北朝鮮代表者会 不安定さ増す3代世襲への道

毎日新聞 2010年09月29日

北朝鮮 独裁世襲は病根深める

なんという異様さだろう。北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記が、後継候補とされる三男に朝鮮人民軍「大将」の呼称を与えたという。総書記の妹や、その夫の側近である軍事に疎い人物にも同じ扱いをした。常識的には突拍子もない人事と言うしかない。

「金正銀(キムジョンウン)」という三男の名前が北朝鮮の公式報道に登場したのは初めてだ。44年ぶりの朝鮮労働党代表者会が開かれる日の未明に配信されたこのニュースは、時差の関係で欧米でもすぐに広まった。国際社会の主な反応は、不可解な「大将」人事への驚きと、後継者がいつ、どのように表舞台に顔を出すのかという関心だったようだ。金総書記の狙い通りではなかったか。

歓迎できる状況ではない。まず驚かせ、不透明さを維持し、あるいは危険を演出するのは、北朝鮮が対外的に利益を得るために常用してきた戦術だ。その手法が今後も維持されるのではないかと懸念が募る。

肝心の党代表者会では、まず金正日氏を「朝鮮労働党総書記」に再び推挙した。それを「われわれの数百万の党員と人民軍将兵、人民の、最大の栄光、幸福であり、祖国と民族の大慶事だ」などと報じている。何ら変化の兆候はない。

北朝鮮に対する時代の要請は、大胆な路線転換だ。韓国哨戒艦沈没事件で緊迫した朝鮮半島情勢は、北朝鮮の水害に対する韓国からの支援申し出を機に、好転の兆しが見え始めている。北側が一定の誠意を示し、南北対話が進めば、6カ国協議の再開も視野に入ってくるだろう。

北朝鮮が05年9月の6カ国協議で採択された共同声明に従い、核廃棄の確約を果たしてこそ、周辺国との和解や自国の発展が可能になる。

金総書記の過酷な支配体制は民心の離反を招き、中国首脳さえ促している改革・開放に踏み切りにくいのが実情だ。しかし、その病根を放置し、何ら改革をせずに独裁の「3代世襲」に突き進むなら、問題は深刻化するばかりであろう。

新世代である総書記の後継者が要職に就任し、統治を補佐したり職務の一部を代行するようになれば、新しい発想で内外政策を検討する余地もあろう。北朝鮮は異様な独裁体制を修正する機会を逃してはならない。

現在、哨戒艦事件の再発防止策として行われている米韓合同軍事演習に中国が神経をとがらせ、沖縄の尖閣諸島にからむ摩擦で日中関係も緊張している。北朝鮮がこれに便乗して挑発的な動きに出る可能性も排除できないが、それは自らの首を絞めるたぐいの愚行に過ぎない。そういう動きを抑止できるように、日米韓は緊密に連携し、複雑な状況に慎重に対処すべきである。

読売新聞 2010年09月29日

北朝鮮代表者会 不安定さ増す3代世襲への道

揺らぐ金正日体制を何としても延命させるための人事刷新だろう。

北朝鮮が44年ぶりに、党大会にかわる党代表者会を開き、金正日氏を党総書記に再び推挙した。中央委員など党指導部の選出も行ったとみられる。

注目の金総書記の三男ジョンウン氏が党の要職に就いたかは明らかでないが、総書記は、代表者会の開幕直前に、27歳のジョンウン氏を軍の大将に任命した。異例の抜擢(ばってき)によって、後継者の資格を付与した気配が濃厚である。

北朝鮮では、5年に1度開くはずの党大会すら30年間開かれず、中央委総会も、故金日成主席が亡くなって以降の16年間、開かれていない。最後の党大会で選ばれた中央委員は、半数以上が死亡したり解任されたりしている。

すべての権力を一手に握る金総書記は2年前、脳卒中で倒れた。回復はしたが、健康不安がつきまとう。今度倒れれば現体制は崩壊する可能性がある。

今回の代表者会の目的は、人事刷新によって、形骸(けいがい)化した党指導部の機能と役割を回復させ、体制護持を図るところにあろう。

故金主席が存命中に息子の正日氏を後継者にしたように、正日氏も権力の3代世襲でしのごうとしている。若いジョンウン氏には、「大将」の権威のもとで経験を積ませる腹づもりだろう。

総書記の妹の金敬姫・党部長も大将に任命された。その夫の張成沢・国防委員会副委員長と共に、一族で新体制を支える布陣だ。

金総書記の相次ぐ中国訪問も、経済支援や安全保障の後ろ盾を得て、体制を立て直そうとする狙いがあったに違いない。

新体制の課題は、破綻(はたん)した経済の再建だ。だが、現実には、核実験強行などの結果、国際社会から幾重にも経済制裁を科せられ、自ら体制の脆弱(ぜいじゃく)化を招いている。

核兵器と弾道ミサイルの開発にすべてを傾注する「先軍政治」の(ひず)みの所産と言える。

この北朝鮮にどう対処するかが周辺国の共通の課題だ。

問題は、核問題をめぐる6か国協議の再開も含め、関係国の足並みがそろっていない点にある。

とくに中国は、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件や韓国艦沈没事件を通じ、日本や米国、韓国との間でいたずらに緊張を高めた。地域の情勢には不透明感が漂う。

こうした中で、不安定な権力継承期に入った北朝鮮が、軽挙妄動に出る恐れがある。日本は警戒を怠ってはなるまい。

産経新聞 2010年09月29日

北の世襲後継 軍事的冒険に警戒必要だ

北朝鮮が、金正日総書記の後継者と目されてきた三男、金ジョンウン氏を初めて“公開”した。朝鮮人民軍最高司令官の父、金正日総書記が、ジョンウン氏に「人民軍大将」の称号を授与するかたちを取っている。しかし、名前と肩書を公表したことで、実質的に3代目の世襲後継者として登場を果たしたといっていい。

北朝鮮はまた、行方が注目されていた朝鮮労働党の党代表者会が28日、開催されたと発表した。金正日総書記を再び総書記に推戴(すいたい)したというが、金ジョンウン氏の党での位置を含め、他の人事などはまだ明らかでない。

後継者の金ジョンウン氏が党代表者会に先立ち、まず軍の肩書である「大将」で登場したことは象徴的だ。これは北朝鮮が今後とも軍事優先の「先軍思想」の下、核開発など軍事独裁体制を引き続き維持していくとの姿勢を、内外に宣言したに等しい。

しかも今回、金総書記の実妹で金ジョンウン氏のおば、金敬姫・党中央委部長も「大将」の称号を与えられた。北朝鮮の実質ナンバー2で金敬姫氏の夫である張成沢・党行政部長も、すでに国防委員会副委員長に任命されている。

北朝鮮の後継体制は結局、まだ28歳の若すぎる「金ジョンウン大将」を、軍要職にもある縁戚(えんせき)の張成沢・金敬姫夫妻が支えるかたちだ。健康不安を抱える金正日総書記の「有事」に備え、血縁軍事独裁体制で後継体制づくりを進めるものとみられる。

それにしても金日成主席から3代目の権力世襲となれば、21世紀の現代世界にはあるまじき特異な国家体制である。北朝鮮の最大スポンサーである中国も、共産党独裁体制は続いているが、権力世襲だけは排除してきた。

今後、北朝鮮が金ジョンウン後継体制に向け、どんな内外政策を展開するのかは不透明だ。しかし、金ジョンウン氏の登場などで後継体制づくりを急いでいるということは、権力の過渡期にあることを意味する。

権力の過渡期には柔軟な姿勢や路線は出にくい。対外強硬策に走る可能性が強いとみるべきだ。

とくに「大将」という軍の肩書を与えられた金ジョンウン後継体制では、軍事的冒険もありうる。党代表者会の結果を含め、今後の北朝鮮の動向にはこれまでになく注意と警戒が必要だ。

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