大国を率いる中国共産党の指導者には、世界への大きな責任が伴う。中国の影響力は一昔前とは様変わりしていて、その責任は重くなるばかりだ。
党の第17期中央委員会第5回全体会議(5中全会)で、序列6位の習近平(シー・チンピン)国家副主席(57)が、中央軍事委員会副主席に選出された。習氏も今後、この責任を負うことになる。
政権は銃口から生まれるが、党が鉄砲を指揮するのであり、鉄砲が党を指揮することは絶対に認めない。
毛沢東氏が党と軍の関係をこう規定したように、人民解放軍の最高指導機関である中央軍事委の影響力は極めて大きい。そのため、習氏が軍事委のメンバーになるかどうかが、胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席の跡を継げるカギと見る向きが多かった。
胡主席は国家副主席に就任した翌1999年9月の第15期4中全会で軍事委副主席に就き、江沢民前国家主席の後継者としての地位を固め、3年後の2002年党大会で党トップの総書記になった。
習氏も順調にいけば、12年の党大会で党総書記に、13年の全国人民代表大会で国家主席にそれぞれ昇進する。権力闘争が激しかった中国で、最高指導者が事前にほぼ内定していたのは胡主席が初めてだった。習氏が続けば、後継者選出の制度化につながる。
このことは確かに、中国政治の当面の安定に寄与するだろう。
しかし、13億の人口のなかで、共産党員は7800万人。そのうちのわずか数百人による指導者選出は、民主主義国家の人々には理解しがたい。それが中国不信にもつながっている。
新しい世代の習氏には、行政の透明化や法治の徹底などの改革を進めることで、新しい中国政治を切り開いてもらいたい。
習氏は副首相や党政治局員を務めた故習仲勲氏の長男で、有力者の子供を指す「太子党」の代表的人物ではあるが、父が厳しい権力闘争に巻き込まれた余波で、入党申請がなかなか認められないなどの苦労もした。
妻は日本でも公演したことのある国民的歌手の彭麗媛さん。2人のなれそめは有名で、家族が謎に包まれた中国の指導者のなかでは珍しい。
福建省や浙江省など地方勤務が長かった。その時知り合った日本の知事らが訪中すると、国家副主席という地位にもかかわらず気さくに会う。「日本が好きだ」と公言したこともある。
習氏とともにこれからの中国をリードしていくと見られているのが、党内序列7位の李克強(リー・コーチアン)副首相(55)だ。胡主席直系と見られており、青少年交流で日本との関係も深い。
中国の後継体制が固まっていくことを、風波の絶えない日中関係が安定して発展できる契機にしたい。
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