日本とインド 幅の広い協力関係に

朝日新聞 2010年10月27日

日本とインド 連携してアジアの繁栄を

日本が久しぶりに実現した外交関係の前進といえる。

インドのシン首相が来日し、菅直人首相との首脳会談で経済連携協定(EPA)の締結に正式合意した。中国が輸出制限に動いているレアアース(希土類)でも、インドからの供給に向けて協力を進めることが決まった。

インドの人口は中国に次ぐ12億人。英語と数学に強い国民性を生かし、情報技術(IT)産業を原動力にアジアで3位の経済力を誇る大国になった。世界最大といわれる総選挙で政権が交代している民主主義国である。

日本と価値観を共有し、領土や歴史認識のしがらみもなく、これから大きな成長が期待される国と結びつきを強めることは極めて意味が大きい。

両国は、2国間のほか世界経済など地球規模の問題でも協力を進める「戦略的協力関係」の構築に2006年から取り組んできた。いまやインドは円借款の最大の受け入れ国であり、日本からの直接投資も中国と並んで最大級となっている。

だが日本からみた貿易額は1位である中国の25分の1しかなく、経済関係はまだ薄い。日本で学ぶインドからの留学生も中国からの150分の1で、人的交流の強化もこれからだ。

経済連携協定は、貿易を妨げる関税を10年かけて90%以上撤廃する。知的財産や人の移動も活発化させる。関係を「戦略的」の名にふさわしい実のあるものにしてゆきたい。

中国は洋上の島々をめぐって周辺国に主張しているのと同様に、1962年に国境紛争を起こしたインドにも、国境にある州などの領有を主張している。さらにインドと対立するパキスタンに軍事援助や原子力協力を進め、スリランカやミャンマー(ビルマ)で港湾整備を支援するなど、インド洋方面でも圧力をかけている。

けれど、インドにとっても最大の貿易相手国は中国であり、相互依存の重要さは無視できない。訪日前にシン首相は、アジアで目指すべきは日印中が積極的に関与する繁栄した共同体だ、と述べて配慮を示した。この点で首脳会談が、中国との国境問題の解決には「中国をより生産的で開放的な対話に関与させるのが最善」との考えで一致したことは評価したい。

重要なのは、日本とインドの連携強化が他の国の反発や懸念を招くことなく、アジア・太平洋地域の安定と平和の強化や、経済統合の推進に確実につながることだ。

その意味で、首脳会談が交渉を加速すると合意した日印の原子力協力協定は重要だ。締結は巨大なインドの原発市場への日本企業参入につながるが、インドは核不拡散条約(NPT)に加わらずに核武装した。核不拡散体制を傷つけぬ解決策を築く必要がある。

毎日新聞 2010年10月27日

日本とインド 幅の広い協力関係に

菅直人首相とインドのシン首相が今後10年にわたり日印の協力関係を拡大していくことをうたった共同声明を発表した。

今回の首脳会談の成果のひとつは貿易、投資などを自由化する経済連携協定(EPA)締結の正式合意だが、両国が進めるべき連携は経済にとどまらない。政治、安全保障、人的交流なども含めた幅広い協力関係へつなげたい。

日本とインドは05年から毎年、首脳の相互訪問を行っている。06年からは両国関係を「戦略的グローバル・パートナーシップ」と位置づけて協力関係の強化を図ってきた。しかし、付き合いの程度はまだ限定的というのが実情だ。

経済関係は拡大傾向にある。貿易額もインド進出の日系企業も増えている。だが、貿易の相手国として日本はインドにとって14位、インドは日本にとって27位と重要度が低い。貿易相手のトップはいずれも中国だ。人の交流も、日本からインドへの訪問者は中国への訪問者の24分の1、訪日観光客は中国人の20分の1、在日留学生も中国人に比べ圧倒的に少ない。

EPAは、こうした限られた協力関係の幅を広げるために効果があるだろう。協定が発効すれば10年以内に貿易総額の94%に当たる物品の関税が撤廃されることになる。首脳会談でシン首相は「日本には技術と資金、インドには労働力と市場がある」と述べた。相互補完関係に基づく「互恵」が生まれれば両国の距離をもっと縮められるはずだ。

両首脳が合意した閣僚クラスによる経済対話の新設や査証手続きの簡素化が経済・人的交流の拡大を後押しすることを期待したい。

一方、安全保障に関し両国は7月にインドで外務・防衛次官クラスによる初の定期対話を行い、今回の共同声明でこれを「歓迎」した。テロへの共同対策やシーレーン防衛協力のあり方を模索するのが主眼だが、東シナ海などで活動を活発化させ、インド洋でも影響力を強め始めた中国をけん制する効果もある。この分野での対話の強化を図るべきだ。

レアアース(希土類)の開発協力を進めることで合意したことも、資源調達の中国依存を是正する観点から意味がある。

日印原子力協定について菅首相は唯一の被爆国として核軍縮・不拡散を強く求める日本の立場を説明したが、シン首相は「インドは一方的に核実験モラトリアム(凍結)を宣言しており核軍縮にも強い立場で臨んでいる」と答えるのにとどめた。日本は、インドが日本の原子力協力を軍事転用しない確かな保証を得るための努力を続ける必要がある。

読売新聞 2010年10月26日

インド首相来日 経済・安保両面で連携深めよ

南アジアの大国インドは、経済発展が著しい有力な市場というだけでなく、中国の軍事的膨張への懸念を日本と共有する国である。

経済、安全保障の両面で、戦略的に連携を強化する必要があろう。

インドのシン首相が来日し、菅首相との首脳会談で、「日印閣僚級経済対話」を新設することで合意した。

日本は、同様の閣僚級協議を中国とも設けている。しかし、中国は、尖閣諸島沖の漁船衝突事件で露呈したように、共産党独裁体制の下、政治的要求を通すために経済や人的交流も絡めた圧力外交を平気で行う国である。

一方、インドは民主主義国家であり、法の支配などの価値観も同じだ。中国のような政治的リスクはない。加えて、中国に次ぐ12億人の人口を抱え、約9%の高成長を続けている。

インドとの経済連携の強化は、中国への経済的依存の軽減に大いに役立つだろう。

首脳会談では、ハイテク製品の製造に不可欠なレアアース(希土類)の生産拡大に日本が協力することでも一致した。インドのレアアースの生産量は、中国に大きく引き離されてはいるが、それでも世界2位だ。

レアアースの輸入を中国に全面的に依存する現状を是正することは、日本にとって喫緊の課題であり、インドとの協力はまさに時宜を得たものと言える。

両首脳は、経済連携協定(EPA)についても正式合意し、早期に発効させることを約束した。

自動車部品や鉄鋼などに課されているインドの関税は、10年以内に撤廃される。現地生産する日本企業は、日本からの部品調達コストを大きく削減できよう。

短期出張や企業駐在員向けのビザ(査証)の手続きも簡素化される。インド市場でのビジネス拡大に役立つことは確実だろう。

安全保障面の協力も重要だ。日本は東シナ海で、インドはインド洋で、中国の海洋進出による直接的な脅威にさらされている。

昨年末に新設した外務、防衛両省の次官級協議を積極的に活用して、シーレーン(海上交通路)の安全確保などに関する対中戦略を協議すべきだ。

米国に加え、南シナ海で対中摩擦の最前線に立つ東南アジア各国とも連携を図る必要がある。そのためにも、地域の大国である日本とインドは、2国間関係をいっそう深めなければならない。

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