チリの「奇跡」 全員救出を世界が祈る

朝日新聞 2010年10月15日

チリ落盤の教訓 資源得るリスク直視を

家族との対面に至る救出の一部始終を世界中が息をのんで見つめ、胸をなで下ろした。南米チリ北部の鉱山で、地下約700メートルに閉じこめられていた作業員33人が全員、69日ぶりに無事地上に戻ってきた。

地下のリーダーの的確な判断と指導力、作業員のチームワーク、それを支えた家族愛、世界中から差し伸べられた支援の手。危険を伴う作業を成し遂げた救出チームの努力と技術力、まさに歴史に残る救出劇だった。

だが、今回の事故の背景を見れば、世界が直面している課題が浮かび上がってくることも無視できない。

中国など新興国の経済成長を背景とした資源需要の世界的な急増と、そうした資源がますます手に入れにくくなっているという現実である。

チリは、世界一の銅の埋蔵国、そして生産国だ。世界最大の露天掘りの銅山が4キロ以上にわたって広がり、観光名所となっている所があれば、規模の小さいものも少なくない。

事故のあったサンホセ鉱山は、そんな中小の銅鉱山の一つで、安全面での問題がしばしば指摘され、2007年に爆発事故で死者を出し、閉鎖されていた。ところが、銅価格の急騰で、08年夏に操業を再開した。

安全面で問題を抱えたまま操業を急いだ面が否めない。今回の事故では約70万トンもの岩石が崩れ落ちた。大規模な鉱山では安全対策が進み、近年ではこうした大規模な落盤事故はまず考えられないと驚く関係者も多い。

銅などの金属の需要は、世界経済がリーマン・ショック後の落ち込みから回復するとともに急増している。とりわけ中国では、銅の需要は1990年代後半から急増し、世界の約3分の1を占める。その結果が価格の高騰だ。

価格が上がれば、条件の悪い鉱山でも採算が合うようになる。より深く、より悪条件の場所へ。まさに今回のような鉱山が登場することになる。

中国頼みの希少資源としてレアアースが注目されているが、銅やアルミニウム、鉛などの金属についても決して将来を楽観できない。電線に欠かせない銅などは代替品も少なく、採取の容易な鉱山はかなりの部分がすでに開発済みである。

世界的には、資源採掘をめぐる事故は珍しくない。今回示されたような事故後の国際協力ばかりでなく、事故防止の安全策にも力を合わせたい。

天然資源だから、いずれ枯渇することも考えておかなければならない。限られた資源を有効に使うこと、そして再利用がますます重要になる。日本の役割は決して小さくない。

米オバマ政権は、流出事故を起こした海底油田の操業再開にゴーサインを出した。地下資源の採取は、環境への影響を最小限に抑えることも大切だ。

毎日新聞 2010年10月14日

チリの「奇跡」 全員救出を世界が祈る

暗い地の底からの救出劇が始まった。チリのサンホセ鉱山落盤事故で地下700メートルに閉じ込められた33人の作業員は、日本時間の昨日昼に最初の一人が69日ぶりに地上に引き上げられ、その後も救出作業は比較的順調に続いているようだ。

まずは「奇跡の生還」を果たした本人たちと家族に祝福の言葉を贈り、最後の一人まで無事に救出されることを祈りたい。

落盤事故が起きたのは8月5日である。その17日後、ほとんど絶望視されていた33人全員が地底の避難所で生存していることが分かり、世界の耳目を集めた。一群の鉱山労働者の運命がこれほどの国際的関心事となったのは前代未聞であろう。

人々の心にしみる数々のドラマがあった。避難所まで細い穴を掘削して引き上げたドリルの先端に、33人の無事を知らせるメモが結びつけられていた。夫を気遣う妻たちと、むしろ妻を思いやる夫たちが、むつまじく手紙をやり取りした。生還を地上で待つ家族らのテント村は「エスぺランサ」(希望)と名付けられ、父が地底にいる間に生まれた女児にもこの名が付いた。

「希望」は作業員たちの忍耐と生還のカギでもあった。この点で彼らは賢明かつ幸運だった。自分たちでリーダー以下、担当する任務を細かく分担し、忙しく働いた。チリ政府は米航空宇宙局(NASA)などに支援を求め、作業員がうつ状態に陥らないよう心のケアに努めた。「フェニックス」(不死鳥)と名付けられた救出用カプセルの装備や運用にも、決して希望を失わせないために細心の注意が払われたのである。

こうした努力は、全員無事救出のあかつきには高く評価され、快挙として歴史に記録されるだろう。

ただ、見逃すわけにはいかない問題がある。救出準備に世界の関心が集まっていた時期、作業員と家族は鉱山会社と監督官庁の関係者を告訴し、損害賠償も求めている。

チリは鉱業国であり、とりわけ銅の生産量世界一で知られる。サンホセ鉱山でも銅と金を産出してきた。しかし安全対策の不備が何度も指摘されたのに改善されず、結局、約70万トンと推定される岩石が坑道内で崩落したという。こうした点は決して忘れてはならないだろう。

国レベルの安全管理が、作業員救出後のPTSD(心的外傷後ストレス障害)対策と併せて、極めて重要な課題だと指摘しておきたい。

地下資源関連の事故としては、メキシコ湾で4月に起きた原油流出事故も記憶に新しい。国際的な資源争奪戦の様相が強まっているが、環境と人命の安全こそ最優先だ。ここを譲れば希望が消えてしまう。

読売新聞 2010年10月14日

チリ鉱山作業員 歓喜の生還の後は安全対策を

世界中がかたずをのんで見守る救出活動だ。最初に助け出された鉱山作業員のアバロスさんが69日ぶりに地上に姿を現すと、歓声がわいた。

南米チリのサンホセ鉱山の落盤事故で地下坑道に閉じこめられていた作業員を、救出用立て坑からケーブルでつるした専用カプセルで、1人ずつ地上に引き上げる作業が始まった。

丸2日を要するという。33人全員の生還を早く確かめたい。

鉱山で落盤事故が起きるのは珍しくない。だが、深さ600メートル以上もの地下空間で、全員が2か月以上を生き抜いたことは、ほかに例がない。

事故後の、沈着な対応が見事だった。現場の状況をよく把握し、リーダーの統率下、パニックに陥らず、救援が来ることを信じて、長期戦覚悟で乏しい食料や水を分け合った。それが奏功した。

高温多湿の劣悪な環境ながら、避難所があり、歩き回れる広い坑道があった。坑道内に残されたトラックのバッテリーから、暗闇を照らし出す電気を得たことも、生きる力になっただろう。

チリの国をあげての救援体制、家族たちの励まし、日本を含む世界各国から寄せられた救命のための数々の知恵と多彩な支援物資、それらが一体となって、作業員の地上生還に結実した。

事故があったのは、いわくつきの鉱山だ。金や銅を産出する中小規模の鉱山で、しばしば安全基準違反や事故を起こし、採算性、安全性を理由に一度は採掘を停止したが、2年前に再開していた。

もうけを優先し、安全対策を怠った無責任な操業再開が、事故の背景にはあったのではないか。

チリ政府も責任を免れない。

鉱山産業はチリ経済の大黒柱である。とくに銅は、世界一の埋蔵量、生産量を誇る。近年、世界的な銅の需要増加と価格高騰を受けて、無理な採掘を拡大させていると言われる。中国の旺盛な需要増が大きく影響している。

ピニェラ大統領は事故後、指導と監督が不十分だったとして地質鉱山当局トップを解任した。事故原因を究明し、鉱山産業への監督体制を抜本的に見直して安全対策に万全を期してもらいたい。

日本も鉱山活動には長年の経験がある。その教訓を生かして安全面での国際協力があっていい。

日本は銅をチリから最も多く輸入している。ハイテク産業に不可欠なリチウム、モリブデンなどの鉱山資源も豊富だ。資源確保の観点からも関係を大事にしたい。

産経新聞 2010年10月14日

チリ鉱山救出 奇跡生んだ団結を称える

実に69日ぶり、史上例のない地上への生還である。チリ北部のサンホセ鉱山の落盤事故で地底深く閉じこめられていた作業員33人が一人、また一人と救出され始めた。

最初に引き上げられた作業員は「元気だ」と笑顔で第一声をあげた。地下約700メートルでの過酷な体験の後とはとても思えない。耐え抜いた精神力に敬意を表し団結を称(たた)えたい。

8月5日の事故発生当初は4カ月以上かかるといわれた救出作業が、2カ月以上短縮された。総力をあげて取り組んだチリ政府の姿勢をまずは評価したいが、国際社会の支援も功を奏した。33人全員を助け出すまでには2日かかるという。危険と背中合わせの作業が無事完了するよう、関係者とともに祈りたい。

ジグザグ状態になっている地下坑道付近で巨大な岩石が崩れ落ちた事故だった。作業員が全員、避難所までたどり着けただけでも奇跡といえるだろう。

避難所は約50平方メートルしかない。室温は35度、湿度は90%もある。精神の平衡を保つのは容易ではなかったはずだ。それでも重病者や大きなトラブルはなく、救出につなげた。事故から17日後に全員生存が確認されて以来、地上からの支援態勢が整ったからだ。

食料や衣服、薬、家族からの手紙などが入ったカプセルが地上から届く。33人は3グループに分かれて作業、休憩、睡眠を交代でとる規律正しい生活を送った。手紙のほか、8月下旬につながったインターホンでの家族との対話が地底生活での団結を支えた。

精神面のケアには、米航空宇宙局(NASA)の専門家が現地入りし、閉鎖環境における長期滞在でのノウハウを助言した。救出用の立て坑の掘削やカプセル作りなどには、先進各国の技術が提供された。日本の宇宙飛行士が着用した消臭・抗菌性の下着も大いに感謝された。大事故の場合の国際支援の成功例ともいえよう。

気がかりもなくはない。救出された作業員の体力や気力は、順調に回復するだろうか。PTSD(心的外傷後ストレス障害)も心配だ。しばらくそっとしておく配慮も必要だろう。

朗報とは別に、サンホセ鉱山の安全性には強い懸念を持たざるをえない。落盤事故への備えは十分だったのか。チリ政府にはきちんとした検証が求められる。

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