リーマン2年 再発防止の備え十分に

朝日新聞 2010年09月18日

銀行の資本規制 日本の金融変革の糧に

世界金融危機の引き金となったリーマン・ショックから2年。「危機を繰り返すまい」という誓いから出発した、銀行に対する国際的な規制作りが大きく前進した。

主要国の金融監督当局と中央銀行からなるバーゼル銀行監督委員会(スイス)が、世界を舞台に活動している銀行に求める自己資本比率の規制を強化することで合意した。銀行の資本について、質と量の両面から危機への抵抗力を高める内容である。

各国の事情や景気への影響にも目配りしてつくられ、11月のソウルG20サミットに報告される。ぜひ首脳合意に盛り込んでほしい。

この規制は、貸し倒れなどの危険があるリスク資産に対して、いざという時に損失を補うクッションになる自己資本の比率を一定の水準以上に保つことを銀行に求めるものだ。

まず、自己資本の中核部分を普通株による出資や内部留保など取り崩しやすいものに限る。その上で、今はリスク資産の2%以上とされている比率を2013年に3.5%以上、19年には7%以上にする。

むろん、自己資本の規制だけで危機の再発を防げるわけではない。このため、バーゼル委とG20の金融安定化理事会(FSB)で、証券や保険などを含めた金融システム全体を網羅する多角的な規制作りが議論されている。欧米などでは独自の規制強化策や監督体制の立て直しも進む。

各国の当局が規制を上手に組み合わせ、銀行の実態をきちんと把握する。そして、世界的な横の連携を密にしていくことが大切だ。

銀行に健全な経営を迫るには規制の強化が有効だ。その半面、急に厳しい規制をすると銀行が貸し渋りに走って不況圧力が強まる恐れもある。この点で米英と日独などの意見が対立したが、ユーロ危機や米国の景気減速をにらんで、現実的な着地となった。

日本のメガバンクの中核的な自己資本の比率は7%台半ばから5%弱とされ、欧米の強豪より低い。合意された水準は年々の利益を地道に積み上げれば達成可能だが、不況などで利益が思うように出なくなると、貸し渋りで景気が悪化する懸念もある。

そんな事態を招かないためにも、まずは基礎になる収益性を高めることが喫緊の課題だ。収益性が低いから増資もままならない現状を考えれば、なおさらだろう。

19年までの猶予期間は、銀行の自己変革のために与えられたと考えるべきだ。預金で国債ばかり買っていては、本来の役割を果たせない。

伸びる企業と技術を見きわめる力を養い、思い切った融資で支援し、成長の果実を分け合う。そういう力強い銀行への飛躍こそが求められる。

毎日新聞 2010年09月17日

リーマン2年 再発防止の備え十分に

震源地の米国のみならず世界を様変わりさせたリーマン・ブラザーズの破綻(はたん)から2年が過ぎた。この間、主要国の政府と中央銀行は、金融危機が世界規模の恐慌に発展するのを防ごうと、あらゆる手を打った。高止まりした失業率など、まだ後遺症が色濃く残るものの、少なくとも恐慌の封じ込めには成功している。

では、金融危機とそれをもたらしたバブルの再発を防ぐ努力の方はどうだろうか。

主要国の銀行監督当局がこのほど新しい規制の導入で合意した。国境を越えて活動する大手銀行に自己資本の強化を求めるものだ。普通株や内部留保といった「質が高い」とされる資本を、融資など資産に対して最終的に7%以上保有させる。現行の2%に比べ、それなりの規制強化ではある。

しかし、金融業界などの反対を受け、当初検討されていた水準より甘くなった。さらに問題なのは、規制の完全実施を2019年とし、長い猶予期間を設けたことだ。

日本のメガバンクの中には、7%を満たしていないところもあるようだ。収益力を高めるなどして自己資本を積み増す必要がある。長い猶予はそうした銀行の助けになるかもしれないが、世界の金融システムを考えたとき、完全実施より先に次なる暴走が起きはしないか心配だ。

今回合意した自己資本規制とは別に、米国など独自の規制強化に乗り出す動きもある。ただ、いくら規制を強化しても、網のかからないところで、高リスクの金融取引が膨張する可能性はぬぐえない。預金を扱う銀行でなければ、暴走しても金融システムを脅かすことはないとタカをくくるのは賢明ではなかろう。

規制や監督の強化は必要だが、それだけでは不十分なのだ。結局のところ、金融の暴走を燃料のように後押しするマネーをコントロールするしかない。マネーの元栓、つまり中央銀行の金融政策が要になる。

その元栓に目をやると、日米欧ともほとんど極限まで緩み切った状態だ。デフレや景気の二番底入りを考えれば当分、金融緩和を継続せざるを得ないとの結論になるのだろうが、すでに低コストのマネーが世界的にあふれている。巨額の景気対策により各国の財政は急激に悪化したが、それにもかかわらず国債に投資が集中しているのはそのためでもある。金融緩和が世界のマネーの動きに与える影響にも、もっと注意を払うべきではないか。

短期の景気浮揚を重視するあまり、バブル崩壊の傷を新たなバブルの形成で癒やすようなことがあってはならない。あのショックからまだ2年しかたっていないのである。

読売新聞 2010年09月14日

銀行新規制 邦銀は自己資本の充実を急げ

主要国の金融監督当局で構成するバーゼル銀行監督委員会が、世界の主要銀行に義務づける新たな自己資本規制の基準を決めた。

金融危機の再発を防ぐため、銀行に経営の健全性向上を求める措置だ。日本の3大メガバンクなども、新しいルールに沿い、資本増強を急ぐ必要があろう。

銀行の自己資本比率は、融資などの「資産」に対し、損失処理に充てられる自前の資金である「自己資本」がどれだけあるかを示した数字だ。数値が高いほど、リスクへの対応力が高い。

新規制は、普通株や利益剰余金などの内部留保による「中核的自己資本」の最低基準を現行の2%から4・5%に引き上げたうえ、2・5%分の上乗せも求めている。実質的に「7%以上」を確保させる厳しい内容となった。

実施時期は、2013年から段階的に適用し、19年1月に完全実施するとしている。

金融危機の痛手が大きかった米国と英国が、より厳格な規制を求めたため、バーゼル委では当初、中核的自己資本比率を6~8%に引き上げ、12年から実施するとの案も浮上していた。

しかし、日本とドイツなどは、急激な規制強化は金融の収縮を招いて、実体経済に悪影響を与えかねないと反対した。

金融危機は最悪期を脱したが、米国経済の急減速や欧州危機など世界経済の先行きは不透明だ。

ここで米英の主張通りに規制強化を急げば、銀行は自己資本比率の引き上げを目指して、貸し出し資産圧縮につながる貸しはがしなどに走り出す恐れがあった。

最終的に、当初案が緩和され、実施時期も先延ばしになったのは妥当な結論と言えよう。

金融危機で米欧などの銀行が経営不安に陥り、公的資金で救済されたのは苦い教訓だ。規制強化を機に、銀行は安易に公的資金に頼ることなく、自らの体力強化で危機を乗り切らねばなるまい。

今後の焦点は、3大メガバンクなどの邦銀の対応である。

今年6月末時点で、みずほ、三井住友、三菱UFJのメガバンクの中核的自己資本比率は約5~7%とされる。金融庁は「規制強化の期限までに、十分に対応は可能だ」と見ている。

しかし、巨大な外資との激しい競争を戦いながら、新規制策を達成する道は容易ではない。各行は経営戦略を練り直し、着実に利益を上げて、自己資本を増強する努力が求められよう。

産経新聞 2010年09月21日

銀行新規制 収益力上げる自己改革を

日米欧などの金融監督当局で構成するバーゼル銀行監督委員会が自己資本比率に関する新たな基準を決めた。

新基準導入を機に、国際業務を行う邦銀は、株式の持ち合い解消や普通株での増資など財務体質の強化が必要だ。収益力を上げるため、新たなビジネスモデルの開発など経営の自己改革を急がなければならない。

自己資本比率は銀行の健全性を測る基準とされ、融資などの資産に対する自己資本を一定の割合以上に保つよう義務づけられている。米国発の金融危機を引き起こした2年前のリーマン・ショックでは、現行の基準が歯止めにならず、再発防止のためどこまで銀行資本の質と量を高めるべきかが議論されてきた。新基準は金融危機阻止への一つの解答である。

新基準では普通株と内部留保(利益の保有分)を合算した「中核的自己資本」の比率を7%以上にしなければならない。現行基準では優先株などを含め全体で8%以上あればよいが、新基準は資本の中身を絞った上により厳しい内容になった。全体の自己資本比率も10・5%に引き上げられる。

バーゼルでの交渉は難航した。資本市場の発達した米国や英国が提示した案に対して、企業が銀行貸し出しに頼る割合が高い日本やドイツは「貸し渋りを招きかねない」と反対した。結局、米英案を若干緩和し、8年間で段階的に基準を上げる妥協が成立した。

新基準は金融危機で普通株による公的資本注入を受けた米英の銀行が競争上有利とされる。これまでのルールづくりは米英主導で行われ、今回も同じだった。

先に金融危機を経験した日本は代案を提示するなど、もっと存在感を示すべきだった。受け身では同じことが繰り返される。

規制強化が銀行の負担増になるのは間違いない。今後、毎年利益を積み上げられなければ、増資を余儀なくされる。金融庁は「邦銀の対応は十分可能」としているが円滑な金融の足かせにならぬよう運用面での目配りが必要だ。

銀行もまた、収益が上がる経営体質にしていかねばならない。邦銀は欧米に比べて収益率が劣る。資金需要が低迷し、利ざやが薄い中で、国債運用中心では利益は上がらない。採算性を高めるため、貸し出しのノウハウや企業育成の「目利き」が問われる。

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