「習近平の中国」 軍の影響力増大が心配だ

朝日新聞 2010年10月19日

習近平氏 中国政治を背負う責任

大国を率いる中国共産党の指導者には、世界への大きな責任が伴う。中国の影響力は一昔前とは様変わりしていて、その責任は重くなるばかりだ。

党の第17期中央委員会第5回全体会議(5中全会)で、序列6位の習近平(シー・チンピン)国家副主席(57)が、中央軍事委員会副主席に選出された。習氏も今後、この責任を負うことになる。

政権は銃口から生まれるが、党が鉄砲を指揮するのであり、鉄砲が党を指揮することは絶対に認めない。

毛沢東氏が党と軍の関係をこう規定したように、人民解放軍の最高指導機関である中央軍事委の影響力は極めて大きい。そのため、習氏が軍事委のメンバーになるかどうかが、胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席の跡を継げるカギと見る向きが多かった。

胡主席は国家副主席に就任した翌1999年9月の第15期4中全会で軍事委副主席に就き、江沢民前国家主席の後継者としての地位を固め、3年後の2002年党大会で党トップの総書記になった。

習氏も順調にいけば、12年の党大会で党総書記に、13年の全国人民代表大会で国家主席にそれぞれ昇進する。権力闘争が激しかった中国で、最高指導者が事前にほぼ内定していたのは胡主席が初めてだった。習氏が続けば、後継者選出の制度化につながる。

このことは確かに、中国政治の当面の安定に寄与するだろう。

しかし、13億の人口のなかで、共産党員は7800万人。そのうちのわずか数百人による指導者選出は、民主主義国家の人々には理解しがたい。それが中国不信にもつながっている。

新しい世代の習氏には、行政の透明化や法治の徹底などの改革を進めることで、新しい中国政治を切り開いてもらいたい。

習氏は副首相や党政治局員を務めた故習仲勲氏の長男で、有力者の子供を指す「太子党」の代表的人物ではあるが、父が厳しい権力闘争に巻き込まれた余波で、入党申請がなかなか認められないなどの苦労もした。

妻は日本でも公演したことのある国民的歌手の彭麗媛さん。2人のなれそめは有名で、家族が謎に包まれた中国の指導者のなかでは珍しい。

福建省や浙江省など地方勤務が長かった。その時知り合った日本の知事らが訪中すると、国家副主席という地位にもかかわらず気さくに会う。「日本が好きだ」と公言したこともある。

習氏とともにこれからの中国をリードしていくと見られているのが、党内序列7位の李克強(リー・コーチアン)副首相(55)だ。胡主席直系と見られており、青少年交流で日本との関係も深い。

中国の後継体制が固まっていくことを、風波の絶えない日中関係が安定して発展できる契機にしたい。

読売新聞 2010年10月20日

中国次期後継 習近平氏が引き継ぐ重い課題

中国が経済的にも軍事的にも世界の大国となった中での、事実上の次期最高指導者の決定だ。

中国共産党の第17期中央委員会第5回総会で、国家副主席の習近平氏が党中央軍事委員会副主席に選出された。

習氏は2007年の党大会で上海市党委書記から党政治局常務委員になり、翌年には国家副主席に選ばれた。そして今回、軍事委副主席の地位も手中にした。

これで党・国家・軍の3権のナンバー2の地位を得た習氏が、12年秋の次期党大会で引退が予定される胡錦濤総書記(国家主席、軍事委主席)に代わり、党最高指導者となるのは確実とみられる。

中国に求められているのは、民主化と国際協調だ。世界の脅威とならないよう、懸念を払拭(ふっしょく)する努力も必要だ。習氏には「責任ある大国」の指導者にふさわしい振る舞いが期待される。

習氏は胡総書記より10歳若い57歳で革命第5世代と呼ばれる。元副首相を父に持つ党高級幹部の子弟だ。抜てきの背景には、上海閥を率いる江沢民前総書記の強い後押しがあったと言われている。

胡総書記は側近の李克強・党政治局常務委員を後継に想定していたが、次期政権は習総書記―李首相体制になると見られている。

中国は事実上の共産党一党支配の国だ。胡政権は経済発展を追求する一方で、民主化をかたくなに拒否し、強権支配に依拠して体制を維持している。

習氏が次期政権を担った場合の最大の任務も、党の支配体制の継続にある。権力を習氏に集中させることで党指導部の安定と団結を図ろうとしているのだろう。

中国社会は貧富の格差、汚職の横行、開発に伴う土地使用権の収奪や環境汚染など、国民の不満はかつてなく高まっている。

党中央委総会で討議された「第12次5か年計画」も、こうした社会のひずみの解決に重点が置かれたのは当然である。

胡政権が掲げる、弱者に配慮した「調和社会」の実現は、まだ見えない。課題はすべて次期政権に引き継がれる。対応を誤れば政権の危機ともなりかねない。

党中央委総会は、中国が引き続き「平和的発展の道」を歩むと宣言した。だが、南シナ海への海洋進出や尖閣事件を通じて示した強圧姿勢に、世界は改めて中国への警戒感を強めている。

習氏を支える江前総書記は強い反日姿勢で知られる。中国の対外政策がどう変化するか、日本としても注視していく必要がある。

産経新聞 2010年10月19日

「習近平の中国」 軍の影響力増大が心配だ

中国共産党の第17期中央委員会第5回総会(5中総会)で、習近平国家副主席が中央軍事委員会副主席に任命され、胡錦濤総書記(国家主席)の後継者となることが事実上確定した。

習氏は指導部にあって保守的な言動が目立ち、党高級幹部の子弟をさす「太子党」を政治基盤とする。江沢民前国家主席が率いる上海閥にも近いとされる。「習近平の中国」は政治的にも保守化に向かう可能性がある。

尖閣諸島沖の漁船衝突事件に絡む中国各地の過激な反日デモだけでなく、ガス田共同開発問題を含む東シナ海の海洋権益をめぐって日中間の緊張が高まっているときだ。日本は自らの国益を踏まえ、中国の権力継承を注視していく必要がある。

習氏は昨年12月に訪日した際、天皇陛下と会見した。陛下との会見は1カ月前までに文書で正式申請するルールがあり、これを無視した強引な設定がなされたことでこわもてのイメージがつきまとう。日本政府はこれまで以上に、「波風を立てない」式の外交手法は通じないと考えた方がいい。

懸念されるのは、習氏がエリート階層を代表する人物であるのに加え、軍とも深い関係があるとされることだ。いずれも政治改革を含む民主化に強い拒絶反応を示すグループである。

胡錦濤主席と温家宝首相ら現指導部は、対外的に一党独裁の堅持と同時に格差是正を目指す「和諧(わかい)社会」を標榜(ひょうぼう)してきた。中国の持続的発展を図るには、経済資源の独占を排する政治改革が必要との立場とみられてきた。

これに対し、習氏は9月に行われた党幹部の養成機関・中央党校の開講式で毛沢東を賛美する長大な演説を行った。また8日、北京の駐中国北朝鮮大使館で開かれた祝賀の席では「朝鮮の新指導者と一緒に中朝友好協力関係を推進していきたい」とも語っている。

習氏が毛思想の影響が濃厚な軍の支持を固めて権力の座を射止めたとすれば、指導部への軍の影響力がこれまで以上に強まることを意味しよう。日米や欧州諸国は習氏の指導下での軍の動きなどについて警戒すべきだ。

習氏が将来、中央軍事委主席になれば武力統帥権を掌握する。尖閣諸島や海洋権益も含めて、固有の領土と主権を守るには日本も明確な戦略と覚悟が必要である。

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