首長VS地方議会 住民の出番を増やそう

毎日新聞 2010年10月08日

首長VS地方議会 住民の出番を増やそう

やはり住民に聞いてみる、ということだろう。名古屋市の市民税減税問題などをめぐり市議会解散請求の署名を集めていた河村たかし市長の支援団体は必要な法定数を上回る約46万5000人の署名を提出した。今後無効分を点検するが、このままだと議会解散の賛否を問う住民投票が行われる公算が大きくなった。

日本の地方自治は首長、地方議会双方が住民から直接選ばれる「二元代表制」だけに、両者の対立がエスカレートし、機能不全を来しかねない要素をはらむ。こうした懸念に対処するためにも、住民投票をより積極活用する段階に来ている。政府も議論を急ぐべきである。

河村市長は市民税10%の恒久的な減税や、議員の定数・報酬の半減を掲げ議会と厳しく対立してきた。署名審査はこれからだが、主張が市民に一定の浸透をみた表れだろう。

首長の解職や地方議会の解散に関する住民のリコール投票は地方自治法が住民の直接請求の手続きを定めている。にもかかわらず、これまで政令指定都市で投票が実施されたことはなかった。

リコール手続きには通常の自治体で有権者の3分の1の署名が必要だ。名古屋市のような大都市はやや要件が緩和されているが、大量の署名集めのハードルは高い。制度を有効に生かすため、署名の要件を緩和すべきだ。その結果リコールが多発し自治が不安定になる懸念があるならば、逆に投票でリコールに必要な票数を「過半数」より厳しくするのもひとつの考えだ。

一方で河村氏の手法をみると、議会との間でもう少し建設的な歩み寄りを探る選択がなかったのか、疑問もある。たとえばテーマ別に住民投票を行い、民意を聞く場面があってもよかったのではないか。

政策をテーマとする住民投票の実施は自治体に任され、テーマを問わない常設型の投票制度を条例で定めた自治体は限られる。人口に応じた一定の署名があれば投票の実施を自治体に義務づけるような法制を議論すべきだ。住民投票になじむテーマの範囲をどう設定し、結果に法的な拘束力を認めるかなど難題は多いが、検討に値しよう。

一方で鹿児島県阿久根市のように市長が議会を招集せず、人事などで専決処分を乱発したケースもある。同市では逆に市長の解職を求めるリコール運動が起き、住民投票が行われる見通しだ。地方議会の通年会期制、専決処分ができる範囲を限定することなども含めて政府は検討すべきだ。

片山善博総務相は住民投票の活用に積極的だ。首長と議会の緊張関係に住民参加をどう、かみ合わせるか。腕の見せどころである。

読売新聞 2010年10月14日

首長vs議会 名古屋市だけの問題ではない

首長と地方議会は、不毛な対立を避け、健全な緊張関係を保ちつつ協調することが肝要だ。

名古屋市の河村たかし市長の支援団体が、市議会の解散請求(リコール)に向けて、46万人超の署名を選挙管理委員会に提出した。

有効署名が、有権者の約2割にあたる法定数の36万5795人に達していると確認されれば、来年1月にも、解散の是非を問う住民投票が実施される。投票で過半数が賛成すれば、市議会は解散され、出直し市議選が行われる。

1か月で46万人超もの署名が集まったのは、市民の関心の高さを物語る。地方分権の受け皿となる自治体の行政に市民が厳しい視線を送ること自体は歓迎したい。

今回の解散請求の発端は、河村市長と市議会の対立にある。市長が市民税減税の恒久化や議員定数・報酬の半減などを目指し、議会が反対するという構図だ。

河村市長は昨年4月、市民税の10%削減などを公約に掲げて民主党推薦で出馬し、初当選した。

市議会は、市長の主張通りの条例案をいったん可決したが、今年3月、10%減税を今年度限りとする改正案を可決した。「来年度以降の財源がはっきりしない」などを理由としている。

また、議員定数を75から38に、報酬を年1633万円から816万円に減らし、政務調査費を廃止する市長提出の条例案を否決した。こうした市議会の動きに河村市長が反発し、市長主導で解散請求運動が本格化したものだ。

市民税減税は、財源を行政改革で捻出(ねんしゅつ)するのなら、一つの政策の選択肢となり得る。様々な問題が指摘されている議員の政務調査費の見直しや、議会の活性化の努力も欠かせないだろう。

一方、議員定数と報酬は、一定の削減ならともかく、半減はあまりに過激ではないか。市長による大衆迎合主義の色彩も濃い。

日本の地方自治は、首長と議会の二元代表制を基盤としている。名古屋市とは事情も構図も異なるが、鹿児島県阿久根市でも、独善的な市長と議会が対立し、市長の解職請求運動が起きている。

首長と議会が、建設的な相互監視の機能を果たすには、双方が予算配分などで持ちつ持たれつのなれ合いの関係に陥らず、一定の緊張関係を持つことが望ましい。

だが、名古屋市のように、市長と議会が決定的な不信感を持ち、対決していては、建設的な施策に取り組めず、行政の停滞を招く。住民にとっても不幸なことだ。

産経新聞 2010年10月11日

名古屋リコール なれ合い議会を返上せよ

市長自らが主導する異例の展開となった名古屋市議会の解散請求(リコール)活動は、法定数を上回る約46万人分の署名を集めた。点検作業中だが、住民投票でリコールが成立すれば政令市では初めてとなる。

首長と議会が真っ向から対立する事態は全国で相次いでいる。中でも今回の名古屋の対立は、地方自治の在り方を根本から問いただしている。とりわけ問題は、議会がチェック機能をどうやって果たしていくかである。

対立のきっかけは、河村たかし市長が市長選で掲げた市民税の恒久減税などの公約が否定されたことだ。だが、自らの公約実現のために、現職首長がリコールの先頭に立つというのは異例である。河村氏は議会をどこまで説得したのか疑問が残る。

出直し市議選となった場合、河村氏は支援者を擁立して過半数を目指すという。もし、そうなれば議会は市政をチェックできるだろうか。首長と議会を別々に選ぶ地方自治の「二元代表制」の否定にもつながりかねない。政策テーマ別に住民投票を行うなどの選択肢はなかったのか。

一方で、議会の怠慢ぶりも明らかにされた。名古屋市では行政とのなれ合いが続いてきた。事前の根回しで市長が提案する政策の追認を繰り返し、議員自ら政策立案することを怠ってきた。議会の本来の役割は行政をチェックし、政策をよりよく修正していくことだろう。市長の提案を否定する以上、代替案を示すべきだ。これでは議会の存在が疑われよう。

「なれ合い議会」は、名古屋に限った話ではない。オール与党体制が続く自治体も少なくない。議員が行政と癒着して露骨な利益誘導に走ったり、行政の無駄に目をつぶってきたケースも多い。

河村氏は市議報酬と定数の半減を主張している。名古屋市の場合、支給額は約1600万円だという。「第二の報酬」と呼ばれる政務調査費もある。これまでのお手盛りぶりにあきれる。署名が多数集まったのも当然だ。

地方分権で権限や財源の移譲が進む中、首長や議会の責任は大きくなった。議員個々の政策立案力も問われる。情報公開も必要だ。あしき慣行を断ち切り、首長と議会が政策を競い合う関係にならない限り、住民の期待に応える自治体運営は実現しないだろう。

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