朝日新聞 2010年10月18日
生きもの会議 人類の反省もとに目標を
20世紀型の乱開発が続けば、地球の生物は滅亡に向かう。種を守る生物多様性条約は人類のそうした反省から生まれた。採択から18年たった今、具体的に動き出す時を迎えている。
名古屋市で18日に開幕する条約の第10回締約国会議(国連地球生きもの会議)で、生態系を守る「2020年までの世界目標」に合意したい。
生きものは地球表面を分け合って生きている。だが、人間はその狭い生物圏を荒らす力を持つようになった。最初は約1万年前、農耕牧畜を始め、自然を改変する生活に踏み出した時だ。
危機を加速させたのは18世紀後半からの産業革命だ。化石燃料を大量に使う人間活動の爆発的膨張が動植物の生息域を狭め、河川や大気を汚した。
こうした地球環境問題への本格的な取り組みは、冷戦終結とともに始まった。生物多様性条約は1992年、気候変動枠組み条約と同時につくられた。緊急になすべきことが凝縮されている「双子の条約」だ。
生物の多様性には、大きな価値がある。例えば、いまの人類はコムギ、イネ、トウモロコシの3種類の作物から多くのカロリーを得ている。こうした主要作物の病気や、人口増により、将来、食糧危機が起きかねない。
そうなると、新たな品種に頼らざるをえない。多様性、つまりさまざまな種を残しておく必要があるのだ。
直接的な利用価値だけではない。多くの動植物は互いに支え合って、豊かな自然をつくっている。そうした自然の文化的、学術的な価値はいうまでもない。豊かな自然を次世代に受け継いでいくのが人類の責任だ。
8年前の会議では、種の絶滅を防いだり、生息域を保ったりして「多様性が失われる速度を10年までに大幅に緩める」という21項目の「10年目標」を掲げたが、一つも達成できなかった。
今回の会議で合意を目指す「20年目標」は、その仕切り直しだ。
欧州連合(EU)は「20年までに多様性が失われるのを止める」という厳しい内容を主張しているのに対し、多くの国は「損失を止めるための効果的かつ緊急の行動をとる」という少し緩い方針を主張している。
個別目標は20項目あり、「途上国への援助をどう増やす」「海や森林の保護区の面積」などで論争が続く。南北対立というより、森林の多い国は森林の扱いに敏感になるなど、国情を反映した複雑な対立になっている。
前回の失敗の一因は、目標数字や対策に具体性がなかったことだ。
もはや、足踏みしている余裕はない。今回はできるだけ目標を具体化し、各国の政策を後押しする必要がある。途上国には資金も要る。
難しいが、将来世代のためにも合意しなければならない。
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毎日新聞 2010年10月18日
生物多様性 対立超え互いの利益に
地球に最初の生命が誕生したのは約38億年前と言われる。それから長い進化の道筋を経て、多種多様で複雑な生命が花開いた。現在知られている種の数は約175万、実際には3000万種とも推定される。
今、この多様な種が、開発や人口増加のために急速に失われている。地球の歴史を振り返ると生物の大量絶滅は過去にも起きた。しかし、現在進行中の絶滅は過去のどの時代よりもスピードが速い。
多様な生物をはぐくむ生態系も損なわれている。世界では九州と四国を足し合わせた面積の森林が毎年失われているというから深刻だ。
食物はもちろん、水の循環や土壌の保持、医薬品など、人間は生態系の恩恵に支えられている。生物が多様性を失えば人間の将来も危うい。
名古屋で開かれている国連生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)では遺伝子組み換え作物の議論が終わった。今週から多様性の保全と利用をテーマに本格的な交渉が始まるが、行方は楽観できない。
主要な議題は20年と50年までの目標を定める「新戦略計画」と、「遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)」を定める議定書の採択だが、いずれも途上国と先進国の溝が埋まらない。
特に対立が根深いのはABSをめぐる交渉だ。医薬品などのもとになる微生物や動植物は途上国に多い。先進国はこうした遺伝資源を持ち帰り、医薬品開発などで利益を上げてきた。資源の提供国に利益を還元するのは当然だが、問題はどこまで配分するのが妥当かという点だ。
アフリカ諸国は「植民地時代にさかのぼって利益を返せ」と主張する。しかし、国際条約で過去にさかのぼって規定を適用するのは難しい。遺伝資源が、いつ、どこから持ち出されたかを特定するのも困難だ。
「遺伝資源をもとにした製品(派生物)による利益も還元せよ」との主張も妥協点が見いだしにくい。微生物や植物から得た物質や情報を利用し、独自に手を加えた製品のどこまでを「派生物」と見なすか。際限がなくなる恐れがある。
正当な利益を主張する途上国の気持ちはわかる。しかし、規制が厳しすぎれば資源は有効利用されず、途上国にも利益は還元されない。
そうならないためには、ほどよい落としどころが必要だ。議長国である日本は議定書の採択にこだわりすぎず、途上国・先進国の双方に実質的な利益をもらたす仕組み作りを模索することが大事ではないか。
環境をめぐる南北問題では、気候変動枠組み条約の交渉が膠着(こうちゃく)状態にある。生物多様性ではその轍(てつ)を踏まないようにしたい。
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読売新聞 2010年10月17日
生物多様性会議 自然の恵み守るルール作りを
様々な生き物が生息する地球の自然環境を守っていくためには、国際的協調が欠かせない。
その方策を話し合う生物多様性条約の第10回締約国会議(COP10)が18日から名古屋市で開幕し、約190の国・地域が参加する。
緊急の課題は、世界的に進む生態系の破壊を食い止めることだ。COP10が、そのきっかけとなることを期待したい。
生物多様性――。これが会議のキーワードだが、一般にはなじみが薄いのが現状だろう。
地球上の生き物は、それぞれにつながりを持ち、依存し合って生きている。微生物が土壌を豊かにし、そこに樹木が育つ。その樹木の実は、動物の貴重な餌になる、というわけだ。
もちろん、我々の食卓に上る魚介類や穀物なども、自然の恵みそのものだ。
こうした自然のサイクルは、数千万種とされる多種多様な生き物がいるからこそ成り立つ。この生物多様性を守り、将来も我々が持続的に利用できる環境を保持していかねばならない。
だが、地球上では毎年、4万種もの生物が絶滅していると言われている。生物の宝庫である熱帯林が開発により減少していることなどが原因とされる。
このため、名古屋会議では多様性の損失を食い止めるための具体的な目標設定が焦点となろう。
欧州連合(EU)は「2020年までに損失を止める」との目標を求めているが、開発を優先したい途上国側は、より緩やかな目標設定を主張している。
各国が協力して取り組める現実的な着地点を見いだしたい。
先進国の企業が、途上国原産の動植物や微生物を利用して医薬品などを製造した際、その利益を原産国にどう配分するか。このルール作りも大きな論点だ。
マダガスカル原産のニチニチソウが抗がん剤の原料に使われるなど、生物資源は我々の生活の様々な面で役に立っている。
しかし、ここでも、より多くの利益配分を求める途上国と、企業の負担増を懸念し、配分を抑えたい先進国の溝は深い。
生物多様性条約と、温室効果ガスの排出を削減させる気候変動枠組み条約は「双子の条約」と呼ばれる。そのどちらも、先進国と途上国の対立が議論の進展を阻んでいるのが現状だ。
名古屋会議で公平なルールを策定できるのか。議長国である日本の手腕が問われる。
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産経新聞 2010年10月18日
COP10 知恵絞り生物多様性守れ
微生物からクジラやバオバブなどまで地球上に生きる動物や植物と人類の共存を可能にするための国際交渉が名古屋市内で18日から始まる。
生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)である。11日からの多様性の関連会合(MOP5)に続いて、いよいよ本会合の開幕だ。
生物の多様性は人類だけでなく全地球生命の存続に欠かせない基本的な条件だ。2週間の討議で多様性復活につながる健全な合意が形成されることを期待したい。
20世紀からの人間活動の急拡大に伴い、多くの野生動植物が生息場所を奪われるなどして次々絶滅している。かつてない勢いだ。
それが人類の将来に対する赤信号であることは理解されているのだが、現実には森林の乱伐などが止まらない。
地球人口の増大や、手近な自然の開発に依存しがちな途上国の政策などが、昨今の生態系の荒廃のかなりの原因となっている。地球生命が直面している危うさを全世界の人々が再認識し、保全に向けて手を携えることが必要だ。
だが現状は厳しい。生物多様性条約には米国が加盟していない。自国のバイオ産業への影響を懸念しての不参加だ。途上国は、先進国が熱帯林域などの有用な生物(遺伝資源)をもとに医薬品などを開発し、利益を上げていることに不満を持っている。
先進国と途上国間での「遺伝資源の利用と公平な利益の配分」(ABS)という考えは、生物多様性条約の中にあるのだが、具体的なルール作りが長年の懸案だ。10回目の節目の名古屋会議で双方の歩み寄りが期待されている。
しかし、合意の可能性はまだ見えない。最大の難問がABSの適用をいつからにするかという対立だ。アフリカ諸国は植民地時代に西欧諸国が持ち出した遺伝資源も対象に含むべきだと主張する。
大流行を起こす鳥インフルエンザなどが発生したときには、ワクチン作りに原因ウイルスが必要だが、途上国にとっては病原体も利益を生む資源なのだ。
地球温暖化防止と同じく自然を守るための国際会議が、南北間の経済交渉の場に変質している。それがもろもろの混乱の原因だ。
COP10は人類の英知の試金石である。各国が知恵を絞って「名古屋議定書」の成立を目指す国際会合となることを期待したい。
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