特会仕分け 財政改革の本丸を落とせ

朝日新聞 2010年10月24日

特会仕分け 財政改革の本丸を落とせ

税金の無駄遣いの温床と批判されてきた国の特別会計に、民主党政権がようやく本格的なメスを入れる。

改革の武器は、過去2回行われ、高い支持を集めた「事業仕分け」である。27日からの第3弾で、7省が所管する18の特会すべてを俎上(そじょう)に載せる。

民主党は昨年の総選挙のマニフェストで、特会は「必要不可欠なもの以外は廃止する」と約束した。菅直人首相も「特会の議論に終止符を打つ」と意気込む。有言実行内閣の名に恥じぬ結果につなげなければいけない。

特会とは、特定の収入を特定の支出に充てるため、一般会計とは別に設けた、いわば小口の国の財布である。わかりやすい例を挙げると、空港使用料などで空港整備を行う社会資本整備事業特会(空港整備勘定)などがある。

各省が所管し、外部からチェックしにくいことから、無駄な事業や天下り先への支出が問題視されてきた。埋蔵金と言われる多額の剰余金をため込んでいるとの批判もある。

今年度予算の特別会計の歳出総額は、重複分を除くと176兆円。一般会計92兆円の倍近い。かつて、小泉内閣の塩川正十郎財務相が「母屋(一般会計)でおかゆを食っているのに、離れ(特会)ではすき焼きを食っている」と嘆いたように、特会の改革なくして財政の健全化はありえない。

自公政権下でも、特会の統廃合や情報公開など、一定の前進は図られたが、各省の抵抗もあり、抜本改革にはほど遠い。民主党政権が掲げる政治主導の真価が問われる。

事業仕分けは、完全公開の下で、ひとつひとつの事業が吟味される。不透明さゆえに、さまざまな問題を生んだ特会に切り込む手法として、これ以上ふさわしいものはあるまい。

先進国中最悪の日本の財政を立て直し、将来にわたって安心できる社会保障を維持するためには、消費税を含む増税は避けられない。

ただ、先の参院選の結果に見られるように、増税の前に徹底した無駄の削減を求める世論は根強い。負担増の国民的議論を始める環境を整えるためにも、ここで特会の問題点を洗いざらい明らかにすることが欠かせない。

だが、特会を見直せばいくらでも財源が出てくると、甘い期待は抱くべきではない。特会には埋蔵金だけでなく、隠れ借金もある。国民負担が増えることもありうるのだ。

事業仕分けを、政権浮揚のための一過性のパフォーマンスに終わらせてはいけない。そのためにも、政府には、過去2回の仕分け結果が、実際にどう予算に反映され、独立行政法人などの改革につながったのかを明らかにしてほしい。各省による看板の掛け替えや骨抜きを許さぬために、不断の監視とフォローアップこそが大事である。

毎日新聞 2010年10月26日

特別会計仕分け やはり成果が肝心だ

政府の行政刷新会議の事業仕分け第3弾が27日からすべての特別会計を対象に行われる。18会計の51勘定について、事業の必要性や制度そのもののあり方を吟味する。

監視の目が届きにくい特別会計はムダ遣いや「埋蔵金」と呼ばれる隠れ資金の温床と指摘されてきた。ただちに財源が見つかるわけではないと政府は予防線を張るが、一部特会の廃止も含めた議論に大胆に踏みこむべきだ。さもないと、事業仕分けそのものの意義が問われる。

政権交代以来、民主党は2010年度予算、独立行政法人、公益法人などを対象に事業仕分けを展開してきた。特別会計は自民党政権下でも見直され、31あった特会を18まで統廃合した。だが、ひとつの特会の中に複数の勘定が置かれるなど複雑な仕組みは温存された。

特別会計の歳出額の合計は176兆円と一般会計の92兆円を大きく上回る。今回、仕分けの俎上(そじょう)に載せたことは当然である。

仕分け人として腕をふるっていた蓮舫参院議員は今回、行政刷新担当相として作業を統括する。特会仕分けを前に「(捻出(ねんしゅつ)する)額への期待感をまず無くしてほしい」と強調しているが、少し「守り」に入っているのではないかと気がかりだ。

確かに特会支出の大部分は使い道が限定され「埋蔵金」の発掘は難しそうだ。民主党は昨年の衆院選マニフェストで特別会計を合わせた総予算の組み替えで財源を捻出すると掲げていた。仕分けの結果次第では批判も予想されるだけに、期待値を下げようとしているのだろう。

国民の前に特会の複雑な仕組みがさらされ、チェックされる意義は否定しない。だからといって「成果は二の次」とはいかない。

衆院補選敗北など、民主党の退潮傾向の背景には改革マインドの後退がある。「スーパー堤防」、空港整備など事業の是非が問われる社会資本整備事業特会、事業の重複が指摘されるエネルギー対策特会など、切り込むべき対象は多い。一般会計で処理しても何ら問題がない事業もあるはずだ。

仕分けでは「埋蔵金」だけでなく、特会の隠れ借金である「埋蔵借金」にもメスを入れる。それ自体は賛成だが、借金を強調することで増税論議を進める狙いがあまり前面に出るようでは鼻白む。ムダ削減は税制改革と関係なしに徹底すべきなのだ。

特会の廃止など制度改正には、ねじれ国会の下で法律を改正する必要がある。野党も独自の改革案をまとめ、政府の作業を監視すべきだ。菅直人首相は「仕分けで特会の議論に終止符を」と意気込むが、むしろ入り口と位置付けるべきである。

読売新聞 2010年10月27日

特別会計仕分け パフォーマンス優先では困る

行政刷新会議が、税金の無駄遣いを洗い出す事業仕分け第3弾を27日から始める。

今回は、国の18の特別会計とその中の48事業について見直す予定だ。

一般会計予算と違い、国会審議などで取り上げられることが少ない特別会計には、国が実施する必要性や経済効果に乏しい事業が少なくない。

労働保険特会の職業能力開発事業や社会資本整備特会のスーパー堤防事業などには、確かに無駄がありそうだ。

多額の積立金や借金を抱える特会も多く、そうした実態を再点検する意義はあろう。

だが、財源捻出(ねんしゅつ)などを優先するあまり、必要な事業をカットしたり、積立金を無理に取り崩したりすることがあってはなるまい。

国民へのアピールを狙って、各府省の説明担当者らを一方的にやり込めるような政治的パフォーマンスは厳に慎み、冷静な議論を重ねてもらいたい。

事業仕分けは、昨年11月に1回目が実施され、今年度予算の概算要求を取り上げた。今年4月には2回目が行われ、独立行政法人のあり方などを検証した。

いずれも、幾つかの事業や組織の廃止を決め、一定の成果を上げたと、鳩山前政権は自賛した。

しかし、当初の思惑通りにいかなかったのは明らかだ。初回の事業仕分けでは、予算の削減目標を3兆円としていたが、実際にははるかに及ばなかった。2回目でも、議論が中途半端に終わったケースが少なくなかった。

そもそも、わずか1時間足らずで、組織の存廃などについての結論を出すという手法自体に無理があるのは明らかだ。

民主党は、昨年の衆院選の政権公約(マニフェスト)で、国の一般会計と特別会計を一体的に見直せば、最終的に17兆円近い財源を生み出せるとしていた。

それは、昨年の予算編成や2回の事業仕分けで、絵に描いた餅であることがわかったはずだ。

今回は、“本丸”ともいうべき特別会計に挑むが、まとまった財源の捻出は難しいだろう。

特別会計の予算は合計176兆円余りと一般会計の2倍近いものの、大半は国債の整理や社会保障給付など、義務的な経費として使われているからだ。

外国為替資金特会は20兆円の積立金を持つが、保有する外貨資産には30兆円を超す為替評価損が発生している。この積立金を埋蔵金として使うのは筋違いである。

産経新聞 2010年10月28日

特会仕分け 幻想与えず行革徹底せよ 

政府の行政刷新会議による事業仕分け第3弾が始まった。今回は18すべての特別会計(特会)の中から48事業を対象に予算の執行状況や無駄などを調べる。行財政改革につなげる実効的な見直しが求められる。

民主党は昨年夏の衆院選で掲げた子ども手当などのマニフェスト(政権公約)について、事業仕分けを通じた歳出見直しで約3兆円の財源を確保できると主張していた。しかし、実際の仕分けで生まれた財源は、剰余金など「埋蔵金」を除けば7千億円程度にすぎない。

特会についても、公開の場で無駄づかいの実態を明らかにすることの意味は大きいが、埋蔵金の多くは既に「発掘済み」だ。仕分けで得られるのはせいぜい数百億円との見方もある。菅直人政権は、事業仕分けでいくらでも財源を生み出せるかのような幻想を国民に与えてはなるまい。

各省庁が個別に管理・運営する特会をめぐっては、財務省による予算査定や国会で審議される一般会計に比べて監視の目が届きにくく、その実態は不透明と批判されてきた。

今年度の特会歳出総額は176兆円で、92兆円の一般会計に比べて格段に規模が大きい。受益と負担を明確化するため、保険料や利用料などの形で国民から徴収された資金で運営される事業特会が多く、独立行政法人などを通じて事業展開されている。外から見えにくい構造が天下りの温床になっているとの指摘もある。

蓮舫行政刷新担当相は「事業仕分けで特会を丸裸にする」と強調しているが、実態を解明するだけでなく、事業の必要性を精査し、制度の廃止にまで切り込む姿勢が求められる。民間への事業移管や一般会計への移し替えを含めた大胆な制度改革も必要だ。

初日となった27日の事業仕分けでは、貿易事故で企業が損害を受けた際に、国が損失をカバーする貿易再保険制度の特会廃止などが決まった。ただ、事業そのものは残る方向であり、廃止や統合が単なる数合わせに終わっては本当の効率化にはつながらない。

事業仕分けは民間有識者らが事業のあり方などを議論しているが、その成果をきちんと制度改革に反映させるには、国家戦略室などで具体的な改革案を示すなど建設的で継続的な見直し論議に取り組む必要がある。

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