武富士破綻 消費者金融への重大な警鐘

朝日新聞 2010年10月03日

武富士破綻 貸金業市場をつくり直せ

消費者金融の膨張期を象徴した武富士が、会社更生法の適用を申請した。この破綻(はたん)劇は一企業の問題ではない。正常化へ、改革をどう進めるか。業界全体が問われている。

武富士は、過払い利息の返還で行き詰まった。出資法の上限29.2%より低いが利息制限法の上限20%を超す「グレーゾーン金利」は、2006年1月の最高裁判決で無効とされた。同年末に成立した改正貸金業法でその撤廃が正式に決定した。

これまでの返還請求は、業界全体で数兆円にのぼる。まだ請求していない借り手も多く、業界が立ち直る展望は一向に開けない。

武富士の更生法申請は、法的な整理を通じてしか企業再生の道が開けないという判断なのだろう。潜在的な過払いの借り手は200万人、負債は2兆円に及ぶ。更生法は、一般の債権者については同率で債権をカットする「債権者平等」が原則なので、過払いの返還請求もカットの対象になる。

米国では、債務を踏み倒すために倒産という手段が使われることがある。武富士に同じような発想があれば問題である。また、巨額の資産を持つとされる創業家には、道義的なものも含めて責任を問う必要がある。

過去の破綻処理では、民事再生法の下でクレディアが30万円までの過払い債権は全額弁済し、残りは6割カットした例がある。更生法でも再生法でも、少額の債権や連鎖倒産が懸念される中小企業の債権は優先的に弁済することが認められている。

多重債務に陥った過払いの債権者も、破綻のふちという点で似ている。管財人は、こうした弱い立場にある人々にできるだけ配慮すべきだ。

戦後の金融システム整備は、多様な庶民金融が銀行に近づく形で進んだ。その過程で融資を受けにくくなった人たちを吸収したのが消費者金融などの貸金業だった。生活苦にあえぐ人々を相手に、膨張はさらに加速した。

暴力的な取り立てが批判されたり、ワンマン経営が招いたスキャンダルで信用が失墜したりしてきた。その結果、改正貸金業法による厳格な規制が導入され、メガバンクの傘下に入ることで生き残りを図る動きが相次いだ。

貸金業の借り手には、金融弱者も多く含まれる。ヤミ金融などがはびこらないようにするには、過剰融資をしないことを前提に、より健全な消費者金融の市場をつくるべきだろう。

韓国では97年の経済危機後、バングラデシュのグラミン銀行を手本にした貧困層向けマイクロファイナンス(少額融資)の振興に取り組んでいる。

日本も世界の経験に学んで金融システムの多様化を進め、弱者を支える小口金融の体制を再構築するために出直す時期を迎えている。

毎日新聞 2010年09月29日

武富士破綻 新しい消費者金融を

消費者金融大手の武富士が自力での経営再建を断念し、会社更生法の適用を裁判所に申請した。かつて最大手だった武富士の破綻(はたん)は、一企業の問題を超えて、消費者金融業界全体が直面する試練を浮き彫りにしている。法改正などで変化した環境下でも持続可能な新しい収益モデルの構築を急がねばならない。

一時は毎年のように過去最高益を更新していた消費者金融業界だったが、2006年1月の最高裁判決が転換点になった。出資法の上限金利(年29・2%)と利息制限法の上限金利(借入金額により年15~20%)の間の「灰色(グレーゾーン)金利」で貸し出すことが難しくなったのだ。かつてのようなもうけは、もはや期待できなくなった。

同時に、グレーゾーン金利で借りた人が払い過ぎた利息の返還を求める「過払い金」返還請求が相次いだ。返還額は業界全体で年間1兆円にも上り、経営の深刻な圧迫要因になった。さらに個人の借入総額を年収の3分の1以下に制限することなどを盛り込んだ改正貸金業法の施行もあり、貸金業者の数は激減した。

大手銀行グループに属さずメーンバンクも持たない武富士のような独立系は、特に苦境に立った。リーマン・ショック後、資金調達手段だった社債の発行が困難になり、資金繰り面でも打撃を受けた。

会社更生法の適用申請には、返していない過払い金を含め負債を圧縮する狙いがある。身軽になったうえでスポンサー企業を見つけ、再建を目指すシナリオだ。

しかし、環境が激変した以上、今までと同じビジネスの手法を続けていても、展望はひらけまい。グレーゾーンのような高金利に頼らなくても、安定的に利益が得られる商売の仕方を早急に見つける必要がある。

原則として担保も保証も要らず、すぐに小口の資金を借りられる消費者金融そのものへのニーズは今後もなくならないだろう。あらゆる借り手の求めにかなうサービスが存在することは社会にとって重要だ。金融業界には、新たなビジネスモデルづくりで健全な競争を求めたい。過払い金のカットなど広く負担を強いるだけに、変わってもらわないと困る。銀行などの知恵にも期待したい。

一方、消費者金融業界が、グレーゾーン金利を収益の源泉とし、拡大路線をひた走るのを容認した政治の責任も大きい。

時代が変われば、利用者のニーズも変わる。かつては、金融サービスを提供する側に立った法律や規制が主流だったが、今後は、時代とともに変わる利用者のニーズに十分配慮した制度作りがますます求められることになろう。

読売新聞 2010年09月30日

武富士破綻 消費者金融への重大な警鐘

消費者金融大手の武富士が、自力での経営再建を断念し、会社更生法の適用を申請した。

貸金業法の改正などで経営環境が激変し、破綻(はたん)に追い込まれた。

武富士は、創業者のワンマン経営のもとで、派手な宣伝を展開して注目され、業界のトップに立っていた時期もある。

だが、過剰な貸し付けや無理な取り立てが問題になったほか、2003年には創業者が逮捕される不祥事も起こし、大手銀行などとの提携戦略にも乗り遅れた。

武富士の破綻は、消費者金融業界が新たなビジネスモデルを見つけなければ、今後、経営が立ちゆかないことを示したといえよう。業界は抜本改革に取り組むきっかけとすべきだ。

大きな利益を上げていた消費者金融業界が、転機を迎えるきっかけとなったのが、2006年1月の最高裁判決である。

消費者金融の多くは、利息制限法の上限(15~20%)と出資法の上限(29・2%)の間の「グレーゾーン(灰色)金利」で融資していたが、判決は、利息制限法を超える分は「過払い利息」として返還を請求できるとした。

このため利用者からの返還請求が相次ぎ、すでに大手4社だけで計1兆円超を返している。

武富士も4000億円超を返還したが、まだ1兆~2兆円は請求される可能性があるという。武富士は資金不足が深刻で、請求しても一部はカットされそうだ。

武富士の経営にさらに追い打ちをかけたのが、貸金業法の改正である。グレーゾーン金利での貸し出しを明確に禁止し、融資額を年収の3分の1までに制限する総量規制も盛り込まれた。

規制の強化や資金繰りの逼迫(ひっぱく)により、武富士は昨年11月から新規融資をほぼ停止し、展望が開けない状況に陥っていた。

法改正などに伴う収益の悪化で、貸金業者は廃業が相次ぎ、10年前の約3万社から、今では約10分の1に激減した。

かつてのような、大きな利益が期待できなくなった以上、淘汰(とうた)が進んだのも当然だろう。

とはいえ、個人や零細企業にお金を用立てる小口金融へのニーズは根強い。顧客本位に手堅く経営することで、利用者と業者が共存共栄する方法もあるはずだ。

社会的に受け入れられる金融ビジネスを、今後どのように展開していくか。消費者金融業界は襟を正しながら、生き残りの道を探らねばなるまい。

産経新聞 2010年09月30日

武富士破綻 消費者金融の役割再考を

消費者金融大手の武富士が経営破綻(はたん)し、東京地裁に会社更生法適用を申請した。顧客が払いすぎた利息を返還するよう貸金業者に求めている「過払い金」負担が重荷になった。

今後、業界の淘汰(とうた)が一段と進む可能性が高いが、無担保、無保証で手軽に借りられる小口金融のニーズは依然として存在する。中小・零細事業者に対する短期融資を担う社会的役割も大きい。そうした事情も踏まえて、業界の体質改善を進める必要がある。

武富士はかつて業界トップの利益を上げ、社会的批判を浴びた多重債務問題の象徴的存在だった。経営が行き詰まったのは、過払い金の負担に加え、創業者の逮捕などの不祥事や大手銀行との提携などが遅れ、資金繰りが困難になったためだ。

今後の最大の課題は過払い金の支払いだ。最高裁の判例によって過去に取引があった顧客も請求できるため、請求額は最大で200万人、2兆円に達する可能性がある。ただ、社債や銀行からの借入金と同様に、返還額が大幅にカットされる見通しで、どの程度になるかは資産の洗い出し次第だ。

更生法申請には「過払い金を一気に減らす狙いがあった」との指摘もある。保全管理人は会社の「逃げ得」を許さないよう、債務弁済に際して過払い金返還を優先すべきだ。その原資となる資産確保のため、創業家ら旧経営陣への損害賠償請求や法的責任の是非を問うべきはいうまでもない。

その一方では、武富士の破綻に伴い、同業他社でも過払い金の返還申請が一段と増加する可能性がある。今年6月の改正貸金業法の完全施行に伴い、個人の借入総額が年収の3分の1以下に制限された影響も大きい。新規の顧客獲得が難しくなり、貸金業者の数が激減し、消費者金融の機能は大きく低下している。

規制強化で多重債務者は減っている半面、返済能力があっても借りられない人が増加して、その一部は非合法のヤミ金融に流れているといわれる。これでは、法律本来の目的である消費者保護に逆行することになる。

金融庁は銀行に消費者金融の役割を担うよう求めているが、銀行にその審査や回収のノウハウはない。借り手のニーズや消費者金融の全体像を踏まえ、必要なら改正法の再見直しも考えるべきだ。

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