臨時国会 合意の作法を身につけよ

朝日新聞 2010年09月30日

臨時国会 合意の作法を身につけよ

あれが日本政治の分岐点だったと、のちに振り返るような国会にできないものだろうか。

7月の参院選で、衆参両院の多数派が異なる「ねじれ」状態となった。与党には衆院で法案を再可決する議席数もない。あす召集される臨時国会は、以来初めて長丁場の論戦となる。

試されるのは、難しい状況を乗り越える知恵と努力である。

ねじれていても、衆院の議決が優越する予算は成立する。だが、赤字国債の発行を認める公債特例法案などが成立しなければ予算の執行が暗礁に乗り上げる。菅直人政権は行き詰まる。

それは単に菅政権の問題ではない。仮に衆院解散・総選挙となり、自民党中心の勢力に政権交代したとしても、衆参のねじれを解消するのは容易なことではない。相手を追い込んだはいいが後で仕返しを受け、今度は自分が追い込まれる。そんな悪循環に陥れば、政治の漂流はいつまでも続く。

だからこそ、この国会のうちに、与野党を超えた合意形成の作法に習熟しなければならない。

まずは補正予算である。民主党は、編成段階から野党と意見交換したい考えだ。当然の努力だろう。事前には応じない党とも審議を通じて接点を探り、修正を試みればいい。

法案も同様だ。透明な形で合意形成の努力を重ねることが、幅広い民意を政治に反映させることにつながる。

その際に大切なのは、何が譲れない一線なのか、民主党内で議論を重ねることである。野党への譲歩は避けられないが、すべて丸のみしたのでは政権を獲得した意味が失われる。それは、自分たちは何をめざす政党なのか、立ち位置を定め直す作業になる。

野党側は、発想を転換してもらいたい。審議を通じ修正させる力を手に入れたのだから、旧来型の「日程闘争」とはきっぱりと決別すべきである。

寝る。つるす。そんな国会用語は、法案審議を拒否したり引き延ばしたりする戦術を指す。

自民党長期支配の下、数で劣る当時の野党が法案の成立を阻止するには、時間切れに追い込むしかなかった。その戦術をてこに譲歩を引き出し、主張を反映させた。その結果、国会本来の役割である審議が空洞化し、与野党の交渉は水面下に潜り、政治のプロセスが有権者の目に見えにくくなった。

右肩上がりの経済成長が続いたころなら、そんな政治でも何とかなった。いま成長は鈍り、財政破綻(はたん)の足音が聞こえ、日本外交のかじ取りもいよいよ難しい。足の引っ張り合いや不透明な取引をする余裕は、もうない。

政権交代の時代である。そして、日本は危機に直面している。歴史の要請に応えられる国会審議のありようを、一刻も早く構築すべきである。

読売新聞 2010年10月01日

ねじれ臨時国会 懸案処理へ与野党は歩み寄れ

政党間で議論を尽くす「熟議の民主主義」で衆参ねじれ国会を乗り切る――。そう主張する菅首相の本気度と手腕が、厳しく問われよう。

秋の臨時国会が、きょう召集される。今年度補正予算案の審議が、ねじれ国会の行方を占う重大な試金石となる。

菅政権は、与野党が法案・政策ごとに連携する部分連合を模索する方針だが、簡単ではない。民主党が打診した補正予算案の事前協議は野党に拒否された。24日の衆院北海道5区の補選を控え、自民党などに協調ムードはない。

一方で、円高・デフレ対策や雇用拡大など補正予算案の必要性や内容では、与野党の主張はかなり共通している。衆参ねじれという政治の事情で、日本経済の足を引っ張ることは許されない。与野党は合意形成に努力すべきだ。

その一義的な責任は無論、政府・与党側にある。補正予算案に野党の要望を反映させるという当面の対応にとどまらず、野党が求める民主党の政権公約の抜本的な見直しに踏み込むことが必要だ。

子ども手当や高速道路無料化などのバラマキ政策は、国民の支持も少なく、財源不足で破綻(はたん)状態にある。公約の「原点回帰」を訴えた小沢一郎元代表を党代表選で破ったことで、菅首相が公約を見直す環境は整っているはずだ。

臨時国会のもう一つの焦点は、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件である。野党側は、菅政権を揺さぶる格好の材料と見ている。

菅首相は30日の衆院予算委員会の集中審議で、那覇地検による中国人船長釈放について「捜査への介入は一切ない」と強調した。

政治介入を否定する政府の説明は、無理がある。日本側が船長を逮捕、拘置延長しながら、拘置期限前に突然釈放した場当たり的な対応の背景には、中国側の強硬姿勢への誤算も否定できない。

野党が、民主党政権の対中外交は拙劣だと追及したいのは、一応理解できる。だが、単なる政府批判の繰り返しは、菅政権の内外の信頼を(おとし)め、中国を利するだけで結果的に国益を害しかねない。

今後、尖閣諸島という領土を守るために具体的にどうするか、という建設的な議論が望まれる。

首相が来週のアジア欧州会議出席を国会日程より優先したのは、尖閣問題に関する日本の立場を国際社会に訴えるうえで妥当だ。

北沢防衛相も、12日の東南アジア諸国連合拡大防衛相会議に出席を希望している。野党は、国益を重視して出席を認めるべきだ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/505/