試練のG20 誕生時の心をもう一度

朝日新聞 2010年10月24日

慶州G20 通貨の緊張ほぐす糸口に

協調の新たなかたちを生み出そうという努力を、大いに買いたい。

世界を覆う「通貨安競争」の不穏な空気をぬぐうべく、韓国の古都、慶州に結集した20カ国・地域(G20)の財務相と中央銀行総裁が打開策を協議した。楽観はできないが、来月のソウル・サミット(G20首脳会合)の成功に向けて足がかりを得た。

各国は、輸出促進を狙って自国通貨を安くすることを自制し、市場機能を生かした柔軟な為替制度を目指すと共同声明で確認した。問題の根底にある世界的な経済の不均衡の是正に目を向け、経常収支の過度の黒字や赤字の縮小に努める方向で協調を確認したことは意義深い。

こうした努力について国際通貨基金(IMF)が監視していく仕組みをつくるという点も、評価したい。

IMFの改革も組み合わせて国際協調を強化することを、来月のソウルでは首脳らが合意してほしい。

慶州G20の席上、米国が経常収支の黒字や赤字の数値目標を提案して討議の焦点となった。人民元相場を安く抑えて巨額の黒字を出す中国に圧力をかけると同時に、自らの赤字是正のためにドル安を容認してもらう高等戦術とみられなくもない。

だがG20では、世界的不均衡の是正は当初からの目標とされてきた。厳格な数値目標は合意が困難で、対立を招きかねないが、各国の国内改革を促したり、議論を深めたりするための緩やかな中長期の目安として使うというのなら検討に値する。

足元の為替相場の混乱が消えたわけではない。各国が市場に関与する規範作りも必要だ。それにはまず、中国と米国の自覚と行動が求められる。

中国は人民元切り上げのピッチを上げた。9月は年率に直すと20%を超える。これは1985年のプラザ合意から87年末までに円の対ドル相場が240円から120円へと2倍に上昇した時の平均上昇率と大差ない。

中国はこうした対応を今後も続ける姿勢を明確にし、世界に安心感を与えねばならない。

一方の米国は、景気てこ入れを図るため、金融緩和の「予告」を連発してドル安を促してきた。だが、それは新興国などへの資本流入を勢いづけ、インフレやバブルを起こしかねない。その危険を顧みないようでは、基軸通貨国の責任は全うできない。

日本の教訓に照らせば、超金融緩和には国内の銀行や産業を衰弱させる副作用もある。つまり外国でのバブルに成長を依存してしまう体質を助長させかねない。金融政策の影響を国外に拡散させないためには、銀行規制を工夫するなどいくつかの論点が浮上している。米国は責任ある大国として議論をリードしてもらいたい。

毎日新聞 2010年10月24日

G20金融会議 数値目標論議は不毛だ

日米欧など先進国に新興国を加えた主要20カ国・地域(G20)が「通貨安競争は慎む」と宣言した。保護貿易主義をとらない姿勢もあらためて表明した。G20財務相・中央銀行総裁会議が採択した共同声明を見る限り、G20の分裂、通貨安競争激化という最悪の事態はひとまず回避されたようだ。

しかし、為替市場や世界経済の安定のために具体的な合意ができたわけではない。むしろ新たな火種を抱え込んだ恐れさえある。

会議では米国が新提案を行った。各国が貿易黒字や赤字の縮小を目指し数値目標を掲げるというものだ。「国内総生産(GDP)比4%以内」といった具体的数字まで提示した。日本やドイツなど複数国が反対し、調整がつかなかったため、数値目標に関する具体的な文言は共同声明に盛り込まれなかった。だが、来月のG20首脳会議に向けて議論が再燃する可能性はある。

G20の焦点が、為替相場そのものから、貿易不均衡の問題に移行したのだとすれば、それ自体は悪くない。為替だけを取り上げ、特定国(主に中国)に通貨切り上げを迫ることは、問題の解決に結びつかないばかりか、不必要な摩擦を招き、G20の分裂や保護貿易主義の台頭につながる危険さえあるからだ。

しかし、数値目標を掲げて貿易不均衡を是正しようという今回の米提案が、形を変えた人民元切り上げ要求であることは想像に難くない。

かつての日米通商交渉がそうだったように、数値目標が議論の中心になると、目標を何%に設定するかなど本質的でない問題で話し合いのエネルギーを消耗しかねない。実現性の低い目標や拘束力のない合意のために主要20カ国の閣僚や首脳らが労力を注ぐことが、果たして賢明といえるだろうか。

数値目標が争点となった結果、金融危機の再発防止というG20体制発足時の大目標が脇に追いやられてしまったのは残念だ。これまで、大手銀行の自己資本強化などで進展はあったものの、宿題が終わったというには程遠い。

金融危機につながった資産バブルがどのように深刻化したのか。中央銀行の金融政策はバブル形成を防止するためどう変わるべきなのか。先進国が進めている金融緩和が新興国市場の過熱を生み始めている今こそ、もっと正面から議論しなければならない課題があるのだ。

日本は今回、米国の数値目標提案に反対した。だが、反対するだけでなく、G20が本来議論すべきテーマで具体的な前進が見られるよう、来月の首脳会議に向け積極的に働きかけていくべきだ。

産経新聞 2010年10月25日

G20共同声明 まず米中が率先し行動を

韓国で開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は「通貨安競争」の回避で一致したものの、実効性となると不透明といわざるを得ない。

共同声明では、各国が輸出競争力強化を目的とする自国通貨安政策をとらないよう自制を促した。しかし具体策はなく、経常収支の不均衡を是正するための指針策定も先送りした。

通貨安競争回避の最大の鍵は、米国と中国の動向にある。来月には、G20首脳会議がソウルで開かれる。首脳会談を成功させるため、米国にはドル安の是正に、中国には人民元の切り上げに、率先して動くことを求めたい。

今回の会議は、先進国と新興国の通貨をめぐる対立をどう緩和するかが焦点だった。日米欧の先進国は、新興国の通貨安競争を先導している中国に対し、人民元の切り上げを求めた。一方、新興国は米国の事実上のドル安政策で大量の資金が自国に流入し、通貨高になっていると批判した。

このため、声明は双方に注文を付ける痛み分けの形となった。「先進国は為替相場の過度な変動や無秩序な動きを監視する」との表現で、米国のドル安放置を牽制(けんせい)する内容を盛り込んだ。「より市場で決定される為替制度に移行」との内容は、中国を念頭に置いているのは明らかだ。

ガイトナー米財務長官は会見で「強いドルを支持するのが米国の政策だ」と強調したが、ドル安是正に本気で取り組むかを注視していきたい。一方の中国当局者は会見を開かなかった。焦点となっている人民元について何も語らないのでは、後ろ向きと取られても仕方がないだろう。

日本も協調が問われる。極端な円高に対して円売り介入を行う場合、いま以上に各国の理解を得る必要があるだろう。内需拡大のためにも、経済の構造転換と成長促進に向けた政策を積み重ねていかなければなるまい。

2年前のリーマン・ショック後の危機克服を目的に始まったG20はこのところ対立が目立つ。協調が崩れると、通貨安競争に歯止めをかけることはできない。

声明で「協調的でない対応はすべての国に悪い結果をもたらす」と強調したのは、危機感の表れだ。各国が自国優先で保護主義に走り、世界経済が悪化する事態だけはなんとしても避けたい。

毎日新聞 2010年10月21日

試練のG20 誕生時の心をもう一度

「グローバルな危機にはグローバルな解決策しかない」(ブラウン英前首相)--。2年前、リーマン・ショックで不安一色の世界を救ったのは、主要国間に生まれた新たな結束だった。

2008年11月15日。事前の準備もそこそこに集まった日米欧など20カ国・地域の首脳らは、協調して危機を克服することを誓った。関税引き上げなど他国を犠牲にして自国経済を守ろうとする保護主義に陥ってはならない、という強いメッセージを世界に発した。協調の輪には、中国、インド、ブラジルなどの主要新興国や資源産出国も加わった。

そうして始動した主要20カ国・地域(G20)体制だが、早くも根幹を揺さぶられる試練に直面している。

この間の取り組みの総仕上げとも言えるG20首脳会議が来月、韓国で開催される。それを前に財務相と中央銀行総裁による準備会議が今週末開かれるが、2年前の協調の精神はどこへ行ってしまったのだろうと問わずにいられない。

単独で自国の利益を守ろうとする動きはエスカレートする一方だ。ブラジルは、外国人による投資への課税を再度強化した。財務相、中銀総裁のG20出席も見送ると発表した。

タイも国外からの投機資金流入を抑制する措置の導入を決めており、議長国の韓国までもが、何らかの資本規制を検討中だという。こうした国は、異例の金融緩和で世界に投機マネーをばらまいている米国のせいだと非難している。

その米国は、ガイトナー財務長官がドル安誘導を否定こそしたものの、来月には大規模な追加金融緩和に踏み切る見通しでドルの一段の下落は避けられそうにない。

一方、中国は突然の利上げで世界の市場に衝撃を与えた。利上げは、多くの国が要望する人民元の上昇をもたらし得るが、今回の措置はむしろ国内で顕著になってきたインフレに対処したものだ。しかしながら、米国が金融緩和の方針を変えない限り、投機マネーの流入は増し、かえって中国内のインフレや不動産バブルを過熱させかねない。

単独行動は限界があるばかりか、他国の政策の自由を奪う。反発を買い有害な対抗措置の連鎖が起きる。

「共通の利益のために行動する必要性を認識しないと、保護貿易に走る国が出てきてもおかしくない」。英中央銀行のキング総裁が、警鐘を鳴らした。保護主義や通貨安競争では全員が敗者になると訴えるが、まだ少数派のようだ。

そうした危機意識をどこまで共有し、再び協調の精神に戻ることができるか。G20の将来を左右する最大の焦点となる。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/530/