新聞週間 報道の使命を確認する機会に

毎日新聞 2010年10月15日

新聞週間 より信頼されるために

「『新』シイコト、『聞』コエル」。15日に始まった新聞週間の標語の入選作である。

インターネットの登場でメディアが多様化する中で、新聞の役割は何だろうか。世の中の新しい動きと、それの意味するところを読者に早く、そして適切に伝えることは、重要な一つだろう。

この1年は変化の年だった。自民党から民主党への歴史的な政権交代があり、刑事司法の分野では、裁判員裁判や検察審査会強化といった初めての仕組みがスタートした。

評価がまだ定まらない「新しいこと」が目白押しの中、メディアは人々の歓心を得るため、ともすれば過激な主張を競い合ったり、白か黒かの二者択一で物事を断じる風潮に陥っていないだろうか。

匿名意見が行き来するネット空間だけの話ではない。活字メディアやテレビにもこの傾向がうかがえるのではと、自戒をこめて問いたい。

例えば、小沢一郎民主党元代表の政治資金問題だ。強制起訴に追い込んだ検察審査会を評価する論点は、多面的で一様ではない。一部に見られるように今いきなり、「素人は危ない」などと批判するのは適切ではないだろう。

私たちは、小沢氏に政治家として説明責任を果たすよう再三求め、進退にも言及してきた。だが、刑事事件として「無罪推定」がはたらくことは承知しており、批判は感情的にならず、理性的でありたいと思っている。

一方、全体的にバランスをことさら重視する姿勢が時代遅れに映り、読者の新聞離れを起こすとの指摘もある。だが、日本新聞協会が全国6000人を対象に実施し、今年6月に公表した新聞、テレビ、ラジオ、雑誌、インターネットの主要5メディアの評価に関する調査結果では、「情報源として欠かせない」「知的である」「情報が正確である」など33項目中16項目で新聞がトップだった。また、9割以上が日常的に新聞を読んでいた。事実報道に基づく情報の信頼性こそが、新聞の命綱であることを改めて認識したいと思う。

もちろん、新聞の役割は、「事実」の提供にとどまらない。事実をとらえる多様な「視点」を示すことも重要だ。外傷性脳損傷に苦しむイラク帰還米兵を追った連載企画や、性分化疾患や性同一性障害の子供たちの報道など、毎日新聞はこの1年、さまざまなキャンペーンを展開した。今後も読者の期待に応えたい。

自民党の下野や、証拠改ざん事件で揺れる検察など、従来の権威が次々と失墜し始めている。メディアも常に批判にさらされることを肝に銘じ、たえず謙虚でありたいと思う。

読売新聞 2010年10月15日

新聞週間 報道の使命を確認する機会に

取材源と信頼関係を築いて歴史の真実を明らかにする。冤罪(えんざい)を生み出す検事の不正を調査報道で暴き出す――。

今年度の新聞協会賞(編集部門)を受賞した二つの特報記事は、報道の使命、記者の原点を具体的に語って余りある。

本紙の「核密約文書 佐藤元首相邸に 存在、初の確認」は、記者が、文書を保管していた元首相の次男、佐藤信二・元通産相に5年近くにわたる取材の末、公表にこぎ着けたものだ。

「おやじ(元首相)がどう考えたかわからないが、歴史に真実を残すことが大事だと思う」。公表に際し信二氏は、記者に言ったそうだ。深い信頼関係があったからこそ報道を任されたのだろう。

関係者の証言などがあっても、外務省は長く「密約はない」と言い続けてきた。こうした論争に終止符を打つ、歴史的意義は大きいと言える。

もう一つ、朝日新聞の「大阪地検特捜部の主任検事による押収資料改ざん事件」の特報は、他紙ながら見事というほかない。

主任検事がフロッピーディスクを改ざんしたようだ、との情報をつかみ、取材班は関係者からディスクを借り受け、その解析結果を検察幹部にぶつけた。

最高検が捜査に乗り出し、今や検察組織の見直しが迫られる事態にまで発展した。新聞の調査報道の威力を十分に見せつけた。

最近のメディア批判の中には、公権力機関とメディアの「距離の近さ」を指摘する声が多い。

郵便不正事件でも、捜査段階では検察情報に寄りかかった報道が散見された、との批判がある。客観的で対等な報道を心がけてはいるが、そうした指摘は真摯(しんし)に受け止めたい。

常に公権力をチェックし、不正や不作為、うそがあればそれを批判的に報道するのがメディア本来の役割だ。読者が期待するのも、そうした調査報道だろう。

本紙の世論調査では、新聞の報道を「信頼できる」と答えた人は87%で、ここ30年、高い率を維持している。

新聞や放送の報道に携わる者は、読者・視聴者の信頼を裏切ってはなるまい。先日は、NHK記者が大相撲野球賭博事件のさなか、捜査情報を親方に漏らしていたという不祥事が露呈した。

きょうから新聞週間。「きっかけは小さな記事の一行だった」が代表標語だ。記事の一行が読者の背中を未来へ押すこともある。

日頃の報道を再点検したい。

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