第三国定住難民 「受け入れ」定着と拡大を

毎日新聞 2010年10月01日

第三国定住難民 「受け入れ」定着と拡大を

タイ北西部のメラ難民キャンプで暮らしていたミャンマー難民3家族18人が来日した。軍事政権下の母国で迫害され、逃れた人たちである。

避難先の国でも定住できない難民を別の国に移して定住させるのが「第三国定住」だ。日本はこれまで、母国以外の国を経由した難民は認定してこなかった。

難民の救済策として、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が「第三国定住」制度を呼びかけ、欧米や南米などで受け入れが進む中、試験的に導入したものだ。

今年度から3年間で90人のミャンマー難民を迎え、状況をみながら増やすという。

そもそも、難民の受け入れは人道問題である。「難民条約」に基づき、年間数千~数万人を難民認定する欧米先進国に比べ、日本の昨年の認定者は30人だ。存在感は極めて薄い。その意味で、難民問題で積極的に国際貢献するというメッセージを世界に送ったことは、評価したい。

来日したのは、少数民族「カレン族」の人たちである。政府担当者が現地で面接をして選んだ。到着した際、口々に「うれしい」「農業の仕事につきたい」などと語った。

まず半年間かけて、日本語や生活習慣などの研修を受ける。だが、定住先は決まっておらず、心中には不安もあるだろう。

かつて日本は1万人以上のインドシナ難民を受け入れた。だが、言葉の問題が壁になり、進学や就職ができず困窮する人が多かった。

そのてつを踏んではならない。そのためには、継続的な行政の支援とともに、難民を受け入れる国民の意識改革も必要だ。

UNHCR前駐日代表が長野県出身という縁で、今回来日したミャンマー難民について、同県松本市の市民らが定住先候補として手を挙げ、有志で支援方法の勉強会や住宅探しをしているという。

日本語が不自由なまま、初めての地で生活するのである。どんな形であれ、支援の動きは心強い。

来日したミャンマー難民の人たちは、将来的に永住資格や日本国籍を得ることも可能だ。少子高齢化が進む中で、難民たちが社会に根づいて働き、生活できる環境を整えるのは、日本の将来のためでもある。

タイに逃れたミャンマー難民は約15万人と言われる。さらに「第三国定住」難民の受け入れを進めるのは当然だろう。

一方で、タイを経由せずミャンマーから直接来日し、「条約難民」として難民申請した人が、昨年だけで568人に上る。こちらの門戸も一層広げることが、国際社会の要請に応えることになる。

読売新聞 2010年10月04日

第三国定住難民 支援メニューの充実を図れ

ミャンマー軍政の迫害により、祖国を離れ、タイで難民キャンプ生活を強いられてきた少数民族カレン族の3家族18人が先週来日した。

政府が試験的に始めた「第三国定住」の第1陣である。3家族が日本の社会に順調に溶け込めるよう応援していきたい。

人種や宗教などを理由に迫害を受ける恐れがある難民は、周辺国に逃れても、定住を認められないケースが多い。この結果、長期の難民キャンプ生活を強いられる。そうした難民を別の国で再保護するのが第三国定住である。

日本は、1970年代後半に大量発生したベトナム、カンボジア、ラオスからのインドシナ難民を1万人以上受け入れてきた。

82年からは難民条約に基づく受け入れも始めたが、「認定手続きに時間がかかる」「受け入れる人数が少ない」との批判が強い。

第三国定住の場合、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が人選に関与して、日本社会への適応力や健康面を事前にチェックする。通常の難民受け入れより手続きがスムーズにいくとみて、政府は導入に踏み切った。

今年度から3年間、ミャンマー難民を家族単位で約30人ずつ受け入れる方針だ。4年目以降は、その状況をみて、受け入れ人数や対象難民を決めるという。

来日した3家族は、これから半年間、東京都内の定住支援施設で社会習慣とともに日本語を学ぶ。就職先の斡旋(あっせん)や職業訓練、児童への就学支援も受ける。

政府はこのほか、受け入れ企業への助成や、自立後の日本語教育相談員の派遣なども、支援メニューとして用意している。

最大の課題は、やはり日本語の習得をどう助けるかだ。

インドシナ難民受け入れの際も「半年の学習では、とても覚えられなかった」と不満を訴える難民が多かった。

実際に始めてみて、半年では不十分とわかれば、学習期間の延長も必要だろう。

難民が言葉の壁などで地域社会にうまく溶け込めず、住民との間で摩擦を引き起こすことになれば双方にとって不幸な事態だ。それを回避するためにも、難民への現行の支援を充実させ、実効性のあるものにしていく必要がある。

政府だけで難民たちを支えることは無理がある。地方自治体や企業、教育機関、難民支援のNGO(民間活動団体)などと緊密に連携し、息長く続くサポート体制を築いてほしい。

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