地球上のどこにいても、自分の位置がわかる。米国が運用する全地球測位システム(GPS)の威力は、カーナビや携帯電話でおなじみだ。
その機能を補う日本の衛星「みちびき」が打ち上げられた。
GPS衛星は30機が地球を回っている。位置を知るには4機以上の衛星からの信号が必要だが、ビルや山の陰などで見えないことがある。みちびきが日本列島の上空にいれば、不足する信号を補える。それだけでなく、現在の約10メートルの精度を1メートル以下、場合によっては数センチに高められるという。もっとも、利用には新しい受信機が必要だ。
みちびきは8の字を描いて飛び、1日8時間、日本の上空にいる。1日をカバーするにはあと2機必要だ。
ところが、今後の計画が決まらぬまま、実証目的の1機だけが打ち上げられた。費用は735億円。3機態勢にはさらに700億円いる。
宇宙から位置を知る測位能力を、日本としてどれだけ持つべきか。
GPSは1990年代、米国が軍事目的で運用し始めた。一部の信号が無料で公開され、世界中で使われている。交通管制や土地利用の調査、また正確な時刻の提供など、今や不可欠の社会インフラだ。
だが、米国の有事の際に利用が制限されかねない事情もあり、ロシア、欧州、中国はそれぞれ、20~30の衛星で地球を覆う独自のシステムの整備を進めている。インドも、自国上空の7機で自立を図る。
日本の選択肢としてはまず、衛星は持たず、利用技術に専念することもあろう。欧州のシステムができれば、GPSだけに依存せずにすむ。
あるいは3機を持ち、GPSを補いつつ、高精度を実用化するか。そうすれば、子どもの見守りや、土地の状態にあわせて施肥する精密農業、防災などへの応用が期待される。
みちびきの軌道が通るオーストラリアや、タイなどの国々も衛星測位に関心を寄せている。共同で取り組めば日本の地域貢献にもなるだろう。
もし、GPSに頼らない、自前のシステムとなるとさらに4機がいる。
問題は費用だ。3機の運用だけで10年で2千億円かかるとされる。
日本の宇宙開発は、省庁のはざまで国全体の方針が定まらない状態が続いた。昨年できた宇宙基本計画は宇宙技術の利用を重視する方針を打ち出し、政府の宇宙開発戦略本部で国全体の方針を決める体制ができた。
文部科学省、国土交通省など関係府省の政務官級プロジェクトチームがその下で、宇宙測位システムの今後について来年夏までに結論を出す。
せっかく上げた実証機だ。巨額の投資が生活や日本の将来にどう役立つのか、しっかり見極めることが必要だ。
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