毎日新聞 2010年10月21日
試練のG20 誕生時の心をもう一度
「グローバルな危機にはグローバルな解決策しかない」(ブラウン英前首相)--。2年前、リーマン・ショックで不安一色の世界を救ったのは、主要国間に生まれた新たな結束だった。
2008年11月15日。事前の準備もそこそこに集まった日米欧など20カ国・地域の首脳らは、協調して危機を克服することを誓った。関税引き上げなど他国を犠牲にして自国経済を守ろうとする保護主義に陥ってはならない、という強いメッセージを世界に発した。協調の輪には、中国、インド、ブラジルなどの主要新興国や資源産出国も加わった。
そうして始動した主要20カ国・地域(G20)体制だが、早くも根幹を揺さぶられる試練に直面している。
この間の取り組みの総仕上げとも言えるG20首脳会議が来月、韓国で開催される。それを前に財務相と中央銀行総裁による準備会議が今週末開かれるが、2年前の協調の精神はどこへ行ってしまったのだろうと問わずにいられない。
単独で自国の利益を守ろうとする動きはエスカレートする一方だ。ブラジルは、外国人による投資への課税を再度強化した。財務相、中銀総裁のG20出席も見送ると発表した。
タイも国外からの投機資金流入を抑制する措置の導入を決めており、議長国の韓国までもが、何らかの資本規制を検討中だという。こうした国は、異例の金融緩和で世界に投機マネーをばらまいている米国のせいだと非難している。
その米国は、ガイトナー財務長官がドル安誘導を否定こそしたものの、来月には大規模な追加金融緩和に踏み切る見通しでドルの一段の下落は避けられそうにない。
一方、中国は突然の利上げで世界の市場に衝撃を与えた。利上げは、多くの国が要望する人民元の上昇をもたらし得るが、今回の措置はむしろ国内で顕著になってきたインフレに対処したものだ。しかしながら、米国が金融緩和の方針を変えない限り、投機マネーの流入は増し、かえって中国内のインフレや不動産バブルを過熱させかねない。
単独行動は限界があるばかりか、他国の政策の自由を奪う。反発を買い有害な対抗措置の連鎖が起きる。
「共通の利益のために行動する必要性を認識しないと、保護貿易に走る国が出てきてもおかしくない」。英中央銀行のキング総裁が、警鐘を鳴らした。保護主義や通貨安競争では全員が敗者になると訴えるが、まだ少数派のようだ。
そうした危機意識をどこまで共有し、再び協調の精神に戻ることができるか。G20の将来を左右する最大の焦点となる。
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