ノーベル平和賞 中国民主化への期待だ

朝日新聞 2010年10月09日

平和賞 中国は背を向けるな

驚異的な経済発展とは裏腹に、民主主義や人権を大切にしてこなかった中国の指導者に、痛烈なメッセージが突きつけられた。

中国の民主活動家で作家の劉暁波氏に、ノーベル平和賞が授与されることになった。1989年の天安門民主化運動にかかわり、それ以来暴力など過激な手段を使わず、言論活動一筋に民主化を求めてきた人物だ。

ノルウェーのノーベル賞委員会は、こうした活動を高く評価した。

北京五輪のあった2008年暮れ、劉氏は共産党独裁の廃止など根本的な民主化を訴える「08憲章」を起草した。そのことと党や指導者に対する批判が、「国家政権転覆扇動罪」に問われて懲役11年の判決を受けた。今は東北部の遼寧省で獄中にある。

劉氏が平和賞の知らせを聞くことができたかは定かでない。少なからぬ国民も、当局による報道規制のために知らずにいるかもしれない。しかし早晩、授賞の知らせは中国で広がり、劉氏らとともに民主化につとめてきた人々への大きな励ましとなるだろう。

ノーベル賞委員会によれば、中国当局は「反体制派への授与は非友好的な行為と見なされる」と警告していたという。だとすれば、急成長する経済や軍事力の増強による「大国意識」を背景にした強権的な一面が、ここでも表れたといえる。

しかし、委員会は中国側の圧力に屈しなかった。高く評価したい。

中国当局は、政治的信条の平和的な表現を認める、自らも署名した国際規約に反し、言論の自由などをうたった中国憲法にも反している。委員会はそう厳しく批判し、中国の責任の大きさを指摘した。

尖閣諸島沖の衝突事件や南シナ海での行動は、中国がルールに従わない国という警戒感を国際社会に与えた。

経済の相互依存が強まるなかで、国際社会は中国による普遍的価値の侵害に目をつぶりがちだった。人権問題を重視してきた欧米諸国も、最近は中国との関係維持を優先させていた。先のアジア欧州会議(ASEM)首脳会合でも厳しい注文はつけなかった。

そうした風潮の中でのノーベル賞委員会の決定は、とりわけ先進国への警鐘として重く受けとめたい。

中国外務省は「劉暁波は中国の法律を犯しており、その行為は平和賞の趣旨に背いている」と批判し、ノルウェーとの関係悪化も示唆した。民主活動家らへの国内での締め付けが厳しくなることも心配だ。

内外で強硬な姿勢をとることは、長い目で見て中国の利益にならないだろう。経済発展を続けても、普遍的な価値を大切にしなければ真の大国として認められないことに、中国当局は早く気づかねばならない。

毎日新聞 2010年10月09日

ノーベル平和賞 中国民主化への期待だ

中国の民主化運動活動家、劉暁波氏に2010年のノーベル平和賞が決まった。1989年の天安門事件で指導的な役割を果たして投獄。2008年、共産党一党独裁を否定する「08憲章」を起草し、国家政権転覆扇動罪で懲役11年の判決を受け再び獄中にある。

劉氏の受賞は、劉氏個人にとどまらず、中国国内で当局の弾圧や妨害を受けながら粘り強い活動を続けているすべての民主化運動、人権擁護運動の活動家たちへの、国際社会の共感と激励である。まず劉氏の釈放を求めたい。

13億の巨大な人口を抱える中国は、共産党の指導する改革開放政策によって世界第2の経済大国になろうとしている。この実績をたたえない国はない。その半面、共産党に反対する政党の存在を認めない一党独裁体制を堅持し、世界最大の独裁国家となった。核ミサイルや宇宙兵器を含む強大な軍隊を持つ独裁国家に脅威を感じない国もなかろう。

中国政府は、選考段階で「劉氏を選ぶのは非友好的な行為だ」とノルウェー政府に圧力をかけたという。語るに落ちるとはこのことだ。民主化運動を抑圧する中国の国柄に対して国際社会が「友好的でない」ということを、中国自身十分承知しているのである。劉氏は中国民主化という、輝かしい未来の姿を率先して提起したのである。中国政府は怒る道理がない。

中国共産党は抗日戦争を戦い、国共内戦をへて中国を統一した。最貧国の状態だった経済を60年あまりの時間で米国に次ぐ規模に成長させた。しかしその間に何度か知識人、学生たちによる民主化要求運動が起きた。胡耀邦総書記など民主化運動に理解を示した共産党指導者もいたが、みな失脚した。

とくに天安門事件を鎮圧した李鵬元首相や、その直後に党権力を握った江沢民元国家主席などにとって「08憲章」を受け入れることは、弾圧の非を認めることにほかならない。憲章がうたう複数政党制、三権分立、基本的人権などの民主化要求は当時から芽生えていた。流血の弾圧がなく、趙紫陽総書記派が勝利していたら、中国の政治体制はいまとはずいぶん違ったろう。

あと2年の任期となった胡錦濤総書記は、実は胡耀邦系の改革派と見られている。就任直後、政治体制改革への期待は大きかったが、制度改革の実績は見られない。劉氏は憲章を起草して平和賞を受賞したが、劉氏にそれを実現する力はない。胡錦濤氏やその後継者が、思い切って憲章を実行すれば世界の政治史に特筆される大改革になる。ノーベル平和賞の連続受賞は間違いないだろう。

読売新聞 2010年10月09日

ノーベル平和賞 中国に民主化を迫る授賞だ

経済大国化しながら民主化を怠る中国に対し、基本的人権などの重視を求める強いメッセージと言えよう。

今年のノーベル平和賞が、懲役11年の刑で服役中の中国の民主活動家、劉暁波氏に授賞されることが決まった。

理由について、ノルウェーのノーベル賞委員会は、劉氏の長年にわたる非暴力的な人権活動を評価したものだとしている。

その上で、中国に対し、言論の自由など国民の権利を尊重するよう注文をつけた。

ノーベル平和賞はこれまで、1989年にチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世、91年にミャンマーの民主活動家アウン・サン・スー・チーさんに授与されるなど極めて政治性の高い賞だ。

今回も、その流れに沿った動きと言っていいだろう。

これに対し、中国の外務省報道局長は、「劉氏は中国の法律を犯し、有罪判決を受けた人物。平和賞の趣旨に背く行為だ」と強く非難した。

今回の発表に先立ち、中国の外務次官がノルウェーを訪れ、劉氏に平和賞を授けないよう、ノーベル賞委員会の事務長に政治的圧力をかけていた。それが無視された形で、中国の反発が今後も続くのは避けられまい。

作家の劉氏は08年末に、直接選挙の実施、言論や集会、宗教の自由など、19項目の要求を盛り込んだ「08憲章」を起草した中心人物である。

中国当局は、劉氏の言動が政権転覆を狙ったものとして逮捕・起訴した。今年2月には控訴審で劉氏の実刑が確定した。

その劉氏らの「08憲章」は当局に握りつぶされ、報道や出版物に対する監督・規制は一段と強化されているのが実態だ。

胡錦濤総書記や温家宝首相は最近、相次いで政治改革の必要性を訴えた。政治改革を求める国際的な声を無視できないのだろう。

党指導部が目指すのは社会主義体制の枠内での政治改革だが、それでも具体的に動き出す気配は見られない。

中国の国防費は89年の天安門事件以降、経済成長率を上回る規模で毎年増加している。軍備増強の中、経済的には豊かになったが、国民の権利は一向に改善されない。こうしたいびつな状態が、いつまで続くのか。

国際社会で責任ある地位を占めようとするのなら、中国は劉氏のノーベル平和賞受賞の意味を重く受け止めなければならない。

産経新聞 2010年10月09日

劉氏ノーベル賞 国際世論が迫った民主化

他からの批判を許容しない政治体制に国際世論が発した警告−それが中国の著名な民主活動家、劉暁波(りゅう・ぎょうは)氏へのノーベル平和賞授与に込められたメッセージだろう。

劉氏は中国共産党による一党独裁体制の廃止を求める「08憲章」の起草者として国家政権転覆扇動罪に問われ、今年2月には懲役11年、政治的権利剥奪(はくだつ)2年の実刑判決が確定した。服役中の受賞だ。

平和賞を選考するノーベル賞委員会(ノルウェー)の事務長に中国の外務次官が、授与は外交関係に悪影響を及ぼすと圧力をかけたのは異様である。中国の強い反発を承知でノーベル平和賞の理念を貫いた委員会を支持したい。

劉氏は1989年、米コロンビア大学に研究者として在籍中に帰国し、民主化要求運動に加わった。天安門事件では「反革命罪」で投獄された。その後も再三投獄や監禁刑罰の「労働教養」に処せられたが、文筆活動はやめず、時評や論文を発表し続けた。

ノーベル賞委員会は劉氏が「長年、非暴力による人権擁護の闘いを続けた」ことを授賞理由にあげた。弾圧に屈することなく中国国内にとどまり、平和的な手法で改革を訴える不屈の精神への高い評価である。

同時に委員会は「大国になった中国に対し批判すべきは批判しなければならない」と中国の民主化を求めた。これが国際世論であると中国指導部は認識すべきだ。

中国は過去にもノーベル平和賞に強い拒絶反応を示した。89年、チベット仏教最高指導者、ダライ・ラマ14世への授賞である。

ダライ・ラマは中国への要求を「チベットの独立」から「高度な自治」へと変えた。中国は「国家分裂主義者」と断定したままだが、世界各地で行われるダライ・ラマの講話集会はいつも大聴衆に埋められている。

91年に受賞したミャンマーの民主化運動指導者、アウン・サン・スー・チーさんの軍事政権に屈服しない姿勢も国際世論の支持が高い。ダライ・ラマとも共通する「非暴力」への共感だ。

劉氏のノーベル平和賞受賞が中国社会に潜在する民主化要求のうねりを再び呼び起こす可能性がある。しかし、流血の天安門事件を忘れてはならない。国際社会は中国の自由抑圧や人権状況への監視を強める必要がある。

毎日新聞 2010年10月07日

ノーベル化学賞 お家芸の受賞を喜ぶ

2年ぶりに日本人のノーベル賞受賞が決まった。化学賞は00年から02年に3年連続受賞し、一昨年も受賞している。鈴木章博士、根岸英一博士の受賞で、ノーベル賞はさらに身近になった。

しかも、今回の受賞対象は、日本の「お家芸」ともいえる有機合成の分野である。日本にとって励みになるだけでなく、若者の科学やものづくりへの興味を後押しする効果もある。受賞を喜びたい。

医薬品など生活に役立つさまざまな有機化合物の骨組みは炭素でできている。このため、有機化合物の合成には、炭素同士をつなぐ反応が非常に重要になる。

しかし、炭素は反応させるのが難しい。反応性を高めると、今度は不純物ができてしまう。

そこに登場したのが受賞対象となった「パラジウム触媒によるクロスカップリング」と呼ばれる方法だ。少量のパラジウムを反応の仲介役(触媒)として加えることによって、効率よく、正確に、ねらった炭素同士をつなぎ、新たな有機化合物を作ることができる。

米国のリチャード・ヘック博士はこの反応の元祖ともいうべき「ヘック・カップリング反応」を開発した。根岸博士は、これを発展させ、「根岸カップリング」を開発した。

鈴木博士が開発した「鈴木カップリング」は、いわば完成型で、医薬品や液晶、化学繊維の合成など非常に幅広く使われている。そうした応用の広がりが評価されたのだろう。

クロスカップリング反応の発展には、たくさんの日本人が貢献し、日本人の名前を冠した反応も数多い。今回は、「パラジウム触媒」をキーワードに3人が選ばれたが、他にも受賞に値する人はいるだろう。この分野における日本の科学者の層の厚さが受賞につながったに違いない。

08年の下村脩博士の化学賞受賞は、知的好奇心に導かれて発見した基礎科学の成果が、後に生命科学の道具として欠かせないものになることがあることを印象づけた。

今回の受賞も、もとは基礎研究から生まれた化学反応を、よりよい反応につなげようとする科学界の努力が実ったものだろう。

そう思って現在の日本の科学の現状を振り返ると、安心してはいられない。大学の基盤的研究費の減少、基礎から応用へ橋渡しするシステムの弱さなど、解決しなくてはならない課題は多い。

科学の世界は、今、大きな国際競争にさらされている。新興国の台頭は日本の強みであるものづくりも脅かしている。そうした中にあって、有機化学の分野がいかに世界のトップレベルを保ってきたか。今回の受賞を機に改めて参考にしたい。

産経新聞 2010年10月07日

日本人ダブル受賞 国民を勇気づける快挙だ

今年も心躍る朗報だ。ノーベル化学賞が、北海道大学名誉教授の鈴木章さんと米国パデュー大学特別教授の根岸英一さんに決まった。物理学賞と化学賞で4人の日本人受賞者を出した一昨年に続いての快挙である。

アジア諸国の台頭が目立つ中、この受賞の勢いを日本の科学技術の研究開発力をさらに伸ばしていくための原動力としたい。

鈴木さんと根岸さんは、有機合成化学に新時代をもたらした革新者だ。異なる有機化合物同士をつなぐ反応は非常に困難だったのだが、金属のパラジウムに仲立ち役をさせることで実現した。

異なる化合物を結合させることから「クロスカップリング」と呼ばれるこの反応は「スズキ反応」「ネギシ反応」などともいわれ、製薬産業や電子産業の現場で利用されている。

抗がん剤や抗HIV(エイズウイルス)剤、液晶や伝導ポリマー、発光高分子材などがその例だ。世界中で広く使われている先端技術が日本人の頭脳から生まれたことを誇りとしたい。

2000年の白川英樹さんの化学賞以降、日本のノーベル賞は順調に伸びている。

鈴木さんと根岸さんのダブル受賞で、日本人のノーベル賞受賞者は、米国籍の南部陽一郎さんを含めて計18人となった。化学賞では7人という躍進ぶりだ。

若手研究者には、近年のこうした勢いを励みとして、独創的でスケールの大きな研究に取り組んでもらいたい。

だが、日本の科学技術研究の現状には気になる点が少なくない。大学や政府系研究機関などでは運営予算が減り、若手研究者は安定した職を得にくくなっている。

また、短期間で確実な成果を求められるので、若手による研究上の冒険も減っている。留学希望も少なく、「内向き志向」が問題になるなど将来が気がかりだ。

鈴木さんや根岸さんに続き、次代を担う研究者たちが世界をリードしていくことを期待したい。

そのためには海外での武者修行に尻込みしていてはだめだ。国も研究の短期成果主義を改めて、優秀な若手が落ち着いて研究できる環境を整えることが必要だ。

ノーベル賞には国民を勇気づける力がある。資源小国の日本にとって、科学技術が果たす役割は限りなく大きい。

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