朝日新聞 2009年09月27日
G20サミット 危機抑止の次元を超えよ
世界経済危機の深手を癒やし、再発を防ぐための国際協調をどう強化するか。米ピッツバーグのG20サミットに集まった首脳らは、将来に向けた課題を確認し合った。
首脳声明は財政・金融政策の総動員を解除する「出口戦略」を急がず、景気刺激策を継続するとうたった。世界経済は急激な収縮に歯止めがかかったものの、生産や雇用、消費は低迷したままだ。刺激策の堅持も重要な合意点だといえよう。
景気が再び失速したり、失業増加に伴ってデフレが深刻化したりする懸念もある以上、状況に応じて追加策の検討も怠るべきではない。
金融機関に対する規制強化に合意したことも、有意義な前進だ。
そのひとつが自己資本規制の強化である。ただし、金融機関に対する政府の監督が不十分では効果が出ない。金融機関の活動内容や実際の資金力などを的確に把握する態勢を各国が協力して築き上げることが、グローバルなバブル発生・崩壊と危機の連鎖を防ぐために重要な課題となる。
首脳らは、金融機関の経営者や幹部の高額報酬に対する規制にも合意した。巨額ボーナスに目がくらみ、危険な取引にのめり込むような仕組みを放置してはならない。この規制はきちんと具体化することが必要だ。
こうした規制を考えるうえで肝心なのは、いざとなったら税金で救済せざるを得ない巨大金融機関を各国政府や国際機関が監督する仕組みをいかに築くか、ということだ。グローバル化した資本主義を納税者の民主主義が制御するルールをどう作れるのか、という重いテーマでもある。
経済の「グローバルな不均衡の是正」への取り組みも合意された。世界経済は、米国が過剰な消費を輸入でまかなうことで回ってきた。この構造を是正するため、中国や日本などが内需を拡大し、貯蓄と投資の均衡を図るという方向は妥当だ。
世界危機の克服や再発防止はもちろん、世界経済の持続可能な成長と人々の生活の安定・向上につながるという点で、きわめて大切である。
日本では、少子高齢化の進行に比べて貧弱なままの医療・福祉関連産業をどう育てるか。中国でも、個人消費の拡大に欠かせない社会保障などの安全網整備をどう進めるか。G20合意がこうした課題の解決に向けて首脳たちの背中を押す効果を期待したい。
G20の協調は、グリーンな新産業と雇用をグローバルな規模で生み出す上でも有効だ。貧困問題や地球環境問題の解決に生かしてほしい。
そのためにも、新たな思想が必要になる。鳩山首相の「友愛」もひとつの手がかりとなりうる。具体化する知恵と努力が新政権に問われる。
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毎日新聞 2009年09月28日
鳩山外交 「変化」の発信は成果だ
米国での一連の首脳外交で鳩山由紀夫首相が発信した日本外交の新機軸は実現への道筋が具体的に描けているわけではない。しかし、政権交代による日本の「変化」を国際社会に強く印象づけたことは「鳩山外交」の成果と言えるだろう。
帰国を前にした記者会見で首相が「世界に日本の変化を実感していただくきっかけになったのではないか」と語ったように、各国の注目を最も集めたのは、20年までに1990年比25%の温室効果ガスを削減するとした国連気候変動サミットでの発言だろう。潘基文(バンギムン)国連事務総長は「首相の指導力によるもので加盟国から大変好意的に受け止められている」と評価し、オバマ米大統領も日米首脳会談で首相の「勇気」を称賛したという。
国際的には高い評価を受けたが、25%削減の目標設定には産業界などに慎重論がある。首相は国民合意の形成へ重い宿題を背負った。
核に関する国連安保理首脳会合での非核三原則堅持発言も政権交代があったればこそだろう。近隣の国が核開発を進めるたびに日本の核保有を疑う声が出るのはなぜか--。自らこう問いかけ、「それは被爆国としての責任を果たすため核を持たないのだという我々の強い意志を知らないが故の話だ」と言い切った。自民党政権の首相からは聞けなかった発言だ。
国連総会演説では祖父の鳩山一郎元首相が唱え自身も政治理念に掲げる「友愛思想」を紹介し、「世界の懸け橋になるべく全力を尽くす」と訴えた。さらに、「国連安保理常任理事国入りを目指す」とも明言しアピールも忘れなかった。
日中首脳会談で提案した東アジア共同体構想については国連総会演説でも言及し、「ローマは一日にして成らず。ゆっくりでも着実に進めていこう」と呼びかけた。この構想には、米国の位置付けや日米基軸との関係など難しい問題もある。「開かれた地域主義」の原則を踏まえ、あせらずに取り組む必要がある。
ロシアのメドベージェフ大統領との会談では、懸案の北方領土問題解決に向けた平和条約交渉を促進するため外相レベルの定期協議を開始することで合意した。領土交渉を動かすのは容易ではないが、停滞していた領土交渉に対するロシア側の姿勢の微妙な変化をうかがわせる。これも政権交代の効果といえるかもしれない。
一連の発信で首相の意気込みは各国首脳に伝わったことだろう。問題は発した言葉をどう実行に移すかであり、国際社会もそれを注視している。今後は現実政治の中で、連立政権トップとしての調整力と指導力が問われることになる。
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読売新聞 2009年09月27日
G20定例化 司令塔の役割をどう果たす
金融危機の克服と、世界経済の回復を目指し、先進国と新興国が結束と行動を再確認した。
日米欧と中国、インドなど世界20か国・地域(G20)の首脳が参加し、米国で開かれた第3回金融サミットが、首脳声明を採択して閉幕した。
米大手証券のリーマン・ブラザーズが1年前に破綻し、世界経済は未曽有の金融危機と同時不況に見舞われた。
その対策として急遽開かれた昨秋の第1回サミット以降、G20が政策を総動員した結果、危機は最悪期を脱しつつある。
そうした機能が各国首脳に認められたということではないか。来年以降の金融サミットの定例化が決まり、G20は世界経済の司令塔として、より重要な地位を与えられたといえよう。
定例化により、日米欧とロシア、カナダで構成する主要8か国(G8)会合に代わって、G20が国際協調の重要な舞台になりそうだ。しかし、参加メンバーが多いG20は、意見の調整が難しい。
サミットに初参加した鳩山首相も、「大人数で結論を出せるテーマは限られる。G8はなくすべきでない」と述べている。今後は、G20をどう効果的に運営していくかが課題となろう。
今回採択された声明は、「G20の行動が成功した」と強調する一方、景気回復が確実になるまで、刺激策の継続を打ち出した。
危機はまだ完全には終息していない。世界的に失業が増大し、再失速も懸念される。G20が手綱を緩めないのは当然だ。
重要性を増したG20の真価がまず試されるのは、新たに合意された、世界経済の不均衡を是正するための枠組みだ。
過剰消費の米国は、巨額の財政赤字と経常赤字を抱えている。日中両国は対米輸出で貿易黒字を増やしたが、不均衡の拡大が、金融危機を招いたとの反省がある。
首脳宣言は、米国に貯蓄率の向上と赤字削減を求め、日本と中国に輸出依存度を下げて内需拡大策をとるよう促した。こうした目標の達成に向け、各国の政策を相互に監視することでも一致した。
鳩山内閣は、一定の貿易黒字を維持しながらも、外需に過度に依存しない内需主導型経済への転換を急ぐ必要があろう。
金融危機の再発防止策では、金融機関の巨額報酬を制限するとともに、自己資本比率をさらに充実させることで合意したが、詳細はこれからだ。ルールの設計を急がねばならない。
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産経新聞 2009年09月27日
G20サミット 過度の監視と規制が心配
主要20カ国・地域(G20)の金融サミット(首脳会合)は「各国が協調して景気対策を継続していく」とする内容で合意し、閉幕した。世界同時不況を招いた米国発の金融危機から1年が過ぎ、各国の経済対策による効果で企業の生産や貿易が回復しつつある。
しかし、雇用情勢の悪化は依然深刻だ。失業の増加から社会不安が懸念される。G20が「世界経済の回復はまだ不完全」との認識で一致したのは当然だ。経済再生を加速させるために各国の緊密な連携が欠かせない。
金融危機の根本原因として、米国の過剰な消費に依存してきた世界経済の構造的問題に言及した点も重要だ。その是正に向けて各国が「内需拡大によるバランスの取れた成長」を目標とすることで合意した。日本も米国向け中心の過度な輸出依存構造から抜け出せなかった。鳩山政権は今後約14兆円の補正予算の見直しと来年度予算の編成を通じて内需を拡大し、景気の自律的回復を目指す成長戦略の明示が喫緊の課題となる。
ただ、「各国の経済政策を相互監視する枠組みを新設する」とした点は問題が残る。主権が絡むだけにどこまで踏み込んで注文できるのか。行き過ぎれば非難の応酬を招きかねないだけに、実効性の確保が難しそうだ。
金融危機の再発防止に向けた金融機関の報酬制限や自己資本規制強化でも一致した。だが、過度な規制によって経済活動が停滞しては元も子もない。具体的なルール設定にあたっては慎重な対応を心掛けてほしい。
G20サミットは金融危機対策を話し合う緊急会合として昨年11月に第1回会議を開き、今回で3回目だ。今後、国際経済を協議する中心的な会議として毎年定期開催することになった。国際通貨基金(IMF)改革でも発言権拡大を求める新興国や発展途上国の要求に応え、そうした国の出資比率を上げることで合意した。新興国の影響力が一段と高まり、主要国(G8)首脳会合の役割も見直されることになりそうだ。
とはいえ、日米欧の先進7カ国(G7)の世界経済をリードする役割が終わったわけではない。G7には自由主義経済の発展を支えてきたマクロ経済政策の長い蓄積がある。会議参加国が多くなればなるほど議論のまとめ役として、日本への期待度も高まることを認識しなければならない。
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朝日新聞 2009年09月26日
安保理核会合 首脳たちは決意を行動に
議長をつとめたのは「核のない世界」を主唱するオバマ米大統領だった。国連安全保障理事会が初めて、核軍縮・不拡散を主題にした首脳会合を開き、核廃絶をめざす決議を全会一致で採択した。
決議は、核保有国の軍縮、包括的核実験禁止条約の発効、兵器用核分裂物質の生産禁止条約の交渉開始を促したほか、北朝鮮とイランへの制裁決議も再確認した。強制力はないが、核廃絶という目標に向けて「核の危険を減らしていく行動の枠組み」(オバマ大統領)となる決議である。
安保理で拒否権を持つ5常任理事国は、いずれも核保有国だ。その5カ国すべての首脳が出席し、核廃絶への行動を約束した。プラハ演説から半年もたたないうちに「核のない世界」を国際社会の重要課題に押し上げたオバマ大統領の強い決意を感じさせる。
鳩山首相も応じた。「核兵器開発の潜在能力がある」のに、日本が非核の道を選んだのは、核軍拡の連鎖を断ち切ることが、唯一の被爆国である日本が果たすべき「道義的な責任」と信じたからだと明言した。非核三原則の堅持も表明した。首相自ら非核日本の立場を世界に明確にしたことは、今後の日本外交の大きな力になるだろう。
プラハ演説でオバマ大統領は、核兵器を使用した唯一の核保有国として行動する「道義的責任」があると宣言した。被爆国と核使用国という日米の首脳が、そろって核廃絶への「道義的責任」を表明したのは偶然ではない。核の非人道性を体験した日本と、核の威力・脅威を熟知する米国は今や、同盟関係を生かしてともに核廃絶を目指すべき立場にあるからだ。
たとえば、米国が戦略を見直し、核の役割を減らしていくことを、日本は積極的に支持すべきだ。米国が核を減らすと抑止力が弱まり、日本の安全保障に差し障るとの意見もある。確かに米国の抑止力は大事だが、核の危険を減らしていくことも、日本にも国際社会にも緊急の課題だ。
世界の核の9割以上を保有する米ロがまず大幅に削減すべきなのは間違いない。ただ、それが済むまで他の保有国が座視するのでは困る。
中国の胡錦濤国家主席は安保理会合で、核保有国は非核国と非核地帯に対して核使用や核による威嚇を行わないことを明確に約束し、法的拘束力のある合意にすべきだとの考えを示した。核保有国間で核先制不使用条約を締結すべきである、とも語った。
信頼できる形でこれらが実現されれば、核の危機を減らせるし、日本の安全保障にも役立つ。今回の安保理決議に基づき、中国は言葉を行動に移していく責任がある。そのために日米がどのような協力を進めていくべきかも、考えていきたい。
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毎日新聞 2009年09月27日
G20サミット 危機を進歩につなげよ
「危機」や「ショック」と名の付く出来事は、新しい協調の枠組みももたらすようだ。
G8サミット(主要8カ国首脳会議)の起源がそうだった。米国が金とドルの交換停止を発表した1971年のドルショックとその後の石油危機は先進国首脳の定期会合につながった。そして2008年秋、リーマン・ショックで深刻化した金融危機は、主要20カ国・地域のG20サミットを生んだ。当初は「緊急会議」だったが、3度の開催を経て定例化が決まり、経済協議ではG8に代わる最も重要な舞台に格上げされた。
中国、インドといった新興国の台頭や、地球規模の難題が増えたことなど、時代が環境を大きく変えたのだから枠組みの衣替えも当然だ。参加者の増加で合意形成は難しくなるだろうが、だからといって変化した現実に対応しないわけにはいかない。問題はいかにG20体制を効果的な枠組みに育てていくか、である。
何点か注文したい。まず、少なくとも当面は、金融危機への対応というG20の原点を最重視することだ。今回の会議では、金融機関の暴走を防ぐための規制強化や報酬体系の改革が原則として決まった。しかし、これらが有効に機能するか否かはすべてルールの中身と厳格な執行にかかっている。金融業界の抵抗などで骨抜きになるようなことを許してはならない。
第二は、会議の議題をしぼり込むことだ。テーマを広げすぎたG8の経験から学ぶべきだろう。緊急性の高い問題で首脳ならではの議論が期待されるものに限定すべきだ。
鳩山政権にも言いたい。首相はG20の必要性は認めつつ「G8をなくすことには反対」と表明した。参加国が多いと事前調整に手間がかかり官僚主導になりかねないからだという。しかし、それでは逃げているようにしか映らない。せっかく国連演説で、違う立場の国々の「懸け橋」を目指すと積極貢献を誓ったのだから、G20を有意義なフォーラムに高めるための貢献でも積極的であってほしい。サミットは本番だけが政治家の出番ではない。それまでの準備にこそ、首脳の指導力が発揮されるべきである。
やれることは多い。G20サミットの前に、アジアの参加国による首脳会議や非参加国も含めたアジア全体のサミットを開くのも一案だ。欧州勢はすでにやっている。テーマ次第では、アジア以外の2、3カ国で別途、サミットを開き歩調を合わせる工夫もあっていい。
危機の痛手はあまりにも大きい。それをはるかに上回る進歩なしには苦痛を強いられた世界の市民が納得しない。その進歩を主導するのは首脳らの責任だ。
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読売新聞 2009年09月26日
安保理首脳会合 核拡散防止へ責務を果たせ
国連安全保障理事会の首脳会合が「核兵器のない世界」を目指す決議を全会一致で採択した。
核の脅威には、国際社会全体で対処していかなければならない、というオバマ米大統領の強い意欲を反映したものだ。
冷戦終結後の世界で、核軍縮が遅々として進展しない反面、核拡散は確実に進んでいる。安保理が、核兵器保有国に核軍縮を促す一方、平和を脅かす行動を阻止していく決意を示したことは、拡散防止に意義ある一歩である。
問題は、それをどう具体化していくかだ。
決議は、核拡散防止条約(NPT)のすべての加盟国が、義務と責任を果たすよう求めている。
特に、安保理の常任理事国である米露英仏中は、核兵器保有国の義務である核軍縮を誠実に進めていかなければならない。
米露は、新たな核軍縮交渉に入っている。世界中の核兵器の9割以上を保有する両核大国が、戦略核弾頭と運搬手段の大幅削減で合意することがきわめて大事だ。
ただ、新条約が履行されても、なお何千発もの核兵器が残る。核軍縮が実をあげるには、他の核保有国の努力も欠かせない。「核廃絶」までの道のりは、大統領も認める通り、長く険しい。
核兵器の開発に歯止めをかけることも、重要な課題だ。
安保理決議は、核実験の自制と核実験全面禁止条約(CTBT)の早期発効を求めた。米国と中国は、CTBTを批准していない。早期に批准すべきだ。
決議は、国際原子力機関(IAEA)の査察強化や、核兵器の原料となる高濃縮ウランやプルトニウムの生産を禁ずる「カットオフ条約」の交渉開始を促した。
いずれも、原子力の平和利用を隠れみのに核開発する抜け穴をふさぐために必要な措置である。
当面、国際社会が対処しなければならないのは、北朝鮮とイランの核開発問題だ。
安保理決議を無視する両国に、今後も核開発の継続を許せば、決議に盛られた様々な拡散防止策も意味を失ってしまう。
安保理会合に出席した鳩山首相は、北朝鮮の核開発を認めないと強調した。制裁決議1874の実効性を高めるため、「さらに必要な措置をとる」と言明した。北朝鮮貨物検査特別措置法案の早期成立を図る必要がある。
唯一の被爆国である日本としては、核拡散防止により積極的に取り組むべきだ。
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産経新聞 2009年09月26日
「核なき世界」決議 抑止踏まえ現実的方策を
核軍縮・不拡散を議題とする初の国連安保理首脳会合で「核兵器のない世界」の条件づくりをめざす決議1887が全会一致で採択され、鳩山由紀夫首相も「核廃絶の先頭に立つ」と訴えた。
北朝鮮やイランの行動は核不拡散体制を揺るがし、核テロの脅威も深刻だ。唯一の被爆国日本が米国などと連携して世界に指導力を示すのは当然の道である。
ただ、理想を唱えるだけでは日本の安全やアジアの平和は守れない。鳩山首相には核の傘のあり方も含めて、地に足のついた方策を講じてもらいたい。
安保理議長を自ら務めたオバマ米大統領は「核なき世界実現の難しさに幻想はない」と述べ、会合の意義を「核拡散や核テロという最も根本的な脅威に首脳レベルで取り組むためだ」と説明した。
こうした観点から、決議には核拡散防止条約(NPT)体制強化とすべての国の加盟、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効、北朝鮮やイランのルール違反への厳しい制裁が盛り込まれた。また、来春のNPT再検討会議でも「現実的で実現可能な目標」を設定するよう求めている。
日本が率先して核軍縮・不拡散に努める方向に異存はない。問題は、国際政治の現実や国家の安全を踏まえた着実な取り組みを忘れてはならないということだ。
その点で鳩山首相が演説で「非核三原則堅持」や「核廃絶」の理念や理想を強調した半面、核の傘の意義や三原則の運用に触れなかったのは残念だ。その理由は、鳩山政権の核の傘をめぐる方針が一貫していないからだろう。
日本の安全保障が日米同盟を通じた拡大抑止(核の傘)に委ねられていることはいうまでもない。首相はかつて「今すぐ核の傘から出る意図はない」と語ったが、岡田克也外相は「核の傘を半分踏み出す」が持論だ。米国には核先制不使用宣言を求めるという。
外務省は外相の指示で「核密約調査班」を設けたが、過去を調べて核の傘をどうしたいのかがみえない。北の核や中国の軍事膨張が懸念される中で、ちぐはぐな対応で日本の安全が守れるのか。
先月、新潟市で開いた国連軍縮会議でも「抑止の実態を踏まえた現実的対応が必要」との意見が大勢を占めた。国民を危機にさらすことがないように、鳩山首相は同盟強化と抑止力の充実を踏まえた明確な方針を示す必要がある。
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朝日新聞 2009年09月25日
鳩山・オバマ 世界のための日米基軸に
太平洋をはさんだ二つの民主党政権のトップが、初めて顔を合わせた。片や半世紀余の自民党政権からの、片や8年間のブッシュ政権からの「チェンジ」を掲げて登場した。日米関係も新しいスタートである。
鳩山由紀夫首相との会談後、オバマ米大統領は記者団にこう語った。
「首相は選挙公約(の実現)に成功するだろうし、それは日米同盟を強化し、刷新する機会を与えてくれるだろう。私はそう確信している」
米国で出回った首相論文の要約は反米的ではないのか。民主党が掲げた「対等な日米関係」とは何なのか。米国では事前にさまざまな懸念が語られたが、オバマ氏は首相に温かいエールを送ってみせた。
会談では、日米同盟を外交の基軸とするという新政権の方針を説明した首相に対し、大統領は「これから長いつきあいになる」と応じたという。
日米間にも懸案はあるし、地球規模の難題も山積みだ。オバマ氏の任期は少なくとも4年。鳩山政権も基盤は安定している。腰を落ち着けて、一つ一つ取り組もうということだろう。
この出会いには、歴史的な巡り合わせがあるようだ。オバマ氏が重視する核軍縮・廃絶や温暖化対策、対話による国際協調主義は、どれも鳩山民主党政権の基本路線と響き合う。
国連総会での演説で首相は、国際社会の「架け橋」として日本が挑むべき課題に、気候変動や核軍縮、東アジア共同体の構築など5項目を列挙。安保理の常任理事国入りを目指すことも含めて、今後の日本の国際戦略を明らかにする意図がある。
思えば「日米蜜月」を誇った小泉政権時代、単独行動主義に走るブッシュ大統領の求めに応じて、イラクへの自衛隊派遣に踏み切り「日米関係が良いほど、アジア諸国との関係もうまくいく」と対米偏重の姿勢が露骨だった。
米国が率い、日本がつき従う。そんな構図から、日本も主張し、能動的に動く関係への脱却を、首相は伝えたかったに違いない。世界益に貢献するための日米同盟という、新しい姿をここから描き出してもらいたい。
だが、この会談で語られなかったことも忘れるわけにはいかない。インド洋での給油支援の取りやめや、沖縄・普天間飛行場の移設問題など在日米軍基地再編の見直しだ。大統領が来日する11月までには、日本側としての対処方針を固めなければならない。
扱いを誤れば、日米関係はきしみかねないし、日本国内の政権批判に火がつく可能性もある。
政権交代があれば、政策変更はありうる。民主主義国では当然のことが日本でも起きようとしている。信頼を損ねずに、それをどう相手に説得するか。鳩山外交の正念場はそこにある。
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毎日新聞 2009年09月26日
「核なき世界」決議 日米は廃絶の先頭に立て 「道義的責任」の共鳴を
さびついた巨大な歯車が音を立てて動いたようだ。あの9・11同時多発テロから8年。米ブッシュ政権下で「反米」「親米」などと息苦しく分断された世界は、オバマ政権になって風向きを大きく変えた。
国連安保理の首脳会合でオバマ大統領が議長を務め、「核兵器のない世界」をめざす決議を全会一致で採択したのは、前政権下で国際的孤立の感があった米国が信頼を取り戻しつつあることを示していよう。
非常任理事国・日本の鳩山由紀夫首相も、唯一の被爆国の「道義的責任」として核廃絶の先頭に立ち、非核三原則を堅持する決意を表明した。文字通り「歴史的な決議」(オバマ大統領)として高く評価したい。
もちろん、決議ひとつで世界が一変するわけではない。厳しい現実は残り、「どうせ核兵器はなくせない」という冷笑主義も残るだろう。だが、「悲観主義は気分から、楽観主義は意志から生まれる」(フランスの思想家アラン)とすれば、問われているのは、何としても核兵器を全廃するという強い決意である。
その意味で日米の連携はきわめて重要だ。オバマ大統領は4月のチェコ・プラハでの演説で「核なき世界」の構想を打ち上げ、核兵器を使った唯一の国としての「道義的責任」を認めた。核兵器使用に関して日米は特別な立場にある。両国の「道義的責任」が共鳴する形で、世界を核廃絶へ導くことが望ましい。
この際、重ねて要望したいのは、オバマ大統領の広島、長崎訪問である。首脳会合で鳩山首相も、同大統領を含めた「世界の指導者」に対して、広島、長崎訪問を呼び掛けた。
原爆投下の責任論や日米関係も含めて、確かに難しい問題もあるだろう。だが、人間の素朴な気持ちを大切にしたい。「核なき世界」をめざす旅は、その恐ろしい兵器で命を奪われた人々への鎮魂から始まると私たちは信じる。原爆の「グラウンド・ゼロ(爆心地)」を自分の目で見るのは、来年4月にワシントンで「核安保サミット」を開くオバマ氏にも有益だろう。
振り返ると、核兵器をめぐるオバマ氏の指導力は、目を見張るものがあった。プラハ演説に続いて、7月にはロシアと戦略核弾頭の相互削減に合意し、イタリアのラクイラ・サミットでは「核なき世界」に向けた首脳声明の採択を根回しした。
今月17日には、米露間の火種になっていた東欧ミサイル防衛計画の見直しを発表し、ロシア指導部に歓迎された。第1次戦略兵器削減条約(START1)に代わる条約についてもロシア側と合意している。
ブッシュ政権下で「新たな冷戦」さえ懸念された米露が着実に歩み寄り、安保理15カ国の全会一致によって世界を核軍縮・全廃路線へと導いたのは、時代の変化を如実に感じさせる出来事である。
前途はもちろん容易ではない。核拡散防止条約(NPT)によって核兵器保有を認められた米英仏露中の5カ国のほか、イスラエルが多数の核弾頭を保有するのは公然の秘密だ。インドとパキスタンも核兵器を保有し、北朝鮮も2度にわたって核実験を行った。イランの核兵器開発疑惑も消えることがない。
世界は危険な状況だ。オバマ政権が核軍縮に熱心なのは、テロ組織が核兵器保有を狙っているためでもあろう。だが、核拡散に対して米国の元高官らは、前から核廃絶を模索していた。核廃絶を願った米大統領もオバマ氏が初めてではない。オバマ政権になって核廃絶がやっと世界の共通目標になったということだ。この貴重な弾みを大切にしたい。
今回の決議には、NPT体制の強化、核実験全面禁止条約(CTBT)の早期発効、核兵器の材料をなくす兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)の交渉促進など、日本が重要な役割を果たせる課題も多い。国際原子力機関(IAEA)の次期事務局長は天野之弥氏だ。来年5月のNPT再検討会議に向けた日本の調整にも期待したい。
他方、米国の「核の傘」に依存する日本が核廃絶を求めるのは矛盾だ、という意見がある。鳩山首相が表明した「非核三原則の堅持」への批判もあろう。だが、少なくとも、こう言えるのではないか。「核なき世界」をめざすことと、「核の傘」で現実の脅威に対処するのは、次元が異なる問題である、と。
安保理での演説で、オバマ大統領は北朝鮮やイランにも決議順守を求め、安保理の結束によって両国に圧力をかけていく姿勢を見せた。日米中露が協力すれば北朝鮮情勢の好ましい変化も期待できよう。
だが、理想を描くだけでは現実は変えられない。今後問われるのはオバマ大統領の実行力、そして日本の外交力であるのは言うまでもない。
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読売新聞 2009年09月25日
日米首脳会談 懸案を先送りした初顔合わせ
日米協調を演出し、まずは無難な初顔合わせだったが、懸案はすべて先送りされた。
鳩山首相がオバマ米大統領と会談し、日米同盟を強化することで合意した。北朝鮮問題や地球温暖化、核軍縮などの課題について、日米両国が緊密に連携することでも一致した。
米側には、米紙掲載の論文の影響で、鳩山首相の「米国離れ」への疑念が出ていた。今回、疑念がどの程度払拭されたかは別として両首脳が日米同盟の重要性を確認したことは意味があった。
鳩山首相とすれば、日米が協調できるテーマを取り上げることで信頼構築を優先したのだろう。
国際協調を重視するオバマ大統領の側にも、日本の協力への期待がある。大統領は会談後の国連演説で、国際問題の解決に「すべての国が自らの責任を果たす時だ」として、ブッシュ前政権の「一国主義」からの決別を宣言した。
ただ、欧州の同盟国さえ峻別した前大統領と違って、大統領が日本だけでなく、国際社会全体と良好な関係を保とうとしていることにも留意する必要がある。
日米同盟を強化し、真の信頼関係を築くには、今回先送りした懸案から目を背けてはなるまい。11月の大統領来日が鳩山外交の正念場だ。それまでに懸案解決への道筋をつけることが欠かせない。
インド洋における海上自衛隊の給油活動の中止、在日米軍再編や日米地位協定の見直し、米軍の思いやり予算の削減……。これらの問題はいずれも民主党が野党時代に掲げた政策に起因している。
給油活動は、「テロとの戦い」のための日本の重要な人的支援策だ。ミリバンド英外相も岡田外相に継続を要請した。
海自を撤収し、アフガンへの資金支援だけになれば、湾岸戦争時に批判された「小切手外交」に逆戻りしかねない。鳩山内閣は、活動の「単純な延長」はしないとしているが、ここは継続する方策を真剣に検討すべきだろう。
在日米軍再編について、米側は協議自体には応じる構えだが、日米間の合意内容の実現が重要という基本姿勢は変えていない。
海兵隊普天間飛行場は、沖縄県内に移設するという合意が実施されれば、2014年にも返還される。だが、合意が白紙になれば、再交渉に膨大なエネルギーを要するうえ、返還時期は大幅に遅れることが確実だ。
鳩山内閣が地元負担の軽減を重視するなら、日米合意を着実に実施することこそが肝要である。
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産経新聞 2009年09月25日
日米首脳会談 現実的選択さらに強めよ
訪米中の鳩山由紀夫首相はオバマ米大統領との首脳会談で日米同盟を一層強化し、北朝鮮問題、核不拡散、気候変動などでも協力していくことで合意した。
日米外相会談に続いて首脳同士で「同盟基軸」を確認しあったことを率直に評価したい。だが、対テロ支援、米軍再編などの各論が先送りされたことは懸念を残した。日米に真の「信頼のきずな」を築くには、鳩山首相が現実的選択に立って具体的な行動で応えていく必要がある。
鳩山氏の外交デビューの「ヤマ場」とされた首脳会談だが、時間は40分足らずとあっけなかった。互いに原則とエールの交換に終わった観もある。前日の米中首脳会談(1時間半)と比べても突っ込み不足だったのではないか。
その背景は、鳩山首相や岡田克也外相が掲げてきた政権公約に米側が懸念を募らせていることだ。海上自衛隊のインド洋補給支援活動を「単純延長せず」といい、普天間飛行場などの米軍再編計画は「県外移転」を軸に見直し、日米地位協定も見直すとしてきた。
いずれも米国は「同盟の核心にかかわる問題」と警戒している。鳩山首相は「緊密で対等な日米同盟」の中身や「東アジア共同体」と米国との関係についても、具体的説明をしようとしなかった。
これらの懸案や各論を詰めていけば、同盟がぎすぎすした関係に陥るリスクは少なくない。会談で日米いずれも触れたくなかったにせよ、いつまでも先送りできる問題でないことは明らかだ。
とりわけインド洋補給支援の延長期限は来年1月に迫った。代替案に民生支援を検討するにしても早急に具体案を示さなければならない。米軍再編は日米で一部予算化され、動き始めている。速やかに道筋を示さなければ、日米の抑止体制にも支障が生じる。
岡田外相が自衛隊の国際貢献について「若葉マーク」と述べたことも解せない。湾岸戦争以降、自衛隊は海外平和貢献活動の経験や知識を着実に積み重ねている。外相発言として適切かどうか。
北朝鮮の核・拉致問題で日米協力体制の堅持で一致したのは当然だ。核軍縮や気候変動での日米協力はよいとしても、核の傘の実効性や温室効果ガスの過大な削減幅が経済に与える影響など現実的側面を見失ってはならない。鳩山首相は国家と国民の利益を踏まえて同盟強化に努めてもらいたい。
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朝日新聞 2009年09月24日
気候変動サミット 打開へ次の首脳会合急げ
「未来の子供たちのために世界の政治指導者が大きな決断をした、と言われるように努力しよう」
鳩山由紀夫首相の呼びかけに、90カ国以上の首脳が拍手でこたえた。国連気候変動サミットの開会式である。
「大きな決断」とは、京都議定書に続く地球温暖化防止の新たな国際的枠組みのことだ。12月の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)で合意を目指している。
だが、いまも先進国と新興国・途上国の主張の隔たりは大きい。何とか打開の糸口をつかもう、というのが今回のサミットの目的だ。
交渉進展のカギを握る中国から、注目すべき発言があった。胡錦濤国家主席が「温室効果ガス排出を2020年までに05年比で大胆に削減するよう努力をする」と開会式で述べたのだ。
さらに、その具体的な方策の一つとして、全エネルギーに占める非化石燃料の割合、つまり原子力や自然エネルギーなどの割合を15%まで高めるという目標も掲げた。
これまで中国は「先進国の努力が先決」という基本姿勢を崩さず、自国の取り組みについては多くを語ってこなかった。そんな姿勢に変化の兆しが見えてきた。中国が大量排出国であることを自覚し、一歩を踏み出したとすれば歓迎する。今後、さらに態度を鮮明にし、インドなど他の新興国を合意に向けて引っ張ってもらいたい。
もう一つのカギを握る米国のオバマ大統領は「この惑星の未来は世界的な排出削減の努力にかかっている」と意欲を見せた。ただ、交渉に弾みをつけるような大胆な新提案はなかった。
その背景には、大統領が成立を目指す地球温暖化対策法案の審議の難航がある。6月に下院を通過したものの、COP15の前に上院で可決するのは難しい情勢という。公約である医療保険制度改革の実現に、目下の精力を集中せざるを得ないようだ。
温暖化対策について米議会には、景気への悪影響や、企業の国際競争力がそがれることへの懸念がある。このままでは、温暖化防止に積極的なオバマ大統領の国際合意づくりに向けての主導力がそがれてしまう。新興国の歩み寄りを促すのも難しくなろう。米上院の早急な決断を望む。
日本の役割も大きい。鳩山首相は今回、「20年までに90年比25%削減」という積極的な国際公約を表明した。先進国が官民の資金を投入して途上国の排出削減などを支援しようという「鳩山イニシアチブ」も提案した。
残り時間がわずかないま、首脳級の交渉で局面を打開すべき時だ。G20金融サミットが今日からあるほか、主要排出国のサミットを開こうとの声もある。鳩山首相は、あらゆる機会を通じて各国首脳に働きかけてもらいたい。
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毎日新聞 2009年09月25日
日米首脳会談 「長い付き合い」着実に
鳩山由紀夫首相とオバマ米大統領の初会談で、両首脳は日米同盟を維持・強化していくことで一致した。双方とも個別の懸案事項への言及を避け協調ムードづくりを先行させた形だが、首相にとっては順調な対米外交のスタートと言えるだろう。
首脳会談前、クリントン米国務長官が記者団に「政策変更はあらゆる政府の権利」と述べたことがある。
そうはいっても米政府は、鳩山民主党が先の衆院選で日米地位協定改定の提起や在日米軍基地の見直しなどを打ち出したことに戸惑いを感じているようだ。首相がアジアでの経済・安全保障の枠組みづくりを目指す東アジア共同体構想を提案していることもあり、一部では「首相は反米的なのではないか」との見方も出ていた。
しかし、首脳会談で米側のそうした不安はある程度解消されたのではないだろうか。「日米同盟が20世紀後半に強固だったように、21世紀にもっと強化し新たにするチャンスだ」(大統領)、「日米同盟がこれからも日本の安全保障の基軸になる。いかに深化させていくかが大事だ」(首相)。日米の新しいトップ同士がこうした考えを直接述べ合ったことに今回会談の意義があった。
もちろん、日米間には考え方の違いから調整を迫られている課題もある。来年1月に期限切れを迎えるインド洋での海上自衛隊による給油活動を打ち切った場合の代替策をどうするか。日本は実行可能で効果的な支援策の具体化を急ぐ必要がある。 両政府が沖縄県名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部への移設で合意している米軍普天間飛行場問題も難題だ。日本の連立政権合意では「見直しの方向で臨む」としているが、米側は「現行計画の実現が基本で重要だ」(クリントン長官)とクギを刺している。
いずれの課題も11月のオバマ大統領訪日までに一定の方向性は固めておく必要があるだろう。
相違点ばかりではない。首相が意欲的な温室効果ガス削減目標を表明した気候変動問題や、大統領が国連演説で「米国だけの努力ではありえない」と述べた「核なき世界」への挑戦など地球規模の課題では日米が連携を強化しリード役になるべきだ。
米国にすれば、戦後日本が国際社会に復帰してからほぼ一貫して続いてきた自民党政権に比べ鳩山新政権に不安を感じる面があるかもしれない。しかし、ともに「変化」を掲げて政権交代を果たした首相と大統領だ。会談で大統領は「今日から長い付き合いになる。その中で一つ一つ解決していこう」と語りかけた。両首脳はその調子で日米関係の再構築に臨んでほしい。
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読売新聞 2009年09月24日
鳩山環境演説 国内合意なき25%削減の表明
温室効果ガスの排出量を、2020年までに1990年比で25%削減する――。鳩山首相が、日本の温暖化対策の中期目標を、国連の気候変動首脳級会合で言明した。
国内的な合意ができていない中、内閣発足直後にこれほど重要な国際公約を一方的に宣言する必要があったのか、疑問である。
最も懸念されるのは、この数値が独り歩きすることだ。
鳩山首相は演説で、「すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意が、我が国の国際社会への約束の前提となる」と述べた。
「25%削減」は、主要排出国が厳しい削減目標を設定するのが条件というわけだ。
「90年比25%減」は、05年比に直すと30%減となり、米国の14%減、欧州連合(EU)の13%減と比べ、突出している。いかに国際的な公平性を担保するのか。
12月が交渉期限の「ポスト京都議定書」は、鳩山首相も言うように、「公平かつ実効性のある枠組み」でなければならない。それが、日本にとって不利な削減目標を課せられた京都議定書の教訓だ。
そうであるなら、今後の国際交渉は、日本にとって極めて重要になる。鳩山内閣の外交手腕が問われるのは、これからである。
「実効性」の観点で最も大切なのは、米国と中国の排出量をいかに減らすかということだ。
世界全体の中で、日本の排出量は約4%に過ぎない。それに対し、米国と中国は、それぞれ約20%を占めている。
オバマ米大統領は演説で、再生可能エネルギーの利用促進など、自国の取り組み例を挙げ、排出削減に意欲を示した。
だが、米国が今後の交渉で、日本と同レベルの削減目標を受け入れるかどうかは、不透明だ。
鳩山首相は「鳩山イニシアチブ」として、途上国への資金支援、技術支援構想を打ち出した。重要なのは、支援の見返りとして、中国など途上国に、削減の責任を確実に負わせることだ。
今後、米国、中国を引き込む困難な国際交渉が控える一方で、国内でも「25%減」の合意作りは、容易ではあるまい。産業界の反発は、依然として強い。
首相は、目標達成のために、国内排出量取引制度の創設や、地球温暖化対策税の検討などを挙げたが、これらの施策が、景気回復の足かせとなる恐れもある。
経済活動を停滞させずに、排出削減をどう実現するのか。首相は早急に道筋を示す必要がある。
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産経新聞 2009年09月25日
日露首脳会談 「4島返還」を忘れたのか
鳩山由紀夫首相はロシアのメドベージェフ大統領と会談し、北方領土問題解決に向けて外相級協議や11月の首脳会談を通して、議論を深めることで一致した。
だが、鳩山首相は「われわれの世代で領土問題を最終的に解決したい」と訴えながら「4島返還」という表現を使わなかった。意図的かどうかは明確でないが、もしそうなら北方領土返還の原則を揺るがしかねず、きわめて遺憾と言わざるを得ない。
鳩山首相は会談で、祖父の鳩山一郎首相が1956年に調印した日ソ共同宣言に触れ、「(宣言にある歯舞、色丹の)2島引き渡しでは領土問題の解決ができず平和条約を締結できなかった。それから50年以上たった」と述べた。その上で「いまだに平和条約が締結されていないことは両国にとってマイナスだ。大統領のリーダーシップに期待したい」と訴えた。
メドベージェフ大統領はこれに対して、「独創的なアプローチを発揮する用意がある」と、領土問題を議論する意向は示した。しかし、その具体的内容について何も語らなかった。さらには、「極端な立場をとるべきではない」とも述べ、4島の返還要求には応じないとのロシア側の姿勢を暗に示した。鳩山首相はその意味を尋ねたものの、答えはなかった。
「独創的なアプローチ」は、麻生太郎前首相が2月のサハリン訪問でメドベージェフ大統領と会談した際に先方から提案された。日本では、この提案をめぐり北方四島を面積で折半する等分論や3・5島返還論が麻生前政権内から出るなど、北方四島返還を求める対露外交に混乱を招いた。
鳩山首相はかつて「4島一括返還では、島は1000年たっても還(かえ)らない」と述べたと伝えられ、2島返還論とも受けとられかねない。「4島」に言及しなかったことでロシア側に誤ったシグナルを与えたことにならないか。
衆院外務委員長に任命された鈴木宗男議員は産経新聞とのインタビューで、「まず2島を返してもらい、残り2島で交渉を続ける」と述べた。2島返還を先行する「現実的返還論」というが、4島一括返還の原則が骨抜きにされることを懸念する。
首相の姿勢がロシア側に利用されない保証はない。日本固有の領土である4島返還を訴えることから交渉を始めるべきだ。今後の首相の奮闘に期待したい。
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朝日新聞 2009年09月23日
鳩山外交始動 大きな絵柄で課題動かせ
鳩山新政権の、米国を舞台にした一連の外交が幕を開けた。ニューヨークに到着した鳩山由紀夫首相がまず会ったのは、中国の胡錦濤国家主席だ。
日中関係は小泉政権時代、首相の靖国神社参拝などで極端に悪化した。安倍政権以降、正常化への歯車が回り出したが、日本側の政権の不安定さが重荷のひとつになってきた。
この首相はいつまで続くのか。取引する相手としてふさわしいのか。そんな疑問を中国側が抱いたとしても不思議はない。自民党政権の行き詰まりが外交力に影を落とす。東シナ海のガス田共同開発をめぐる条約づくりが進まないのはその典型例ではないか。
そういう思いもあってのことだろう、会談で鳩山首相は自らの政治理念である「友愛」を説明しつつ、両国の信頼関係構築への意欲を強調した。将来の東アジア共同体構想にも触れ、長期的な視点で取り組む姿勢を伝えた。
胡主席は「首相の任期中に、中日関係はより活発な成長を示すことを信じる」と応じた。腰をすえてつきあっていこうとの構えを示したものだろう。
首相は、両国の戦略的互恵関係や対北朝鮮での協力といった、前政権までに敷かれた基本路線を確認した。土台は自民党政権時代と変わらない。だが、その上にもっと大きな絵を描いていこう。そんな思いを込めたメッセージだったに違いない。
日米同盟関係を基軸としつつも、日本をめぐるこの地域の地政学が今後、大きく変容していくことは間違いない。利害の衝突をどう抑え、調整していくか。外交経験の乏しい新政権が果たして大国中国を相手に渡り合っていけるのか、不安がないわけではない。東シナ海の資源問題ひとつをとってみても、大変な外交力がいる。
であればこそ、長期的な構想や地域連携の強化の中に日中関係を位置づけるという首相の発想は評価したい。より大きな文脈の中で解決を見いだしていく姿勢を建設的に機能させたい。
一方、岡田克也外相はクリントン米国務長官と会い、対米外交の一歩を踏み出した。政権発足100日までの重点課題の一つとして、沖縄の米軍基地再編の見直しも含む日米同盟の問題をあげ、協力を促した。
長官は、これまでの合意を基本としながらも、議論に応じる姿勢を示したという。外交でも政権公約を大原則として取り組む。すべてはこれからの交渉にかかるが、新政権の意欲は米側に伝わったのではないか。
これから鳩山首相にはオバマ米大統領らとの会談やG20金融サミットなどが待っている。戦後日本で初めての本格的な政権交代を成し遂げて、注目を集める首相だ。日本の外交は変わったのだということを、各国首脳に実感させるような発信を期待したい。
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毎日新聞 2009年09月24日
気候変動サミット 意思表明を具体策に
国連気候変動サミットは、温暖化問題の交渉の場ではない。交渉の山場は、年末にコペンハーゲンで開かれる「気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)」である。
とはいえ、各国の首脳が集い、自国の決意を表明することで、国際交渉に弾みをつける役割は大きい。
ニューヨークの気候変動サミットでの演説で、鳩山由紀夫首相は「鳩山イニシアチブ」を公表した。すでに明言していた通り、温室効果ガスを「2020年までに90年比で25%削減する」と表明し、日本の決意を示した。
国内排出量取引制度など国内政策に加え、途上国支援についても「これまでと同等以上の資金的、技術的支援を行う用意がある」と述べた。
これまで、自民党政権下の温暖化政策は、国内の意見調整に重点を置く非常に内向きなものだった。麻生太郎前首相が表明した「05年比で15%削減」という中期目標も、産業界と環境保護派の双方に配慮した、ビジョンの見えない中途半端なものだった。その結果、国際的な政治・外交の場では存在感がなかった。
それに比べ、鳩山首相の意思表明は国際的に存在感を示したといえるだろう。政権交代を印象づける効果は、ねらい通りだったはずだ。
ただし、これで国際交渉に明るい見通しが出てきたと思うのは、楽観的に過ぎる。日本の目標とても「すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意」を前提としたもので、他国の出方に左右される。
今回のサミットで米国のオバマ大統領は、再生可能エネルギー推進などへの決意を表明した。しかし、具体的な目標には触れず、国際的にどういう責任を果たす用意があるかは見えなかった。自国の対応の遅さを認めつつ、新興国の排出削減努力も強く求めている。
米国と並ぶ最大排出国である中国の胡錦濤国家主席は「20年までに全エネルギーの15%を化石燃料以外で賄う」「GDP当たりの二酸化炭素排出量を2020年までに05年レベルよりかなり減らす」といった、従来より前向きな目標を示した。ただし、その前提として、先進国のさらなる資金援助の必要性も強調している。
結局のところ、いずれの国も「他の国が責任を果たすなら」という条件付きで、自国の取り組みを表明しているのが実情だ。
もちろん、気候の安定化には「全員参加」が不可欠だ。それには、他国に条件を求めるだけでなく、互いの溝を埋める努力が欠かせない。
COP15まで、あと2カ月余り。各国の首脳はサミットでの発言を具体化に結びつけるべく、政治的リーダーシップを発揮してほしい。
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読売新聞 2009年09月23日
日中首脳会談 「友愛」だけで外交は進まない
鳩山首相の米国での一連の首脳外交は、中国の胡錦濤国家主席との会談で始まった。
首相は、「友愛精神に則り、日中両国が互いに違いを認めながら、違いを乗り越え、信頼関係を構築していく。それを軸に東アジア全体の共同体を構想していきたい」と述べた。
この構想は、民主党の政権公約にも明記されている。首相としては、新政権のアジア重視の姿勢を印象づけようとしたのだろう。
胡主席は、構想には直接言及せず、経済貿易関係の強化などを提案した。歴史認識では、「村山談話」を踏襲するとした首相の立場を評価したいと表明した。
両国関係は、自民党政権下で合意した「戦略的互恵関係」の発展を基本に、再始動した形だ。
東アジア共同体については、過去、その枠組みをめぐって、日中間で激しい綱引きが展開された経緯もある。今後、首相は、その構想の具体的な道筋を問われることになるだろう。
首相は、日中間で懸案になっている東シナ海のガス田開発問題について「いさかいの海から友愛の海にするべきだ」と表明した。
両国が共同開発で合意したガス田「白樺」(中国名・春暁)で、中国側は今夏、単独開発再開への準備と受け止められる動きをみせていた。日中外交が「友愛」の一筋縄ではいかない好例だ。
首相は、白樺問題に触れつつ、「中国の真意が見えない」と、2008年の政治的合意を条約化するための交渉を、早期に開始するよう促した。当然のことだ。
胡主席は、「大局からの正しい処理が必要」と応じたが、中国側は、一刻も早く、政府間交渉に入るべきである。
気候変動問題で、首相は、2020年までの温室効果ガス削減の中期目標について、1990年比25%削減を明言している。
胡主席は、この「積極的態度を評価する」とし、中国として、国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)の成功に向け努力する、と語ったという。
しかし、首相が示している削減目標は、米国や中国をはじめとした主要国の参加と、意欲的な目標の合意が前提のはずである。
首相は、削減目標が課されるのを拒む中国が翻意するよう、説得を強めなければならない。
首相は、オバマ米大統領ら各国首脳とも会談する。外交問題は、友愛だけでは解決せず、国益の衝突という冷厳な現実があることを念頭に対処してほしい。
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産経新聞 2009年09月24日
「25%削減」公約 国民の負担増にも説明を
鳩山由紀夫首相が国連本部で開かれた気候変動首脳会合に出席し、1990年比で25%減という日本の温室効果ガスの新たな削減目標を発表した。予想されたとはいえ、米国や欧州を上回る「野心的な」目標に、会場から大きな拍手がわき起こった。
しかし、実現に極めて問題の多い数字を国際公約として約束したことは遺憾としか言いようがない。前提条件を付けてはいるが、取り返しのつかないことになりはしないか、懸念する。
首相は「政治の意思として国内排出量取引制度や、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度の導入、地球温暖化対策税(環境税)の検討をはじめとして、あらゆる政策を総動員して実現を目指す」と決意を語った。
目標実現には、1世帯当たり年36万円の負担が必要とも試算されている。負担が大きすぎれば国民の協力は得られまい。首相は演説で「産業革命以来続いてきた社会構造を転換し、持続可能な社会をつくる」と説明したが、具体的な青写真があるわけではない。
さらに問題なのは将来、目標達成不足分を外国から排出枠として購入し、埋め合わせる可能性が高い点だ。日本は省エネが相当進んでいるため、京都議定書で約束した6%削減さえ実現が難しい。欧米の金融機関などはすでに、日本の購入を見越して、中国国内などで排出枠の“先物”を手当てしているとの情報さえ聞こえている。税金がこうした形で使われることは、本末転倒だ。
首脳会合ではオバマ米大統領や胡錦濤中国国家主席も演説した。だが、決意を表明した程度で具体的数値目標は示さなかった。両国とも理想とは別に、自国の経済的負担を軽くし、いかに利益を勝ち取るかを話し合う場であると知り尽くしているからだろう。
日本が身の丈を超えたハードルを掲げるにしても、世界総量の約20%ずつを排出する米国と中国が、京都議定書後の新たな国際ルールの枠組みに積極参加することは必須条件だ。鳩山首相が演説で「すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意が約束の前提」とした点は、交渉上の重要な切り札として譲ってはなるまい。
「友愛精神」だけでは通用しないのが、国際交渉の現実である。日本だけが重い削減義務を負った京都議定書の二の舞いとしてはいけない。
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朝日新聞 2009年09月20日
鳩山首相訪米 率直に言葉を尽くして
鳩山由紀夫首相が米国で開催される一連の重要会議へと、あす旅立つ。
自民党の永久政権かと思われてきた日本でついに実現した政権の交代。この事実に米国も欧州もアジアも驚嘆し、新政権が日本の針路をどう変えていこうとするかに目を凝らす。
国連の気候変動会合、オバマ米大統領がみずから議長を務める核不拡散・核軍縮に関する安保理首脳会合、G20金融サミット。間に主要国との首脳会談が挟まるが、世界の関心は何といっても鳩山首相がオバマ大統領と何を語り合うかに集まるだろう。
鳩山氏は「緊密で対等な日米同盟」、そして普天間基地をはじめとする米軍再編計画の見直し、日米地位協定の改定問題を政権公約に掲げ、来年1月に期限の切れるインド洋での給油活動を延長しない方針を明示してきた。
総選挙の終盤には、ニューヨーク・タイムズ紙電子版に掲載された鳩山論文が米国流のグローバリズムを一方的に批判したとして日米両国の外交当局者の間に疑心暗鬼を招きもした。
憶測の広がりを警戒してのことでもあろう、総選挙後のオバマ氏からの電話に「私どもも日米関係が基軸だ」と答え、就任後の記者会見で「地位協定などの基本的な方針は変えない」としながら、懸案は「包括的なレビューを少し時間をかけて行う」と述べた。
滑り出しとしては賢明な選択である。オバマ氏との会談でも、めざす「能動的な日米関係」への思いを率直に、しかし誤解を生じさせないように伝えることが求められる。
もちろん現実の課題は待ったなしだ。米国内では、泥沼化するアフガン情勢を60年代にジョンソン政権の命脈を断ったベトナム戦争になぞらえる見方も少なくない。新政権がアフガン再建にどういう役割を担おうとするかをオバマ大統領は注視するだろう。
米政府内には給油活動の継続への期待が強いが、アフガンをみずから2度訪れた経験を持つ鳩山首相は、現地の治安状況をにらみつつ、大規模かつ多角的な民生支援に踏み出す用意を整えるべきである。
核不拡散と温暖化対策について、日米両政権は共鳴しあう。鳩山首相が打ち出した温室効果ガス削減の大胆な目標は国際的に高い評価を得た。ハードルは高いが、両国が手を携えて世界の取り組みを前進させたい。
鳩山政権の強みは、アジアとの関係強化をめざす姿勢にもある。北朝鮮問題や中国の軍拡をはじめ深刻な課題はあるが、日本とアジアの円滑な関係は米国の外交的な利益にも資する。
新政権の外交像には、まだまだあいまいさがある。だが、いまは米国頼みの思考停止状態に陥りがちだった過去の外交から脱皮する好機でもある。この訪米を具体化への起点としたい。
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毎日新聞 2009年09月23日
日中首脳会談 「友愛外交」で信頼築け
鳩山外交がスタートした。皮切りはニューヨークでの国連気候変動サミットに先立って行われた中国の胡錦濤国家主席との会談だった。
アジア重視を掲げる鳩山政権の外交にとって、中国との関係は日米基軸とともに重要な要素である。10月には中国で日中韓の首脳会談も予定されている。鳩山由紀夫首相が打ち出した「友愛外交」をアジアの国々との信頼関係構築にどうつなげていくかが問われる。
予定を超過して1時間近くに及んだ会談について、首相は「大変和やかな雰囲気で、率直に自分の思いを申し上げることができた」と感想を述べた。首相が満足げだったのは、持論の政治理念である「友愛精神」を外国首脳との初めての会談で披露できたからだろう。
会談で首相は「友愛精神にのっとった国際関係をつくりたい」と切り出して東アジア共同体構想に言及し、「互いの違いを認めながら乗り越えて信頼関係を構築していきたい」と述べた。
東アジア共同体は首相がアジア外交の柱として力を入れている構想だ。首相就任前、雑誌に寄稿した論文でも、「友愛」の国家目標のひとつとしてこの構想を示しアジア共通通貨の必要性などを強調している。
東アジアの国々は政治体制がさまざまだし文化や価値観も多様だ。経済格差も激しく共同体づくりは口で言うほど簡単ではない。
首相は就任前、「夢を持つことは悪いことではない。最初はすべて夢で始まったものが最終的には現実になる」と語ったことがある。この構想の中に米国や日米同盟をどう位置づけるかなど詰めるべき問題点は多いが、まずは「友愛外交」の象徴として大きな理想を掲げたものと理解しておこう。
乗り越えるべき日中間の現実の課題のひとつに東シナ海のガス田問題がある。昨年6月の日中合意にもかかわらず共同開発のための作業は滞ったままだ。首相が「東シナ海をいさかいの海でなく友愛の海にしたい」と呼びかけたのに対し、胡主席は「敏感な問題」としながらも「平和友好協力の海にしたい」と応じたという。両国間の紛争は話し合いで解決しようという意思表示だろう。中国側に一層の努力を求めたい。
首相が先の大戦での日本による侵略や植民地支配を謝罪した1995年の「村山談話」を踏襲する考えを伝えたことは関係発展にプラスになるだろう。胡主席は「評価する」と答えたという。首相は靖国神社に参拝しないことも明言している。こうした姿勢は日中間のトゲになっている歴史認識問題を乗り越えるための環境整備に役立つはずである。
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読売新聞 2009年09月20日
鳩山外交始動 日米同盟基軸を行動で示せ
鳩山首相があす、米国に向けて出発する。
今回の訪米では、気候変動、核軍縮・不拡散、国際経済・金融など世界規模の重要課題を討議する国際会議が目白押しだ。
オバマ米大統領をはじめ、中国、韓国、英国、フランス、ロシア、インドなど各国首脳との会談も予定されている。
首脳会談が相次いで行われる背景には、政権交代を実現した鳩山首相の外交姿勢に強い関心が抱かれていることがあろう。
◆継続性重視アピールを◆
首相は選挙中、「外交は継続性が重要だ」と指摘している。日米同盟の堅持、国際協調主義、自由貿易体制の推進といった日本外交の骨格は、政権が交代しても何ら変わらないことを積極的に発信してもらいたい。
中でも重要なのは、日米同盟が引き続き外交の基軸であることを米側に明確に伝えることだ。
先月末に米紙に掲載された首相の論文は、米国主導のグローバリズムを批判するなど、「反米的」と受け止められ、米国内で波紋を呼んだ。
首相は、真意が伝わらなかったと釈明している。今回の訪米を機会に、自らの口できちんと説明し、米側の懸念を払拭することが大事だ。
そのためには、「言葉」だけではなく、具体的に裏付ける「行動」を示さなければなるまい。
例えば、「テロとの戦い」の最前線国家アフガニスタンに対して日本はどんな支援をするのか。
アフガンが再び、国際テロ組織の巣窟と化せば、世界の平和と安全は一気に不安定化する。オバマ大統領が今月初めの電話会談で、首相に「アフガンの過激派の掃討」への協力を求めたのも、そんな厳しい認識からだろう。
◆問われるアフガン支援◆
民主党が選挙で公約した通り、日本がインド洋での海上自衛隊の給油活動を中止すれば、「テロとの戦いから離脱した」と受け止められ、日米関係に亀裂が生じる恐れがある。
首相は、代わりにアフガン本土での文民活動を強化する考えだが、日本はすでに農業支援や学校建設など様々な活動に取り組んでいる。代替策になるのか。
首相はやはり、給油活動継続の可能性を探るべきだろう。
首相は、アジア共通通貨の実現や「東アジア共同体」の構築を目指すと強調している。このため、米国内には、「鳩山外交の基本は『脱米入亜』ではないか」と不安視する向きもある。
これまでの日本政府の基本姿勢は、域内の貿易投資自由化や環境など個別分野の協力から始め、特定の国を排除する形の地域協力はしない、というものだ。
首相も同様の見解を示しており、日米同盟軽視と受け取られるのは本意ではあるまい。米国離れを志向しているのではないことを、丁寧に説明すべきだろう。
核軍縮・不拡散に関し、オバマ大統領は、「核兵器のない世界」を提唱している。
北朝鮮の核開発をどのようにして断念させるか。中国に核弾頭数などの情報を開示させ、核兵器を削減させるにはどうすべきか。
首相が政権公約で示した「北東アジア非核化」構想も、こうした問題への具体的取り組みを欠いては、何の説得力もない。
首相と一緒に訪米する岡田外相は、就任の記者会見で、米国は核の先制不使用を明示すべきだとの持論を改めて示した。
日本にとって、北朝鮮の核ミサイルの脅威に対する唯一の対抗手段は、米国の「核の傘」だ。地域の安保環境を無視した先制不使用論は、日本の平和と安全を著しく害することになる。
野党時代なら持論を唱えても問題にはならない。だが、外相として首相と異なる見解を述べれば、政府が混乱している印象を与え、対外的な信用を損ねる。
首相と外相は、これまでの日本外交の基本をしっかりと踏まえ、一連の会談に臨む対処方針について、出発する前に十分練り合わせてほしい。
◆25%削減の前提も説け◆
気候変動問題では、首相は、2020年までに1990年比で25%の温室効果ガス排出削減を目指す考えを表明している。
欧州各国は高く評価するが、日本の立場が後退しないよう布石を打っているのだろう。額面通り受け止めるわけにはいかない。
首相は、「すべての主要国の参加」が前提とも述べている。「25%削減」が独り歩きしては困る。会議では、あくまで前提条件付きであることを強調すべきだ。
国際会議や首脳会談は、各国首脳がそれぞれの国益を主張し、駆け引きを演じる場である。首相と外相は、国益を害するような国際約束や発言をしないよう、気を引き締めて臨むべきだ。
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産経新聞 2009年09月23日
日中首脳会談 生煮えの構想提示は残念
鳩山由紀夫首相と胡錦濤中国国家主席の会談はニューヨークで行われ、東シナ海のガス田開発から北朝鮮問題まで幅広い議題について、「なごやかな雰囲気」(鳩山首相)で意見交換が進行したという。
しかし、今回の会談には、いくつかの懸念があることを指摘せざるを得ない。
鳩山首相は民主党の政権公約にも盛り込んだ「東アジア共同体」構想を提唱した。通商や金融、エネルギーなど幅広い分野での域内協力体制の構築を目指そうという試みである。
これを日中主導で行うなら中国の思惑と合致する。東アジアでの軍事面も含めた米国の影響力を弱める方向に作用するからだ。
「東アジア共同体」が究極的には安全保障面での共通政策や共通通貨を想定しているのだとすれば、国家主権の観点から待ったをかけたい。日本にとって唯一の同盟国である米国との十分な協議なしに、拙速に進めてよい構想ではあるまい。生煮えの構想提示はきわめて遺憾だ。
最大の懸案である東シナ海のガス田開発問題では、鳩山首相が「友愛の海にしたい」と述べたのに対し、胡主席は「平和友好協力の海にしたい」と応じた。しかし、昨年6月の合意後、実務協議は中断している。首相が「中国の動きの真意が見えない」とただしたのに対し、主席は「大局の枠組みの中で正しい処理が必要だ」と述べるにとどまった。
胡主席は大陸棚にあるガス田について「両国国民の敏感な問題」と表現した。中国の経済成長にとって死活的なエネルギーと領土問題では決して譲歩しないとの原則を示したとみられる。日本が国連に申請した沖ノ鳥島を基点とする大陸棚の延伸に中国は強硬に反対している。鳩山政権には日本の国益を死守する覚悟を求めたい。
鳩山首相は胡主席に対し、かつての日本による植民地支配と侵略を謝罪した1995年の「村山談話」を基本的に踏襲すると述べ、「お互いの立場の違いを乗り越えられるような外交、違いを認め合える関係が『友愛』だ」と説明した。中国は歓迎するだろう。
しかし、中国の軍事力の増強が透明性を欠き、日本の脅威になりうる現実を直視すべきだ。友愛だけでは通用しない。来月の日中韓首脳会談では、毅然(きぜん)とした国益を守る主張を期待したい。
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朝日新聞 2009年09月18日
気候変動サミット 世界動かす環境外交を
鳩山由紀夫首相が、本格的な環境外交に乗り出す。
国連事務総長の呼びかけで22日にニューヨークで開かれる気候変動ハイレベル会合(気候変動サミット)だ。バラク・オバマ米大統領をはじめ各国首脳らが顔をそろえる。最大の懸案は、京都議定書に続く、地球温暖化防止のための国際枠組みづくりである。
この枠組みは、12月にデンマークで開かれる国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)で合意することになっている。だが、残り3カ月になったいまも各国の思惑や事情が交錯し、合意を危ぶむ声さえ出始めている。
各国首脳は12月に合意するという強い決意を示して、交渉打開の糸口を探る必要がある。
鳩山氏は先日、本社主催の地球環境フォーラムで「温室効果ガスを2020年に90年比で25%削減する」と表明した。これを国際社会は好意的に受け止めており、かつてないほど日本の発言に耳を傾ける状況にある。新政権が積極的な外交を進めるにあたって、またとない好機だ。
自民党政権の環境外交は「腰が引けている」と批判されることが多かった。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の設立に後ろ向きだったことや、米欧が検討を進めている国際炭素市場づくりで蚊帳の外に置かれていることを見ても、日本の消極性は否定しようがない。
政権交代を機に環境外交のギアをチェンジさせたい。求められるのは、「欧州と協力して米国と中国を説得する」くらいの気構えだ。そもそも鳩山氏の「25%削減」は、すべての主要国が意欲的な目標に合意することが前提だとしている。そのための外交努力を強めなくてはならない。
たとえば、途上国に資金援助や技術協力で低炭素型の成長を促す一方、そういう支援の実績を先進国の排出削減に織り込む。そんな次期枠組みの青写真をできるだけ早くまとめ、国際交渉の場で提案していくことだ。
さまざまな支援で新興国や途上国の脱温暖化を後押しする「鳩山イニシアチブ」を呼び水に、中国やインドなどとの妥協点を探る。そんなしたたかな交渉戦略も求められよう。
こうした積極的な環境外交は、日本にとってもさまざまな利点がある。
新興国や途上国への資金や技術の支援を先進国の削減にどう織り込むかは、日本の排出削減率に影響する。そういう支援を日本企業の商機にするためにも、次期枠組みの設計をルールづくりの段階から主導した方がいい。
気候変動サミットの後、日米首脳会談やG20金融サミットなどの外交日程が続く。次期枠組みは低炭素型の経済を世界に広げる端緒なのだ、という視点も忘れないでほしい。
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毎日新聞 2009年09月22日
気候変動サミット 米国の主導権に期待
温暖化対策をめぐる国際的構図は1年前と様変わりした。
米国は対策に消極的だったブッシュ政権からオバマ政権に代わり、積極的な姿勢を打ち出している。日本も民主党政権が誕生し、「温室効果ガスを2020年までに90年比で25%削減」という中期目標を鳩山由紀夫首相が明言している。
22日には米ニューヨークで「国連気候変動ハイレベル会合(気候変動サミット)」が開催され、オバマ大統領も、鳩山首相も出席する。鳩山政権にとっては、環境外交の第一歩である。
年末には、12年に期限が切れる京都議定書以降の枠組みを決める「国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)」が、デンマークのコペンハーゲンで開かれる。これまでの交渉で先進国と途上国の溝は埋まらず、どこまで合意できるかが危ぶまれている。
そうした状況の中で、鳩山政権の「25%減」に対しては、国内の産業界の一部から強い反発がある一方で、海外からは評価が高い。国際社会からの注目を、国際交渉を進める追い風にしてほしい。
気候変動防止の成否は、世界最大の排出国である米国と中国が、いかに削減を実現できるかにかかっている。両国で世界全体の4割を排出しているからだ。その点で、オバマ大統領に対する期待は高い。
米議会の下院は今年6月、ワックスマン議員とマーキー議員が主導してきた「地球温暖化対策法案」を小差で可決した。全米の温室効果ガスを20年までに05年比で20%削減するという内容で、従来、オバマ大統領が示してきた目標より一歩踏み込んでいる。
法案には、削減実現のための排出量取引も盛り込まれている。20年までに電力供給量の15%を太陽光や風力など再生可能エネルギーで賄うことも電力業界に対し義務づけている。オバマ大統領は、再生可能エネルギー産業で雇用の創出をめざすことによって、経済成長にも結びつけたい考えだ。
米国と中国は、互いに「相手が削減しなければ、自分もしない」という態度をとり続けてきた。米上院で地球温暖化対策法案が可決できるかどうか不透明ではあるが、ここはオバマ大統領のイニシアチブに期待したい。
鳩山首相も「25%減」の前提として「すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意」を挙げている。米中だけでなく、インド、ブラジルなど主要な新興国に積極参加を促す戦略も練ってほしい。途上国の削減に手を貸しつつ、それを自国の削減分にもカウントできる仕組み作りも必要だ。
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産経新聞 2009年09月23日
日米外相会談 行動にまさる信頼はない
訪米中の岡田克也外相とクリントン米国務長官の日米外相会談もニューヨークであり、鳩山由紀夫新政権の下でも日米同盟を重視していく認識で一致した。
鳩山首相もオバマ米大統領と「同盟基軸」を確認ずみだ。当然のこととはいえ、両外相が日米関係の基本を改めて内外に確認したことを評価したい。
だが、在日米軍再編やアフガニスタン・パキスタン支援問題など具体的課題で日米の息が合っているわけではない。岡田、鳩山両氏とも政権公約にこだわらず、現実的立場で同盟強化と国際貢献の拡大に知恵を絞ってもらいたい。
会談は就任後の初顔合わせとなった。クリントン長官が「日米同盟は米外交の礎石で、アジア太平洋の安全と繁栄に不可欠だ」と述べ、岡田外相も「持続可能で、より深い日米関係を築きたい」と応じたのは前向きといえる。
岡田外相が(1)気候変動(2)アフガン・パキスタン支援(3)米軍再編−の3点を今後100日間の重点課題に掲げる中で、「核密約」などの調査問題の提起を控えたのも順当だろう。米側が密約問題を「冷戦期の日本の内政問題」ととらえて、核の傘などをめぐる「今日的課題と関連付けるべきではない」としているのはもっともだ。
外相はまた「北朝鮮の核、ミサイル、拉致の解決なしに日朝正常化は考えられない」との立場を伝え、従来の日本政府の対北政策を継承する姿勢を明示した。核廃棄には「検証可能で完全な非核化」が必要との点で日米が一致したことも含めて、現実的対応と受け止めたい。鳩山政権には親北とみられがちな人物もおり、北に関する日米の情報共有・機密管理には一層の注意が必要だ。
岡田外相は「よいスタートが切れた」と評価したが、米軍再編とアフガン支援問題の解決は容易ではない。米側は普天間飛行場移設を含む米軍再編で「正式に見直し提案をすれば、話し合いには応じる」としつつ、あくまで「現行の再編計画が最良」との立場を崩したわけではない。アフガン民生支援も具体的構想を示さなければ前進は見込めないだろう。
23日には鳩山、オバマ両首脳の会談が行われる。「まずは信頼関係の構築」をめざす鳩山氏だが、懸案には具体的行動で応えることが信頼を築く一番の早道だ。日本の国益を踏まえて、同盟の強化と深化に力を注いでほしい。
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毎日新聞 2009年09月21日
対米外交 普天間、給油で具体策を
鳩山由紀夫首相は21日に訪米し、本格的に「鳩山外交」をスタートさせる。国連気候変動ハイレベル会合出席を皮切りに、国連総会演説、オバマ米大統領との初の首脳会談、核不拡散・核軍縮に関する安保理首脳会合、主要20カ国・地域(G20)首脳会議と日程は目白押しだ。
鳩山連立政権にとって、最大の外交課題は対米関係の構築である。来月前半の訪中後には、ゲーツ米国防長官が来日するほか、11月中旬にオバマ大統領が初来日する。対米関係で鳩山首相は、首脳同士の信頼関係づくりを優先させる考えを表明した。政権トップの互いの信頼が大切であることは論をまたない。しかし、日を置かずして具体的課題への対応が迫られることも現実である。
まず政治日程に上るのが、米軍再編に関連する沖縄・米軍普天間飛行場移設の問題だ。連立政権合意では米軍再編などについて「見直しの方向で臨む」としたが、中身は明らかでない。日米両政府は沖縄県名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部への移設で合意しており、米政府の基本姿勢はこの実施である。
10月13日には、過去の日米合意に基づく移設先について防衛省が実施した環境影響評価の準備書に対する沖縄県知事の意見提出の法的期限を迎える。新政権の方針が明確でないため地元は困惑している。知事が意見を提出すれば現行の合意で既成事実が積み上がり、意見内容しだいでは、地元と政府で「ねじれ」が生まれる可能性もある。準備書を取り下げるとすれば、事前に米政府との調整も必要になろう。そして、年末には来年度予算編成も控える。
民主党の本来の主張である県外(国外)移転を求めるのか、党内にある沖縄・米空軍嘉手納基地との統合案が再浮上するのか、それとも他の道を探るのか。岡田克也外相は年末までに方針を決める意向のようだが、遅すぎるのではないか。
また、10月下旬に召集される予定の臨時国会では、来年1月15日に期限を迎えるインド洋での海上自衛隊による給油活動の継続問題がテーマとなる。米政府は公式には給油継続への期待を表明している。北沢俊美防衛相は撤収を明言したが、岡田外相は「単純延長はしない。それ以上でもそれ以下でもない」と歯切れは悪い。
期限切れと同時に撤収するなら、代替策の提示を迫られる。国内では給油活動が「安上がりで安全な貢献策」との意見も根強く、アフガニスタン支援で新たな貢献策の選択肢は限られているのが実情だ。
鳩山首相には、オバマ大統領との信頼づくりと並行して、政治日程を勘案しながら、これら懸案の具体策を提示してもらいたい。
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産経新聞 2009年09月22日
首相訪米 同盟堅持へ公約の修正も
国連総会などに出席するため鳩山由紀夫首相が訪米し、新政権外交が本格始動した。ニューヨークでは中国の胡錦濤国家主席との会談に続き、米国のオバマ大統領とも会談する。
首相は日米首脳会談で信頼関係の構築を主眼にすると言明しているが、具体的方策がなければ信頼の絆(きずな)は強まらない。日米が共通の利益を見いだすよう、同盟堅持の基本路線を継承してほしい。首相が就任前に発表した論文を「反米的」とする見方もあり、米政権は今回の会談を極めて重視していることを忘れてはなるまい。
懸案が3つある。一つは、インド洋で日本の海上自衛隊が行っている補給支援活動だ。米国は「テロとの戦いのうえで貢献は大」として来年1月の期限切れ後も継続を切望しているが、首相は「単純延長はしない」という。ならば、補給支援に匹敵する代替活動を提示すべきだ。妙案はあるのか。
新政権は日米両政府が3年前に最終合意した米軍普天間基地移転計画にも注文をつけた。鳩山首相は「米軍基地は海外移転が望ましく、最低でも県外移設を」と見直しを求めている。民主、社民、国民新3党の連立合意に盛り込まれた「日米地位協定の改定」も米政府にとっては気がかりだろう。
いずれも日本の平和と安全を左右する問題である。鳩山首相は日米同盟を損なう恐れがある公約を修正する必要がある。「米国に核の先制不使用宣言を求める」という岡田外相の持論にも現実直視の観点から再考を求めたい。
一方、鳩山首相は胡錦濤主席との会談に先立ち「東アジア共同体」構想を提唱した。通商をはじめ幅広い分野での域内協力を目指すものだが、これにも米政府との意思疎通が欠かせない。
日中間の最大の懸案は東シナ海のガス田開発問題である。昨年6月、中国側がすでに開発に着手した区域での日本企業の参加などで日中合意がなされたが、その後交渉は頓挫している。
21年連続で国防費を増大させている中国の軍事力が、海洋権益の拡大戦略の後ろ盾になっていることを認識しておく必要がある。初の国産空母の建造計画も伝えられ、日本近海における安保面での日米優位が揺らいでいるのだ。
中国に対し、鳩山首相は以上の懸念を率直に表明すべきである。外交辞令だけでは「戦略的互恵関係」は築けない。
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産経新聞 2009年09月21日
首相「気候」演説 削減率より効率で貢献を
鳩山由紀夫首相が訪米する。22日にはニューヨークの国連本部で開かれる気候変動ハイレベル会合に出席し、1990年比で25%減という日本の温室効果ガスの新たな削減目標を、世界に向けて発表する見通しだ。
参加諸国の全首脳は、日本の新政権によって大幅に上積みされた削減率と、鳩山演説の内容に対して強い関心を持っている。
当然のことだが、会合や会談で首相は、日本の25%減という目標は、すべての主要排出国の参加が前提条件であることを重ねて強調することが必要だ。
日本が率先することで、米国と中国の両排出大国の参加が促されることになればよいのだが、下手をすると25%減の数字だけが義務化され、独り歩きしかねない。
また日米の協調も欠かせない。例えば、削減基準年の選択である。民主党が90年としたために、2005年を主張する米国との間に歩調の乱れは生じないのか。
90年比は、欧州連合(EU)にとって削減上、有利な基準だ。
米国がEUの土俵に上がることを嫌うなら、日本の基準年変更はせっかくのオバマ政権での変化に水を差すことになりかねない。演説を前に再検討すべき点であろう。米国が動かなければ、中国も変わらない。重要な勘所だ。
国連の舞台でお披露目される日本の削減目標は、参加各国から一応、称賛されるであろう。
だが、国内に目を向けると状況は厳しい。日本ではすでに省エネが進んでいるために、京都議定書で約束した6%減さえ実現が危ぶまれているのが現実だ。それをどのようにして25%も減らすのか。国民に対する説明が急がれる。
日本の排出量は、世界の約4%にすぎない。にもかかわらず、削減率の数値競争にのめり込んでいる。これでは将来、達成不足分を国民の税金などで外国に支払って辻褄(つじつま)を合わせる可能性が高い。
今回、世界の首脳が一堂に会する目的は、低炭素社会を実現し、地球温暖化を防止することだ。
そのために最良の方策は、途上国の石炭火力発電所や生産工場のエネルギー効率の改善である。これは日本のお家芸だ。25%削減に要するコストをこちらに使えば、地球全体の温室効果ガスを大幅に減らせるではないか。
鳩山首相には、この点についても世界に向けて意欲的に語りかけてもらいたい。
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