偉大な足跡を刻む一打は、狙いすました鋭い当たりだった。
シアトル・マリナーズのイチロー選手が自身の大リーグ記録を塗り替え、10年連続200安打を達成した。
昨年、ウィリー・キーラー氏が記録した8年連続を108年ぶりに更新した。そして、新しい高みに立った。
年間200安打自体が、容易ではない。それを過去、10度も達成したのは4256安打を記録したピート・ローズ氏ただ一人だった。
そのローズ氏でさえ、連続は3年が最長で、10回にたどり着くまでに17年を要した。イチローは2001年のメジャー挑戦以来、途切れることなく打ち続けた。まさに金字塔である。
200安打以上を打つには、試合をほとんど休まないことが前提になる。彼がこの10年、打席に入ったのは通算で7300回近くという膨大な数に達する。積み上げた重みと、継続できる強さが刻まれた数字だ。
抜きんでた技量と、徹底した自己管理。イチローからは二つの「しんか」という言葉が思い浮かぶ。
進歩、変化していく「進化」。そして、物事を深めていく「深化」だ。
外面的には気づかない変化も含め、イチローは36歳の今も進化を続けている。新たな技術を打法に加えられるのは、6割を超える打ち損じから、何かを学んだときだという。
「打った安打数よりはるかに多くの悔しさを味わってきた」。失敗を重ねた分だけ、彼は進化を遂げてゆく。
年を経るごとに肉体は微妙に変化する。腹背筋で体の軸を保つなど、変えてはならぬものをより強固にする「深化」のために、最新式のトレーニングをその時々取り入れてきた。
試合前のストレッチや打撃練習も、無造作に見えて実は計算し尽くされている。チェックする体のポイントは100を超える。普段の生活でも全身の筋肉を意識して動く。自らの体と「対話」し、最上の状態を保つ。試合に臨むまでの膨大な準備こそが、彼の本当のすごさなのだ。
近く全米でテレビ放映されるメジャーを扱った番組で、イチローは「大リーグの国際化」の章に登場する。本塁打全盛の時代に革命を起こした――。そんな評価を受けている。
筋肉を増強する薬物を使ってでもパワーを得ようとする選手がいる時代に、彼は走攻守で圧倒的なスピードを見せ、ベースボールという文化の本質を母国の人々に思い起こさせた。
その歩みは、メジャーにおける「変革の10年」だった。
昨年、キーラー氏の記録を超えたとき「人との戦いに終わりを迎えることができた」と言った。誰もいない地平を歩き続ける姿から、私たちはまた、力をもらい続けるだろう。
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