民主党政権の外交は大丈夫か。そんな思いを抱く国民も少なくないだろう。しかし、その懸念を払拭(ふっしょく)する「菅外交」の全体像は示されなかった。
菅直人首相がきのう、国会で所信表明演説を行った。就任から4カ月。参院選での敗北、党を二分した代表選、内閣改造を経ての再出発である。
それは政権交代の成否を賭けた民主党政権の再スタートでもある。首相は「有言実行内閣」の看板に恥じない指導力を発揮しなければならない。
経済と社会保障の立て直し、消費増税を含む財政再建など、聞きたいことは山ほどあるが、当面の関心は何といっても日本外交のかじ取りである。
いまや外交は民主党政権のアキレス腱(けん)となった観がある。
鳩山由紀夫前首相は、米軍普天間飛行場移設問題で日米関係をきしませ、政治とカネの問題も相まって、在任わずか8カ月余で退陣に追い込まれた。
菅首相は尖閣諸島沖事件での中国人船長の逮捕・釈放をめぐり、与野党を超えた批判にさらされている。ロシア大統領が北方領土訪問を表明するなど、国家主権が絡むデリケートな問題で政権の力量が問われる局面が続く。
民主党政権の外交に不安がつきまとうのは、安全保障観の異なる議員の寄り合い所帯のためでもある。日米中3カ国の関係をどう位置づけるか、沖縄に米海兵隊の駐留が必要かどうかをめぐっても、党内の意見はさまざまだ。
それだけに、演説の冒頭に外交を据えるくらいの判断があってよかった。体系的な外交戦略と最高指導者としての気構えを、国民に向かってもっと丁寧に発信すべきではなかったか。
尖閣諸島は「我が国固有の領土」だという原則的立場を確認したのはいいが、船長釈放について「国内法にのっとり粛々と処理した」との相変わらずの説明には、国民も納得できまい。
普天間問題では、日米合意の実行がますます難しくなっているにもかかわらず、沖縄の負担軽減にも取り組むというお定まりの表現を繰り返すだけ。
「国民一人ひとりが自分の問題としてとらえ、国民全体で考える主体的で能動的な外交」を掲げたわりには、国民への説明がおざなりに過ぎる。
菅首相は演説の結びで「熟議の国会」を掲げ、野党に協力を呼びかけた。ねじれ国会では、国民のための政策を実現する責任は与野党双方にあるという認識は、まさにその通りだ。
ただ、ねじれ国会を乗り切る最大の力は、やはり国民からの支持である。それをしっかり得られれば、野党もおのずと協力せざるをえなくなる。
菅首相は就任直後の初めての所信表明を、政治のリーダーシップの源泉は国民からの信頼にあるとして、国民への協力の呼びかけで締めくくった。その初心を忘れてはいけない。
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