税制改正 迷走極める司令塔の不在

毎日新聞 2010年10月14日

税制改革 試される首相の責任感

菅政権下での税制論議が本格的に始まった。年末に向けて政府税制調査会が、民主党と連携しながら税制改正案をとりまとめる。

来年度実施の改正に加え、税と社会保障制度を一体として見直す抜本改革も同時に検討を進めなければならない。所得税、法人税から、環境税、消費税、納税者番号制まで議論しなければならない課題は多岐にわたる。難題から逃げることなく、人口減少時代、高齢化社会に対応できる新たな税体系を示してほしい。

民主党政権になり、税を議論する場が従来の党と政府の二元構造から政府の税制調査会に一元化された。財務相を会長に、閣僚、副大臣ら政治家だけで構成する画期的な衣替えで、大胆な改変が行われるものと期待された。

しかし、省庁や業界団体の反発、参院選への配慮などから、納税者の負担増につながるような改正は先送りされた。消費税は、ついに首相が正面から増税を提起したと思いきや、選挙が近づき批判が高まると一転、議論はどこかへ消えてしまった。

今度こそは、と期待したい。

ところが早くも不安な兆しが見える。菅直人首相の言葉から、かつてのように財政再建や社会保障制度改革への熱意が伝わってこなくなった。代わりに繰り返し聞こえてくるのが「景気」や「雇用」だ。

景気や雇用が重要であることに異論はない。ただ、錦の御旗(みはた)となり、減税のみ先行して政治的に不人気な増税は先送り、ということになりはしないか気がかりである。

菅首相は特に法人税減税や、雇用を増やした企業に減税する雇用促進税制に熱心なようだ。しかし、法人税率引き下げによる減収分をどうやって埋めるのか、財源を具体的に示すことが不可欠である。

「雇用対策」と銘打てば聞こえはいいが、このほど決定した緊急総合経済対策を含め、何十もの雇用支援策が林立する。重複するものも少なくない。既存の助成金・奨励金の効果を検証することなく、促進税制を追加するのはいかがなものか。

社会保障制度の改革とセットで進める税制の抜本改革論議は特に難航が予想される。しかしこれ以上の先送りは許されない。具体的なスケジュールに沿い、着実に物事を決めていってもらいたい。

いずれにせよ、首相の指針と指導力が欠かせない。与党内のコンセンサスも、党外の意見も大事だろう。しかし、何を最重視し、どのような理念のもとで改革を行うのか、まず大きな指針を示して説得するのがリーダーだ。他人任せでは、おいしいメニューのオンパレードとなり、ツケを次世代に回すことになる。

産経新聞 2010年10月15日

税制改正 迷走極める司令塔の不在

税制改正をめぐる政府・与党の論議が本格化する中で、政策の方向性を示して集約する「司令塔」不在の状態が続いている。

社会保障の安定財源確保のための消費税増税や国際競争力維持に向けた法人税減税など税制改正の課題は数多い。にもかかわらず、明確な政策決定プロセスや議論を収斂(しゅうれん)させる機能もみえないのは問題だ。経済の先行き不安を払拭(ふっしょく)するため、菅直人首相は財政再建も含む税制改革に早急に結論を出すべきだ。統治能力と指導力が問われている。

政府税制調査会や民主党税制改正プロジェクトチームが議論に入った。13日には党の「税と社会保障の抜本改革調査会」が初会合を開いた。政府は近く「税と社会保障一体の実現会議」も設置する。まさに乱立の様相といえる。

だが、むやみに議論の場を設けるだけでは政策はまとまらない。ただでさえ利害が錯綜(さくそう)する税制改正論議をさばくのは難しい。税制を含む経済政策全体の大きな方向性を示し、それに沿って政府・与党で進める具体的な議論を収斂させる機能がないところに最大の問題があるといわざるを得ない。

民主党は当初、内閣官房の国家戦略室に政策決定を総合的に指揮する司令塔の役割を持たせることを目指していた。だが、政府と党の主導権争いの中で首相の助言機関に格下げするなど迷走した。国家戦略担当相を兼務する玄葉光一郎・民主党政調会長の権限を明確化するだけでなく、首相自らも司令塔たるべきだ。

民主党は、菅首相が参院選で消費税増税を打ち出したことが惨敗につながったと受け止めている。だが、昨年の衆院選公約で示した子ども手当などの財源なきバラマキ政策を撤回しなかったことが最大の敗因だろう。参院選で消費税増税を掲げた自民党は勝利し、バラマキ公約の撤回が消費税増税を協議する前提だとしている。ねじれ国会の中で消費税増税を話し合うには、まずバラマキ公約を撤回しなければならない。

15年ぶりの円高に直撃される産業界は、国際競争力を確保するため、40%の法人税率を先進諸国並みの30%強に引き下げるよう求めている。減税には財源確保が必要であり、課税ベースの拡大も併せて検討しなければならない。整合性のある税制改正の実現は菅政権の重大な責務だ。

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