席を拒否することを菅政権は恐れているふしがある。しかし、ビデオ映像の公開をこれきりにしてしまえば、日本は自由な民主主義国家の評判を失墜させる。「弱腰外交」との国際的烙印(らくいん)も決定的になってしまうだろう。

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