羽田空港の拡大 器は十分、どう満たすか

朝日新聞 2010年10月18日

羽田空港の拡大 器は十分、どう満たすか

ふくらむ航空需要をまかなうための「首都圏空港」の能力が、大幅に高まりつつある。日本と世界を結ぶ空の便を増やし、経済の再生や社会の活性化に役立てたい。

羽田空港では4本目の滑走路が21日から運用される。発着枠は2割増えて年36万回になり、3~4年後には45万回まで増やせるという。

成田空港も、現行の22万回を4年後に30万回に増やすことで地元自治体の合意を得た。羽田と成田の合計では、今より4割も多い75万回に増やせることになる。これで将来の需要増にも対応する基盤が整う。

成田は1978年の開港以来、四半世紀にわたって滑走路は1本だけだった。2本目の滑走路が十分な長さに整備されたのは昨年のことだ。この遅れが要因となって、羽田に巨額の政府予算をつぎ込んで滑走路を増やそうという機運が盛り上がった。

その結果、国際空港の座を羽田に奪われかねない、という危機意識が千葉県はじめ地元自治体で高まり、「成田30万回」への推進力となった。航空行政の迷走が結果的に首都圏に十分な供給力を用意する伏線になったことは歴史の皮肉の観すらある。

立派な「器」ができる。問題は、それをどう満たすかである。国際競争に配慮した柔軟な航空政策、観光振興などの成長戦略と連動させる構想力と実行力が問われる。

たとえば、世界で存在感を高める格安航空会社への対応も欠かせない。羽田、成田の路線需要は旺盛なので、空港経営の面では、わざわざ安い路線をつくる必要がない。だが、ふくれあがるアジアの中間層の旅行需要を受け入れるには、格安路線も有効だ。

その点で、成田空港が格安路線向けの新ターミナル設置を検討しているのは評価できる。羽田もアジア最大の格安航空会社エアアジアが12月に就航し、大きな刺激になろう。

当然ながら、羽田と成田を拠点とする日本航空と全日本空輸の経営環境は厳しさを増していく。格安会社に対抗できる価格競争力、あるいは低価格に負けないサービス競争力がなければ生き残れない。

整備重視だった航空政策は、路線と便数を増やす運用重視へと切り替えるときだ。羽田の大型投資が一段落し、地方空港の新設は打ち止めだから、政府の空港整備勘定の歳出はかなり圧縮できる。早期に航空機燃料税を大幅に下げ、国際的に高すぎる着陸料も引き下げるべきだろう。

アジア域内や太平洋間を結ぶ路線の成長力は高い。15年後には旅客輸送量で北米市場や欧州市場を上回ると見られている。日本の航空市場を取り巻く競争環境は厳しいが、それを上回るチャンスを生かすようにしたい。

毎日新聞 2010年10月20日

羽田再拡張 港湾の轍を踏まぬよう

羽田空港に完成した4番目の滑走路と国際線ターミナルの使用が21日から始まる。そして、31日からは国際定期便が運航を開始し、羽田は来春までに欧米も含め海外の17都市と結ばれる。

発着回数の拡大は段階的に行われる。滑走路が2本ずつ縦と横に配置され管制が複雑化するためだが、最終的な発着回数は現在の1・5倍の約45万回に増え、このうち9万回が国際線に割り当てられる予定だ。

一方、成田空港も、発着回数を現在の22万回から30万回に増やすことになった。羽田の国際線拡大を受け、成田の地盤沈下を防ごうということなのだろう。

空港は長らく迷惑施設という位置づけだった。しかし、航空機の騒音は大幅に低下しているうえ、空港は人やモノの動きの軸として経済の活性化に不可欠な施設とみられるようになった。成田の発着回数の拡大を地元が受け入れたのは、そうした意識の変化もあってのことだろう。

世界の航空輸送は、路線や料金を自由に設定できるオープンスカイが大きな流れになっている。しかし、日本は羽田と成田という首都圏の空港の発着能力に限界があり、この流れに乗ることができなかった。

その間に世界ではLCCと呼ばれる低運賃を実現した新興航空会社が台頭し、新たな需要を発掘していった。日本はこの動きにも乗り遅れる結果となってしまった。世界の国際航空に占める日本の航空会社のシェアはかつての半分の3%程度にまで落ちている。

羽田と成田の発着回数の拡大を機に、日本の空の活性化を期待したい。成田ではLCC誘致に向けた専用ターミナルの建設準備を急いでいる。こうした動きを加速し、韓国の仁川空港に流れている地方空港からの旅客や貨物を呼び戻し、海外から日本への旅行客の拡大につなげてもらいたい。

特に都心から近い羽田の強化は、日本の空の競争力強化にとって重要だ。国際線を増やすと言っても、ハブ空港として海外の拠点空港と伍(ご)していけるような水準ではない。

離陸の際に海側だけでなく陸側にも旋回できるようにすれば、発着回数のさらなる拡大が可能という。地元の了解が必要だろうし、駐機場などの確保という問題もあるだろうが、検討してもらいたい。

関西の3空港や、採算の取れない地方空港など航空行政には課題が山積している。

地盤沈下が著しい日本の港湾の轍(てつ)を踏まぬよう、羽田の4本目の滑走路と国際線ターミナルの稼働開始を、日本の空の立て直しにつなげてもらいたい。

読売新聞 2010年10月22日

羽田国際化 成田と競い拠点空港を目指せ

羽田空港に完成した4本目の滑走路と新たな国際線ターミナルが、21日開業した。31日からは、国際定期便が32年ぶりに復活する。

今回の拡張で発着枠が現在の1・5倍の年45万回まで増え、9万回が国際線に割り振られる。来春にかけて欧米、東南アジアなど17都市に路線網が拡大する。

都心からの好アクセスと「24時間化」が、羽田の最大の武器だ。残業した後に深夜便でそのまま海外出張したり、職場から空港に直行し、週末を利用して東南アジアに観光旅行に出かけたりする光景が見られるようになるだろう。

乗り継ぎが不便な成田を敬遠していた地方客が、地元空港から羽田を経由して海外に向かうことも可能になる。

地の利を最大限に生かしてヒトやモノの動きを取り込めれば、日本経済の新たな活性化策となろう。就航する都市数で大きくリードされた韓国・仁川空港などに対抗し、アジアと世界を結ぶハブ空港を目指す一歩としたい。

1978年に成田空港が開港してから「国際線は成田、国内線は羽田」という取り決めが続いてきた。だが、経済のグローバル化で航空需要が拡大していることを考えれば、羽田と成田の役割分担を抜本的に見直すことが重要だ。

羽田の国際化に刺激されるように、成田も年間の発着枠を4年後に22万回から30万回に拡大することで地元自治体が合意した。

だが、都心から遠く、騒音問題から深夜早朝に離着陸できない制約などがあり、成田単独では拠点空港の要請を果たしきれない。

例えば、ビジネス利用やアジアなど近距離便を羽田、観光中心の長距離便や格安航空を成田に集約するなど、両空港の機能を生かした運営を行ってはどうか。

羽田から成田に行く場合は1時間半かかる。両空港のすみ分け政策は、長時間移動などの不便を利用者に強いてきた。航空行政に、鉄道網などと調整し、空港をどう配置するかという全体構想が欠けていたからだ。

羽田の国際化とともに、8都市にとどまっている成田の国内線を増やすことが不可欠だ。将来的には、両空港間の連絡時間を短縮する工夫も求められよう。

羽田・成田が名実共にアジアの拠点空港となるには、世界の航空会社や利用者に低料金や利便性、快適さを提供できなければならない。各国航空会社が不満を抱く高い着陸料など、空港使用料の引き下げも急務だろう。

産経新聞 2010年10月19日

羽田の新滑走路 世界と競うハブ化実現を

羽田空港の新滑走路が21日に供用開始される。31日から世界17都市との国際定期便も就航し、本格的な24時間運用空港へと踏み出す。

都心からのアクセスに優れた羽田の国際化と空港容量の拡大は、運賃や路線設定を自由化するオープンスカイ政策の世界的流れに沿う。近隣諸国と比べて立ち遅れが目立つ日本の空の国際競争力向上を図る上でも、政府は羽田の本格的な国際ハブ(拠点)空港化実現に本腰を入れるべきだ。

羽田で4本目となる新滑走路は、騒音被害への配慮などから住宅地から極力離れた多摩川河口付近の海上に完成した。埋め立てと桟橋を組み合わせた世界初のハイブリッド滑走路である。

これで深夜・早朝の離着陸が可能となり、年間の発着回数は、現行の30万回から最終的には1・5倍の45万回へと大幅に増える。国土交通省は、この増加分のうち9万回を国際線に回す計画だ。

都心に近く、深夜の利用も問題なくできる。ビジネスマンの海外出張にも格段に利便性が増す。期待は大きく、歓迎したい。

充実した国内路線網との接続が可能なことも羽田の強みだ。新滑走路オープンによる経済効果は、地方への波及分も含めて「売上高ベースで年間2兆円近い」とする国交省の試算もある。さらなる拡張を通じて国際線の受け入れ枠を拡大し、地方の活性化を促す起爆剤にしてほしい。

羽田の国際化は、これまで首都圏の国際定期便を事実上独占してきた成田空港の対抗意識にも火を付けた格好だ。先ごろ、周辺自治体と空港会社が成田の発着回数を現在の22万回から30万回に増やすことで合意したのも、このままでは羽田に国際旅客を奪われかねないとの危機感が背景にある。

両空港を合わせると、首都の空港容量は当面75万回まで増える計算だ。それでも経済のグローバル化による今後の航空需要を考えれば、決して十分とはいえまい。

国交省は両空港を一体のハブとして運用するという。だが、国際競争を生き抜く上では果たして現実的な選択かどうか。関西、中部両空港の将来的位置づけが定まっていないことも問題だ。

政府は、地盤沈下が著しい地方空港対策とともに、明確で包括的な空港政策の指針を早急に示さなければならない。

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