中国人船長釈放 不透明さがぬぐえない

朝日新聞 2010年09月25日

中国船長釈放 甘い外交、苦い政治判断

日中関係の今後を見据えた大局的な判断であり、苦渋の選択であったと言うほかない。

那覇地検はきのう、尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船に故意に衝突したとして、公務執行妨害の疑いで逮捕・勾留(こうりゅう)していた中国人船長を、処分保留のまま釈放すると発表した。

日本国民への影響と今後の日中関係を考慮したという。純粋な司法判断ではなかったということだ。

もとより菅政権としての高度な政治判断であることは疑いない。

中国側は船長の無条件釈放を求め、民間交流の停止や訪日観光のキャンセル、レアアースの事実上の対日禁輸など、対抗措置をエスカレートさせてきた。河北省石家荘市では、違法に軍事施設を撮影したとして日本人4人の拘束も明らかになった。

日本側が粛々と捜査を進めるのは、法治国家として当然のことだ。中国側のあまりにあからさまな圧力には、「そこまでやるのか」と驚かされる。

温家宝(ウェン・チアパオ)首相は国連総会で「屈服も妥協もしない」と表明し、双方とも引くに引けない隘路(あいろ)に陥ってしまった。

このまま船長を起訴し、公判が始まれば、両国間の緊張は制御不能なレベルにまで高まっていたに違いない。

それは、2国間関係にとどまらず、アジア太平洋、国際社会全体の安定にとって巨大なマイナスである。

ニューヨークでの菅直人首相とオバマ米大統領の会談では、対中関係で両国の緊密な連携を確認した。クリントン国務長官は前原誠司外相に、尖閣が米国による日本防衛義務を定めた日米安保条約の対象になると明言した。

その米国も日中の緊張は早く解消してほしいというのが本音だったろう。菅政権が米首脳の発言を政治判断の好機と考えたとしても不思議ではない。

確かに船長の勾留期限である29日を待たずに、このタイミングで釈放を発表した判断には疑問が残る。

圧力をかければ日本は折れるという印象を中国側に与えた可能性もある。それは今後、はっきりと払拭(ふっしょく)していかなければならない。

そもそも菅政権は最初に船長逮捕に踏み切った時、その後の中国側の出方や最終的な着地点を描けていたのか。

船長の勾留を延長した判断も含め、民主党外交の甘さを指摘されても仕方ない。苦い教訓として猛省すべきだ。

日本はこれからも、発展する中国と必然的に相互依存関係を深めていく。それは日本自身の利益でもある。

簡単に揺るがない関係を築くには、「戦略的互恵関係」の具体的な中身を冷徹に詰めていく必要がある。

何より民主党政権に欠けているのは事態がこじれる前に率直な意思疎通ができるような政治家同士のパイプだ。急いで構築しなければならない。

毎日新聞 2010年10月03日

論調観測 緊張続く日中関係 「ではどうする」が肝要

沖縄・尖閣諸島付近で起きた中国漁船による衝突事件で日中間の緊張が続く中、臨時国会が始まった。召集前日には衆院予算委で集中審議も行われ、国会は当面、この問題が大きな焦点となりそうだ。各社の社説はどう書いたか。やはり今週もこれをテーマにしたい。

集中審議で野党が一斉に追及したのは検察当局が中国人船長を拘置期限前に処分保留で釈放したことについて「政治介入」があったかどうかだった。

菅直人首相らは「介入は一切ない」と繰り返したが、毎日はまず中国側の強硬姿勢を批判したうえで、首相らの答弁も「とても納得できるものではなかった」と総括。「仮に、政治による指示が一切なかったのが本当だとしたら、逆に政府の外交に対する構えに不安が募る」と書き、改めて菅政権の危機感の乏しさを指摘した。

政治介入の有無を追及するのは「不毛な攻防」と評した朝日は「釈放が高度な政治判断であったことは疑いがない」と断じ、むしろ首相が「今回の対応についての全責任を自分が負うと言い切らなければ、国民の納得は得られまい」と書いた。

産経は相変わらず激しい。「中国の揺さぶりを受けて厳正な法律の適用・執行を取りやめたのは国家の恥辱」と批判し、自民党が要求するように検察関係者を証人喚問し、検証するのが最優先だと主張している。

これに対し、読売は野党の追及は「一応理解できる」としながらも「単なる政府批判の繰り返しは、菅政権の内外の信頼を貶(おとし)め、中国を利するだけで結果的に国益を害しかねない」と批判を野党にも向けている。

各紙の主張に違いはある。だが、共通して指摘しているのは、一体、菅首相は日中関係をはじめ、この国の外交をどう進めようとしているのか、まるで見えないという点だろう。

漁船衝突事件について、これまでの答弁を簡単になぞっただけだった1日の所信表明演説も、そんな不満が残った。

毎日は「首相が言う『国民全体で考える主体的な外交』を目指すなら、より道理にかなった説明で理解を求めるべきではないか」と書き、朝日は「懸念を払拭(ふっしょく)する『菅外交』の全体像は示されなかった」と書いた。

無論、野党も、そして私たち新聞も批判だけをしていれば済む時代ではない。軍事大国、経済大国となった中国とどう向き合っていくのか。私たちも今後、議論を重ね、より具体的な提案をしていきたいと考えている。【論説副委員長・与良正男】

読売新聞 2010年09月25日

中国人船長釈放 関係修復を優先した政治決着

尖閣諸島沖での衝突事件で逮捕されていた中国人船長が、処分保留のまま、釈放されることが決まった。

船長を取り調べていた那覇地検は「国民への影響や今後の日中関係を考慮した」と説明した。

中国・河北省で「軍事目標」をビデオ撮影したとして日本人4人が拘束されたばかりである。「国民への影響」とは、拘束が長引く可能性があることへの懸念をさすものだろう。

地検は、船長の行為に計画性が認められず、けが人が出るなどの被害がなかったことも、釈放の理由に挙げた。

だが、これでは、悪質性が高いとして船長を逮捕・拘置してきたこととの整合性がとれない。

仙谷官房長官は、地検独自の判断であることを強調しているものの、菅首相はじめ政府・民主党首脳らの政治判断による決着であることは間違いあるまい。背景には早期解決を求める米政府の意向もあったとされる。

「国内法に基づいて処理する」と繰り返してきた日本政府として筋を通せなかった印象はぬぐえない。国民の多くも同様の思いを抱いているのではないか。政府は国民の納得が得られるよう、十分説明を尽くす必要がある。

尖閣諸島は言うまでもなく、日本固有の領土である。政府はこの立場を、繰り返し内外に示していかなければならない。

今回の決着が、今後にもたらす影響も無視できない。

尖閣諸島沖の日本領海内で違法操業する中国漁船への海上保安庁の“にらみ”が利かなくなる可能性がある。海保の体制強化はもちろん、海上自衛隊との連携も強めることが求められる。

中国が今回、ハイブリッド車の部品などの製造に欠かせないレアアース(希土類)の輸出禁止措置をとったことは、中国が貿易相手として予測不能なリスクを抱える国であることを再認識させた。

今後、中国に大きく依存する物資については、中国以外からも調達できるよう対策を講じておくことが肝要だ。

中国の高圧的な姿勢の裏には、国内の対日強硬派への配慮もあろうが、青年交流や条約交渉の中止など矢継ぎ早の対抗措置は、明らかに行き過ぎている。

日本は、単なる「友好」という言葉に踊らされることなく、「戦略的互恵」の立場で、冷静かつ現実的に国益を追求する対中外交を展開していかねばならない。

産経新聞 2010年10月04日

検察の尖閣判断 不自然な経緯なぜ語らぬ

検察に対する国民の信頼が地に落ちているのは、大阪地検特捜部の証拠改竄(かいざん)事件だけが理由ではない。尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件への対応には大きな疑問がある。検察はいまだにこれに答えていない。

海上保安庁に逮捕された中国人船長を処分保留で釈放した際、那覇地検の次席検事は「わが国国民への影響や今後の日中関係を考慮すると、これ以上身柄を拘束して捜査を続けることは相当ではないと判断した」と語った。

この言は「法の下の平等」を定めた憲法14条の否定や放棄に等しい。検察はいつから政治判断をするようになったのか。事件の外交的背景を考慮して法の執行を左右するようになったのか。これほど重要なことを、なぜ那覇地検の次席が語ったのか。

最高検が事前に会見内容を知ってこれを了としたなら、検察は自らの存在意義を見失っている。

中国人船長の処分保留を決めたのは、大林宏検事総長を含む事実上の検察首脳会議だった。「日中関係を考慮」の真意については、最高検が明らかにすべきだ。

船長釈放について仙谷由人官房長官は「那覇地検の判断なので、それを了としたい」、柳田稔法相は「指揮権を行使した事実はない」と語った。先の衆院予算委でも菅直人首相は「検察が、関係する意見を聞いて判断し、適正だった」と述べた。地検の「政治、外交的判断」に責任を転嫁しているのは卑怯(ひきょう)であり、姑息(こそく)である。

昭和52年、日航機が日本赤軍にハイジャックされたダッカ事件では、当時の福田赳夫首相が「一人の命は地球より重い」と乗客の解放と引き換えに服役、勾留(こうりゅう)中のメンバーの引き渡しに応じた。

「テロを助長させた」と世界から非難された「超法規的措置」は政治家の判断でなされ、検察はこれに強く反対した。

事実上の超法規的措置といえる船長釈放は検察の名で行われただけ、禍根も深い。検察の判断には中国で身柄を拘束された中堅ゼネコン「フジタ」社員ら4人への配慮があったとされる。それこそ、政治家が行うべき判断だった。

未曾有の危機にある検察は、自ら再起しなくてはならない。そのためにはまず、船長釈放の不自然な経緯を明らかにしなければなるまい。このまま検察が権威を失墜すれば、ほくそ笑むのは誰か。

毎日新聞 2010年09月28日

中国の強硬措置 理不尽な対応はやめよ

沖縄県・尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件で中国人船長が釈放されたあとも中国は強硬な構えを崩していない。日中対立の長期化は双方にとってプラスはない。中国は日本に対する報復とみられるさまざまな措置を早急にやめるべきである。

漁船船長の帰国に合わせ中国外務省が発表した声明にはあぜんとさせられた。日本の領海内で海上保安庁の巡視船に体当たりした漁船の船長を釈放したのは日本側が対中関係を重視した結果の判断であろう。それに対し謝罪と補償を求めてくるとは何をか言わんやである。

声明は船長逮捕について「中国の領土と主権、国民の人権を著しく侵犯した」と抗議し、日本による拘置や捜査を違法・無効と決めつけて謝罪と補償を求めている。論外な要求であり、菅直人首相が「全く応じるつもりはない」と拒否したのは当然である。

中国側が河北省の軍事施設区域でビデオを撮影していたとして建設会社「フジタ」の日本人社員4人を拘束し取り調べていることも理解しがたい。「フジタ」は旧日本軍が中国各地に遺棄した化学兵器を発掘・回収して無毒化する事業に携わっており、拘束された社員はその準備のため現地入りしたという。

この事業は化学兵器禁止条約に基づき日本政府が全額負担して行うことが日中間で合意された戦後処理事業の一環である。日中関係改善という明確な目的がある。スパイなどでないことは中国側もわかっているはずだ。

取り調べは温家宝首相がニューヨークで「船長の即時釈放に応じなければ新たな対抗措置を取る」と発言した前日に始まっていたことも後でわかった。温首相発言に向け中国当局が用意した「新たな対抗措置」と見られても仕方ない。中国側は4人の身柄の安全を保障すると言っているようだが、理不尽な取り調べはやめて早急に釈放すべきである。

影響が経済分野に拡大していることも看過できない。事件以降、ハイブリッド車や携帯電話部品の性能向上などに必要なレアアース(希土類)の対日輸出手続きが停滞しており、日本のハイテク関連産業を不安にさせている。

さらに、一部の税関当局が日本関連の輸出入品に対する通関検査を厳格化し自動車や家電の部品などの輸出入が滞るケースが頻発しているともいう。中国政府は指示を否定しているが、一連の経緯から見ればいやがらせとしか思えない。

中国が本当に「戦略的互恵関係を発展させることは両国国民の根本利益に合致する」(中国外務省声明)と考えているなら、挑戦的な対応をただちに改めるべきである。

産経新聞 2010年10月01日

中国人船長釈放 喚問で不透明さをぬぐえ

菅直人首相と全閣僚が出席し、尖閣諸島沖の日本領海内で起きた中国漁船衝突事件に対する衆院予算委員会の集中審議が行われた。

焦点の中国人船長が処分保留で釈放された点について首相は「検察は自主的に判断しており、適切だった」と述べたが、政治的関与の有無を含め事実関係は不透明なままだ。

日本の領海を侵犯し、海上保安庁の巡視船に体当たりした違法行為を処罰せず、釈放したことは日本の主権を否定したも同然だ。

しかも、中国の揺さぶりを受けて厳正な法律の適用・執行を取りやめたのは国家の恥辱といえる。1日召集の臨時国会では、これらの経緯と事実関係が明らかにされなければならない。

那覇地検の決定理由に日中関係への影響が挙げられたことなどから、自民党は大林宏検事総長と上野友慈・那覇地検検事正の証人喚問を要求した。致命的な外交判断の誤りに至った検証作業を最優先すべきである。

審議後、同予算委理事会は中国漁船の衝突の状況を海保側が撮影したビデオ映像の国会提出を要請した。政府はこのビデオが中国漁船の意図的な衝突を示す決め手になると説明してきた。早急に公開手続きを進め、中国側に非があることを内外に効果的に示し、外交失態を取り戻す必要がある。

首相は「わが国の固有の領土に関しては一歩も引かないというのが私の最大の責任だ」と語った。同時に「国民にいろいろ心配をかけたことをおわびしたい」とも述べた。いったい何をわびるというのだろうか。船長釈放により主権を守り抜く責任を放棄した誤りを明確に認めるのが先だろう。

首相はビデオを見ていないことも認めた。「必要に応じて仙谷由人官房長官から報告をもらっている」との人任せの態度は残念だ。船長釈放の連絡を滞在先のニューヨークで現地時間の24日未明に受けた際も、とくに問題ないと判断したようだ。主権侵害という問題意識があったとは言い難い。

一方、中国河北省で身柄を拘束された中堅ゼネコン「フジタ」社員4人のうち3人が解放されたが、なお1人の拘束が解かれていない。そもそもなぜ4人が拘束されたのかもよく分からない。中国に強く説明を求め、残る1人の早期解放が実現できなければ新たな対応を取る必要がある。

毎日新聞 2010年09月26日

論調観測 中国人船長釈放 批判点もトーンも濃淡

沖縄県・尖閣諸島沖での中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突事件で、那覇地検は逮捕・送検された中国人船長を処分保留で釈放し、船長は帰国した。

釈放自体をどう見るか。那覇地検が釈放理由の一つに「外交上の配慮」を挙げたことをいかに評価するか。また、菅政権の外交力の判断や今後の取り組みへの注文は……。各紙社説の主張は大きく分かれた。

毎日は「釈放によって、日中の緊張した関係が緩和される方向に向かうことを期待したい」としつつ、釈放決定の「不透明さ」に疑問を呈した。

特に、地検の外交配慮は「異様」だとし、検察独自の判断とされることに疑問を投げかけ、事実なら「検察が外交に口を出したことの当否が問われる」と述べた。また、釈放は「中国の外交攻勢に押されての決定という印象」はぬぐえず、「政府の外交姿勢に対する不信を招きかねない」と指摘。再発防止に向けた環境づくりを求めた。

朝日は「大局的な判断であり、苦渋の選択であった」「高度な政治判断」と釈放自体は前向きに評価。一方、中国が圧力を強めた時期の釈放決定には「疑問が残る」とした。そのうえで事態の「最終的な着地点を描けていたのか」と、船長逮捕や拘置延長の判断に関して「民主党外交の甘さ」を指摘した。

読売は「日本政府として筋を通せなかった印象はぬぐえない」などと政府に説明を求めたが、釈放や経緯についての踏み込んだ評価、批判はない。

釈放そのものを強く批判したのが産経、日経、東京各紙だ。

特に産経と東京が激しい。産経は「どこまで国を貶(おとし)めるのか」と題し、釈放は「千載に禍根を残す致命的な誤り」「これほどのあしき前例はなく、その影響は計り知れない」などと酷評、尖閣諸島領有の意思を明確にするため、ヘリポート建設、自衛隊配備などを求めた。東京も釈放は「大局に立つ賢明な決定とたたえることは到底できない」「歴史に残る愚かな決定」と厳しく批判した。

一方、日経は「唐突な釈放は厳正な法律の適用・執行といえるのか」と「深刻な懸念」を表明した。日経、東京両紙は同時に、毎日同様、検察による政治判断も問題視した。

各紙は、多岐にわたる論点で比重の置き方や評価の程度が異なる。だが、船長逮捕から釈放に至る一連の経緯で明らかになった菅政権の問題処理能力、危機管理能力に強い疑問を表明した点で一致している。【論説委員・岸本正人】

産経新聞 2010年09月27日

中国の謝罪要求 譲歩ではなく対抗措置を

中国外務省が尖閣諸島沖の漁船衝突事件で、日本側に謝罪と賠償を要求するなど強硬姿勢をエスカレートさせている。

これに対し、菅直人首相は26日、あらためて、「中国側の要求は何ら根拠がなく、全く受け入れられない」と拒否した。当然の対応である。だが、日本側は領海侵犯し、海上保安庁の巡視船に意図的に衝突した中国人船長を処分保留のまま釈放したことで、事態が好転すると甘く見ていたのではないか。

一度譲歩すると、さらなる譲歩を迫られるのが常である。日本として、どういう対抗措置を取るのか、菅政権は態勢の立て直しに総力を挙げねばならない。

中国側が尖閣諸島の領有権を主張したのは、東シナ海大陸棚で石油資源の埋蔵の可能性が指摘された直後の1971年12月である。日本が1895年に領有を閣議決定した後の七十数年間、中国は異論を唱えていない。こうした事実を日本政府は国際社会に発信し、理解を求めなければなるまい。

一方で中国は、トウ小平氏が1978年、領有権の棚上げを語り、日本側も、これを容認した経緯がある。ただ、中国は領海法を制定するなど尖閣を自国領とすることに着々と布石を打っており、今回の漁船の侵犯と体当たりは、その一環と見ることもできる。

それだけに日本側は、尖閣に施政権があることを明確にしなければ、日米安保条約の対象地域に該当しなくなることも考えておく必要がある。

問題は、領土や領海に対する国家主権を菅政権が守ろうとしているのか、はっきりしていないことだ。今回の釈放についても首相は「検察が事件の性質を総合的に考え、国内法に基づき粛々と判断した」と、釈放は検察の判断だとする見解を繰り返しただけだ。民主党の岡田克也幹事長も「政治的な介入はない」と強調している。

釈放は今後の対中外交に重大な禍根を残し、日本の国際的信用も失われた。首相がその責任を免れることなどできない。国民に十分な説明ができないなら、最高指導者の資格はあるまい。

自民党の谷垣禎一総裁が「直ちに国外退去させた方が良かった。最初の選択が間違いだった」と、船長の逮捕そのものを批判したのもおかしい。毅然(きぜん)と主権を守る姿勢を貫くこととは相いれない。発言を撤回すべきである。

毎日新聞 2010年09月25日

中国人船長釈放 不透明さがぬぐえない

沖縄県・尖閣諸島沖での中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突事件で日本側が逮捕・送検した中国人船長について那覇地検が処分保留で釈放することを決めた。

釈放によって、日中の緊張した関係が緩和される方向に向かうことを期待したい。しかし、逮捕以降の一連の経緯を踏まえると今回の決定には不透明さがぬぐい切れない。

すんなりと納得できないのは釈放の理由とそのタイミングである。

那覇地検は釈放理由について「わが国の国民への影響や、今後の日中関係を考慮した」とする一方で、船長の行為を「追跡を免れるためにとっさに取った行動で、計画性は認められない」と説明した。

しかし、この説明には理解しにくい点がある。まず、検察が処分決定にあたり「外交上の配慮」を公言することの異様さだ。起訴するかどうかの裁量権は検察にあるとはいえ、「日本の法律にのっとり粛々と対応する」と繰り返してきたこれまでの政府の姿勢と矛盾するのではないか。検察は外交配慮を自らの判断で決めたと言うが本当にそうだろうか。事実とすれば検察が外交に口を出したことの当否が問われる。

船長の逮捕容疑は停船命令に従わず漁船を巡視船に衝突させた公務執行妨害行為である。前原誠司外相も国土交通相として巡視船被害を視察した際、「ビデオ撮影もしており、どちらが体当たりしてきたかは一目瞭然(りょうぜん)」と語っていた。今回の釈放理由と整合するのだろうか。

さらに、タイミングの問題もある。釈放決定は中国側が閣僚級以上の交流停止を決め、訪米中の温家宝首相が「主権、領土で妥協しない」と表明したあとのことだ。しかも、日本の建設会社社員4人が中国で取り調べを受けたことが明らかになった直後でもある。中国の外交攻勢に押されての決定という印象はぬぐえない。政府の外交姿勢に対する不信を招きかねない。

漁船の行為が地検が言うように「とっさの行動」であったとしても、東シナ海や南シナ海での最近の中国の活発な行動は日本だけでなく韓国や東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々にとっても懸念要因である。ニューヨークでの日米首脳会談で両首脳は対中関係を注視していくことで一致したが、オバマ大統領は中国の協力の必要性にも言及した。

仙谷由人官房長官は釈放決定後の記者会見で日中関係の重要性を強調し「戦略的互恵関係の中身を充実させるよう両国とも努力しなければならない」と語った。今後、「外交的配慮」を独り歩きさせないための再発防止策へ向け冷静な対話の環境づくりに双方は取り組む必要がある。

産経新聞 2010年09月25日

中国人船長釈放 どこまで国を貶(おとし)めるのか

■主権放棄した政権の責任問う

日本が中国の圧力に屈した。千載に禍根を残す致命的な誤りを犯したと言わざるを得ない。

沖縄・尖閣諸島(石垣市)沖の日本領海を侵犯した中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突し、公務執行妨害の疑いで逮捕、送検されていた中国人船長を那覇地検が処分保留のまま釈放することを決めた。勾留(こうりゅう)期限まで5日残しており、法の手続きを無視した事実上の超法規的措置といえる。

釈放にあたり、那覇地検次席検事は記者会見で「わが国国民への影響や今後の日中関係を考慮した」と説明した。法に基づき事件を厳正に処理すべき検察当局が「外交上の配慮」を述べるとはどういうことか。

菅直人首相、前原誠司外相の外交トップが外遊で不在の中、仙谷由人官房長官は地検独自の判断との立場を強調した。しかし、日本の国益と領土・主権の保全、対中外交のあり方や国民感情などを考慮しても到底納得できない。釈放により、今後日本が尖閣周辺で領海侵犯や違法操業を摘発するのは極めて困難となる。主権放棄に等しい責任について首相や官房長官は国民にどう説明するのか。

船長は容疑を否認しているが、海保側は漁船が衝突してきた状況を撮影、故意であるのは立証できるとしている。それならばなおさら起訴し、公判でビデオを公開して罪状を明らかにすべきだった。検察当局が船長に「計画性はなかった」と判断し、処分保留とはいえ釈放したことは事実上、刑事訴追の断念を意味する。国際社会も日本が中国の圧力に屈したと判断する。これほどのあしき前例はなく、その影響は計り知れない。

◆むなしい日米首脳会談

那覇地検の決定は、ニューヨークで行われた日米首脳会談、日米外相会談の内容ともそぐわず、いかにも唐突で無原則な印象を国際社会に与えよう。

菅首相とオバマ米大統領の首脳会談では、衝突事件を念頭に日米の連携と同盟の強化で一致した。米政府は「西太平洋の海洋問題で緊密に協議していくことで合意した」と発表、中国の海軍力増強と海洋進出に日米で共同対処する姿勢を明示したばかりだ。

これに先立つ外相会談でも、前原外相にクリントン国務長官は尖閣諸島には「日米安保条約が適用される」と言明したという。前原氏は主要国(G8)外相会合でも「日本は冷静に対処している」と船長逮捕の正当性を強調して各国に理解を求めており、今回の決定はこの点でもちぐはぐといわざるを得ない。

尖閣諸島は日本が明治時代に他国が領有権を主張していないことを確認した上で領土に編入した。中国が領有権を主張し始めたのは東シナ海の石油・天然ガス資源が明らかになった1970年代にすぎない。1953年の人民日報には、「尖閣諸島は沖縄の一部」との記述もあるほどだ。

◆尖閣領有の意思明示を

にもかかわらず、中国政府は事件発生以来、船長逮捕を不当として即時無条件釈放を要求し続け、閣僚級の交流停止、東シナ海のガス田共同開発条約交渉中止などの対抗措置を次々と打ち出した。ハイテク製品の生産に欠かせないレアアース(希土類)の日本向け輸出を事実上禁止した。

さらに、中国当局は旧日本軍の遺棄化学兵器処理事業に関連して中国河北省の現場で事前録画を行っていた日本の建設会社関係者4人を「許可なく軍事管理区域に入った」との理由で拘束、取り調べていることも判明した。異様な対日圧力である。

事件を「国内法にのっとって厳正に対処する」(菅首相)としてきたのが結局腰砕けに終わったことで、中国側は「中国外交の勝利」と宣伝し、日本への対抗措置を徐々に解除する可能性があるが、日本の主権と国益が大きく貶(おとし)められ、取り返しがつかない。

海上保安庁などによれば、尖閣諸島海域には1日平均270隻もの中国漁船が現れ、その4分の1以上が日本領海内で違法操業中だという。処分保留によって中国側は一層強い姿勢に転じ、漁船に加えて、「安全操業」の名目で武装した漁業監視船も同行させる恫喝(どうかつ)的操業が一般化しよう。

そうした事態を阻止するには、尖閣諸島の領有の意思を明確な態度で示す必要がある。ヘリポート建設なども含め、自衛隊部隊配備も念頭に検討を急ぐべきだ。

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