肝心の答弁の中身は棒読みで、野党の挑発質問にはムキになる。菅首相の答弁がこれでは、首相の唱える「熟議の国会」は遠のくばかりだ。
3日間にわたった衆参両院での各党代表質問は、首相の答弁がおざなりで、論戦はまったく深まらなかった。
政治とカネの問題では、民主党の小沢一郎元代表に対する証人喚問について、「国会で議論、決定すべきこと」と繰り返した。党の対応も「岡田幹事長が検討している」の一点張りだった。
野党がただしたのは、小沢氏の説明責任や政治的けじめに対する首相自身の見解である。
首相は9月の民主党代表選で、「クリーンな政治」を掲げた。小沢氏の疑惑にも「しっかりした説明が必要」と述べていた。ならば党首として、岡田幹事長や小沢氏に直接働きかけ、国会招致の実現に動くのが筋だ。
首相は尖閣諸島沖の漁船衝突事件でも、中国人船長の釈放は「検察の判断」と言うのみだった。外交判断と政治責任を検察に“丸投げ”している、との野党側の批判に、首相の答弁は何も答えていないに等しい。
答弁の中身の空疎さと対照的に際立ったのが、「イラ菅」ぶりだった。イラ菅とは、すぐにイライラして相手に当たり散らすとして首相についたあだ名である。
「卑怯者内閣」「嘘八百」「有言不実行」などと批判した自民党の稲田朋美衆院議員に対し、首相は「私もこれほど汚い言葉は使わなかった」と強く反発した。
だが、首相が野党時代、自公政権の首相や閣僚に繰り出した挑発的な質問と比べて、五十歩百歩、と受け止めた議員は多かろう。
首相は「原稿を読まずに答弁しろ、というなら、原稿を読まないで質問するのが筋」とも発言し、党内からも「品位を欠く」と批判され、謝罪を余儀なくされた。
一方で首相は、公明党の質問には驚くほど丁寧、低姿勢な答弁ぶりだった。ねじれ国会打開のため公明党の協力を切望するのはわかるが、「熟議」を言うなら、他の野党にも誠実に答弁すべきだ。
論戦の舞台は、来週から予算委員会に移る。代表質問のような、事前に用意した応答要領を読むだけの答弁では済まない。
政策課題では、応答要領にある程度頼らざるを得ないにせよ、その中にも自らの政治信念や知見、経験を盛り込む工夫を凝らして、聞き応えのある論戦とするよう心掛けてほしい。
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