衛星みちびき 日本版GPSの戦略作り急げ

朝日新聞 2010年09月23日

測位衛星 自前でもつ意義見極めを

地球上のどこにいても、自分の位置がわかる。米国が運用する全地球測位システム(GPS)の威力は、カーナビや携帯電話でおなじみだ。

その機能を補う日本の衛星「みちびき」が打ち上げられた。

GPS衛星は30機が地球を回っている。位置を知るには4機以上の衛星からの信号が必要だが、ビルや山の陰などで見えないことがある。みちびきが日本列島の上空にいれば、不足する信号を補える。それだけでなく、現在の約10メートルの精度を1メートル以下、場合によっては数センチに高められるという。もっとも、利用には新しい受信機が必要だ。

みちびきは8の字を描いて飛び、1日8時間、日本の上空にいる。1日をカバーするにはあと2機必要だ。

ところが、今後の計画が決まらぬまま、実証目的の1機だけが打ち上げられた。費用は735億円。3機態勢にはさらに700億円いる。

宇宙から位置を知る測位能力を、日本としてどれだけ持つべきか。

GPSは1990年代、米国が軍事目的で運用し始めた。一部の信号が無料で公開され、世界中で使われている。交通管制や土地利用の調査、また正確な時刻の提供など、今や不可欠の社会インフラだ。

だが、米国の有事の際に利用が制限されかねない事情もあり、ロシア、欧州、中国はそれぞれ、20~30の衛星で地球を覆う独自のシステムの整備を進めている。インドも、自国上空の7機で自立を図る。

日本の選択肢としてはまず、衛星は持たず、利用技術に専念することもあろう。欧州のシステムができれば、GPSだけに依存せずにすむ。

あるいは3機を持ち、GPSを補いつつ、高精度を実用化するか。そうすれば、子どもの見守りや、土地の状態にあわせて施肥する精密農業、防災などへの応用が期待される。

みちびきの軌道が通るオーストラリアや、タイなどの国々も衛星測位に関心を寄せている。共同で取り組めば日本の地域貢献にもなるだろう。

もし、GPSに頼らない、自前のシステムとなるとさらに4機がいる。

問題は費用だ。3機の運用だけで10年で2千億円かかるとされる。

日本の宇宙開発は、省庁のはざまで国全体の方針が定まらない状態が続いた。昨年できた宇宙基本計画は宇宙技術の利用を重視する方針を打ち出し、政府の宇宙開発戦略本部で国全体の方針を決める体制ができた。

文部科学省、国土交通省など関係府省の政務官級プロジェクトチームがその下で、宇宙測位システムの今後について来年夏までに結論を出す。

せっかく上げた実証機だ。巨額の投資が生活や日本の将来にどう役立つのか、しっかり見極めることが必要だ。

毎日新聞 2010年09月20日

測位衛星 民間も費用の負担を

とりあえず1基で様子をみるのか。3基体制にして米国のGPS(全地球測位システム)を24時間補完するのか。それとも7基で日本独自の測位システムを構築するのか。

測位を目的とする日本初の準天頂衛星「みちびき」が打ち上げられたが、将来像がはっきりしない。

衛星を増やすメリットはどの程度か。増やさない場合のデメリットやリスクは何か。包括的に評価した上で、日本が何をめざすのかを早めに決める必要がある。

GPSは米国が軍事目的で構築した測位システムだ。民生用の測位信号を無償で提供しているため、日本でもカーナビや携帯電話などに広く利用されている。

みちびきには、GPSの「補完」と「補強」の両方の側面がある。GPSの電波が届きにくい山間部やビルの谷間でも測位信号を受けられるようにするのが補完。補強に当たるのは測位の精度の向上だ。

GPSには10メートル程の誤差があるが、みちびきを合わせて使うと数センチ~1メートル程度に縮められるという。関係者は、より詳細なナビゲーションに加え、防災や測量、農業、観光などへの応用を挙げる。鉄道や自動車の衝突防止、建設機械や農業機器の自動運転といったアイデアがあり、利用実証実験も予定されている。

新しい利用分野が注目される一方で、これまでの精度で十分という見方もある。そこで検討が必要なのは費用対効果だ。

みちびきにはこれまで735億円の開発費がかかった。しかし、1基では1日8時間しか利用できず、3基で24時間カバーするにはさらに700億円かかる。老朽化に対応し代替衛星も必要になる。

費用対効果の見極めに加え、誰が費用を負担するかも課題だ。準天頂衛星は当初、通信・放送機能も備え、官民が費用を折半するはずだったが、結果的に測位に特化し国が打ち上げた。もし、GPSの補強がビジネスチャンスに結びつくなら、今後は産業界も体制整備に資金を出す必要があるのではないか。

測位衛星には安全保障や社会インフラとしての重要性も指摘されている。米国がGPS利用を制限した場合、日本の社会に大きな影響が及ぶ恐れがある。GPSの時刻信号を利用するシステムにも支障が生じるだろう。

国が測位衛星に出資し続けるなら、GPSデータ遮断の可能性や影響をきちんとリスク評価し、国民に説明する必要がある。

測位衛星システムは、GPS以外にも、欧州やロシア、中国などが整備を進めている。他国のシステムとの国際協調を考えることも、国の戦略として重要だ。

読売新聞 2010年09月20日

衛星みちびき 日本版GPSの戦略作り急げ

日本版のGPS(全地球測位システム)整備を目指した人工衛星の1号機「みちびき」を、宇宙航空研究開発機構などが打ち上げた。

カーナビゲーションなどで位置確認に使われているGPSの測位誤差を、現在の10メートル程度から1メートル以下に改善することを目指し、産官学で技術実証試験に挑む。

人工衛星を使った測位技術関連の製品、サービスは、国際的に市場が拡大している。世界に()していける成果を期待したい。

試験は58テーマが予定されており、高い測位精度をどう生かせるかが、成否のかぎとなる。

その一例が、除雪車や耕運機などの自動誘導だ。誤差が10メートルでは道路の除雪はできないし、畑も耕せない。誤差が1メートル以下なら、それが可能になる。

すでにGPSは、山岳遭難の救助からデジタルカメラのような日用品まで幅広く使われている。カメラの場合、撮影場所が写真に自動で付加されるため、旅行の記録になる、などと人気がある。

精度の向上は、こうした既存分野も活性化させるだろう。

みちびきの特徴は、その軌道にある。地上から見ると、日本を含む西太平洋上空を「8の字」を描くように24時間で飛行する。

うち8時間程度は日本上空にいるので、3機あれば常に1機が日本のほぼ真上に見える。このため衛星からの電波は、ビルや山など障害物にほとんど遮られない。

米国が運用する今のGPSは衛星約30機で地球全体をカバーしている。だが、都市部や山間部では十分な信号強度が得られない。

これに、みちびきの電波を加えることで測位精度を上げる。

問題は後続の衛星だ。みちびきは400億円、その後の衛星も1機350億円程度と試算されている。決して安くはない。実用化には最低3機が必要で、官民の費用分担を巡り論議が起きている。

政府は関係省庁によるチームを設け、今年度末までに後続機のあり方を検討するという。その際には国際動向、日本の安全保障も十分考慮せねばならない。

もともとGPSは、米国が軍事用に開発した。いつ運用が制限されるかわからない。そうした懸念から、欧州、中国、インドは独自の測位システムを構築中だ。ロシアは安全保障、防衛のため自前のシステムを運用している。

欧米、中国などが測位技術で連携する動きもある。日本が国際的な発言力を保ちつつ、技術を生かせる戦略が求められる。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/494/