毎日新聞 2010年10月27日
高齢者医療制度 負担増の議論に決着を
財源がない限り制度をどう変えても負担増は避けられない。誰かの負担を軽くすれば別の誰かが重くなる。そんな当たり前のことを改めて示したのが菅政権の新たな高齢者医療制度案である。
ふくらんでいく一方の医療費に歯止めを掛けるため、高齢者にも応分の負担を求め現役世代の負担を軽くする。現行の後期高齢者医療制度はそうした理念に基づいて導入された。これに対し新たな制度案は75歳以上の負担増を軽減し、そのぶん大企業などの健保組合や公務員の共済組合の負担を増やすという内容だ。拠出金額は加入者の給与水準に応じた「総報酬割り」にするため、年収の高い組合ほど負担が重くなる。また、70~74歳の窓口負担を順次1割から2割へと引き上げる。それでも足りないため税金投入率を現在の47%から50%へと増やすことも盛り込まれた。
結局、高齢者の負担を軽くするには現役世代の負担を重くし、税も投入するしかないわけだ。ただ、試算によると健保組合に加入している人の25年度の保険料負担(年)は10年度比9万4000円増の28万9000円になる。現在も健保組合の8割以上は赤字で、さらなる負担増に反発の声が上がっている。批判を浴びながら現行案を制定した自民・公明の旧与党が簡単に賛成するとも思えない。
ただ、制度改革のたびに負担が重くなる側が反発しその声を政権批判に利用する、という泥仕合をしても際限がない。猛烈な勢いで高齢化が進み、現役世代の人口が減っているのである。ここは与野党が虚心坦懐(たんかい)に話し合い、負担増をめぐる議論に決着をつけるべきだ。
後期高齢者医療制度は導入前からネーミングや保険料の年金からの天引きばかりに批判が集まり、本質的な議論が尽くされたとはとうてい言えない。複数の慢性疾患を持つ人が多い高齢層にふさわしい医療とは何か。「主治医」が総合的・継続的に高齢者の疾患を診る制度が同制度で導入されたが、なぜ定着しなかったのか。また、糖尿病や高血圧症など生活習慣病の割合が高まっており、壮年期に予防することによって高齢期の医療費抑制の効果が期待される。
高齢になっても働き続けられる人が増えれば医療費抑制だけでなく税収増にもつながる。メタボ健診で知られる特定健診・特定保健指導は制度導入と同時に始まった。実施状況や成果によって保険者が納付する後期高齢者支援金が増減するが、その効果はどうなのか。
そうした議論を置き去りにして負担の押し付け合いをしてもむなしい。医療の中身が肝心だ。
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