毎日新聞 2010年09月27日
国連途上国支援 救える命がそこにある
1日の収入が1ドル未満という最貧層の人口を半減させる。妊娠や出産のために命を落とす女性の数を4分の1以下に減らす--。ニューヨークの国連本部で世界の首脳たちがそう宣言し10年がたった。達成期限が5年後に迫る今年、同じ場所に集った首脳らは、進展の大幅な遅れを認めざるを得なかった。
「ミレニアム開発目標」と呼ばれる目標は、貧困や飢餓の半減、妊産婦の健康改善のほか、乳幼児の死亡率低下、エイズやマラリアなどの流行を止めることなど、八つの項目から成る。この間、初等教育の普及や貧困・飢餓の削減などで成果が出てきているものの、途上国を取り巻く環境は依然として厳しい。
特に深刻なのは、乳幼児と妊産婦の高死亡率だ。途上国では、毎分、新生児8人、妊産婦1人が十分な医療ケアを受けられずに命を落としている。サハラ以南のアフリカでは、妊産婦の死亡率が悪化している地域さえあると報告されている。
リーマン・ショック後の世界的な景気悪化が、途上国支援にブレーキをかけた。先進国はどこも国内の雇用対策に忙しく、財政難は歳出削減を強いている。しかし、ウォール街の暴走が招いた危機のあおりを、世界で最も脆弱(ぜいじゃく)な人たちの生命が受けるといった悲劇がこの21世紀に許されてよいはずがない。
国連によれば、母親を亡くした子どもが成育できず死亡する確率は、母親のいる子どもの10倍も高いそうだ。そうした母親の命の多くは、妊娠中の健診や適切な施設での分娩(ぶんべん)などにより救えるのである。
今回、首脳らは特に乳幼児と妊産婦の健康を改善させるため今後5年で計400億ドルの支援を行うことを決めた。日本は50億ドルを拠出すると菅直人首相が約束した。さらに35億ドルを教育分野などの支援に提供するという。
かつて世界一の援助大国だった日本だが、政府開発援助(ODA)予算は年々減少し、存在感の低下が指摘されている。長期的な戦略のもと、量質とも向上させる必要がある。
途上国が自立して発展していくためには、資金だけでなく技術やノウハウの移転、途上国の産品に対する市場の開放も不可欠だ。世界貿易機関(WTO)の多国間自由化交渉が停滞を続ける中、2国間や地域限定の自由化が活発化しているが、その陰で置き去りになっているのは途上国だ。WTO交渉が合意に向けて再び弾みがつくよう先進国には具体的なイニシアチブが求められている。
目標期限まであと5年しかない。しかし、5年間の努力次第で多くの命を救うことも経済的自立を促すこともできるはずだ。
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読売新聞 2010年09月24日
途上国支援 国連開発目標の着実な達成を
アフリカなど発展途上国の貧困との戦いは、道半ばである。日米欧などの先進国は引き続き、途上国支援強化の具体策が求められよう。
貧困削減などに向け、2000年に定めた国連ミレニアム開発目標(MDGs)に関する首脳会合(サミット)は、「現状では目標達成は困難であり、先進国の政府開発援助(ODA)の拡大が必要」との文書を採択し、閉幕した。
菅首相やオバマ米大統領ら約140か国の首脳が、現状に危機感を共有したのは当然だろう。
MDGsは、1990年比で15年までに、〈1〉1日1・25ドル未満で暮らす貧困人口を半減する〈2〉初等教育の完全普及を図る――など8分野の目標を設定したものだ。
先進国が連携し、途上国支援の数値目標を明示した意義は大きかった。途上国の貧困を減らし、社会を安定させることは、結果的に世界の平和や安全に寄与することにもなるからだ。
しかし、目標期限が5年後に迫りながら、進捗ははかばかしくない。金融危機や先進国の財政悪化で、支援ペースが鈍化したのが主因とみられる。
貧困人口は90年の18億人から05年に14億人に減り、この半減目標は実現できそうだ。だが、サハラ以南のアフリカを中心に、貧困問題は依然深刻である。先進国は現状を厳しく受け止め、諸目標の達成に全力を挙げねばならない。
とくに支援の遅れが目立つのが保健と教育分野だ。乳幼児と妊産婦の死亡率は高く、約7200万人の子供が未就学という。
菅首相は、サミットで演説し、母子保健の充実や教育水準の向上のため、今後5年間で85億ドル(約7200億円)を拠出する新たな支援策を表明した。
日本の戦後の経験を生かし、両分野に絞った援助内容といえる。具体的な支援額を約束したことも評価できよう。
だが、問題は、日本がODA予算を削減し続けていることだ。
日本のODA予算はピークだった97年度から半減した。かつては世界1位の拠出国だったが、現在は5位に転落している。「09年までの5年間でODAを100億ドル増やす」という国際公約も達成できなかった。
これでは、日本に対する国際社会の信頼は揺らぎ、発言力や存在感も低下しかねない。
ODAは外交の重要なツールである。首相は新しい支援策の着実な実現を期すとともに、ODAの増額を急ぐべきだろう。
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産経新聞 2010年09月24日
途上国支援 戦略とめりはりに工夫を
貧困の削減などミレニアム開発目標(MDGs)の実現を目指しニューヨークで開かれた国連首脳会合(MDGsサミット)で菅直人首相が演説し、日本は今後5年間、保健、教育分野に重点を置いて途上国支援に取り組むと表明した。
MDGsは、2000年に採択された「国連ミレニアム宣言」に基づき、国際社会が2015年に達成することを約束した貧困削減や保健、教育、環境など8分野の目標だ。約束が実行されるよう5年ごとにサミットが開かれている。
今回の会合では、中国やインドの経済成長で貧困の削減は進んだが、他分野の目標を残る5年で達成するのは極めて厳しいことが明らかになった。とくに妊産婦や乳幼児の死亡を減らす母子保健分野や初等教育の完全普及を目指す教育分野の遅れが目立つという。
また、感染症対策はこの10年で一定の成果をあげたものの、さらなる資金投入による対策拡大が図られなければ、成果すら失われてしまうことになる。
一方で日本には、保健所や地域医療機関によるきめ細かな保健サービスの提供や初・中等教育の普及が戦後の成長を支えてきた経験がある。その貴重な経験を生かす意味でも、保健、教育分野への重点支援は妥当な選択だろう。
MDGsはひと言でいえば、世界のどこにいても最低限、安心して生活できる状態を実現するための目標だ。これは実は1998年に小渕政権が日本の外交戦略の柱に据えた「人間の安全保障」の考え方が源流になっている。
また、2000年の九州・沖縄サミットでは、エイズを中心にした地球規模の感染症対策に新たな追加的資金が必要なことを議長国の日本が訴えた。これが02年1月の世界エイズ・結核・マラリア対策基金創設につながり、感染症分野の成果をもたらしている。
MDGsはいわば、日本が資金だけでなく、理念の面でも貢献を果たした貴重な外交資産である。だが、財政難の台所事情を考えれば、かつて期待されたような資金要請に応えることは難しい。
日本の支援表明は保健と教育の分野に今後5年間で85億ドル(約7200億円)である。保健分野でいえば、金額は過去5年をやや上回っている。日本の存在感を示せるよう、戦略的にめりはりの利いた貢献を工夫すべきだろう。
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