イチロー ベースボール変革の10年

朝日新聞 2010年09月25日

イチロー ベースボール変革の10年

偉大な足跡を刻む一打は、狙いすました鋭い当たりだった。

シアトル・マリナーズのイチロー選手が自身の大リーグ記録を塗り替え、10年連続200安打を達成した。

昨年、ウィリー・キーラー氏が記録した8年連続を108年ぶりに更新した。そして、新しい高みに立った。

年間200安打自体が、容易ではない。それを過去、10度も達成したのは4256安打を記録したピート・ローズ氏ただ一人だった。

そのローズ氏でさえ、連続は3年が最長で、10回にたどり着くまでに17年を要した。イチローは2001年のメジャー挑戦以来、途切れることなく打ち続けた。まさに金字塔である。

200安打以上を打つには、試合をほとんど休まないことが前提になる。彼がこの10年、打席に入ったのは通算で7300回近くという膨大な数に達する。積み上げた重みと、継続できる強さが刻まれた数字だ。

抜きんでた技量と、徹底した自己管理。イチローからは二つの「しんか」という言葉が思い浮かぶ。

進歩、変化していく「進化」。そして、物事を深めていく「深化」だ。

外面的には気づかない変化も含め、イチローは36歳の今も進化を続けている。新たな技術を打法に加えられるのは、6割を超える打ち損じから、何かを学んだときだという。

「打った安打数よりはるかに多くの悔しさを味わってきた」。失敗を重ねた分だけ、彼は進化を遂げてゆく。

年を経るごとに肉体は微妙に変化する。腹背筋で体の軸を保つなど、変えてはならぬものをより強固にする「深化」のために、最新式のトレーニングをその時々取り入れてきた。

試合前のストレッチや打撃練習も、無造作に見えて実は計算し尽くされている。チェックする体のポイントは100を超える。普段の生活でも全身の筋肉を意識して動く。自らの体と「対話」し、最上の状態を保つ。試合に臨むまでの膨大な準備こそが、彼の本当のすごさなのだ。

近く全米でテレビ放映されるメジャーを扱った番組で、イチローは「大リーグの国際化」の章に登場する。本塁打全盛の時代に革命を起こした――。そんな評価を受けている。

筋肉を増強する薬物を使ってでもパワーを得ようとする選手がいる時代に、彼は走攻守で圧倒的なスピードを見せ、ベースボールという文化の本質を母国の人々に思い起こさせた。

その歩みは、メジャーにおける「変革の10年」だった。

昨年、キーラー氏の記録を超えたとき「人との戦いに終わりを迎えることができた」と言った。誰もいない地平を歩き続ける姿から、私たちはまた、力をもらい続けるだろう。

毎日新聞 2010年09月27日

イチロー選手 次なる目標が楽しみだ

シアトル・マリナーズのイチロー(鈴木一朗)選手が10年連続200安打を達成し、大リーグの歴史にまた新たな一ページを書き加えた。

「簡単ではないことは僕が一番知っている」とイチロー選手が語るシーズン200安打。どれほど「簡単ではない」のか。それを裏付ける数字がある。昨シーズン、200本以上の安打を打ったのはイチロー選手を含めア・リーグ3人、ナ・リーグ1人の4人だけだった。

イチロー選手が大リーグに挑戦した2001年から昨年までの9シーズンで30人が延べ52回、200安打を達成しているが、複数回達成したのはイチロー選手を含め6人だけ。毎年30人前後いる3割打者とは比較にならないほどの困難な壁だ。

たった一度でも達成することが容易でない記録を10年も続けてきた。それにはレギュラーとしての安定した力を維持し、しかも大きな故障やスランプから無縁でなければならない。チームメートも舌を巻くイチロー選手の入念な準備と体調管理がレベルの高い、コンスタントな成績を残す要因となっている。

野球に限らずすべての競技者に手本を示しているといえよう。そのことに私たちは感動し、イチロー選手に感謝しなければなるまい。

イチロー選手の10年間は、大リーグの歴史の中で、どう位置づけられるべきなのだろう。

ルーキーだった01年は、大リーグの長い歴史の中でもとりわけ注目されたシーズンだった。その主役はジャイアンツの主砲、バリー・ボンズ選手。開幕から本塁打を量産、シーズン73本塁打の大リーグ記録を樹立し、ファンを熱狂させた。

もともと強打に加え、俊足と強肩でも知られたボンズ選手だが、マグワイア、ソーサ両選手が本塁打を量産し、全米を興奮させた98年以降、「パワーヒッター」への傾斜を強め、73本塁打はその成果だった。

だが、称賛は長続きしなかった。筋肉増強剤など禁止薬物使用の疑惑で、ボンズ選手の記録の輝きが急速に色あせていった。

その間、イチロー選手は細身の体を維持しつつ、間一髪でセーフとなる内野安打や「レーザービーム」の強肩でファンを魅了してきた。野球が本来、スリルあふれるゲームであることを再認識させたといってもいい。その一方で、埋もれかけていた大リーグの偉大な過去の歴史を次々と掘り起こし、先人たちの栄光に再び光を当てた功績も大きい。

早くも野球殿堂入りが話題になるイチロー選手だが、「ゴール」はまだまだ先と信じたい。次はどんな歴史を刻むのか。今後もイチロー選手の挑戦を同時進行で楽しみたい。

読売新聞 2010年09月26日

イチロー 技と鍛錬が生んだ200安打

米大リーグの歴史に、また新たな金字塔を打ち立てた。

シアトル・マリナーズのイチロー選手が、10年連続200安打を達成した。昨季に成し遂げた9年連続200安打の大リーグ記録を更新した。偉業を祝福したい。

オリックスからマリナーズに移籍して10年。巧みなバットコントロールと持ち前の俊足を生かし、移籍1年目から毎年、200安打以上を打ち続けてきた。

イチロー選手は、それについて「簡単じゃないことは、僕が一番知っている」と語った。地道なトレーニングと体調管理があってこその大記録であろう。

マリナーズは、戦績の振るわないシーズンが続いている。今季もア・リーグ西地区の最下位に沈んでいる。チームが不振の中で、集中力を維持するのは容易でない面もあったはずだ。

大リーグでは、日本でも広く知られるピート・ローズ氏が10回にわたり200安打を放ったが、連続記録ではない。

イチロー選手が来季も200安打を打てば、通算回数でも単独トップに立つ。ぜひ、この記録も塗り替えてもらいたい。

イチロー選手は先ごろ、日米通算3500安打も達成した。だが、日本での安打も含まれていることから、米国でのこの記録への評価は、必ずしも高くはない。

それだけに、米国だけで達成した10年連続200安打の偉大さが際立つのだろう。

大リーグの選手も「今後100年は破られない記録」と称賛している。敵地にもかかわらず、カナダ・トロントの観衆も大きな拍手を送っていた。

イチロー選手も来月で37歳となる。不調時には、年齢による衰えを指摘されるようになった。

だが、今季の盗塁数が2年ぶりに40個を超えるなど、たぐいまれなスピードは健在だ。

イチロー選手の活躍は、日本のプロ野球にも刺激を与えている。青木宣親選手(ヤクルト)ら、イチロー選手にあこがれる選手たちが、その技を研究し、安打を量産している。

日本は、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の連覇を果たしたが、イチロー選手のような走攻守に優れた選手が増えれば、日本の野球のレベルは一層、上がるだろう。

何よりも、イチロー選手のようになることを夢見て、バットを握る子供たちが増えることが、野球のすそ野の拡大につながる。

産経新聞 2010年09月26日

イチロー 後進にも勇気与えた快挙

マリナーズのイチロー選手が、本場大リーグでも前人未到の大記録、10年連続200安打を記録した。昨年の9年連続ですでに大リーグ記録は達成しており、10度目の200安打は、ピート・ローズ氏に並ぶタイ記録だ。どれほど称賛しても、ほめすぎということはない。

イチロー選手が年々更新してきた大リーグ記録は、発掘の旅にも例えられる。

2001年に242本の年間新人最多安打でシューレス・ジョー・ジャクソン、04年には262本の年間最多安打でジョージ・シスラーの記録を抜いて往年の名選手を現在によみがえらせた。

08年には8年連続200安打でウィリー・キーラーに並び、昨年は9度目で“球聖”タイ・カッブと並んだ。ついに10度目で並ばれたローズ氏は、イチロー選手の内野安打の多さに「世界一幸運な男に違いない」と語ったそうだ。

イチロー選手は、パワー偏重の大リーグにあって、こうした声とも戦ってきた。ローズ氏の200安打10度は在籍24年での記録だが、イチロー選手は在籍10年での快挙だ。このうえは、ローズ氏の大リーグ通算4256安打を目指してもらいたい。

イチロー選手の大リーグ通算安打は24日現在(米国時間)、2232安打だが、あと10年、200安打を続ければほぼ並ぶ計算だ。36歳のいまも体脂肪率1けたを誇るイチロー選手なら、不可能ではないように思えるから、すごい。自身、「50歳でも現役」と語ったこともある。

イチロー選手の存在は、後進にも勇気を与えている。

ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でイチロー選手とともに戦い、心酔したロッテの西岡剛選手は今季200安打を記録し、ヤクルトの青木宣親(のりちか)選手も続こうとしている。

本場米国で賞金女王を争っているプロゴルファーの宮里藍選手は、渡米後の不調に泣いたころ、イチロー選手の発言を集めた本に何度も励まされたという。

ウェブサイト版の「MSNニュース」では、記事ごとの読者数が分かる。突出して読まれるのは、イチロー選手の「談話」である。時に深遠で、時に辛辣(しんらつ)なイチロー語録を、多くのファンが待っている。これからも大いに打ちまくり、大いに語ってほしい。

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