対中外交 首相はビデオ全面公開を 

朝日新聞 2010年11月02日

北方領土訪問 交渉の成果無にするのか

日ロの関係を大きく傷つけた動きと言わざるをえない。

「両国関係に重大な支障が生じる」という日本政府の警告を振り切って、ロシアのメドベージェフ大統領が北方領土の一つ、国後島を訪問した。

ロシアの最高指導者が北方領土を訪れたのは、これが初めてだ。「領土問題は存在しない」と強弁していた時代の旧ソ連の最高指導者ですら、ここに足を踏み入れたことはない。

領土問題は、互いの歴史や国民感情と複雑に結びついており、解決が極めて難しい。だからメドベージェフ氏自身が、静かな環境で話し合う必要を強調してきた。北方四島の帰属問題を交渉で解決することを、ロシア政府も日本政府と何度も合意している。

なのに、ロシア側は「自分の領土のどこに行くかは、大統領自身が決める」(ラブロフ外相)と、訪問を強行した。これまでの交渉の成果をほごにしかねない乱暴なやり方だ。

日本側は、菅直人首相が「四島はわが国の領土である」と国会で遺憾を表明した。前原誠司外相もロシアのベールイ駐日大使を呼び、「日本の原則的立場と相いれず、わが国民感情を傷つける」と抗議した。今後も外交手段を尽くして、日本の立場をロシア側にはっきりと伝えていくべきだ。

今回の動きは様々な見方ができる。

再来年の大統領選に向け、メドベージェフ氏が強い指導者ぶりを示したかったのかもしれない。中国と共同歩調を強めるロシアが、尖閣諸島の領有問題に揺れる日本外交の足元をみて、揺さぶりをかけた可能性もある。

日本側も、「不法占拠」などの声高な主張を繰り返したことが、ロシア側の強硬な反応を招いた面がある。

だが、いま日本との関係を損なうことはロシアにもマイナスだろう。

ロシアは米国とともに、日中や東南アジア諸国などがつくる東アジアサミットへの正式参加が決まった。ロシアは極東やシベリアの開発をにらんでアジア・太平洋地区への関与を強めており、経済統合や安全保障の問題でより建設的な役割を果たすことを求められる。そうしたおりに、日ロが関係を進めて連携の可能性を広げる利益は、両国にとって極めて大きい。

今回改めて示されたのは、対ロシア外交の難しさだ。過去、日ロ関係が進展に向かう時には、橋本龍太郎元首相の「ユーラシア外交」など、両国の利益を見据えた大きな構想が日本側にあった。大国意識の強いロシアを相手に「固有の領土」などの正論を繰り返すだけでは、関係は進めにくい。

今月、横浜であるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議には、メドベージェフ氏も出席の予定だ。日本の対ロ外交を立て直し、ロシアに自制を求める契機としたい。

毎日新聞 2010年11月02日

北方領土訪問 露大統領は信義違反だ

ロシアのメドベージェフ大統領が北方領土の国後島を訪問した。帰属先について日露両政府が交渉を継続中の地域にロシア首脳がソ連時代を通じて初めて足を踏み入れたことは、今後の領土交渉を一層困難にするだろう。日本の事前警告を無視した訪問強行を正当化するロシアの主張を認めるわけにはいかない。

大統領の国後島訪問についてロシア側は、クリル(千島)諸島社会経済発展計画に基づいて建設・修復された施設の視察が目的としている。しかし、国家元首の訪問によって北方領土の領有を既成事実化する狙いがあるのは明らかだろう。

前原誠司外相がロシアの駐日大使に「わが国国民の感情を傷つけるもので極めて遺憾だ」と厳重抗議したのは当然である。

北方領土は第二次世界大戦で日本がポツダム宣言を受諾した後にソ連軍が占拠した。日本が千島列島を放棄したサンフランシスコ講和条約にソ連は署名しておらず、日露の国境は法的に未画定のままだ。

ソ連が歯舞、色丹2島の引き渡しに応じることを明記した1956年の日ソ共同宣言は、同時に平和条約締結交渉の継続もうたっている。プーチン首相も大統領就任当初、ロシアはソ連の法的継承国として56年宣言を履行する義務があるとの考えを表明していた。56年宣言は両国の国会承認を経ており、今回の大統領の行動は信義に反する。

メドベージェフ大統領は6月の菅直人首相との会談で「双方に受け入れ可能な、建設的な解決を模索していきたい」と述べたばかりである。しかし、今回の訪問が「建設的な解決」を遠ざけるだけでなく、日本が領土交渉とともに「車の両輪」としてきた経済分野での協力関係も後退させるのは避けられまい。ロシアも大きな損失をこうむることを認識すべきである。

民主党政権はまた難しい外交課題を背負った。鳩山前政権は普天間問題で日米関係を停滞させ、菅政権は漁船衝突事件での中国の外交攻勢に有効な手を打ち出せない。

対露外交でも消極姿勢が目立つ。ロシアに実効支配を許している北方領土の問題を動かすには日本側から積極的に働きかける必要がある。しかし、政権交代後は首相が一度も訪露していない。大統領の北方領土訪問を許したのは、こうした日本側の甘さにも原因があるだろう。

中国とロシアの首脳が戦略的関係を進める共同声明に署名するなど、日本を取り巻く国際環境は厳しさを増している。菅政権はこうした動きに対応するため、日米関係の再構築を軸に総合的な外交戦略を固める必要がある。

読売新聞 2010年11月02日

北方領土訪問 露にも足元見られた民主政権

我が国の主権をないがしろにする行為だ。前原外相がただちに駐日ロシア大使を呼んで抗議したのは当然である。

ロシアのメドベージェフ大統領が1日、北方領土の国後島を訪れた。大統領の北方領土訪問は、ソ連時代を含めロシアの国家元首として初めてだ。

日本政府は、9月末に大統領が北方領土訪問の意向を示して以来、強い懸念を表明し、外交ルートを通じて訪問しないよう求めてきた。これをまったく無視しての訪問である。極めて遺憾と言わざるを得ない。

今回の北方領土訪問の背景には、2012年のロシア大統領選をにらみ、「強い指導者像」をアピールして権力基盤を固める狙いがあると見ることもできる。

しかし、それだけではあるまい。民主党政権は、昨年の発足以来、米軍普天間基地の移設問題で日米関係にきしみを生じさせた。最近では、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件をきっかけとした日中関係の険悪化に対しても有効な手を打てないでいる。

ロシア側は、民主党政権による外交政策の混迷、混乱の足元を見て、日本の北方領土4島返還要求を牽制(けんせい)したと言えよう。

菅首相は、日米同盟を基軸とする外交態勢の全面的な立て直しを図ることが急務である。

日露間の領土交渉は、膠着(こうちゃく)状態にある。日本政府は4島の返還を主張しているのに対し、ロシア側は2島引き渡しをうたった1956年の日ソ共同宣言を基礎とする考えを示すにとどまっている。

大統領はこれまで、冷戦時代とは違う発想で「独創的アプローチ」をとることを提案していたが、それも言葉だけで、何ら具体的な中身を示したわけではない。

極東地域の開発促進を目指すロシアにとって、日本の先進技術や経済協力は魅力的なはずだが、ロシアが今回のような態度に出たことで、日露関係は一段と冷え込むことになるだろう。

従って、北方領土問題の解決には相当な年限を要することを覚悟せざるを得ない。

今月中旬には横浜でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれ、大統領も来日する。日露首脳会談が行われれば、菅首相は、大統領の挑発的な行為に対し、毅然(きぜん)とした態度で抗議しなければならない。

ロシア側が、引き続きこうした強硬姿勢をとるなら、日露間の経済関係にも支障が生じることを警告すべきだ。

産経新聞 2010年11月03日

憲法公布64年 国家の不備を正す時だ 尖閣を守る領域警備規定を

憲法公布から64年を経た日本がいま、これまで想定していなかった事態を迎えつつある。

尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件は、力ずくで現状を変更しようとする大国の正体をみせつけた。ロシアのメドべージェフ大統領の国後島訪問も、日本固有の領土への不法占拠を既成事実で正当化しようとする試みだ。

中露による揺さぶりは、今後さらに先鋭化するかもしれない。外交による打開に努めるのはいうまでもないが、日本の領土である尖閣諸島に対する中国の領有権の主張がさらにエスカレートした場合、尖閣の守りが危うくなりかねない事態を迎えよう。

そのとき日本はどうするのか。主権国家として不法な行動を排除できるのか。答えは困難、としか言いようがない。

例えば、領海を侵犯する無害でない行為を日本は排除し、処罰する規定を持っていない。こうした国家としての不備が他国につけ込まれる一因にもなっている。

これらは憲法9条の戦力不保持規定に象徴される「非軍事化」に束縛されているからだ。これで、これからの荒海の世界を乗り切れるのだろうか。憲法と日本の国のありようが問われている。

◆既成事実化を狙う中国

衝突事件の起きた9月7日、尖閣周辺では160隻もの中国船が確認され、そのうち約30隻が領海侵犯していた。それが日常茶飯事だという。

尖閣諸島に対し、中国は着々と布石を打っている。1992年の領海法で尖閣を自国領土と明記し、一昨年12月には中国の海洋調査船が尖閣周辺の日本領海を9時間侵犯した経緯がある。今回も中国は、日本が中国人船長を公務執行妨害容疑で逮捕したことに対し、激しく反発した。

こうした領海侵犯に対し、海上保安庁は漁業法や入管難民法などで対処している。領海法や海洋基本法はあっても、領海の範囲や海洋開発の基本理念などを定めているだけで、「領海侵犯罪」が存在しないからだ。

先月24日、中国の漁業監視船2隻が尖閣周辺の領海の外側約22キロの接続水域を航行し、巡視船の呼びかけで約1時間半後に接続水域を出た。監視船が領海内に居座ったとしても、退去を呼びかけるしか排除の方法がない。領海外への強制退去を可能にする法的根拠がないのである。

もう一つの喫緊の課題は、自衛隊を有効に活用できるかだ。海上自衛隊は尖閣周辺で哨戒機による警戒などを行っている。海上警備行動が発令されたとしても巡視船と同じ警察行動しかとれない。

漁船に擬装した工作船に乗った外国人が、尖閣に上陸した場合でも、外部からの武力攻撃と認定できなければ自衛隊は動けない。

このような行動を未然に阻止する仕組みが、自衛隊に領土・領海などの領域警備の任務を与えることである。自民党やたちあがれ日本は領域警備法案などを検討している。危機的な事態を防止するためにも、政府が必要な法整備を決断すべきである。

◆審査会の早期始動を

これまで国家としての不備を放置してきたのは、「憲法改正が戦争につながる」といった戦後の絶対平和主義が色濃い論議に押さえ込まれてきたからだ。自らの手足を縛り他国と摩擦を起こすまいとの判断が、主権を脅かされる事態を招いたといえる。

一方で注目すべき動きがある。平成19年に衆参両院に設置された憲法審査会は、憲法改正原案を発議することができるが、設置から3年以上も始動しないままの状態が続いている。

ここにきて、ようやく参院側で打開の動きがみられる。参院の民主、自民両党幹部の協議で、委員数など審査会の運営ルールとなる「規程」の制定に民主党が応じる考えを示した。衆院は昨年の政権交代前にすでに審査会規程を制定している。参院での前向きな変化を、両院での審査会を活性化させる動きにつなげるべきだ。

日本の守りの不備をどう是正するかなどを、審査会で論議すべきだ。具体的には憲法に加え、集団的自衛権の行使容認などに踏み込み、安全保障上の問題点を取り除く必要がある。

民主党は党の憲法調査会ポストを空席にしたままだ。政権与党として、憲法改正への主体的な取り組みを求めたい。

朝日新聞 2010年10月31日

日中外交 泥沼には入らなかったが

ハノイで行うはずだった日中首脳会談は、中国側の一方的な拒否通告で実現しなかった。これで中国との関係は泥沼に入り込んだかに見えたが、きのう2人の「懇談」が短時間もたれ、ぎりぎりのところで踏みとどまった。

菅直人首相と温家宝(ウェン・チアパオ)首相は今後「ゆっくり」話す機会をつくることや、引き続き「戦略的互恵関係」の推進に努力していくことで一致したという。

しかし、ハノイ会談は、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件でささくれ立った日中関係を本格的に回復させる機会になると期待されていた。それだけに、見送られたのは極めて残念である。

中国外務省幹部は会談を拒んだ理由として、ハワイでの日米外相会談で、クリントン米国務長官が尖閣諸島について日米安保条約の対象になると発言したことを挙げる。29日にあった日中外相会談について、日本側が「事実に反する話」を流したことも非難する。

いずれも首脳会談を一方的にご破算にするには説得力を欠く指摘であり、大国にふさわしくない大人げない外交と言わざるをえない。

尖閣諸島をめぐる米国の立場は従来と何ら変わりない。事実に反する話とは、「東シナ海のガス田共同開発の交渉再開で合意」との外国通信社の報道だが、日本政府の要求で訂正された。

中国が首脳会談を拒んだ背景のひとつには、国内事情があると見られる。

中国内では反日デモが続いており、一部では共産党や政府への抗議も唱えられている。そんなおり、指導部は日本に弱腰と見られるのは避けたいし、党内にも根強い反日の空気に配慮しなければならないのだろう。

しかし、対日関係の修復は中国の安定的な経済発展に欠かせないし、国民の利益にもなる。

それは双方の問題にとどまらない。日中関係が良好に維持されることは、アジアと世界の安定と平和にとって死活的に重要である。今のような状態が続けば、国際社会が中国に向ける視線も厳しさを増すことは避けられまい。

中国の指導者は大局的判断に立ち、国民に日本との関係の大切さを改めて説得すべきである。

中国には、前原誠司外相を対中強硬派と見る人が少なくない。「前原はずし」を望む声も聞かれる。そういうことをいちいち気にかける必要はない。

とはいえ、前原外相も日本の「確固たる立場」を繰り返すだけではいけない。硬軟織り交ぜて中国を説得できる自在な外交術を見せてもらいたい。

衝突事件発生以来、菅首相がリーダーシップを発揮する場面が見えない。外交を人任せにしすぎてはいないか。

横浜でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が迫っている。胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席を、どう迎えるのか。日中外交の困難はなお続く。

毎日新聞 2010年11月01日

米国EAS参加 日本もアジア戦略持て

東アジアサミット(EAS)が30日ベトナムのハノイで開かれた。第5回の今年は米国のクリントン国務長官、ロシアのラブロフ外相が特別ゲストとして招かれ、来年から米露首脳が正式メンバーとなることが決まった。

会議後発表された議長声明は、EASが米露両国の参加によって国際的な影響力を高め、戦略課題に取り組むとの決意を表明している。アジアに有力な首脳対話が生まれたことを歓迎したい。今後、日本のアジア戦略にとってきわめて重要な意味を持つことになるだろう。

中国のめざましい台頭、これこそがいまアジア各国が直面している現実である。それが経済活力の相乗効果となることもあれば、政治的な摩擦を高めることもある。中国の風圧を受けてアジアという広大な地域の形が変容し始めているのである。

アジア各国は中国との貿易で潤っている半面、中国への依存度が高まり不安も高まっている。南シナ海の領海紛争のように、中国と周辺国との間には主権紛争の火種を抱えている。これまで表面化しなかった問題も、双方の国力が高まるにつれ、くすぶりだしてきた。新たな紛争解決の大原則が求められている。

そのような変動期に米国がアジアの一員として舞台にのぼる。中国と米国とが互いにけん制しつつ協力することによって地域全体の安定度が増すことを期待したい。

EAS加盟国は、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国を中心に、その北の日中韓、南のオーストラリア、ニュージーランド、西のインドという顔ぶれだった。これに米露が加われば、太平洋とユーラシア大陸全体を包む舞台ができる。東南アジア中心のEASからの脱皮だ。

EASは、ASEANプラス日中韓の枠組みを土台に作られた。背後には、中国の影響力が東南アジアへ拡大することをけん制しようという日本の外交戦略があった。半面、米国抜きのEASは、中国の独り舞台にもなりかねなかった。

とくに今年の1月1日から中国とASEANの間で自由貿易協定(FTA)が発効した。東南アジア各国は急速に景気を回復させ、貿易の人民元決済が広がった。対抗してインドもASEANとのFTAを発効させた。

米国は「環太平洋パートナーシップ協定」(TPP)で対抗しようとしている。南シナ海での自由通航権の主張では、中国の軍事力拡大政策とぶつかっている。米国の参加はただちに安定を意味しない。むしろ地域内の対立を高めるかもしれない。EASは、それを多国間で解決する道筋をつけるための場となる。日本外交の真価が問われるだろう。

読売新聞 2010年11月01日

東アジア会議 中国の膨張を抑える手段に

アジアで軍事的な存在感を強める中国を、どう抑止していくか。その答えの一つが、東アジア首脳会議(EAS)の拡大といえよう。

東南アジア諸国連合(ASEAN)を中心に、日本、中国、韓国など16か国が参加するEASが30日、ハノイで開かれた。

来年から米国とロシアが正式参加することになっており、今回、クリントン米国務長官とラブロフ露外相も招かれた。

EASのメンバーである中国に対し、国際的な協調行動を促すための絶好の組織となるのではないか。日本は米国と緊密に連携し、EASを地域の安全保障問題を話し合う枠組みとして活用していくべきである。

EASは、地域の経済連携を進めるための枠組みとして2005年に創設された。環境や省エネ、防災など個別テーマの地域協力でも一定の成果を上げてきた。

しかし、南シナ海では近年、中国が自国の漁船保護を名目に漁業監視船を派遣し、他国との摩擦を繰り返し引き起こしている。

EASに先立って行われたASEAN・中国首脳会議でも、中国は、ASEAN側が求める法的拘束力を持つ「行動規範」の策定に応じなかった。

今年になって、米国やロシアをEASに参加させようとの議論が急浮上したのも、ASEANだけで中国に対抗するのは限界があると判断したためだろう。

菅首相は30日のEASで、米露の参加を歓迎したうえで、安保分野のテーマもEASの場で積極的に議論することを提案した。

首相は「我々は海洋で結ばれ、周辺海域の平和と安定が不可欠だ。EAS参加国で強固な信頼関係を醸成したい」とも述べた。

日本は東シナ海で、中国の海軍力増強の脅威にさらされている。インドもインド洋で同様の懸念を抱き、米国も「航行の自由の確保は国家利益」と言明している。

懸念を共有する国が、中東と東アジアを結ぶ海上交通路(シーレーン)の安全を阻害しないよう足並みをそろえて促せば、さすがの中国も自制せざるを得なくなるのではないか。

核開発を進める北朝鮮への経済制裁でも、各国が共同で北朝鮮関連船舶に対する貨物検査を強化すれば、国連安全保障理事会の制裁決議の実効性は格段に増す。

菅首相が提案した通り、米露も参加するEASは、政治・安全保障問題も幅広く扱う枠組みに改めることが合理的であろう。

産経新聞 2010年11月02日

露大統領国後訪問 大使召還など対抗措置を

ロシアのメドベージェフ大統領が国後島を訪問した。日本固有の領土である北方四島の不法占拠を固定化する暴挙であり、断じて認めるわけにはいかない。日本政府は最大限の対抗措置を取らなければ、北方四島返還が画餅(がべい)に帰すことを認識すべきだ。

菅直人首相は「大変遺憾だ」と述べた。前原誠司外相も「国民感情を傷つけるものだ」と非難し、駐日ロシア大使を呼んで抗議した。だが、これでは不十分だ。対抗措置として駐露日本大使を召還すべきだ。さらにロシアへのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議招請を再検討することも通告すべきだろう。

ロシア大統領の背信は、帰属先が未解決の領土に足を踏み入れたことだ。ロシアは1993年の東京宣言で「北方四島の帰属に関する問題を法と正義の原則により解決する」と約束した。係争地であることを公式に認めたのだ。

歴代の指導者も領土問題の存在を認めたからこそ、四島の地を踏まなかった。日本が激しく反発することを恐れたからでもある。

また大統領自らが歴史を歪曲(わいきょく)する試みに手を下したことも指摘したい。ロシアは今年、第二次大戦終結を機に、日本が降伏文書に調印した9月2日を事実上の対日戦勝記念日に制定した。

ソ連による北方領土侵攻の歴史を勝手に書き換えることは許されない。先の中露首脳会談で「第二次大戦の歴史を捏造(ねつぞう)する試み」を非難する共同声明を採択したことも、北方四島返還を求める日本を牽制(けんせい)するためだ。こうした動きに菅政権が大して反発しないことなども想定して、国後島を訪問したといえる。

メドベージェフ氏は9月、ロシア名のクリール諸島(北方四島と千島列島)について「近く必ず訪問する」と言明していた。北方四島は戦後65年以上にわたり不法占拠されている。このままでは、侵略された日本の領土が「ソ連が解放した領土」と捏造され、世界に喧伝(けんでん)されることになる。

菅政権は来週、横浜市で開かれるAPECを無難に乗り切ることだけに躍起となっている。メドベージェフ氏がAPECに参加するなら、全首脳が一堂に会する場で北方領土問題を堂々とアピールすべきだ。ロシアの非を直言し、世界に示すことができなければ、将来に禍根を残すだろう。

朝日新聞 2010年10月30日

東アジア会議 米ロ参加を安定への風に

日本や東南アジア諸国連合(ASEAN)など16カ国の首脳が集まる東アジアサミットがきょう、ベトナムのハノイで開かれる。米国のクリントン国務長官、ロシアのラブロフ外相を招いて米ロの正式参加を決定する。

来年のインドネシアでの会議には米ロの大統領が出席する予定だ。両国の参加によって、この地域共同体の枠組みは、東南アジアを扇の要としつつ、米ロに届く首脳間のネットワークへと変容を遂げつつある。

この変化を促したのは言うまでもなく、アジアが国際社会で極めて重い意味を持つ地域になったことだ。目覚ましい発展を続けるアジアのエネルギーを取り込もうと、世界はこの地域に熱い目を向けている。

中小国の集まりであるASEANが好機を逃さず、米ロを引き寄せた。日米中ロといった大国の均衡を図りながら恩恵を引き出す。そんなしたたかな外交戦略がうかがえる。

しかし変化の時代はまた、国家間のきしみが生じやすい時でもある。

折しも、中国と国際社会との間でさまざまな対立が起きている。この地域では南シナ海の島々の領有権をめぐってASEANの一部の国々と、尖閣諸島や東シナ海の天然ガス開発をめぐっては日本と、摩擦が生じている。

海洋への膨張志向に対する警戒感が広がっていることを、中国の指導者は真剣に受け止めるべきだ。

とはいえこのサミットを、日本や他のアジア諸国が、米ロの威光を背に中国に対抗する場と見るのは間違いだ。ハワイでの演説でクリントン国務長官は、米国が中国の包囲網づくりに動くどころか、包括的な協力関係を強める姿勢を明確にした。

南シナ海の領有権や北朝鮮の核問題など課題は山積している。サミットの場で首脳は互いの懸念について率直に意見を戦わせ、地域の安定実現に努力してもらいたい。

日本は5年前、オーストラリアやインドなど3カ国をASEANプラス3(日中韓)の枠組みに誘って、東アジアサミットを発足させた。

ASEANプラス3は金融や防災の協力態勢作りの実績をあげた。日本主導のサミットの枠組みが変容しても嘆く必要はない。しかし米ロの参加によって、サミットで日本の存在感が消えてしまうようではいけない。

菅直人首相はハノイでメコン川流域諸国の発展への協力や、日本・ASEANの長期計画づくりを表明した。いずれも従来の取り組みの延長である。

いま必要なのは、中国の台頭という時代変化を踏まえながら、アジアに平和と繁栄を築く大きな構想だ。

米ロが参加するサミットを、地域の信頼と安全保障を支える協議の場として育てていきたい。

毎日新聞 2010年10月31日

首脳会談拒否 中国は対話再開へ動け

中国がハノイでの菅直人首相と温家宝首相の正式会談を拒否した。尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件で悪化した日中関係を修復する動きに水を差すもので残念だ。

両首相は今月上旬のブリュッセルでの非公式会談で、「戦略的互恵関係」の原点に立ち戻ることを確認した。それを起点にハノイで正式会談を行い、11月中旬に横浜市で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の際に菅首相と胡錦濤国家主席の首脳会談につなげるというのが、双方が描いた関係修復への行程表だった。

それがなぜ頓挫したのか。中国側は二つの理由を挙げている。

一つは直前にハワイで行われた日米外相会談だ。会談後の共同記者会見でクリントン米国務長官は、尖閣諸島は米国の日本防衛義務を定めた日米安保条約第5条の適用対象になると明言した。これについて中国外務省高官は「日本の外交当局の責任者は別の国と結託して釣魚島(尖閣諸島)の問題を再びあおった」と述べている。中国側が日米連携に警戒心を強めたことを示している。

二つ目はハノイでの日中外相会談だ。中国側は「事実と異なる内容を発表した」と主張している。日本側によると、これはフランスの通信社が前原誠司外相の発言として、東シナ海ガス田開発の条約交渉再開で日中が合意したとの記事を配信したことを指しているようだ。しかし、これは誤報とわかり、通信社は記事を訂正したという。

明らかな中国側の誤解である。だが、この過剰反応は海洋主権がからむガス田問題が中国にとっていかに敏感な問題であるかを示しているといえる。背景には対日政策をめぐる中国指導部内の対立があるようだ。5月の日中首脳会談で条約交渉開始を認めた温首相は苦しい立場にあるともいわれる。

しかし、そうした事情があるにしても、今回の衝突事件はそもそも中国漁船によって引き起こされたものである。「日本側が首脳会談の雰囲気を壊した。責任は日本側が完全に負うべきだ」と言うのは全く筋が通らない。

菅、温両首相は30日、短時間意見を交わし、今後「ゆっくり話す機会」をつくることを申し合わせた。難しい問題が起きた時こそトップ同士の対話が必要だ。中国は横浜での首脳会談実現へ環境づくりに努めるべきだ。

日本側にも注文したい。民主党内で「首脳会談を日本側からお願いする必要はない」との声が出ている。しかし、感情的な発言は抑制すべきだ。自ら対話の窓を閉ざすような言動は日本にとって不利になることを認識すべきである。

読売新聞 2010年10月31日

日中首脳会談 「中国異質論」強めた10分懇談

日中関係がこじれている時こそ、首脳同士がじっくり話し合い、事態の打開を図ることが重要ではないのか。

わずか10分の“懇談”で終わったのは極めて遺憾だ。

ハノイで行われた菅首相と中国の温家宝首相との非公式会談のことである。東アジア首脳会議の会場控室で急きょ持たれた。日中が引き続き戦略的互恵関係を推進することを確認したが、中身のある協議には至らなかった。

菅首相は記者会見で、「日中間にいろいろな出来事が起きているが、友好関係は継続できると確信する」と述べたものの、当初の目算が狂ったのは否定できない。

首脳会談は、29日午前の外相会談による事前調整を受けて、その夜に開かれる予定だった。ところが、土壇場になって中国の外務次官補が中止を公表した。

次官補は、尖閣諸島について、「日本が他国と結託し、問題を(あお)った」ことや、外相会談の内容説明で「中国の立場を歪曲(わいきょく)した」ことを理由に挙げた。

「他国と結託」とは、クリントン米国務長官が、尖閣諸島について日米安保条約の防衛義務の対象と明言した27日の日米外相会談を指すのだろう。だが、これは何ら目新しいものではない。

「立場を歪曲」とは、仏AFP通信が配信した「外相会談でガス田条約交渉再開を合意」の記事とみられる。しかし、AFPは誤報記事として訂正した。

首脳外交を取りやめるにしてはあまりにもお粗末な理由と言わざるを得ない。中国国内の対日強硬派の反発を恐れて、理由にならない理由を並べて会談を避けた、とみられても仕方あるまい。

今回の会談拒否は、結果的に、中国が扱いにくい国であるとの印象を強めることになった。

中国も、10分とは言え、会談に応じたのは、正式な首脳会談を拒否したままでは“中国異質論”がますます広がり、国際的に孤立すると危惧(きぐ)したのだろう。

11月中旬には、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席するため、胡錦濤国家主席が訪日する。

中国は、今回のような事態を繰り返してはならない。正式な日中首脳会談を開き、一方的に中断したガス田条約交渉の再開や、レアアース(希土類)輸出の正常化など、具体的な行動で「互恵」を示してほしい。

日本は、いつでも対話に応じる姿勢を維持し、冷静に対処することが肝要だろう。

産経新聞 2010年11月01日

中国の強圧姿勢 独善改め責任ある大国に

日中首脳会談の一方的な拒否などに見られる中国の独善的な外交姿勢は責任ある大国の名にふさわしいのかどうか。ハノイでの東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議に出席した各国首脳らの多くがそんな疑問をもったのではないか。

一連の会議でASEANが、経済的影響力を強める中国に対して現実的な協調姿勢をとる一方、目に余る横暴ぶりにクギをさす動きを示した点は評価したい。中国はアジア太平洋の声を真剣に聞くべきだ。

ASEAN首脳会議では、加盟10カ国のうちフィリピン、ベトナムなどが中国と領有権を争う南沙諸島について、すでに合意している紛争解決のための「南シナ海行動宣言」の強化で一致した。中国は難色を示すが、ASEAN側は宣言を法的拘束力をもつ「行動規範」に格上げするよう多国間協議を求める方針だ。

締めくくりの会議となったASEANに日中韓、インドなどを加えた16カ国による東アジアサミット(EAS)では、来年からロシアとともに正式メンバーとなる米国のクリントン国務長官が海洋での自由航行の重要性を力説し、「紛争は国際法にのっとって解決すべきだ」と中国を牽制(けんせい)した。

EAS加盟国の豪州も南シナ海での中国の活動に強い懸念を示したという。菅直人首相は「周辺海域の安全確保が重要」との表現で、尖閣諸島を含む東シナ海でも中国が軍の活動を活発化させていると懸念を表明した。日本固有の領土である尖閣諸島を中国が威圧的な姿勢で脅かしている事実はもっと率直に伝えるべきだった。EASのような多国間協議の場でこそ世論を喚起する必要がある。

クリントン長官は先のハワイでの前原誠司外相との会談で、尖閣諸島について「日米安全保障条約の範囲に入る」と日本の立場を強く後押しした。この後のハノイでの米中外相会談で、中国の楊潔●(ようけつち)外相がクリントン長官に対し、尖閣諸島は中国領土だと主張して「誤った発言をすべきではない」と抗議した。日米同盟関係を威嚇する強圧的な発言である。

日中首脳会談が中止になった翌日、ハノイでは菅首相と中国の温家宝首相との間でわずか10分間の非公式会談がもたれた。首脳外交の正常化や戦略的互恵関係の推進という当たり前のことを確認しただけでは、何も解決しない。

産経新聞 2010年10月30日

首脳会談拒否 居丈高な中国に屈するな

中国は29日夜、菅直人首相と温家宝首相との日中首脳会談を拒否した。中国外務省幹部は「首脳会談を行うムードを壊した」などと拒否の理由を説明したが、非常識な対応で、極めて遺憾だ。

中国側は同日の日中外相会談に関する日本側の発表内容が事実と異なるなどと指摘している。

だが、前原誠司外相は楊潔●(ようけつち)外相との会談で、中国によるレアアース(希土類)の輸出制限などについて懸念を表明したにすぎない。日本の国益を踏まえた当然の対応であり、非難を受けるいわれはない。

中国側は、今回の首脳会談の日程を当日になってもはっきりさせずに土壇場で拒否したが、日本側を揺さぶるねらいがあったのだろう。今回のような中国の居丈高ともいえるやり方は、国際社会の反発を招くだけだ。そのことの重大さを認識していないようだ。

尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件の後、初の外相会談で、前原氏はレアアースの輸出制限について「日本経済、世界経済だけでなく中国の経済活動にもかかってくる問題だ」と懸念を示した。

これに対し楊氏は輸出制限を否定した。中国が態度を変えないなら、世界貿易機関(WTO)に提訴する構えで臨むことが重要だ。日米の連携などでレアアースの多角的な調達に取り組む姿勢も示し、輸出制限を断念させなければならない。

前原氏は、中国側が一方的に中断した東シナ海ガス田開発をめぐる条約締結交渉の再開を求め、中国の作業船が掘削用のドリルとみられる機材を建設中の洋上施設に搬入した問題をただした。

楊氏は掘削について「これまで説明した通り」として「施設の補修のため」といった従来の説明でかわした。

こうしたやりとりを続けていては一方的な開発を許すことになる。掘削の有無を確かめるため、探査船の派遣という対抗策に踏み切ることを直接、中国側に通告すべきだろう。

首相は11月の横浜市でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議への胡錦濤国家主席の参加を確実にしようと、関係改善を急いでいるが、中国側はそこにつけ込んでくることが今回はっきりした。主権を貫くことを日本側は銘記すべきだ。毅然(きぜん)とした姿勢がなによりも求められている。

産経新聞 2010年10月29日

日米外相会談 同盟結束し中国に対抗を

前原誠司外相とクリントン米国務長官がハワイで会談した。中国によるレアアース(希土類)輸出制限問題や尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)などで緊密に協力することで一致した点を評価したい。

会談後の共同会見で、クリントン長官は尖閣諸島が日米安保条約5条(共同防衛)の「適用範囲」だと改めて強調、菅直人政権が検討中のTPP交渉参加を「歓迎し、後押ししたい」と明言した。前原氏はレアアース問題で「日米が緊密に連携して多角的資源外交を展開する」ことで合意したと述べた。

ハノイの東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議を皮切りに、来月中旬までの一連の外交舞台で、日米は安保・経済両面で強引な権益拡大を図る中国と対峙(たいじ)する正念場を迎える。日米を軸に環太平洋の民主主義諸国を結集し、日米首脳会談を実のあるものにすることが決定的に重要だ。

そのためには、安保面での強化とともにレアアースやTPP問題でも日米が足並みをそろえる必要がある。菅政権には、外相会談で示された連携を堅持し、国益をかけて米国とアジア諸国の信頼に応える外交を貫くよう求めたい。

今回の会談は、ハノイで開く東アジア・サミットや、来月の20カ国・地域(G20)首脳会合(ソウル)、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議(横浜)に至る多国間の対中外交のせめぎ合いの中で、日米の結束が問われる最初の場だった。来月、オバマ米大統領を迎えて行われる日米首脳会談の地ならしでもあった。

オバマ氏は27日、G20とAPECの直前にインド初訪問の日程を発表した。ASEANは南シナ海で中国の海洋活動を牽制(けんせい)する方策を練っている。いずれも中国の独善的行動を阻止し、経済、資源、安保面で中国を包囲する流れだといってよい。レアアース調達の多角化やTPP構想も、その有力なツールと考えるべきだ。

日米にはそうした流れの主軸を担う責任がある。問題は菅首相らにそうした戦略的認識とそれを実行する決意があるかどうかだ。

同盟を深化させ、環太平洋諸国の期待に応えるには、普天間移設や在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)問題など同盟内の懸案を速やかに前進させることが不可欠であることもいうまでもない。

産経新聞 2010年10月28日

対中外交 首相はビデオ全面公開を 

菅直人首相は東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議に出席するため、28日にベトナムを訪問する。中国の温家宝首相との首脳会談を調整しているが、気がかりなのは対中姿勢だ。

これに続き、11月には横浜でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれる。首相には、これを成功させるため、過剰に対中配慮している姿勢がうかがえるからだ。

それを端的に表すのが、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件で海上保安庁の巡視船が撮影したビデオをめぐる対応だ。ビデオは27日、政府から中井洽(ひろし)衆院予算委員長に提出されたが、全面公開を避けたい政府・民主党に対し、野党は全面公開を求めている。

日本の主張の正しさを国際社会にアピールするためにも、ビデオの全面公開が不可欠である。首相は首脳会談前に決断すべきだ。

ビデオは国会法に基づく正式な手続きで提出され、取り扱いは国会が独自に判断すべきものだ。那覇地検は横路孝弘衆院議長にビデオを提出した際に「配慮が必要なので、見る方の範囲を含めて慎重に扱ってほしい」と要望したという。中国に配慮し、政府が再び検察を利用して公開を制限しようとしているなら認められない。

主権侵害問題の棚上げは日本の国益を損なうことになる。船長釈放は、「強く押せば日本は折れる」印象を与えた点で致命的な誤りだった。

対中外交を立て直す上で、主権の問題や権益をめぐる対立を避けることなどあり得ない。事件をめぐる厳重抗議に加え、東シナ海ガス田での一方的な開発やレアアース(希土類)の輸出制限など、中国側のあらゆる問題点を厳しくただしていかなければならない。

レアアースの輸出制限は欧米でも重大視され、11月の主要20カ国・地域(G20)首脳会議で取り上げられる情勢だ。中国が貿易ルールを守らなければ、首相は首脳会談で世界貿易機関(WTO)に提訴すると通告すべきだ。

中国は24日、尖閣諸島周辺の接続水域内で漁業監視船2隻を航行させるなど、牽制(けんせい)行動をやめていない。仙谷由人官房長官は「わが国の領海内を徘徊(はいかい)されるのは気持ちがよくない」とコメントしたが、「主権侵害は断じて認められない」と、明確に抗議の意思を示さなければ国益は守れない。

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