アジア太平洋で貿易や投資を自由化する経済連携に加わるかどうか。政府や民主党内などで意見が対立している。
アジアなどの経済活力を取り込み、成長を実現していくことは、日本にとって極めて重要な課題だ。菅首相は指導力を発揮して党内の意見集約を急ぎ、この連携に積極的に参加できるよう、決断すべきだ。
構想は、2006年にシンガポール、チリなど4か国で発足した自由貿易圏が母体で、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)と呼ばれる。米国や豪州なども後から参加し、来秋の合意を目指して9か国で交渉している。
カナダ、中国、韓国も参加に前向きとされ、将来、大連携に発展する可能性が高いだろう。
日本がTPPに不参加なら、経済発展に欠かせない枠組みから締め出されてしまう。早期に交渉に加わり、貿易拡大や新たな成長を目指すのは当然の判断だ。
賛否の論議が活発になったのは、首相が交渉参加を検討すると国会で述べたのが発端だ。
経済連携協定(EPA)の戦略で韓国などに出遅れた日本は、ようやく、11月上旬にEPA基本方針を策定する。首相はTPP参加を盛り込みたいようだ。
来月横浜で開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、首相は議長として自由貿易推進の議論を主導する狙いもうかがえる。
通商政策の巻き返しは急務であり、首相の意欲は評価したい。
しかし、TPPは原則、物品の関税を撤廃するルールだ。高関税で保護されている日本のコメなどの農産物も関税撤廃を迫られかねず、高いハードルでもある。
農業団体と農水省は猛反発し、TPP参加に反対する民主党の会合には鳩山前首相や山田前農相らが出席した。推進派の外務、経産両省や経済界と対立している。
鳩山前首相らは、TPP反対より、政権への揺さぶりを優先しているのではないか。
TPP参加の影響に関する正反対の試算が混乱を招いているのは事実だ。経産省などは、TPPの経済効果を約7兆~10兆円と試算したが、農水省は生産縮小などの損失が16兆円に達するとした。
政府は効果の試算を一本化し、国民に示すべきだ。それがなければ、的確な判断はできまい。
民主党政権は、農家の戸別所得補償制度を導入したが、国際競争力向上の視点を欠く。ばらまき政策を見直し、自由化に備えた農業の強化策を急がねばならない。
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