日本航空再建 特別チームで荒療治は可能か 

朝日新聞 2009年09月27日

JAL再生 「甘えの構造」を断ち切れ

日本航空の経営再建策の抜本的見直しに新政権が動いた。前原誠司国土交通相が、新たに発足させた専門家チームに再建計画の検討を指示した。

カネボウやダイエーの再建を担った旧産業再生機構の中心メンバーら事業再生のプロ集団だ。日航本社に入り1カ月で計画の大枠をまとめるという。

日航の再建計画策定は、自公政権下で設けられた国土交通省の有識者会議との間で進められてきた。だが、前原国交相はこれを廃止。日航の西松遥社長から求められた500億円を超す公的資金注入による資本増強案も、前提となる計画の「実現可能性が不十分」として受け入れなかった。

日航の現在の苦境の引き金を引いたのは、世界同時不況や新型インフルエンザの影響による国際線需要の激減だ。だが、経営がこれほどまでに悪化した根本要因は、何と言っても日航自身の赤字たれ流し体質にある。

不採算路線の整理を阻んできた政治家や地方自治体とのしがらみ、国交省とのもたれ合い。八つある労組との関係も複雑だ。こうした政官業および社内の「甘えの構造」を断ち切らない限り、日航の再建はない。

この構造の上に安住してきた日航経営陣と国交省の官僚に抜本策を期待することはできない。第三者チームが主導するのは妥当な選択だ。

半官半民だった日航が完全民営化してから22年。内外の主要都市を結ぶ重要な公共交通の担い手としては安定した経営が求められる。だが、民間会社として自立しているはずの日航はいまだに政府の助けを求めている。

これも日航が赤字経営を続けてきたせいである。日本政策投資銀行や民間金融機関から再三の緊急融資を受け、今年6月には政府保証をもとに1千億円の融資を受けた。

それでも今後さらに1千億円以上の追加融資や資本支援が必要になるという。これでは穴のあいたバケツに水を注ぎ込んでいるようなものだ。

専門家チームは日航に厳しいリストラ策を求めるだろう。経営を圧迫している人件費や退職者に対する年金債務を削り、不採算路線から大胆に撤退する道を避けて通ることはできまい。

社員やOB、株主、債権者にはつらい負担となる。だが、日航を真に再生させるにはやむを得ないのではないか。公的資金の注入も考えるなら、なおさらのことだ。

そうした方向での合意づくりが進まないなら、近く発足する企業再生支援機構や民事再生といった法的な枠組みを活用しなくてはなるまい。

世界には航空会社に路線開設の自由を大幅に認めるオープンスカイ政策を採る国が増えた。日航問題を抱える日本は、流れから取り残されている。それゆえにも日航再建が急がれる。

毎日新聞 2009年09月29日

日航再建 しがらみを断つ時だ

深刻な経営危機に直面している日本航空は、国土交通相直轄の顧問団(タスクフォース)によるチェックのもとで再建への道を探ることになった。併せて前原誠司国交相は、空港整備の財源となってきた特別会計についても抜本的に見直す考えを表明した。

経営悪化に直面するたびに日航は日本政策投資銀行などからの緊急融資でしのいできた。困れば政府系金融機関に頼るという日航の親方日の丸的な体質はかねて指摘されてきたところだ。

海外の航空会社との資本提携も含む形で日航が示した経営改善計画案について前原国交相は、「不十分」と判定した。国交省と日航、そして政策投資銀行を軸にした銀行団という、従来の構図で再建策を策定しても、日航の抜本的な再建にはつながらないと判断したからだろう。

タスクフォースは、企業再生の実務のプロで構成し、日航はこのタスクフォースの指導を受けながら10月末までに再生計画の骨子を策定し、11月末をメドに最終的な再生計画をまとめるという。

日航を取り巻くこれまでのしがらみとは無関係に、事業内容を洗い直し、将来戦略を見据えた再建策を策定するのが、タスクフォースの課題だ。過去のいきさつに拘泥せずに、大胆に切り込んでもらいたい。

ただ、日航の経営問題は、日航だけが責めを負えばいいという問題ではない。日本の航空運輸をめぐる政治と行政のなれあいの縮図が、日航の経営に投影されていることも忘れてはならない。

ハブ機能を果たす首都圏の空港の発着能力に限界がある一方で、地方空港の建設を続けた。その結果、採算がとれない路線が広がり、日航の経営の足を引っ張った。

空港整備の財源となっている特別会計にメスを入れるのは当然のことで、着陸料や航空機燃料税などが、空港という箱物に流れ続ける構造を断ち切ってもらいたい。

前原国交相は日航の自主再建をめざすという。しかし、複雑な労務問題や、退職者年金に対する過重な負担といった問題を解決するには、民事再生法など法的な枠組みの活用も視野に入れるべきだろう。

日航の収支改善のためには不採算路線からの撤退は仕方がない。ただ、離島など生活に不可欠な路線や、地域活性化のための路線については、個別に公的な支援を設け、運航を維持する仕組みも必要だ。

政官業のもたれあいという、責任の所在が不明確な構図の中で、日航の経営問題は繰り返されてきた。その背景にある特別会計の問題も含め、抜本的な刷新を期待したい。

読売新聞 2009年09月27日

日本航空再建 特別チームで荒療治は可能か 

日本航空の自助努力に任せていては、とても再建できないと判断したということだろう。

前原国土交通相が、深刻な経営不振にあえぐ日航の立て直しを委ねる、直属の特別チームを発足させた。

日航が自ら策定中だった再建計画に代わって、より抜本的な案を作り、実行を指揮してもらうのが目的である。

「親方日の丸」体質から日航を脱却させる荒療治といえる。これが再生の最後の機会ととらえ、日航は再生案作りとその実現に協力しなければならない。

特別チームは「JAL再生タスクフォース」と名付けられた。高木新二郎弁護士や経営コンサルタントの冨山和彦氏ら、5人のメンバーで構成されている。うち4人は「産業再生機構」の首脳・幹部経験者だ。

再生機構は2003年に設立され、バブル崩壊でつまずいたダイエーやカネボウなどを立て直し、産業界と銀行を苦しめていた不良債権問題の解決に貢献した。

今回の特別チームは、この再生機構の一時的“復活”とも言えよう。難航する日航再建を、経験豊富な企業再生のプロに任せる、というわけである。

特別チームは、まず日航の資産を精査して10月末までに新たな再建計画の骨子を作り、11月末までに最終案をまとめる予定だ。

日航が、再建を外部の専門家に頼らざるを得なくなった一因は、経営陣の力量不足にある。

日航は自前の再建計画に、従業員の賃金カットや6800人の削減、国内外50路線の廃止などを盛り込む予定で、OBに支払う企業年金の削減も考えていた。

デルタ航空、アメリカン航空といった海外の航空大手との資本・業務提携交渉も進めていた。

だが、いずれのリストラ内容についても、国交相は「具体性、実現可能性についてはまだまだ不十分」と述べている。

路線を廃止される自治体や日航の労働組合は強く反発しており、実現は容易でない状況だ。

年金のカットには日航OBが大反対している。外資との提携交渉は、国交省との思惑の違いもあって難航が予想される。

こうした状況を考えれば、国交相が再建を進める体制を一新したのも当然だろう。

ただし、特別チームによる新たな計画がまとまっても、それを着実に実行するのは現場の責任だ。日航経営陣は再建に向け、これまで以上に汗をかく必要がある。

産経新聞 2009年09月26日

日航再建計画 忘れてならぬ安全の視点

深刻な経営危機にある日本航空の再建問題が大きな転機を迎えた。同社の自主再建案を不満とする前原誠司国土交通相が直属の特別チームを組織し、外部の手による独自計画づくりに着手したことによる。

新チームは、旧産業再生機構の委員長を務めた高木新二郎野村証券顧問ら企業再生の専門家5人で構成される。国交相は設置の狙いについて「日航の計画には過去のしがらみがある。しがらみのない専門家に根本的に白地からまとめてもらう」と語っている。

新たな計画案は10月末ごろまでに骨子をまとめ、11月末ごろに確定する見通しだが、当然ながら日航にとっては相当に厳しい内容となりそうである。

過去数度にわたる自主再建計画がいずれも失敗に終わったことを考えれば、こうした“荒療治”もやむを得まい。ただ、国民の足である航空会社の再建は、何より安全性の維持を抜きにしては考えられない。国交相にはその点を十分に意識し、計画の取りまとめに指導力を発揮してほしい。

日航が鳩山新政権発足後に示した経営改善計画には、国際、国内あわせ50路線の廃止やグループ従業員の14%にあたる6800人の削減、企業年金の大幅カットなどが盛り込まれている。

加えて、欧米の有力エアラインとの資本・業務提携を進める方針も示し、政府の後押しで今年度内だけでも1千億円規模の資金調達を行う考えのようだ。

しかし、調達先として当てにしてきた日本政策投資銀行や民間の国内銀行団は、さらなる追加融資には及び腰だ。組合が8つに分かれる複雑な労使関係からくる全社一丸体制の欠如、完全民営化後も困ったときは国に泣きついてきた抜きがたい「親方日の丸」体質への不信などが背景にある。

この責任は、需要無視で地方空港を次々と建設し、不採算路線の運航を押しつけてきた国交省や政治家にもある。特別チームが担う再建計画の成否は、こうした根深い癒着構造に、いかに鋭いメスを入れられるかもカギとなる。

いずれにせよ、新たな再建案は経営に対する政府の関与が大きくなることは間違いない。国の支援を条件に現経営陣の大幅入れ替えを求める可能性もある。だが、その場合も人の生命を預かる航空会社であることの特殊事情は決して忘れてはなるまい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/54/