5兆円補正 「雇用第一」もっと鮮明に

朝日新聞 2010年10月09日

5兆円補正 「雇用第一」もっと鮮明に

ブレア元英首相は優先課題を「教育、教育、教育」と語った。同様に「第三の道」の政治路線を標榜(ひょうぼう)する菅直人首相は、日本経済の再生に向け「一に雇用、二に雇用、三に雇用」を掲げている。菅政権がきのう決めた補正予算案を柱とする円高・デフレ対応緊急総合経済対策は、その重要な一歩を刻むべきものである。

補正予算案の規模は5兆円余り。実質国内総生産(GDP)を0.6%程度押し上げ、45万~50万人ほどの雇用を創出または下支えする効果がある、と政府は試算する。

残念ながら、皮算用通りにいくとは思えない。地方自治体による介護や医療分野での時限雇用事業、新卒者の就職支援、雇用調整助成金を出す要件の緩和など、雇用に直結する重要な項目も盛り込まれてはいる。だが、全体が総花的にすぎて、雇用に力点が置かれたという迫力が感じられない。

予算額の多くがつぎ込まれる「地域活性化」「社会資本整備」の分野は、公共事業が中心となりそうだ。公共事業も雇用を生み出す効果はあるが、一時的な需要を作り出す程度だろう。それではいけない、というのが日本の「失われた20年」の教訓だったはずではないか。

内容がこうなったのは、野党の自民党や公明党、連立与党の国民新党などの要望を採り入れたためだろう。衆参両院の多数派が異なる「ねじれ国会」を乗り切りたい、という政治の都合が優先された感が強い。

むしろ必要なのは、議論をきちんと戦わせた上で、より良い結論を導き出そうとする努力ではないか。合意を急ぐあまりに野党要求を丸のみするのでは、来年度予算編成でも各党の要望を次々と受け入れ、予算額が膨れあがってしまいかねない。

持続的に雇用を生み出すのは容易ではない。いま失業者は約300万人。そのほかに国内企業は600万人規模の余剰人員を抱えていると言われる。菅政権は、この状況を克服するため集中的に取り組むべきだ。

この視点に立てば、今回の対策は力不足だ。これでは首相の「雇用、雇用、雇用」のメッセージは国民に届かず、雇用不安もぬぐえない。

短期的な景気循環を前提にした、これまでのような公共事業や企業の設備投資を促す施策が中心の経済対策では、いまの長期停滞もデフレも解消できない。雇用拡大を柱に、環境や医療、介護、保育といった新たな成長市場を生み出し、国民の将来不安をなくしていくことが求められる。

そこをどう具体化できるか。斬新なアイデアが問われている。来年度予算では、雇用と成長本位の政策に力強く乗り出せるよう、与野党の本格的な議論と検討作業を望みたい。

毎日新聞 2010年10月11日

経済対策 与野党協議で磨きを

政府が緊急総合経済対策を決定した。円高進行でデフレ圧力が増しているとして、9月に予備費活用で9200億円の財政支出を決めたのに続く第2弾の対策という位置づけだ。規模は5兆500億円で、より大規模な対策を求める国民新党に配慮し、5兆円を超す額で決着した。

当初の想定より規模が膨らんだ背景には、円高の進行があった。民主党代表選で菅直人首相が再選された翌日の先月15日に政府・日銀は6年半ぶりに円売り・ドル買い介入に踏み切った。

さらに日銀は、今月5日に一段の金融緩和に踏み切った。新基金を設けて国債などを買い取り、年0・1%に維持してきた政策金利の一層の低下も容認するという内容だ。

従来の緩和策から新たな領域に足を踏み出した格好で、次は政府の番ということなのだろう。「政府・日銀が一丸となって」という声に押される形で、額が膨らんでいった。

「大変だ」と大騒ぎした結果、金融と財政の両面で踏み込んだ対策がとられることになったわけだが、実際には1カ月もたたないうちに、円の為替レートは対ドルで介入前以上の水準になっている。

冷静さを欠いた状況下で対策が取りまとめられたせいか、「雇用・人材育成」や「新成長戦略の推進・加速」など5本柱を立て、新卒者の就職活動支援などが盛られているものの、寄せ集め的な印象が強い。「コンクリートから人へ」や「控除から手当へ」を掲げ政権交代を実現したのとは大違いで、民主党らしいところが見えてこない。

地方自治体が自由に使途を決められる「地域活性化交付金」(約3500億円)のように、政策効果が定かではないばらまき的な分も含め、自民党時代の経済対策のあしき部分を引きずっている感もある。

また、産業を創造するための規制緩和もうたっているものの、具体的にどう進めるのかよくわからないというのも心配な点だ。

とはいえ、財政が危機的状況にある中で、税収見込みの増額分や金利低下に伴う国債利払い費の減額分など、使えるお金をつぎ込む形でつくられた経済対策だ。有効に活用してもらわなくてはならない。

経済対策の実施に向けて政府は補正予算案をとりまとめ国会に提出する。衆参のねじれを逆に生かし、与野党が協議し、法案や予算案をより良い形に修正できるのかが、この国会で与野党に試されていることだ。

補正予算案をめぐる審議は、今後の政治のあり方を決める重要な場となりそうだ。対立による停滞ではなく、与野党が協力し、政策に磨きをかける国会にしてほしい。

読売新聞 2010年10月11日

緊急経済対策 早期実施で景気腰折れを防げ

政府が、財政出動5兆円、事業規模では21兆円を超える緊急経済対策をまとめた。

最大50万人の雇用を生み、経済成長率が0・6%押し上げられるという。

円高が止まらず、景気悪化の懸念は強まるばかりだ。9月の経済対策からさほど間をあけず、第2弾を打ち出したのは、適切な対応と言えよう。

景気の腰折れを防ぐには、対策の実施に必要な補正予算の早期執行が肝要である。与野党とも、景気優先の姿勢で臨み、補正予算の成立を急がねばならない。

今回の経済対策は、野党側の要望を大幅に取り入れ、社会資本整備や地域活性化に厚めの予算を配分した。「ねじれ国会」での円滑な審議を目指してのことだ。

地方自治体が公共事業や雇用対策に使える「地域活性化交付金」の創設は、自民、公明両党の主張に沿っている。自民党が求めた公共事業前倒しも、高速道路の「ミッシングリンク(こまぎれ状態)の解消」などの形で盛られた。

公共事業は、景気刺激の即効性が高く、積み増すこと自体は結構だ。しかし、民主党政権は今年度の当初予算で公共事業を大きく削った前歴がある。今回、結局は追加せざるを得なくなったことを反省しなければならない。

経済対策で中小企業の資金繰り支援を大幅に拡充したのも、底割れ防止に有効だろう。

このほか、レアアース(希土類)の安定確保や新卒者の就職促進、保育所整備の補助など、幅広いメニューが並んだ。

これまでの政策を拡充したものも多く、総花的だが、当面の景気と将来の成長力強化の両面に目配りした点は評価できる。

財源は、今年度の税収の上ぶれ分や、金利低下による国債利払い費の減少で手当てできたため、国債の増発は回避されるという。

それでも、財政は危機的だ。補正予算に、景気下支え効果の少ない項目がまぎれ込まないよう、点検が欠かせない。

例えば、来年度当初予算で設ける「1兆円超」の特別枠は、各府省の要求が計3兆円にふくらんでいるが、ここから補正予算に切り替えられた項目も多い。不要不急と判断される事業があれば、差し替えるべきだ。

今年度予算に盛り込まれた子ども手当などのバラマキ政策は、経済効果が乏しく、国民からの支持も低い。来年度予算では、政権公約にこだわらず、大胆に見直す必要がある。

産経新聞 2010年10月11日

緊急経済対策 元気引き出す規制緩和を

政府が総額5兆円規模の緊急経済対策を閣議決定した。円高デフレから脱却するうえで欠かせない対策だけに、裏付けとなる補正予算の早期成立を求めたい。

しかし、対策の中身には疑問点が多いと言わざるを得ない。新卒者の就職対策や中小企業の資金繰り支援などを盛り込んではいるが、新規産業の育成や企業の設備投資の増加につながるような「元気の出る対策」は見あたらないからだ。

菅直人政権は輸出産業に対して円高にも耐える構造転換を促しながら、企業の創意工夫を引き出す規制緩和などの産業政策に取り組まねばならない。

15年ぶりとなる円高水準に対応し、日銀は4年3カ月ぶりに実質的なゼロ金利政策を打ち出して日米の金利差縮小に動いた。これに続く形で、政府・与党がこの対策を策定することで円高阻止やデフレ脱却を目指したといえる。

ただ、肝心の対策は焦点がぼけている印象が拭(ぬぐ)えない。住宅エコポイントの対象拡充や地方が公共事業に使える地域活性化交付金は景気の下支え役にとどまる可能性がある。従業員を解雇せず、休業などにとどめた企業に支払われる雇用調整助成金の条件緩和も盛り込まれたが、これも新規雇用の創出につながるものではない。

日本経済の先行き不透明感が強まる中で、企業は設備投資を手控えたままだ。医療や福祉などで規制緩和を進め、設備投資や新規産業の育成を促すことで雇用を生み出そうとする工夫がみられないのは残念だ。

一方で政府は、今回の対策と同時に地球温暖化対策基本法案を閣議決定し、再び国会に提出する構えをみせる。温暖化ガスの国内排出量を厳しく規制する同法案に対し、産業界は「海外への工場移転につながる」と反対している。政府・与党は産業界との意思疎通を緊密化して国内投資を活発化させる政策を進める必要がある。

産業界の意識も変えなければならない。

円高を生かして海外企業を買収するなど、積極的な事業展開が求められる。企業の手元資金は過去最高の水準に達している。これを国債などの安全資産で運用するだけでは成長は見込めない。リスクを冒しても新たな市場を開拓する企業家精神なくして日本経済の自律的な回復は望めない。

職務経歴書の書き方 - 2010/10/12 09:37
とても魅力的な記事でした。
また遊びにきます。
ありがとうございます。
この社説へのコメントをどうぞ。
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