企業献金復活 ご都合主義にあきれる

朝日新聞 2010年10月28日

企業献金再開 民主党は逆行するのか

状況が見えていないのではないか。

民主党が企業・団体献金の受け入れ再開を決めた。国や自治体と、公共事業や物品調達の契約をしていないか、していても1件1億円未満の企業などに限って献金を受け入れ、パーティー券を買ってもらうという。

マニフェスト(政権公約)違反ではないと、民主党はいう。確かにそうかもしれない。

昨年の総選挙公約は「政治資金規正法を改正し、その3年後から企業団体の献金及びパーティー券購入を禁止する」とした。その一方で、当面は1億円以上の契約がある企業などについて禁じる、と記していた。

ただ、1億円未満の企業についても、民主党はこの間、献金の受け入れを差し控えていた。

政治資金についての「検討の結論が出るまで」という限定つきとはいえ、公約を超えて自制してきたわけだ。

それを、公約通りに戻すのが今回の措置だという説明である。

原理原則を重く見る岡田克也幹事長の判断なのだろう。国費である政党交付金への「過度の依存」を懸念する岡田氏の議論に、一理あることも間違いない。

しかし、今回の献金再開は後ろ向きであり、流れに逆行している。

小沢一郎元幹事長、鳩山由紀夫前首相の政治とカネの問題で、民主党は歴史的な政権交代に大きな傷をつけた。その苦境を脱する取り組みの象徴が、企業・団体献金の禁止だったはずだ。

なのに民主党は小沢氏の国会での説明にいまだ応じていない。それが壁となって政治資金をめぐる与野党協議にも入れない。あまりに対応が鈍い。

そんな状況での再開は、政治とカネへの有権者の批判の厳しさ、不信の深さを見誤っているというほかない。

公約破りではないと言い張っても、野党も納得しないだろう。

いまからでも再開を撤回すべきだ。あわせて、小沢氏の国会での説明を早く実現させてもらいたい。

与野党協議にこぎつけたとしても、禁止に向けた法改正は簡単ではない。

大きな論点は、個人献金をどう広げるかだ。それなしに企業・団体献金を禁じれば、政党助成を受けられない小さな政党は締めだされかねない。

禁止が実現しても、企業や労働組合などが禁止の対象とならない政治団体をつくったり、経営者が個人名で寄付したりする抜け道は残るだろう。

透明性を向上させる措置が不可欠である。資金管理団体や政党支部など、政治家が持つ数多くの「財布」をひとつにまとめるべきではないか。

難問だからこそ早く協議を始めなければならない。まず自らが襟を正し、決意を示すことだ。隗(かい)より始めよ、という言葉を思い出してほしい。

毎日新聞 2010年10月28日

企業献金復活 ご都合主義にあきれる

もっと早く実行すべきことが山積しているのに、なぜか、こんな話だけは即座に決まってしまう。民主党が企業・団体献金の受け入れ再開を決めたことに、あきれた国民は多いだろう。およそ説明のつかない方針転換である。

今回の決定は、国や地方自治体が実施する公共事業の受注契約額が1件1億円未満で、特に問題がないと認められる企業・団体からは献金を受け取るというものだ。

民主党は昨年の衆院選マニフェストで政治資金規正法を改正し、その3年後から企業・団体献金を禁止すると明記。当面、公共事業の受注契約額1件1億円以上の企業などによる献金禁止も公約し、今年1月以降は同1億円未満を含めたすべての企業に対象を広げていた。同党は「今回は限定付きで暫定措置」と強調しているが、後退したのは明白だ。

岡田克也幹事長ら執行部は、個人による献金が思うように集まらず、税金である政党交付金にばかり依存するのは好ましくないからだと理由を説明している。

個人献金が日本に定着しないのも確かだ。しかし、やはりご都合主義というほかない。自民党などとの政治資金規正法改正論議も進んでいないからだともいうが、これまで民主党が各党に改正を熱心に働きかけたようにも見えない。

そもそも企業・団体献金の廃止は民主党自らが主張していたように政治と業界や団体との癒着を断ち切るのが最大の目的だったはずだ。

日本経団連は今回の解禁を歓迎している。なぜか。昨年の政権交代直後は民主党と疎遠だった経済界からすれば、カネも出す代わりに口も出す、つまり政権との関係を密にすることで税制改正などで有利に話を進めたいという狙いがあるのは明らかだろう。いくら暫定措置といっても、自民党時代と何ら変わらない「政官業」トライアングルが復活するのではないかと危惧(きぐ)する。

この時期に決めたのも不可解だ。来春の統一地方選が迫る中、特に地方からの復活要望が強かったともいわれるが、政府は今年度補正予算案を決定し、国会はこれからが本番である。野党は一連の政治資金規正法違反事件に関して小沢一郎元代表の証人喚問を求め、それを実現することが補正予算案審議に入る条件となりつつある。民主党は小沢氏の国会招致問題に決着をつけるのが先だ。

菅直人首相は「クリーンな民主党」を目指しているのではなかったのか。前原誠司外相が「国民と違う方向を向いている」と語り、仙谷由人官房長官が「プラスには動かない」と述べた。そう思うのなら、当然方針を撤回すべきである。

読売新聞 2010年10月29日

企業献金再開 廃止より透明性確保が先決だ

個別企業や労働組合、医師会など業界団体の作る政治団体から献金を受け取ることを全面禁止する方針に無理があった、ということだろう。

民主党は、献金禁止の公約が破綻(はたん)していることを率直に認め、献金額の上限規制をかいくぐる迂回(うかい)献金の防止や透明性の向上に、優先して取り組むべきだ。

民主党が、1月から自粛していた企業・団体献金の受け取りの再開を決めた。

これまで民主党は、国や自治体との公共事業や物品調達の契約が1件1億円未満の企業からの献金を自粛していた。

今回、献金を再開した理由について、民主党は、巨額な契約関係がなければ癒着が防げることや、個人献金の慣行が社会に定着していないこと、党財政を政党交付金に過度に依存している実態を改めることを挙げている。

そもそも、政治活動に相応の資金が必要とされる中で、企業・団体献金を禁止すること自体、非現実的な考え方といえよう。

企業も社会の一員であり、政治献金は政治参加の一つの手段だ。「企業献金は悪、個人献金は善」という発想は誤りで、今回の民主党の判断は妥当である。

そうである以上、民主党は、衆院選政権公約で掲げた「政治資金規正法を改正し、その3年後から企業・団体献金を禁止する」方針も見直すのが筋だろう。

ところが岡田幹事長は、この方針は維持すると強弁している。

「言行不一致」との野党の批判にも、今回受け取りを再開するのは、政権公約とは関係のない、自粛していた分だとして、「公約に反していない」としている。

公約との整合性に汲々(きゅうきゅう)としているようにしか見えない。

民主党では、北海道教職員組合の違法献金事件で、労組丸抱えの選挙運動の実態が明るみに出た。企業・団体献金の廃止方針を堅持するなら、まず、労組との癒着関係を断ち切るべきではないか。

不正が発覚した際に議員が秘書に責任を押しつけることができないよう、議員の監督責任を重くすることも大切だろう。

鳩山前首相と小沢一郎元代表の「政治とカネ」の問題では、国会招致がいまだ実現していない。

1月に企業献金を自粛したのは当時、政権トップ2人の「政治とカネ」の問題が政治的な争点となっていたからだ。

この問題に背を向けたまま、自粛解除を先行させるのでは、ご都合主義のそしりは免れない。

産経新聞 2010年10月29日

民主党と企業献金 方針転換の説明を尽くせ

選挙目当てで、その場しのぎの公約だったのかという批判が出るのは当然だろう。

民主党の岡田克也幹事長が、昨年の衆院選マニフェストで打ち出した「企業・団体献金禁止」に基づく自粛方針を撤回し、国や自治体の受注企業からでも契約が1件1億円未満なら献金を容認する方針を示したことだ。岡田氏は方針転換について国民に説明を尽くし理解を求めるべきだ。

菅直人首相は「法改正から3年後に禁止する形になっていて、マニフェストに反したのではない」と批判はあたらないと主張しているが、説得力はない。

民主主義という仕組みを維持するには、それ相当のコストがかかることも事実である。寄付による個人献金がなかなか定着しない政治風土もあり、企業・団体献金をすべて否定するものではない。

ただ、自民党政権時代にも企業献金をめぐる数多くの不祥事があった。政官業の癒着による不透明な政治へのカネの流れは、何としても断たなければならない。そのためには、厳しく監視し、透明性を高める努力が欠かせない。

企業献金禁止という方向性は国民にも支持されたといえよう。だが、すべて禁止することは現実的なのか。

岡田氏の持論は「企業・団体も社会的な存在として、一定の範囲で献金を認められるべきだ」というものだったはずだ。一方、民主党には「企業献金は本来好ましくない」との考え方も根強い。

だが、企業・団体献金を全面禁止して、その分を政党助成金の増額で賄った場合、国民の理解が得られるだろうか。法改正で企業・団体献金を禁止しても、企業や労組が新たに政治団体を作って抜け道を作れば透明化に逆行する。

民主主義のコストをどう賄うべきかの議論をさらに詰める必要がある。民主党はその議論が不十分なまま全面禁止を先行させたといえなくもない。小沢一郎元代表らの政治資金問題で政治的けじめをつけないまま、政治資金規正法改正という制度論にすり替えようとしているなら認められない。

有識者でつくる「21世紀臨調」が4月にまとめた提言のように、政治家個人と選挙運動費用、資金管理団体の会計を一本化することや、政治資金の現金収受を禁じて指定口座を使わせるなどの改革は早急に実施すべきだ。

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