毎日新聞 2010年10月17日
論調観測 議会リコール 「名古屋劇場」に評価辛く
つい数年前、国政は「小泉劇場」が脚光を浴びていた。今の民主党政権にも「ポピュリズム」批判はあるが、主としてマニフェストの内容に関するもので、菅直人首相や、鳩山由紀夫前首相からは劇場型演出への意識はさほど感じられない。
代わりに、最近は首長が主役を演じる舞台が地方に広がる。河村たかし市長が議会リコールを主導する名古屋市、専決処分を乱発した竹原信一市長に対するリコール運動が起きた鹿児島県阿久根市、橋下徹知事が「大阪都」構想にまい進する大阪府……と誠ににぎやかだ。
名古屋市の場合、市議会解散を求める河村市長派の団体が、46万人超の署名簿を提出した。河村市長は市民税10%の恒久減税や議員の定数・報酬の半減を掲げ議会と対立する。政令市として初の地方議会解散の是非を問う住民投票が行われる公算が大きくなり、各紙は地方発の動きを社説で取り上げた。
共通したのは議会のみならず、河村市長の手法にも疑問を投げかける論調である。
毎日は署名を市長への一定の理解の表れと評価しつつ「議会との間でもう少し建設的な歩み寄りを探る選択がなかったのか、疑問もある」と指摘、政策テーマを問う住民投票の積極活用や法制化の検討を促した。
読売は「市長と議会が決定的な不信感を持ち、対決していては、行政の停滞を招く」と論評、朝日も署名開始の段階で「名古屋市長の強引な問い」との見出しで「どれだけ議会を説得する努力をしたのか」との疑問を呈した。
議会批判に比重を置いた印象なのが産経だ。これまでの議会の「怠慢ぶり」を批判、「署名が多数集まったのも当然」と指摘した。地元紙、中日新聞は署名の重みを強調すると同時に「市民が河村市長に望むのは議会との闘いよりも、改革の実現ではないか」と注文をつけた。
多くの自治体で首長と議会はなれ合いを続けてきた。だが、必ずしも政党や組織票に頼らない首長が誕生すると、むしろ議会との緊張が住民にアピールし得る。「首長VS議会」が目立ち始めたこと自体、決して否定的に見るべきではあるまい。
一方で、対立激化が行政の機能不全を招きかねないことも事実だ。各紙が名古屋に注目するのも、自治が混乱と再生の時代に突入する予感からだろう。
「自治体劇場」をどう評価するかは難しい問題だが、守勢に回りがちな議会の奮起が必要なことだけは間違いない。【論説委員・人羅格】
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読売新聞 2010年10月14日
首長vs議会 名古屋市だけの問題ではない
首長と地方議会は、不毛な対立を避け、健全な緊張関係を保ちつつ協調することが肝要だ。
名古屋市の河村たかし市長の支援団体が、市議会の解散請求(リコール)に向けて、46万人超の署名を選挙管理委員会に提出した。
有効署名が、有権者の約2割にあたる法定数の36万5795人に達していると確認されれば、来年1月にも、解散の是非を問う住民投票が実施される。投票で過半数が賛成すれば、市議会は解散され、出直し市議選が行われる。
1か月で46万人超もの署名が集まったのは、市民の関心の高さを物語る。地方分権の受け皿となる自治体の行政に市民が厳しい視線を送ること自体は歓迎したい。
今回の解散請求の発端は、河村市長と市議会の対立にある。市長が市民税減税の恒久化や議員定数・報酬の半減などを目指し、議会が反対するという構図だ。
河村市長は昨年4月、市民税の10%削減などを公約に掲げて民主党推薦で出馬し、初当選した。
市議会は、市長の主張通りの条例案をいったん可決したが、今年3月、10%減税を今年度限りとする改正案を可決した。「来年度以降の財源がはっきりしない」などを理由としている。
また、議員定数を75から38に、報酬を年1633万円から816万円に減らし、政務調査費を廃止する市長提出の条例案を否決した。こうした市議会の動きに河村市長が反発し、市長主導で解散請求運動が本格化したものだ。
市民税減税は、財源を行政改革で捻出するのなら、一つの政策の選択肢となり得る。様々な問題が指摘されている議員の政務調査費の見直しや、議会の活性化の努力も欠かせないだろう。
一方、議員定数と報酬は、一定の削減ならともかく、半減はあまりに過激ではないか。市長による大衆迎合主義の色彩も濃い。
日本の地方自治は、首長と議会の二元代表制を基盤としている。名古屋市とは事情も構図も異なるが、鹿児島県阿久根市でも、独善的な市長と議会が対立し、市長の解職請求運動が起きている。
首長と議会が、建設的な相互監視の機能を果たすには、双方が予算配分などで持ちつ持たれつのなれ合いの関係に陥らず、一定の緊張関係を持つことが望ましい。
だが、名古屋市のように、市長と議会が決定的な不信感を持ち、対決していては、建設的な施策に取り組めず、行政の停滞を招く。住民にとっても不幸なことだ。
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