反日デモ 中国の底流は深刻だ

朝日新聞 2010年10月19日

反日デモ 怒りは何に向けたものか

中国共産党の指導者が北京に集まって重要な会議をしている間に、破壊活動を伴う大規模な反日デモが地方の大都市で相次いだ。爆発した怒りは果たして、日本だけに向けられたのか。

2005年以来となった大規模な反日デモは、尖閣問題をめぐり東京であった中国への抗議活動に対抗する狙いがある。ネットや携帯電話メールで参加が呼びかけられた。

もちろん中国の人々にもデモや集会をする自由がある。しかし、それが店舗や自動車の破壊に発展するのは見過ごすことが出来ない犯罪であり、中国のイメージを台無しにする。「愛国」とは無縁の愚行である。

それに対して、中国外務省の報道局長は理性的な行動を求めながらも「一部の大衆がこのところの日本側の一部の誤った言動に義憤を表していることは理解できる」と述べた。これでは破壊行為が再発しかねない。

05年の反日デモや、08年のチベット問題でのフランスへの抗議、さかのぼって1999年のベオグラード大使館誤爆事件に対する反米デモもそうだった。当局者は暴力行為を強く批判することなく、「祖国を思う」若者への理解を示した。

共産主義の威光が薄れた中国で、党は国民を束ねるために愛国心を強調してきた。だから、外国からの言動に憤る若者を抑えつけるわけにはいかないのだろう。

しかし、ノーベル平和賞が決まった劉暁波氏のように、平和的、非暴力的な民主化活動であっても、一党支配に逆らえば厳しい処分を受けることになる。そのため、党や政府への不満や怒りは、外国への抗議活動で発散され、中国外交にも影響を与える。

デモの舞台になった内陸部は、沿海部に比べて成長が遅れ、若者の就職も難しい。当局の規制が緩めば、不満はいつでも噴き出す状態だったのかもしれない。北京で開かれた第17期中央委員会第5回全体会議(5中全会)に地元指導者が出かけていて、警戒が緩んでいた可能性もある。

中国は経済成長至上主義で発展を続けてきたが、政治的な自由はなお欠いたままだ。13億人が食うや食わずのどん底状態から抜け出すためには、やむを得ない面があっただろう。

しかし、中国がさらに成長を続けるには、自由な発想と行動、情報の公開と共有がますます求められるに違いない。党がすべてを指導するやり方は威力を失っていくだろう。

5中全会では、来年からの第12次5カ年計画の骨格について議論した。

国民の所得増や環境対策などが取り上げられたが、政治改革への強い意欲は感じられない。習近平国家副主席ら次世代のリーダーに期待するしかないのだろうか。

毎日新聞 2010年10月19日

反日デモ 中国の底流は深刻だ

中国の内陸都市で反日デモが起きた。一部が日系大型スーパーに投石したり、日本料理店を破壊した。暴力は許せない。中国の信用を落とすだけだ。

反日デモは、9月初めに尖閣諸島沖で中国漁船と巡視船が衝突して以来、断続的に続いていた。だが、今回のデモは極めて異常である。

まず、デモのタイミングである。北京では5中全会と呼ばれる中国共産党の中央委員会全体会議で、次の5カ年計画を討議していた。このような重要会議の時には、全国的に厳戒態勢に入る。

そのうえ、反体制の民主活動家、劉暁波氏のノーベル平和賞受賞が決まったため、当局は国内で民主化要求が高まるのを恐れ、劉氏の妻を軟禁状態に置いた。すると古参党員のなかからは当局の言論弾圧を批判する声明が出た。

折しも上海では万博が開催中だ。広州ではアジア大会準備の追い込みである。中国の指導部にとって安定最優先で、デモなど許していられない時なのだ。

さらに、温家宝首相がベルギーの国際会議の場を利用して菅直人首相と懇談し、日中関係の修復が動き出した直後である。いま反日デモをすれば温首相批判になる。

今回の発生地は、四川省の綿陽、成都、陝西省西安などだった。綿陽は核兵器の研究所や製造工場が集まる特殊な軍事都市である。成都もミサイルや航空機の工場が多い。軍事機密を守るために監視が厳しいはずだ。それなのにデモは起きた。

デモの参加者はほとんどが20歳代前後。「90後(1990年以後の生まれ)」と呼ばれる若者で、インターネットの呼びかけで集まった。

だが仕掛け人は別にいる。9月の反日デモからずっと同じ系統だろう。スローガンやデモのスタイルがそっくりだからである。成都ではデモの先頭集団は「琉球回収、沖縄解放」の横断幕を掲げていた。解放とは解放軍による解放だ。政府に軍事力発動をけしかけているのである。

こんな暴走に対し中国政府は「気持ちは理解できるが形式が不適切」と遠慮がちで生ぬるい。背後に胡錦濤政権に批判的な政治勢力がいるからではないか。

5中全会では習近平国家副主席が党中央軍事委副主席に選出され、2012年の党大会で次の総書記を確実にした。習氏の支持基盤は軍や保守派といわれる。尖閣問題で強硬路線をとる危険はないのか。

菅首相は「戦略的互恵関係を深めることで双方が冷静に努力する必要がある」と国会で答弁している。その通りだが、まず中国首脳との関係を築き、中国の深部の動きをつかむことが先決だ。

読売新聞 2010年10月19日

反日デモ拡大 中国指導部は沈静化を急げ

日中関係が改善に向かう中で、中国の成都、西安、武漢など内陸部の都市で大規模な反日デモが相次いで発生した。

数千から数万人規模の反日デモは、尖閣諸島沖の漁船衝突事件に抗議して、先週末から発生した。携帯電話のショートメールの呼びかけに応じて大学生を中心に一般住民も加わった。

暴徒化した一部は、日系のスーパーや飲食店を襲撃し、ガラスを割るなどした。日本国旗を焼き払い、日本製自動車を横転させるなどの乱暴狼藉(ろうぜき)ぶりだった。

デモは、さらに他の都市にも拡大する様相を見せている。日中関係にとって憂慮すべき事態だ。

中国当局は、デモの暴徒化を防ぎ、邦人の安全確保や、日系企業の事業に支障が出ないよう、万全の措置を講じるべきだ。

中国外務省の報道局長が「一部の群衆が日本の誤った言動に対して憤りを表明することは理解できる」と発言した。不法行為を助長するような政府の姿勢である。

内陸部に住む大学生の就職難は深刻だ。都市と地方との経済格差も広がっている。

こうした社会不安に加えて、1980年以降に生まれた若者たちは、江沢民・前政権時代に強化された反日=愛国・民族主義教育を受けており、わずかなきっかけで「反日」に走りやすい。

民主活動家、劉暁波氏にノーベル平和賞の授与が決まり、世界も中国の民主化の動きを注視している。こうした中で、若者たちの不満が、反日から民主化を求める反政府デモに転化する事態を、共産党指導部は最も恐れている。

治安当局が若者たちの不満を和らげるため反日デモを誘導しているのではないか、との見方すら出ているのもこのためだ。

今回のデモは、党中央委員会総会の期間と重なって起きた。対日警戒感が根強い軍・党内保守派から党指導部に対して、安易に日本に妥協しないよう、圧力を加えるために仕組まれた可能性も排除できないだろう。

党中央委総会では、習近平国家副主席が、中央軍事委員会副主席に選出された。習氏が2012年秋の次期党大会で、胡錦濤総書記の後継者となることが確実になった。習氏は対日関係の重要性を理解する必要があるだろう。

日中両首脳は今月上旬のブリュッセルでの会談で、戦略的互恵関係の推進を確認したばかりだ。だが、反日デモが頻発するようでは関係修復は頓挫しかねない。中国指導部の姿勢が問われている。

産経新聞 2010年10月18日

中国の反日デモ 誤った「愛国」教育を憂う

またか、である。日本固有の領土、沖縄・尖閣諸島で起きた中国漁船衝突事件に絡み、中国各地で中国の領有権を主張する大学生らが大規模デモを行った。

東京の中国大使館前などでの日本側の対中抗議行動に反発し、ネットで呼びかけた組織的な動きとみられる。日本側が抗議文を読み上げるなどの手法をとったのに対し、中国では一部が暴徒化し、四川省成都市の日系スーパーや百貨店では投石などで窓ガラスが割れる被害が出た。

中国外務省発表の談話が、「違法な行為には賛成しない」としつつ、「日本側の誤った言動に怒りを表すのは理解できる」と、参加者に半ば同調する内容だったのは極めて遺憾である。

漁船衝突事件をめぐる対日抗議行動は9月18日にも北京などで起きているが、参加者の多くは30~40代で小規模にとどまった。これに対し、今回のデモでは大学生ら20代の姿が目立ち、過激な行動に走った点が懸念される。デモは拡大する様相も見せており、5年前の反日デモと同様、当局の制御が難しい状況になりかねない。

2005年4月、日本の国連安保理常任理事国入りの動きに反発して北京や上海などで起きた大規模デモの中心も、1980年代以降の徹底した「愛国」教育に染まった学生たちだった。日本大使館や総領事館が攻撃対象となり、日本料理店が焼き打ちされた。

中国は日系企業や在留邦人の安全に万全を期す責任がある。

北京では中国共産党の重要な方針を決める第17期中央委員会第5回総会(5中総会)が開催中だ。胡錦濤総書記率いる指導部は尖閣諸島の領有権では厳しい対日政策を示している。

だが、国内の不満が反政府へと向かうのを封じる一定の「ガス抜き」や対日圧力の一環として、今回の地方デモを容認したのだとすれば、非常に危険である。日本が1世紀以上も前に尖閣諸島を領土編入した事実にふたをして、一方的な歴史観に基づいた愛国教育を推し進めた結果、国際社会の常識からかけ離れた事態が起きていると認識すべきだろう。

反日デモの再発を恐れ、日本政府が尖閣の領有権で腰を引いてはならない。漁船衝突事件で海上保安庁が撮影したビデオを早急に公開するなどして、事実関係を国際社会に明らかにすべきである。

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