補正予算 与野党一致で財政再建を

毎日新聞 2010年10月29日

補正予算審議へ 政権の危機感が乏しい

政府は29日、今年度の補正予算案を国会に提出し、臨時国会は山場を迎える。再三指摘してきたように、衆参ねじれのもと、今回の補正予算案の成否は今後の菅政権の行方を左右する試金石となる。にもかかわらず、政権内の緊張感、危機感はあまりに乏しいのではなかろうか。

今国会の開会以来、菅直人首相は法案を与野党で十分議論し、互いに歩み寄って成案を得ていく「熟議の国会」を唱えてきた。その姿勢は、かねて私たちも支持し、国会が変わる契機となることを期待してきた。自民党や公明党など野党側も審議拒否など旧来型の強硬手段に出れば、逆に国民の批判を浴びると承知しているのだろう。「熟議」路線には反対していないようだ。

そんな空気に甘えているのか。既に補正予算案編成の段階で野党の提案は取り入れたから十分というのだろうか。政権側が「いずれ公明党などが補正に賛成してくれる」とたかをくくっているように見える。

臨時国会の会期は12月3日まで。新年度予算編成を控え大幅な会期延長は難しい一方、11月中旬横浜市で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)など外交日程も目白押しだ。実際には審議日程は厳しくなっているが、今後、他の法案と併せてどのようなスケジュールで審議を進めていくかもよく分からない。

本来は補正予算案の中身、つまり日本経済をどうしていくのかについて与野党間の丁々発止の議論を早く聞きたいところだ。だが、その前に控えるハードルも残っている。

野党は政治資金問題に関して小沢一郎民主党元代表の証人喚問を要求している。民主党は小沢氏が政治倫理審査会に出席することで乗り切ろうとしているが、岡田克也幹事長らが小沢氏に会うこともままならず、漫然と時間が経過している。民主党が「協力相手」として期待している公明党も「補正審議に入りたくても、これでは乗るに乗れない」というのが本音だろう。

「どちらが首相か分からない」と揶揄(やゆ)されるほど今の政権は仙谷由人官房長官が中心となっている印象は強いが、内政・外交にわたり政権全体の司令塔として機能しているとはいえない。国会対応は岡田幹事長らに任されているが影は薄い。その岡田氏主導で決めた企業献金復活には仙谷氏が不満を漏らす。問題の先送り、危機感の欠如、そして内部の不協和音。政権は危うい状況に差しかかっていると、首相らはもっと自覚すべきだ。

無論、態勢を立て直すのは菅首相の仕事である。小沢氏の国会招致問題が前に進まぬ大きな理由というのなら、もはや党代表である首相自らが小沢氏と会って説得すべき時だ。

読売新聞 2010年10月30日

補正予算案提出 早期成立へ小沢氏招致を急げ

景気の二番底の回避には、緊急経済対策の実施に必要な補正予算案の早期成立が欠かせない。

だが、政府・与党の予算審議促進の取り組みは不十分と言わざるを得ない。一層の努力が求められる。

政府が今年度補正予算案を国会に提出した。雇用対策など総額4兆8513億円の円高・デフレ対策を盛り込んでいる。財源は剰余金などを活用して国債は追加発行せず、財政再建にも配慮した。

衆院予算委員会の審議日程は固まっていない。最大の理由は、民主党の小沢一郎元代表の国会招致問題が決着しないことにある。

民主党は、小沢氏の衆院政治倫理審査会への出席を野党に打診したが、肝心の小沢氏の了承が得られていない。岡田幹事長は小沢氏に会談を要請しているものの、拒否されている。異常な事態だ。

自分の意に沿わない相手と一切会おうとしないのは、小沢氏の長年の性癖とはいえ、重要な補正予算審議の足を引っ張っているという自覚はあるのだろうか。

小沢氏は9月の党代表選で敗れた後、「一兵卒として民主党政権を成功させるために頑張る」と発言したはずだ。

小沢氏が「政治とカネ」の問題について国会で説明責任を果たさないことを、多くの国民が問題視している。民主党の自浄能力も厳しく問われよう。

小沢氏が今後も岡田氏との会談さえ拒み続けるのなら、菅首相は自ら、小沢氏の証人喚問の実現に積極的に動くべきだろう。

野党は、偽装献金事件を起こした鳩山前首相の資金管理団体の会計帳簿コピーを国会に提出することも求めている。

鳩山前首相は、「引退宣言」を事実上撤回するなど、政治活動に未練があるようだ。それなら、早く資料を提出し、身の潔白を明らかにするのが最低限の責務だ。

「政治とカネ」の問題に対する民主党の動きは鈍い。野党は世論の反発を恐れて、補正予算審議を引き延ばせまい、と考えているなら、政権党として無責任だ。

菅首相は所信表明演説で、「熟議の国会」の実現に向けて野党に協力を呼びかけた。衆参ねじれを打開し、政治の停滞を防ぐ一義的責任は、あくまで政府・与党側にあることを忘れてはなるまい。

補正予算案の規模や内容には野党の要求が一定程度反映されている。野党も、審議拒否といった旧来型の抵抗戦術をとることなく、大局的見地から与党に歩み寄ることが求められよう。

産経新聞 2010年10月27日

補正予算 与野党一致で財政再建を

政府が平成22年度補正予算案を閣議決定した。総額5兆円規模の経済対策を実施する財源を賄うものであり、円高に揺れる日本経済を下支えするためにも早期成立を図る必要がある。

一方で自民党は、政府に財政再建を義務づける財政健全化責任法案を衆院に提出し、同法案の成立が補正予算案の審議に応じる条件だとしている。

消費税増税をはじめとする財政再建に向けた取り組みは、安定した社会保障財源を確保するためにも待ったなしの状況にある。民主党は財源の裏付けがないバラマキ政権公約を撤回したうえで、野党と協力して財政再建を早期に実現しなければならない。

経済対策には学校耐震化や幹線道路整備などで6千億円規模の公共事業のほか、中小企業向けの融資拡充や若年者雇用支援などが盛り込まれた。50万人規模の雇用下支え効果が見込めるという。円高の進行で中小企業の経営や雇用環境が悪化しており、対策の遅れは許されない。

財政健全化責任法案は、国と地方の基礎的財政収支について、平成32年度までに黒字化を達成することを義務づけるものだ。社会保障財源としての消費税増税など、抜本的な税制改革も求めている。国民に消費税増税の必要性を訴えたものといえる。

すでに菅直人政権も財政再建目標を盛り込んだ財政運営戦略を閣議決定しており、財政健全化の重要性は十分に認識しているはずだ。国債の増発が長期金利の高騰につながるのを防ぐため、財政再建を法的な枠組みで進めることによって債務管理を徹底しなければならない。

そのために必要なのは、民主党が昨年夏の衆院選で掲げた政権公約の全面的見直しだ。子ども手当や農家の戸別所得補償などのバラマキ政策のため、今年度予算における新規国債発行は過去最高に達した。国債発行が税収を上回る異常事態を招いていることを、忘れてはならないだろう。

一昨年秋のリーマン・ショックを受けて主要国は金融緩和と財政出動を展開したが、欧州ではすでに財政再建法を策定した国もある。国と地方の長期債務残高が800兆円規模に達し、先進国で最悪の財政水準にあるわが国こそ、財政再建の覚悟が問われていることを自覚すべきだ。

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