通貨安競争 有効策を打ち出せないG7

朝日新聞 2010年10月11日

通貨安競争 G20で協調の再構築へ

へたをすれば、世界は通貨を安くする競争から破滅への道を歩みかねない。それを防ぐには、主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が打ち出した協調を中国など新興国に広げることが、何よりも求められる。

ワシントンでのG7は、世界経済の安定のために為替問題に一致して当たることを確認した。問題の震源地のひとつである中国など経常黒字の新興国に、硬直的な為替管理を解くよう求めていくという。

新興国を巻き込んだ議論は、来月ソウルで開く主要20カ国・地域(G20)首脳会議で真剣に行われるべきである。為替に限らず、不均衡是正や摩擦回避のための多国間の仕組みづくりへと、踏み出してほしい。

「通貨戦争」という物騒な言葉すら飛び交っている現状は、中国の人民元の硬直した相場維持政策と先進国の金融緩和への急傾斜がからみ合った結果、生じている。2年前に起きた金融危機はG20の結束で乗り切ったが、回復の鈍化や不均衡の増大という新たな困難に直面しているのだ。

輸出に活路を求めたい思惑は各国に共通しており、「輸出振興のため通貨を安くしている」という非難と相互不信が悪循環を起こしかねない空気が醸し出されている。

80年前の大恐慌後、通貨切り下げ競争が戦争に行き着いた苦い教訓を思い出すまでもない。世界経済の秩序ある回復には各国の協調が不可欠だ。分裂を避ける賢明さが必要だ。

相互不信の構図には、二つの軸がある。ひとつは先進国と新興国との貿易不均衡に起因する問題だ。ドルに対し安く固定された人民元をめぐる米中対立がそれを象徴する。もうひとつが、景気悪化を避けるため先進国が超金融緩和をして、その国の通貨安になっている点だ。円ドル相場をめぐる日米間の不協和音はその一例である。

先進国の金融緩和競争で海外にあふれたマネーが、ブラジルなどの新興・途上国で通貨高やバブル、インフレの要因となっている面もある。

複雑な状況をどう解きほぐすか。米中の経済摩擦に世界が振り回されるような事態は困る。あくまで多国間の枠組みで解決を図りつつ、人民元の問題は世界的な不均衡を是正する一環として中国が着実な切り上げを約束し、行動で示すべきである。

中国は国際通貨基金(IMF)でも主要国の地位を得る方向で協議が進んでいるが、経済大国は国際秩序に貢献する責務があることをきちんと自覚しなくてはならない。

超金融緩和と通貨安・マネー流出の結びつきを解く工夫も必要だ。これもまさに国際的な枠組みを駆使するほかない。グローバル経済は新たな協調を構築すべき段階を迎えている。

毎日新聞 2010年10月10日

通貨安競争 先進国こそ責任重い

通貨安競争への懸念が強まる中、先進7カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁会議が開かれた。各国が自国通貨安を求めて為替介入や相場誘導の応酬を繰り返す通貨安競争。協調して阻止しなければならないとの認識で一致したようだ。

しかし、具体的に何をするかは今後の課題とした。一方で、G7に参加していない中国など新興国に、通貨高を容認するよう改革を求めることは合意した。新興国との間でさらに対立が深まりはしないか心配だ。

確かにG7は今、それぞれ国内に懸念材料を抱えた状態だ。米国では失業率が高止まりし、一段の景気減速も予想されている。ユーロ圏には依然として財政難を背景とした信用不安の火種が残る。そして日本では、円高を受け、企業経営者のマインドが悪化し始めた。

そうした中、通貨問題で先進国同士が共通目標を掲げ政策を調整するのはなかなか困難である。主要通貨のドル、円、ユーロが同時に安くなることはありえないが、どこも自分の通貨だけは高くならないよう望んでいると見られるからだ。そこで手っ取り早く、新興国に宿題を任せようということなのだろう。

それは賢明ではない。世界経済に占める新興国の比重が大きくなったということは、新興国経済のひずみが世界経済全体に及ぼす影響も大きくなったことを意味する。

人民元が柔軟な通貨に変わっていくことは世界にとっても中国にとっても望ましい。それには中国国内の資本市場自由化など時間がかかる課題に取り組まねばならない。

ただ、それと先進国の景気回復は直結しない。新興国の通貨高を通して景気を浮揚させようという考えは正しくないばかりか、金融危機以降取り組んできた、先進国と新興国による主要20カ国・地域(G20)の協調体制を揺るがす危険がある。

世界の通貨市場を不安定にしている要因に、先進国による異例の金融緩和があることを忘れてはならない。米国は来月にも、大規模な量的緩和を再開するとみられているが、為替相場や新興国の資産価格への影響も十分考慮してほしい。

会議に出席した野田佳彦財務相は、先月の大規模な円売り介入が中国の為替管理政策とは異質のものだと訴えたようだ。「為替相場の過度な変動は望ましくない」と確認したことが「成果だ」とも強調するが、守り一辺倒の印象がぬぐえない。

世界経済の安定成長を確保するためには、まず先進国が率先して行動する必要がある。今後開かれるG20の会合では、通貨安定にむけてどのような枠組みを築いていくのか、日本の積極的な発信を望む。

読売新聞 2010年10月10日

通貨安競争 有効策を打ち出せないG7

自国の通貨を安値に誘導する「通貨安競争」にどう歯止めをかけるか。中国の人民元を念頭に、先進国が新たな政策協調を目指したが、具体策は先送りされたと言えよう。

日米欧の先進7か国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が、ワシントンで開かれた。

G7は、為替相場の過度な変動は望ましくないという原則を再確認するとともに、「新興黒字国は為替相場を一層柔軟化すべきだ」との認識で一致した。

名指しは避けたが、新興黒字国が、経済大国に急成長した中国を意味することは明らかだ。

中国は金融危機が起きた約2年前から、人民元の対ドル相場を固定した。今年6月に相場上昇を容認すると発表したが、その後も輸出に有利になるように、相場をほとんど上昇させていない。

先進国が結束し、中国の経済力に見合った形で、着実な元高の進行を促したのは当然である。

とくに懸念されるのは、元安に対抗して、アジアなどの各国も、自国通貨を安く維持する「通貨安競争」が起きていることだ。

輸出を最優先する保護貿易主義的な動きが広がれば、ただでさえ先行きが不透明な世界経済の回復に悪影響を与える。元の切り上げが進まないことが、そうしたリスクを高めかねない。

中国政府は、元切り上げ圧力に抵抗しているが、緩やかな元高は不均衡是正だけでなく、中国の景気過熱やインフレを抑制する効果も期待できる。まず、自主的に改革を続けることが肝要だ。

中国を含めた世界20か国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議が今月下旬に、G20のサミットは来月開かれる。「通貨安競争」を回避する具体策を巡っては、各国の思惑に温度差もうかがえるが、政策協調が何より重要だ。

一方、今回のG7で、円急騰に直面している日本の難しい立場が改めて浮き彫りになった。

野田財務相は、先月単独で実施した円売り・ドル買いの市場介入について、「相場の過度な変動を抑制するため」と説明した。

米欧からはとくに批判は出なかったとしているが、円高阻止の為替介入を黙認されただけで、積極的に支持を得たとは言えまい。

G7直前、円ドル相場は一時、15年ぶりに1ドル=81円台まで上昇した。週明けも円高圧力が続きそうで、史上最高値の79円台が迫りつつある。政府・日銀は、再度の単独介入もためらわず、断固とした姿勢で臨むべきだ。

産経新聞 2010年10月10日

G7と人民元 結束を強めG20に生かせ

先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)は中国に人民元の一段の切り上げを促すことで一致し、閉幕した。

中国は世界最大の輸出国である。巨額の経常黒字を抱えていながら、人民元を実勢よりも安く維持していると批判されている。

来月、韓国で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議には中国も参加する。人民元切り上げを中国に受け入れさせるためには、G7が足並みをそろえることが何より大切である。

今回、為替が主要議題になった背景には、主要国が景気刺激策を目的に、輸出に有利な自国通貨安政策をとっていることがある。特に人民元切り上げに抵抗する中国に対しては、欧米の対中赤字を積み上げるだけでなく、途上国や新興国の成長機会も奪っているとの非難が強まっている。

これに対して、中国の温家宝首相は「人民元相場が急上昇すると中国国内の輸出工場は閉鎖に追い込まれ、出稼ぎ労働者は農村に戻る事態になる」などと対中国包囲網に反発している。

各国が自国通貨安をめざす「為替介入競争」に突入すれば、保護主義の動きを加速させ、世界経済の成長にとってはマイナスとなる。中国にこの弊害を十分認識させるため、日本も積極的に議論をリードしていく必要がある。

人民元の問題とともに、G7でのもう一つの日本の課題は、為替介入について各国の理解を得ることだった。

野田佳彦財務相は会議後、「長期間にわたって大規模に一定の水準を目指したような介入ではないと説明し、強い批判はなかった」と強調した。しかし、欧米の当局者からは日本の円売り介入に反発する見方もあり、今後も説明を求められよう。

このところの円相場は、日銀が事実上のゼロ金利への引き下げと大幅な金融緩和を決めたにもかかわらず、円高が止まらない。今後も市場動向を注視し、適時適切な機動的介入が必要だろう。合わせて、金融緩和と日本経済を押し上げる経済対策を切れ目なく講じていくことが不可欠だ。

会議では「過度で無秩序な変動は世界経済に悪影響を与える」との原則も改めて確認された。政府・日銀は今後も各国と緊密な連絡を取り、意思疎通を図っていくことが重要となろう。

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