NHK記者 報道倫理の欠如に驚く

朝日新聞 2010年10月10日

NHK記者 報道の責任を考え直せ

取材で知ったことを報道の目的以外に使ってはいけない。ましてや、捜査対象となっている相手に伝えるとは、報道の基本を踏み外している。

警視庁が大相撲の野球賭博問題で家宅捜索に乗り出すという情報を、NHKスポーツ部記者が、渦中にあった時津風親方に携帯メールで送っていた。今年7月、親方の部屋が捜索を受ける9時間前である。

親方は当時、賭博に関与したとして捜査の対象になっていた。警視庁はこの記者から任意で事情聴取し、証拠隠滅や犯人隠避などにあたらないか調べている。そうした刑事責任の有無を別にしても、記者の行為は重大な問題をはらんでいる。

記者はNHKの内部調査に対し「関係づくりに生かそうと思った」「手柄になるかもと考えた」と話している。

NHKでは2年前、記者ら3人が特ダネ情報を入手して一足先に株を売買するインサイダー取引が発覚した。その後まとめた「新放送ガイドライン2008」にも「業務上知ることのできた機密や個人情報、プライバシーなどの情報を、決してほかに漏らすことはしない。情報漏洩(ろうえい)は重大な不正行為であることを認識し、適正に管理する」とうたわれている。明白な違反だ。

メールを送った記者は、他社の記者から聞いた捜索情報だったと説明しているそうだが、記者だから知り得た情報である重大さに変わりはない。

新聞や放送の記者は、知り得た情報を読者や視聴者に届けることを使命としている。法廷や競技場の最前列で取材できるのは人々の知る権利に応えるためだからこそだ。決して記者個人や所属する組織の利益のためではない。

今回のような逸脱が続けば、報道機関全体への信頼がゆらぎ、ひいては自由な報道で国民が情報に接する民主主義の根幹を揺るがしかねない。

NHKは警視庁の捜査を待つだけでなく、第三者委員会を設け、問題の記者をふくめ報道局全体で過去に情報漏洩がなかったか調査すべきである。

NHKスポーツ部の中でも相撲担当は特殊な位置づけにあるという。今や大相撲の中継はNHKだけが続けているからだ。制作局にいたプロデューサーは「取材対象者との距離感に問題はなかったのか」と話す。

NHKが払っている相撲中継の放映権料は年間で28億円程度といわれる。NHKと相撲協会は力をあわせ、相撲ファンにこたえてきた関係にある。

その長年の関係を考慮してもなお、不祥事を繰り返した相撲協会に法令順守を求めるために、NHK会長が名古屋場所の中継をやめると決めた。そのことを放送で説明した直後に、記者はメールを送った。

問題を重視し、NHKは全力で信頼を回復してほしい。

毎日新聞 2010年10月09日

NHK記者 報道倫理の欠如に驚く

記者の報道倫理が厳しく問われる事態が明るみに出た。

大相撲の野球賭博事件に絡み、NHK報道局スポーツ部の記者が7月、取材先である日本相撲協会の関係者へ「あす賭博関連で警察の捜索が入るようです」との携帯メールを送ったというのだ。他社の記者から聞いた情報だという。

メールを送ったのは7日未明で、実際に同日午前、警視庁が、この関係者の関連先を含む相撲部屋など三十数カ所を一斉捜索した。

報道機関は、取材した内容を報道目的のみに使うのが大前提だ。しかも、今回の場合、警察の捜索情報である。前日のうちに捜査対象者に漏れれば、証拠隠滅が行われる可能性があることは容易に想像がつく。報道機関に携わる者として、許されない行為だ。

記者はメールで「他言無用で願います。NHKから聞いたとばれたら大変な問題ですので」と念を押している。メールの内容の重大性を認識していたことがうかがえる。

警視庁は、賭博事件の捜査を通じてこの事実を把握し、記者からも事情聴取したという。犯罪が成立するか検討するようだ。

記者は「相手の反応をとって取材に生かそうと思った」と述べているというが、安易な動機だと言わざるを得ない。

メールを送った前日、福地茂雄会長が、テレビ中継が始まった1953年以来初めて、名古屋場所の中継中止を発表し、大きなニュースになっていた。裏返して言えば、テレビ・ラジオの相撲中継を通じ、NHKと相撲協会は深い関係にあるということだ。その取材対象者との距離の近さが、安易な行動の一因となっていなかったか。

NHKは、記者個人の責任として終わらせるのではなく、背景についてきちんと検証すべきだ。

また、NHKは内部調査の結果、NHKの事件担当記者の関与はなかったとしている。だが、調査中として詳細はまだ明らかでない。

これは、報道機関全体への信用性にもかかわる問題である。NHKは調査が終了した時点で、背景や再発防止策などについて改めて詳細に公表すべきだ。関係者を厳しく処分するのも当然である。

それにしても、NHKの不祥事が絶えない。記者ら3人が、企業の資本提携に関する放送前の特ダネニュースに接し、株を購入するインサイダー取引事件を引き起こしたことが一昨年明るみに出たばかりだ。

報道倫理を踏み外した行為が厳しく批判された。だが、その反省が生かされていない。NHKは、記者教育を改めて徹底すべきである。

読売新聞 2010年10月11日

捜索情報漏洩 報道倫理逸脱したNHK記者

大相撲の野球賭博問題で、今度は報道側の倫理が厳しく問われる事態が明るみに出た。

NHKの報道局スポーツ部に所属する30歳代の男性記者が7月、警視庁の捜査対象になっていた時津風親方(元幕内時津海)に、「あす警察が捜索に入るようだ」などとメールを送信していたというのだ。

記者倫理を逸脱した言語道断の行為である。NHKにも抗議や苦情が殺到しているという。

当時、警視庁は賭博開張図利容疑で複数の相撲部屋を一斉捜索しているが、結果的に記者のメール送信から数時間後だった。その際に押収した親方の携帯電話の解析から情報漏洩(ろうえい)が発覚した。

仮に、この情報をもとに証拠隠滅などが行われていれば、どうだったろう。捜査に重大な支障が出た可能性があった。記者の行為が法に抵触する恐れもあった。

メールには「他言無用。NHKに聞いたとばれたら大変なので」などと記されていた。許されない行為であるという認識は、記者にもあったはずだ。

それでも情報を送った理由として、記者は「メールをきっかけに、再び親方と関係作りをしたかった」と内部調査に答えている。

客観的な報道をするためには、取材対象と一定の距離を置く必要がある。独占的に大相撲を中継し、相撲協会とも特殊な関係にあるNHKならば、なおさらだ。

記者のメール送信の前日は、NHKが、テレビ中継始まって以来の名古屋場所の生中継中止という苦渋の決断をした日だ。その傍ら、取材対象に取り入ることで情報を得ようと記者が画策していたとしたらモラル欠如も甚だしい。

そもそも、取材活動で知り得た情報を報道目的以外に使わないというのは鉄則だ。

NHKは、捜索情報は他紙の記者から得たもの、と強調するが、そうだとしても、捜査対象に漏らしていい理由にはなるまい。

NHKでは2008年、元ディレクターらによる局内情報をもとにしたインサイダー取引が発覚した。以後、放送倫理の勉強会を開くなど、社内教育を徹底してきたというが、生かされなかった。

04~06年には、制作費着服やカラ出張など不正経理が続発し、受信料の支払い拒否が相次いだ。視聴者の信頼回復がいかに困難か、よもやNHKは忘れていまい。

記者個人の問題で終わらせてはならない。NHKは組織全体で今回の不祥事を検証し、改めて再発防止策を公表すべきだ。

産経新聞 2010年10月10日

捜索情報漏洩 報道の信頼揺るがす愚行

大相撲の野球賭博事件で、NHK記者が警視庁の家宅捜索情報を日本相撲協会関係者にメールで漏らしていた。記者倫理を踏みにじる愚行で、怒りを禁じ得ない。

今回の記者の行為が証拠隠滅などの犯罪にあたるかどうかは捜査にまつほかないが、報道機関としての信頼を根底から揺るがす行為である。同じ報道に携わる立場として自戒するとともに、NHKには再発防止に向け徹底調査と検証を求めたい。

それにしてもNHKの説明には不可解な点が多すぎる。

問題の記者は、情報は「付き合いのある他社の記者から聞いた」という。だが、それが誰かは明らかにしていない。NHK側は否定するが、身内の組織からの情報入手だった可能性はないのか。

万一そうだとしたら、3年前の教訓は全く生かされなかったことになる。報道局の記者ら3人が放送前のニュース原稿を悪用し、勤務時間中に株売買していたインサイダー取引事件である。今回の捜索の漏洩(ろうえい)についてNHKは「事案が異なる」(冷水仁彦(しみず・よしひこ)報道局長)と否定するが、果たしてそう言いきれるのか。

「他社から聞いた情報だから上司に報告しなかった」という説明には無理がある。漏洩が発覚した経緯についても、はっきりしない点が多い。

メールの送付先は時津風親方(元幕内時津海)と判明したが、NHKが記者の身元とともに明らかにしなかったのはなぜか。記者の懲戒処分が行われていないことなどを理由にしているが、理解に苦しむ。国民の受信料で成り立つ公共放送の立場からも、NHKには明快な説明責任がある。

NHKは大相撲中継を独占的に行っている。相撲協会とは特別な関係にあるだけに、なおさら厳しい一線を引くべきだ。今回の情報漏洩は、はからずも双方の癒着ぶりを示したとも言える。

インサイダー事件に限らず、NHK職員による不祥事は一向に後を絶つ気配がない。制作費の着服や乱脈経理の続発で受信料の支払い拒否が相次いだのはわずか6年前だ。番組制作でも偏向・歪曲(わいきょく)が少なからず指摘されてきた。この間、会長は2度も交代し、その都度、抜本改革を誓ったはずだ。

組織としての法令順守や企業統治の強化策に根本的な欠陥はないか、一から見直しが必要だ。

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