円売り介入 真の通貨戦略が必要だ

朝日新聞 2010年09月16日

円売り介入 菅政権が「意地」を見せた

民主党代表選で求心力を回復した菅政権の意地を、市場に示す意義があったといえよう。

15年4カ月ぶりに1ドル=82円台に突入した外国為替市場に対し、政府・日本銀行が6年半ぶりの円売りドル買い介入に踏み切った。

急速に進んだ円高ドル安の勢いをくじくための実力行使である。行き過ぎた投機を抑えるとともに、輸出産業と景気に悪影響が広がることを阻止するのが狙いだ。

市場では円買いの思惑が渦巻いていた。円の最高値は1995年4月の79円75銭だが、「その近辺まで介入はないだろう」「菅直人首相は介入に消極的」といった見方が出ていた。一本調子で上がりかねない相場の機先を制した介入は驚きを呼んだ。当面は市場の空気を変える効果もありそうだ。

日銀の白川方明総裁は介入を受けて「強力な金融緩和を推進する中で、今後とも潤沢な資金供給を行っていく」との談話を発表した。介入で市場に出回った円資金を吸収しない「非不胎化」で日銀が金融緩和を徹底するのであれば当然だろう。何より政府と息の合ったところを世界各国と市場関係者にアピールすることが大事だ。

今回は日本の単独介入で、欧米各国と協調したものではない。しかも一連の円高の流れは、欧米景気の後退懸念を受けた消去法的な円買いの結果だ。ドル安やユーロ安のうねりを力ずくで反転させるのは難しい。

遠からず再び円高機運が盛り上がるかもしれない。政府・日銀は介入という選択肢も示しつつ、したたかに市場と対話していくしかない。

同時に、国際的な理解を得る努力も怠ってはならない。輸出拡大への思惑から自国通貨安を容認する欧米各国の姿勢は変えにくい。だが、大恐慌期のような通貨安競争になれば、国際協調で危機を克服するというG20体制の土台が失われる。G7やG20の場で為替安定の重要性が再確認されるよう日本は汗をかかないといけない。

米国などは輸出依存の経常黒字国の内需不足が世界的な不均衡を生み、金融危機にもつながったと問題視している。人民元相場の厳重な管理を解かない中国が主に念頭にあるが、日本も経常黒字を維持してきた。

やはりここは内需をテコにした明確な景気回復と経済成長の戦略を急いで具体化するほかない。これは円高を助長する日本のデフレ体質を改める王道でもある。菅首相は、続投を足がかりに成長戦略への取り組みを一刻も早く再起動させねばならない。

「介入を」と政府をせき立ててきた産業界も、相場変動の影響を軽減できるよう、自己改革に努めてほしい。政府でも民間でも聖域のない変革を貫くことが難局の打開につながる。

毎日新聞 2010年09月19日

論調観測 円売り介入 目先の対策と長期戦略

菅政権が再スタートを切った。消費税でのっけからつまずき参院選で大敗した轍(てつ)を踏まぬようにということなのだろう。政府・日銀は大規模な円売り・ドル買い介入に踏み切った。

6年半ぶりの介入について各紙は16日の社説で論評した。「求心力を回復した菅政権の意地を、市場に示す意義があったといえよう」と朝日が指摘しているように、今回の介入実施については、妥当な措置と受け止められているようだ。

もっとも、円高の過程では、政府・日銀の対応を厳しく批判する論調が目立っていた。

そうした事情があるからだろう。読売は1ドル=82円台に上昇した市場の動きについて、「口先介入だけを繰り返し、実際には円高阻止に動こうとしない菅政権の消極的な姿勢を試そうとしたのだろう」と解説する。

また、産経は「政府・日銀のこれまでの対応は対策が小出しで、後手に回ってきた印象が拭(ぬぐ)えない」と指摘している。

介入の結果、1ドル=85円台まで戻した状態で先週は取引を終えた。しかし、「今回の介入だけで円高に歯止めがかかるとは期待しにくい」と日経が述べているように、円高の原因が米欧にあり、自国通貨安を事実上容認している状況では、円が再び上昇に転ずるかもしれない。

この点は各紙とも指摘しているところだ。そして、読売は「政府・日銀が断固たる為替介入を続けると同時に、連携を密にし、さらなる円高対策に取り組むことだ」と主張する。「目先の介入や日銀に追加緩和で圧力をかけることなどではなく」と述べている毎日とは対照的だ。

一方、朝日が指摘している「通貨安競争になれば、国際協調で危機を克服するというG20体制の土台が失われる」ということも考慮しなければならない。

そうした視点からすると、「日銀自身が外債を買うことも、円高防止の意志を示す点で一考の余地があろう」という日経の提案は評価が分かれるだろう。

円高になると、政府・日銀に対し、「大変だ。なんとかしろ」と大騒ぎになるのは今回に限らない。そして、のど元過ぎればということで、本質的な問題には手がつかないままだ。

「東アジア経済がドルやユーロに振り回されないようにするための通貨体制作りを域内国と協調して急ぐべきではないだろうか」と、毎日はその点を指摘する。

目先の対策以上に問われているのは、日本の長期的な通貨戦略ではないだろうか。【論説副委員長・児玉平生】

読売新聞 2010年09月16日

為替市場介入 ひとまず円高は止まったが

1ドル=82円台まで急騰した円相場に歯止めをかけるため、政府・日銀が円売り・ドル買いの市場介入に踏み切った。

これまで円高対策は後手に回っていたが、6年半ぶりの市場介入で、円相場は85円台に値を戻した。政府・日銀は今後も断固たる姿勢で臨むべきである。

円相場は、14日の民主党代表選で、菅首相の続投が決まった後に急騰した。

海外市場に続き、15日の東京市場でも15年ぶりの1ドル=82円台後半に突入し、1995年に付けた79円台の史上最高値をうかがう展開になっていた。

市場は、口先介入だけを繰り返し、実際には円高阻止に動こうとしない菅政権の消極的な姿勢を試そうとしたのだろう。

通貨当局が市場介入を実施したのはそんなタイミングだった。

この円高水準が続けば、自動車や電機などの輸出産業の収益を悪化させ、持ち直してきた日本の景気は打撃を受ける。

円高克服を目指し、企業が工場の海外移転を加速すれば、国内産業が空洞化し、失業も増大しかねない――。そうした危機感が決断を促したと言えよう。

円相場の急落を好感した東京株式市場の株価は大幅に上昇した。通貨当局が示した円高阻止に向けた明確なメッセージは、ひとまず効果をあげた形だ。

しかし、今回は、日本だけの単独介入にとどまり、米欧などと連携した協調介入ではない。

米国経済は急減速し、財政危機を抱える欧州経済も不安定だ。米欧当局とも、自国の輸出産業に有利に働くドル安とユーロ安を事実上容認し、円高阻止の為替介入に同調できない事情がある。

米国では、金融当局の追加緩和観測がくすぶり、一段のドル安も懸念されている。

ドルやユーロに比べて安定しているとされる円を「消去法」で買う動きが根強い。日本がかつて市場介入を繰り返した約6年前に比べると、為替市場の規模もはるかに巨大になった。

それだけに、円買いの強い圧力に対して、日本の単独介入の効果がどこまで続くか不透明だ。

重要なのは、政府・日銀が断固たる為替介入を続けると同時に、連携を密にし、さらなる円高対策に取り組むことだ。

政府は景気の下振れを警戒しながら、景気対策に全力を挙げる必要がある。日銀も一段の追加緩和策を実施するなど、機動的な対応が求められよう。

産経新聞 2010年09月16日

円売り介入 協調の取り付けに行動を

政府・日銀が平成16年3月以来6年半ぶりの円売り介入を断続的に実施した。

介入後、円は1ドル=85円台に急落し、株価は9500円台まで回復したが、一時的な効果にしないためにも円高阻止の断固たる姿勢を内外に示す必要がある。今後も市場動向を見ながら、適時の機動的対応が求められよう。

ただ、今回は欧米などと協力して実施する協調介入ではなく、日本だけの単独介入だった。単独では市場参加者らに与える心理的効果はやはり弱い。この際、求められるのは、欧米に協調を働きかける積極的行動だ。

輸出主導による景気回復を目指す欧米は通貨安を容認する姿勢だとされるが、国際社会に円高阻止を発信し、粘り強く交渉していくことが欠かせない。来月上旬には国際通貨基金(IMF)・世界銀行総会に先立って先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が予定されている。野田佳彦財務相らは「協調取り付けに動く絶好の機会」ととらえるべきだ。

介入に踏み切ったのは民主党代表選後、82円台後半まで円高ドル安が進んだためだ。菅直人首相が勝利し、市場では介入に消極的との見方が強まった。

政府・日銀のこれまでの対応は対策が小出しで、後手に回ってきた印象が拭(ぬぐ)えない。本気度が足らないと市場に受け取られないように、菅政権は追加経済対策を着実に実行してほしい。

円高にも耐えられるよう企業活力を引き出し、国際競争力を高める中長期の成長戦略も重要だ。円高は、海外でのM&A(企業の合併・買収)などのチャンスであり、これらを活用した企業独自の成長戦略も必要になるだろう。

一方の日銀は、円売り介入で放出された円資金を回収せずに、市場に放置する方針だ。事実上の量的緩和で金融政策面からも円高阻止の効果が期待できる。

投機筋は昨年末以来、ギリシャの財政赤字、欧州の金融システム不安、米国景気の二番底懸念と投機対象を次々に変えてきた。今回の円高は欧米の不良債権問題の根深さが背景にあり、消去法的に円が買われている状況だ。

円高の流れを変えるのは簡単ではないが、決然とした措置を取るしかない。それとともに、円高でも揺るがない経済基盤をつくることが菅政権の責務である。

毎日新聞 2010年09月16日

円売り介入 真の通貨戦略が必要だ

政府・日銀が6年半ぶりの円売り・ドル買い介入に踏み切った。「介入も辞さない」と繰り返してきた政府が、本当に行動するかどうか市場の関心が集まっていた。民主党代表選で菅直人首相が再選を果たした翌日の実行である。

1ドル=82円台後半まで進んだドル安・円高は介入後の東京市場で一時、85円台まで戻った。だが問題はこれからだ。82円台突入のきっかけが、米国の追加金融緩和観測だったことでもわかるように、このところのドル安・円高をもたらしているのは米経済の先行きに対する不安とそれを受けた金融当局の緩和姿勢である。対ユーロでの円高も同じように、欧州側の信用不安に起因している。

この根っこにある要因が変わらない限り、流れを本格的に反転させるのは難しそうだ。しかも、いったん始めると、やめづらいのが為替介入である。日本の単独介入になっていることもあって、円が投機筋の標的となり一段と上昇する可能性も否定できない。

介入の効果が一時的、限定的となれば、日銀に対する追加の金融緩和要求が強まりかねない。しかし、極端に低い固定金利で日銀が民間銀行に貸し出す制度の拡充を先月決めた際も、効果は半日程度しか持続しなかった。

そこで追加拡充ではなく、国債の買い入れ額を増やすよう求める声が高まるかもしれない。だが、日銀は国内総生産(GDP)比で、すでに米連邦準備制度理事会の3倍にあたる国債を購入している。残高ベース(GDP比)でも米国の2倍だ。これ以上、増やすことは中央銀行の財務の健全性上、望ましくない。

短期間に相場が激変するような場合は米欧当局との協調体制も求められよう。しかし、今、政府に最も必要なことは、目先の介入や日銀に追加緩和で圧力をかけることなどではなく、円をこの先どういう通貨に仕立てていくかという長期的戦略だ。

アジア経済の高度成長やそれに伴う域内貿易の増大、中国経済や人民元の比重の高まりなど、ダイナミックな変化が今後、予想される。その中で、円が日本の国益にかなう役割を果たすようにするには、何を目標にし、どんな政策をとるべきか、明確な方針を持たねばならない。

円相場が上昇するたびに、大騒ぎになる背景の一つには、アジア域内も含め決済に使われる通貨がドルやユーロ中心になっていることがある。東アジア経済がドルやユーロに振り回されないようにするための通貨体制作りを域内国と協調して急ぐべきではないだろうか。

目先の為替相場に右往左往していては、大きな利益を逃してしまう。

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