太平洋FTA 首相は交渉参加の決断を

朝日新聞 2010年10月26日

太平洋FTA 首相は交渉参加の決断を

経済成長を促し、雇用を増やすために国を開く。その決意を貫き、党内を説得できるか。問われているのは、菅直人首相の指導力である。

首相は太平洋を取り巻く自由貿易地域づくりをめざす「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」への参加を検討すると表明した。ところが、足元から異論が噴き出している。農業票の離反を恐れる与党議員110人が「大きな懸念」を決議し、政局混迷につながりかねない雲行きだ。

参院選で首相の「消費税10%」発言に党内から批判の声が上がったことを思い出させる。今回も後ずさりするようでは、政権の信認は揺らぐ。

TPPは米国や豪州、チリ、マレーシアなど9カ国が交渉に参加している。輸出倍増を狙うオバマ米大統領は来秋の妥結をめざす。

カナダや韓国の参加も予想され、これが環太平洋版の広域な自由貿易協定(FTA)に発展する可能性が大きい。新興国の成長力を取り込んで経済再生を図りたい日本としては当然、加わる必要がある。

内閣府は、TPPに参加すれば国内総生産(GDP)が3兆円押し上げられると試算した。その数字の妥当性はともかく、FTAが貿易拡大と経済成長に役立つという効用は過去の例からも明らかだといえよう。

5年前のFTA締結で、日本からメキシコへの輸送機械輸出は15億ドル増えた。一方、日本と豪州とのFTA締結が遅れているため、自動車メーカーが豪州とFTAを結ぶタイへ生産拠点を移す動きも出た。米国や欧州連合(EU)とFTAをまとめた韓国の積極策を日本も見習う必要がある。

TPP参加で農産物の輸入が増え、国内農業が著しい打撃を受けないかという心配が関係者の間にあることも理解できる。いまはコメの700%を超す高率関税をはじめ、手厚い保護策に守られているからだ。

だが、こうした政策では農業を守れない。農業生産額も農家所得も減少の一途で、就業者の平均年齢は65歳だ。担い手不足は深刻である。

安全で高品質な日本の農産物は、戸別所得補償など適切な政策を活用すれば、競争力を発揮できる。新興国の中間層や富裕層の拡大に伴う輸出市場の開拓も期待できる。高齢農家の農地を意欲ある農家に集め、自由化に負けない強い農業を育てる。そのためなら、農業予算がある程度膨らんでも、国民の理解は得られるのではないか。

いまから交渉に加わって、主要な農産物を関税撤廃の例外にしたり、自由化までの経過期間を長くしたりするよう主張する手もある。菅首相は横浜市で来月開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の席上、TPP交渉に乗り出す考えを表明すべきだ。

毎日新聞 2010年10月28日

環太平洋FTA 参加をためらうな

日本が繁栄を維持しようと思うなら外に打って出るほかない。「外」はとりわけアジア・太平洋地域である。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)はそのために不可欠の基盤(インフラ)となる。

しかし、このところ、TPPへの参加に与野党で慎重論が噴出している。農業への打撃が大きいというのが主な論拠だが、競争におびえて消極策に甘んじれば、悔いを百年の後に残すだろう。勇気をもってTPPへの参加を決断すべきだ。

菅直人首相は所信表明演説でTPPへの参加を検討する考えを表明した。11月にアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議が日本で開かれる。日本としてTPPへの参加を表明する絶好の機会だ。

しかし、野党だけでなく民主党内にも消極論が高まり、110人もの議員が「TPPを慎重に考える会」を結成した。大畠章宏経済産業相まで「TPPありきということではない」と言いだした。菅首相の指導力が問われる局面だ。

TPPは自由貿易協定(FTA)の構築で韓国や中国に後れをとった日本が追いつくチャンスだ。米国、チリ、豪州、マレーシアなど9カ国が関税引き下げのみならず、投資ルールの統一などをめざすもので、経済効果は10兆円との試算もある。逆にこの機会を逸すると、欧米市場さらには中国市場に関して韓国との競争条件に大差がつき、市場を奪われるおそれが強い。

農林水産省はTPPに参加すれば国内の農業生産額は4兆1000億円も減少し、関連産業を含めれば国内総生産(GDP)は約8兆円近く減ると試算する。しかし、海外産品が国内価格より1円でも安ければ、農産品が全滅するような主張はいただけない。牛肉の関税は38・5%で内外価格差より小さいが、国産牛肉は消滅していないではないか。

かつてウルグアイ・ラウンド(多角的貿易交渉)に際して、農業自由化の代償として6兆円の対策費が支出されたが、農業の自立と無縁の土木事業などに費消され、農家からさえ批判された。民主党が拡充した農家に対する戸別所得補償制度も、FTAに備える目的だったはずだが、ばらまきの補助金と化している。

いま、先進的な日本のコメ農家は中国や米国に負けない競争力を有し、条件が整えば輸出さえ展望できる力がある。国の補助は農家の規模を拡大し、意欲のある農家を伸ばす方向に使わなくてはならない。

TPPのめざす自由化のハードルは高く、徹底した市場開放が求められるのは事実だ。しかし、それは相手も同じ。そこに日本のチャンスがある。決断のときだ。

読売新聞 2010年10月27日

太平洋経済連携 首相は交渉参加に指導力を

アジア太平洋で貿易や投資を自由化する経済連携に加わるかどうか。政府や民主党内などで意見が対立している。

アジアなどの経済活力を取り込み、成長を実現していくことは、日本にとって極めて重要な課題だ。菅首相は指導力を発揮して党内の意見集約を急ぎ、この連携に積極的に参加できるよう、決断すべきだ。

構想は、2006年にシンガポール、チリなど4か国で発足した自由貿易圏が母体で、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)と呼ばれる。米国や豪州なども後から参加し、来秋の合意を目指して9か国で交渉している。

カナダ、中国、韓国も参加に前向きとされ、将来、大連携に発展する可能性が高いだろう。

日本がTPPに不参加なら、経済発展に欠かせない枠組みから締め出されてしまう。早期に交渉に加わり、貿易拡大や新たな成長を目指すのは当然の判断だ。

賛否の論議が活発になったのは、首相が交渉参加を検討すると国会で述べたのが発端だ。

経済連携協定(EPA)の戦略で韓国などに出遅れた日本は、ようやく、11月上旬にEPA基本方針を策定する。首相はTPP参加を盛り込みたいようだ。

来月横浜で開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、首相は議長として自由貿易推進の議論を主導する狙いもうかがえる。

通商政策の巻き返しは急務であり、首相の意欲は評価したい。

しかし、TPPは原則、物品の関税を撤廃するルールだ。高関税で保護されている日本のコメなどの農産物も関税撤廃を迫られかねず、高いハードルでもある。

農業団体と農水省は猛反発し、TPP参加に反対する民主党の会合には鳩山前首相や山田前農相らが出席した。推進派の外務、経産両省や経済界と対立している。

鳩山前首相らは、TPP反対より、政権への揺さぶりを優先しているのではないか。

TPP参加の影響に関する正反対の試算が混乱を招いているのは事実だ。経産省などは、TPPの経済効果を約7兆~10兆円と試算したが、農水省は生産縮小などの損失が16兆円に達するとした。

政府は効果の試算を一本化し、国民に示すべきだ。それがなければ、的確な判断はできまい。

民主党政権は、農家の戸別所得補償制度を導入したが、国際競争力向上の視点を欠く。ばらまき政策を見直し、自由化に備えた農業の強化策を急がねばならない。

産経新聞 2010年10月26日

TPP 対中安保から参加決断を

環太平洋の民主主義諸国による経済連携協定の枠組みである環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に日本が参加するかどうかが大きな焦点になっている。

多国間で自由化を進めるTPPの枠組みを積極的に活用すれば日本のデフレ脱却に有効だ。経済のチャイナリスクや尖閣諸島問題などの安保戦略面からも首相はTPP参加を決断し、指導力を発揮すべきだ。

TPPはシンガポール、ニュージーランドなどの4カ国が2006年に結んだ自由貿易協定(FTA)が始まりだ。オバマ米大統領が昨年、TPPへの参加方針を表明、俄然(がぜん)環太平洋の経済圏として注目されるようになった。

多国間の枠組みで関税を撤廃し、投資ルールなどの統一もめざすTPPのメリットは極めて大きい。経済産業省は、国内総生産(GDP)の押し上げ効果を10兆円と試算している。

FTAには2国間と多国間での締結がある。菅直人首相とシン・インド首相が25日合意したのは2国間FTAの拡大版の経済連携協定(EPA)だ。中国に次ぐ成長市場で民主主義大国のインドと関係を深めるのは重要だ。関税の大幅撤廃と投資ルールの共通化など経済上の利益も大きい。

日本のFTA戦略は、世界からの周回遅れが指摘されている。日本は農産物市場の開放に対する国内の反対が根強く、最小限の開放で済む2国間のFTAやEPAを優先させてきた。

アジアではASEANに日中韓を加えたFTAなどの構想があるが、中国の政治体制の問題もあって交渉は始まっていない。TPPなら日米同盟強化にもつながる。中国のレアアース(希土類)輸出制限などで表面化した問題にも共同で対処できる。

だが、TPPに参加するには関税撤廃の例外措置が認められず、コメを含む大胆な農産物の市場開放が避けられまい。

TPP参加による国内農業への打撃をいかに緩和するか。バラマキとなっている現行の戸別所得補償制度を続けながら、農業支援を追加すれば、歳出は際限なく膨らむだけである。限られた予算を意欲ある農家の規模拡大と担い手育成に集中投入し、国内農業を強くしなければならない。TPP参加とともに、首相は農業の抜本改革を進めるべきである。

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