菅改造内閣 初めから全力疾走で

朝日新聞 2010年09月18日

改造内閣発足 「チーム菅」構築できるか

菅直人改造内閣がきのう発足した。

20年に及ぶ日本の閉塞(へいそく)状況を打ち破る。それが首相の掲げる目標であり、内閣に課せられた課題である。そのための執政中枢「チーム菅」の形成が、人事の眼目といえる。

改造の最大の目玉は、片山善博・前鳥取県知事の総務相への起用だろう。地域主権改革の推進を期待する。

政府が提出している関連法案を「まだまだ内容が不十分」と批判してきた厳しさは、霞が関からも自治体からも煙たがられる。そんな「改革原理主義者」の本領を発揮してこそ、掛け声倒れが続く改革の歯車を回せるはずだ。

ほかには意外感はない。財務など5閣僚は留任した。厚生労働と国土交通は副大臣の持ち上がり。ベテラン・中堅がほとんどだったこととあわせ、「手堅さ」優先の布陣といえる。

この判断の背景には、政権交代後の迷走に次ぐ迷走があるだろう。

第一に、首相も政務三役も政権運営、政策遂行に不慣れだった。

第二に、独断専行を政治主導だと誤解した政治家が少なからずいた。

第三に、各省庁間の利害を調整し、決定する仕組みが機能しなかった。

そんな未熟さゆえに、昨年暮れの予算編成では小沢一郎元幹事長の腕力に頼らざるを得なくなった。過ちを繰り返すわけにはいかない。少なからぬ閣僚の留任や持ち上がりは、現実的な選択だったかもしれない。

予算編成をこなし、ねじれ国会をどう乗り切るか。最も急ぐべきなのは、政治主導の立て直しである。

政治主導とは官僚を遠ざけることではない。各省の官僚の意見に耳を傾けた上で、民間からも広く意見を聞き、政策提案の回路を開く。様々な選択肢の中から、首相や閣僚が責任を持って決定する。独断ではなく、あらゆる力を活用することが要諦(ようてい)である。

菅首相は政策ごとに与党議員の特命チームを設け、「412人内閣」を実現するという。衆知を結集する姿勢は評価する。閣僚を差し置いて族議員が影響力をふるった自民党の轍(てつ)を踏まないよう、留意しながら進めてほしい。

併せて政権内の総合調整機能を強めつつ、意思決定の一元化と透明化を急ぎ整え直さなければならない。この不備が鳩山前政権の失敗をもたらした。

最後は首相が決断するにせよ、あれもこれも抱え込めはしない。官房長官ら枢要な閣僚と、幹事長ら党首脳が、緊密な合議を通じ執政をリードする「チーム菅」の構築が必須である。

その意味で、玄葉光一郎政調会長に国家戦略相を兼務させたのは適切だ。

国家戦略室に、政策の企画立案機能に加え総合調整機能を担わせるのか。官房長官との役割分担はどうするか。

人事の成否は、固めた陣容をどう運用するかにかかっている。

毎日新聞 2010年09月18日

菅改造内閣 初めから全力疾走で

「今度こそはまともに政治が動くのか」と半ば疑い半ば期待するのが、国民の本音ではなかろうか。

菅直人首相は17日、菅改造内閣を発足させた。前日の岡田克也幹事長指名に続き、小沢一郎氏のグループからは起用しない「脱小沢」をさらに加速、一方で、仙谷由人、前原誠司、野田佳彦、玄葉光一郎、蓮舫各氏ら内閣の骨格にあたる人材は残し、民間人登用で新風を吹き込み、副大臣の昇格などで世代交代を図った。

「現時点で考え得るベストの人事」(岡田幹事長)かどうかは、今後の仕事ぶりでの証明が必要だが、総じてバランスの取れた人事と評価、そのうえでいくつか注文をつける。 ◇政治主導予算が課題

まずは、「脱小沢」についてだ。代表選で白黒つけた直後だけにやむをえない流れと受け止めるが、菅陣営の中にこれを内閣支持率上昇の手段とするような安直な思惑があるとすれば、厳に戒めたい。小沢対反小沢の党内権力闘争をもう誰も望んでいない。小沢陣営に対しても、ノーサイドの精神から民主党政権を成功させるため自分たちは何をすべきなのか、という初心に戻った貢献を求めたい。

経済・財政政策は、野田財務相を留任させ、海江田万里氏を経済財政担当相に、大畠章宏氏を経済産業相に起用した。副大臣時代を含め2度目の予算編成に挑戦する野田氏の実務能力と、2代続けて大手労組出身となった大畠氏の安定感を狙った人事だ。海江田氏についてはエコノミストとしての知恵を成長戦略に反映させる狙いがあるのだろう。

経済チームの課題は三つある。まずは、円高とデフレに低迷する現下の経済への対応である。すでに為替介入を含め予備費を使った雇用中心の緊急対策が発表され、臨時国会では、補正予算の編成が焦点になる。適時適切に市場の反応を見極め着実に景気の底固めをすべきだ。

第二に、来年度の予算編成である。概算要求段階で96兆円に膨らんだ要望をどう削るのか。留任する蓮舫行政刷新担当相の仕分け力の全開を望むと共に、マニフェストの優先順位を改めて整理し、後回しにするものについてはしっかり説明し、メリハリのある姿にたたき直すことが肝心だ。概算要求段階では小沢氏から官僚主導と批判された。政治主導を徹底させてほしい。

第三に、抜本的な税制改革を軸にした中長期の経済・財政戦略を練り上げることだ。持続可能な社会福祉制度と財政、強い経済をどう作り出すか、全体の制度設計と実現するための行程表を考え抜いてほしい。

外交・安保政策は、岡田氏の後任の外相に前原氏を横滑りさせ北沢俊美防衛相は留任とした。もともと安保防衛に関心が深く米国防当局との人脈もある前原外相は、普天間できしみの出た日米同盟にとってはプラス材料になろう。ポスト菅を狙う次世代首相候補として、一歩先行した岡田氏の後で前原氏にも外相を経験させる人事の妙もありそうだ。

ただし、普天間問題は簡単ではない。時間稼ぎするだけではなく、先に行われた日米合意の尊重と、沖縄の負担軽減という隘路(あいろ)の中で、どういう選択肢がありうるのか、を真摯(しんし)に探るのは当然だが、一方で、東アジアの脅威と抑止力という戦略環境が今後10年、20年を見据えてどう変化していくのか、という大きな枠組みの中で、とらえ直してほしい。

当面の問題としては、尖閣諸島をめぐる中国との摩擦を解消する手だても講じなければならない。

目玉人事のひとつが前鳥取県知事の片山善博氏の総務相起用だ。改革派知事の先駆けとして情報公開と住民参加型行政で実績をあげた片山氏の地域主権改革への取り組みに期待したい。旧自治省出身の片山氏だが、全国知事会など地方6団体のあり方を批判するなど、しがらみにとらわれない点も特徴だ。原口一博前総務相が進めた改革との継続、連続性という難題もあるが税制、交付税や首長と地方議会のあり方も含め、骨太に地方の自立を推進してほしい。

もう一つ注目するのは、副大臣から昇格した馬淵澄夫国土交通相の人事だ。当選3回の50歳。中堅若手の期待の一人で、その馬力が評価された。反小沢か親小沢かという不毛な選択肢を越えるためには、何よりも政界に将来首相候補たりうる若い政治家を何人も育て上げておくことが大事である。馬淵氏がその先駆けになることを期待したい。

同時に改造人事を機に望みたいのは、鳩山前内閣以来混乱を来している統治システムの再構築だ。いまだに明確でない国家戦略室の機能をどう規定し、玄葉国家戦略担当相と海江田氏との役割分担をどうするのか。政府・与党として税制、社会保障の議論を進めていく枠組みも含め、仕切り直しを進めるべきである。

民主党政権が誕生してちょうど1年。国民がこの間、どれだけ新政権に期待し、その迷走ぶりに失望してきたか。今回の体制は良しとしたい。しかし、問題はその体制によって何をなし得るか。菅首相は記者会見で「有言実行内閣」と強調した。文字通り背水の陣で、改造初日から力いっぱい全力疾走してほしい。

読売新聞 2010年09月18日

菅改造内閣 まず景気回復に全力を挙げよ

菅改造内閣が17日、発足した。

内閣の要である仙谷由人官房長官、財政再建重視の野田佳彦財務相ら5閣僚を留任させる一方、厚生労働相や経済産業相など12ポストは新たに選任した。

内閣の陣容を大幅に入れ替えたのを機に、内政・外交の諸課題の解決に、果断に取り組まなければならない。

真っ先に対応すべきは円高・景気対策である。

6年半ぶりの為替介入で円高の流れにひとまず歯止めがかかっているが、予断は許さない。野田財務相は、日銀と緊密に連携し、円高阻止に全力を挙げてほしい。

◆成長戦略を軌道に◆

菅首相は、追加の経済対策を盛り込んだ今年度補正予算を編成する意向だ。景気の先行き不安を考えれば妥当な判断である。

企業の活力を引き出し、国際競争力を高める成長戦略も大事だ。先に政府が発足させた「新成長戦略実現会議」が十分に機能するよう、関係の経済閣僚は、指導力を発揮しなければならない。

来年度予算編成に向けた各府省の要求総額は96兆円超と、今年度予算額を大きく上回っている。財政事情は厳しく、要求の絞り込みが課題となるが、景気を冷え込ませては元も子もない。

地方の経済は疲弊している。景気を刺激し、新たな雇用創出が期待できる事業には、むしろ予算を増やす「選択と集中」が大切だ。

経済効果が期待できない子ども手当や高速道路無料化など、衆院選政権公約によるバラマキ政策こそ大幅に見直すべきだ。

財政の健全化と社会保障費の安定財源確保には、消費税率の引き上げが避けて通れない。

菅首相はかねて、消費税問題や社会保障に関する超党派協議を唱えてきた。野党側に働きかけ、早期に協議入りする必要がある。

10月召集予定の臨時国会は、衆参ねじれ状況の下、自民党など野党の協力が欠かせない。

自民党の石原伸晃幹事長は、協議に前向きな姿勢を示している。だが、「民主党がバラマキを続けている限りはだめだ」とし、政権公約の修正・撤回が協議入りの前提としている。当然のことだ。

菅首相は、政権公約を大胆に見直すことで、超党派協議を実現すべきだ。それが、政策ごとに与野党が協力する部分連合への道を開くことにもなろう。

◆国益踏まえた外交を◆

党幹事長に転じた岡田克也外相の後任には、前原誠司前国土交通相が横滑りした。

安全保障通の前原氏は、米国の知日派にも多くの人脈を持つ。鳩山前内閣で亀裂が入った対米関係を改善するうえで適任とみなされての起用だろう。

留任した北沢俊美防衛相とともに、5月の日米合意に沿って米軍普天間飛行場の移設実現に全力で取り組んでほしい。

尖閣沖漁船衝突事件では、中国は高圧的な姿勢をみせている。前原氏は党代表時代から、中国の軍事力増強について厳しい見方をしてきた。対中外交は、国益をしっかりと踏まえ、主張すべきは主張する姿勢で臨んでもらいたい。

政府と党の関係や「政と官」のあり方についても、立て直しが急務である。

鳩山前内閣では、内閣と党の意思疎通を欠き、いったん決まった方針が二転三転するなど、政策決定に乱れが生じていた。

国家戦略相を兼務する玄葉光一郎政調会長は、党の政策調査会と内閣との橋渡し役をしっかり務める必要があろう。

非議員ながら総務相に抜擢(ばってき)された、旧自治省出身の片山善博前鳥取県知事は、知事時代に行政の透明化に取り組んだ。政府の行政刷新会議では、公務員改革について積極的に発信している。

民主党政権における政官関係は絶えずぎくしゃくしてきた。「政治主導」の意味を履き違えて、官僚の進言に耳を貸さなかったり、官僚のやる気をそいだりするのでは、行政の停滞を招く。

改造内閣の各閣僚は、霞が関の官僚たちの能力を最大限引き出すため、官僚を使いこなす姿勢に徹してもらいたい。

◆残った党内抗争の火種◆

今回の内閣・党役員人事では、首相が党代表の座を争った小沢一郎元代表のグループからは一人も起用されなかった。

小沢グループは若手議員が多数を占めている。首相としては、副大臣や政務官に積極的に登用し、挙党態勢を築きたい考えだ。

ただ、小沢氏は、首相が要請した党代表代行への就任を断った。菅政権がいずれ行き詰まるとみて「党内野党」の立場に徹するつもりなのだろう。

党内抗争の火種を抱え、菅首相は引き続き、厳しい政権運営を迫られることになる。

産経新聞 2010年09月18日

菅改造内閣 国策の空白、早急に埋めよ ぶれることない指導力が肝要

菅直人改造内閣が始動した。幹事長に岡田克也氏を起用したことに加え、外相に前原誠司氏を横滑りさせ、後任の国土交通相に馬淵澄夫氏を昇格させるなど民主党のホープとされる人材を登用した。「脱小沢」路線とともに世代交代を印象づける布陣といえる。

だが、その前途はあまりにも多難だ。民主党政権が1年前の9月16日に発足してから、これまで無策が続き、国家の危機を招いてしまった。

日本丸の舵(かじ)取りを担う菅首相の責務は極めて重い。これまでのような発言のブレは許されない。内外の懸案を放置することなく、国策の空白を埋めるべきだ。首相の言う「有言実行」を求めたい。

◆国益優先の対中外交で

改造内閣の重要課題は対中外交だ。尖閣諸島周辺での海上保安庁巡視船と中国漁船との衝突事件以降、日本の領土・主権を守り抜く外交姿勢が問われている。

前原外相は党代表時代の平成17年、米国での講演で中国の軍事力増強を「現実的脅威」と明言し、直後の訪中でも中国の脅威に言及し、国益を優先させようとする姿勢を示した。普天間問題では日米合意に基づく辺野古移設案が実現困難な状況だが、同盟深化に向けた取り組みと並行して問題解決を図る必要がある。

経済運営では来年度予算の編成が当面の焦点となる。政府は国債費を除く一般歳出と地方交付税を合わせた上限額を今年度並みの71兆円とする方針だが、衆院選マニフェストに盛り込んだ子ども手当や農家の戸別所得補償の完全実施などを盛り込めば、国債増発は避けられない。歳出増の圧力が高まる中で、財政規律の確保に向けた指導力が問われる。

徹底した予算の効率化のためには、一般会計の半分近くを占める社会保障費と地方交付税の見直しは欠かせない。診療報酬の重点配分や地方公務員の給与削減に取り組む必要があろう。

歳出の効率化だけでなく、消費税増税に向けた議論も待ったなしだ。自民党は民主党に対し、衆院選マニフェストの撤回を条件に消費税増税の与野党協議に応じる余地を残している。消費税増税と社会保障改革を一体的に進め、持続可能な年金・医療・介護制度を構築する必要がある。国家戦略担当相を兼務する玄葉光一郎政調会長は政府と与党の連携で具体策をまとめてほしい。

政府・日銀は円高・株安に対応して6年半ぶりの円売り介入に踏み切り、円高は小康状態にあるが、急激な円高を食い止める時間稼ぎにすぎない。成長戦略を早期に実行に移し、福祉・介護など新規産業を育成する。さらに、円高にも耐える産業構造への転換を積極的に進め、自律的な景気浮揚に全力を挙げなければならない。

◆実効性ある規制改革を

そのためには企業活力を引き出す規制改革が欠かせない。民主党政権は派遣労働の原則禁止に向けて労働者派遣法の改正を目指すなど規制強化には熱心だが、企業の成長戦略を促すためには産業界との対話を通じて実効性のある規制改革を打ち出す必要がある。首相が提唱する「一に雇用、二に雇用、三に雇用」の実現にも規制緩和で民間活力を高めるべきだ。

最大の問題は首相の政権基盤が極めて脆弱(ぜいじゃく)なことだ。代表選で小沢一郎元幹事長を大差で退けたとはいえ、国会議員の投票数は拮抗(きっこう)し、多数の反主流派を抱えた。

海江田万里氏の経済財政担当相など小沢氏を支援した議員も起用されたが、小沢グループに所属する議員の入閣はなかった。参院選で生じた衆参ねじれの状態も変わりはなく、野党との合意なしには政策をほとんど実現できない。

首相は会見で「野党の希望も入れて補正予算を組めば、国会審議も順調にいく」と協力を呼びかけたが、マニフェストの見直しなど明確な政策転換が先決だろう。

政治とカネの問題でも小沢氏の幹事長辞職でけじめがついたと発言したが、国会で小沢氏が説明責任を果たすよう説得しなければならない。対応いかんでは、国民の信を失うことも銘記すべきだ。

懸念は国家公安委員長を務める岡崎トミ子参院議員の問題だ。朝鮮学校の理事長を務めていた男性から寄付を受け、外国人からの寄付を禁止する政治資金規正法違反を指摘されたことがある。警察の指導・監督にふさわしい人事なのか、疑念を抱かざるを得ない。

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